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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第1章 光をもとめて
  第3話 盗賊団アジトへ



~リーザス城下町 中央公園~


 中央部にある小さな公園。この場所は解りやすかった為、ランスとユーリが落ち合う約束の場所になっている。その場所に先に現れたのがランスだった。もうそろそろ日も落ちかける時間帯であり、街を黄金色で染めていく。

 辺りを見渡し……、ユーリの姿が見当たらないのを確認すると、

「ふん……。少し早かったのか? いや、あのガキが悪いのだ。オレ様を待たせるのがな。普通は気を利かせて早くに来るものだろう。それが下僕と言うもの……だが、やはりガキか。年齢詐称確実だな。罰金を請求してやろう」

 勝手に結論をつけて頷くランス。
 勿論時刻は合流指定時間よりも小一時間は早い。シィルとのヤッた事で他の可愛い娘がいても、ある程度はムラムラしないから思ったよりヤル事が無く早く付いたのだ。

 つまりは、結局は理不尽極まりないと言う事。

「あの……」

 不機嫌気味に立っていたランスの後ろから声を駆けられた。
 その声色から女のものだと判断したランスは直ぐに振り向くと、そこには買い物籠を両手で抱えた娘が立っていた。

「何の様だ?」
「すみません……、お財布を無くしてしまったんです。どうか、一緒に探してもらえませんか?」

 どうやら、買い物帰りで無くしたのだろう。……が、そんな状況はどうでも良い。ランスは、娘の容姿をジロジロと観察していた。その姿は小柄だが、子共と言う訳ではないようで、女学生、と言った所だろうか。中々に可愛い顔をしており、ランスのストライクゾーンには勿論入っている。そしてまだ若干賢者タイム期間が残っていると言うのにムラムラっと来たようにランスは、嫌らしい笑みを浮かべながら口を開いた。

「探してやっても良い……が、報酬は?」
「……へ? 報酬?」
「オレ様はプロだ。プロの冒険者。ボランティアなんぞせんから報酬が無いと働かんぞ。財布が無いようだから、報酬はアンタの身体でも良いな」

 ぐへへ……とまるでよだれを垂らしているかの様に見つめているランス。
 財布探しの依頼での報酬がそれなのは酷い、と思うが、即断る事はしないようで、娘は真っ赤に顔を紅潮させながらゆっくりと小さく頷いた。

「……わ、判りました」
「よし! (ラッキーだ。まさかこうもあっさり受け入れられるとは、結構てきとうだったのだが、流石はオレ様だな。)」

 今回は一発で上手くいくとは本人も思っていなかったようだ。
 セックスをする為にはどんな努力もするが、今は抱けなくてもとりあえず我慢は出来るし、時間をかけて……とも考えていたから あっさりと報酬を得られそうでランスはグッとガッツポーズをしていた。

「ふむ。見るからに不幸そう、と言うか、不幸を纏っていると断言できる娘だからな……、ここはイジめプレイを……」
「あのぉ……、先に財布を捜していただいても……」
「おお、そうだったな。期待には答えるのがオレ様だ。それで、何処でなくしたんだ?」
「この公園なんです」

 ランスは、指差した先を見た。
 さっき、ユーリが来ていないかどうか、粗方見ていたから再度探すのは造作も無い事……だが、さっき見ていた分直ぐにわかった。
 この場所に財布が無いと言う事を。

 ……あまり大きなモノじゃないから、もうちょっと真面目に探せよ!ってツッコミたいけれど、ランスは早々に。

「見当たらんぞ? 猫ババされたのではないか?」

 ランスは決め付けながら振り返ると……、そこにはさっきの娘はいなかった。否……、そこには、装束に身を包んでいる娘が立っていた。
 さっきまでの雰囲気とはまるで別人だから、娘が消えた?と一瞬錯覚するのも無理は無いだろう。
 そして、更に驚いた事にその娘の手にはランスの財布が握られていた。

「財布、見つかったわ。ありがとね」
「げ、オレ様の財布……。いつの間に!」
「ああ、そうだった……後」

 ランスが慌てて、自身の財布を手探りに探していたその時だ。目の前にいた筈の女が消え、いつの間にか ランスの背後へと回り込んでいた。
 そして、ランスの首元には鋭利な刃物が鈍く光る。

「……ヒカリ・ミ・ブランの件から、手を引きなさい」
「ぐっ……! なん、だと!?」

 ランスの言葉には、答えず、返答としてただ刀を押し当ててゆく。首筋からは、血が滲み始めた。

「……もう一度だけ、言うわ。ヒカリ・ミ・ブランの調査はここで終わりと言っている」

 鋭利な刃物、それは言葉にもまるで込められている様だった。刃がランスの首元に食い込んでいく。

「……っ!!」

 そんな時だ。女は、この時異様な気配を感じ取った。
 反射的に、刃をランスに向けつつも、首をぐるり、と周囲に回し その異様な気配の下へと向けた。
 そこには……。

「誰だっ!」

 ランスをまるで盾にするかの様に、体勢を変えた。

「……そちら側から出てきてくれるとは思わなかったな」

 顔をフードで覆い隠した男が立っていたのだ。異様な気配は間違いなく、目の前の男からだった。

「動くな、コイツがどうなっても……」
「油断したな」
「何!」
「おい、ランス。今だろ?」
「馬鹿者! 判っておるわ!!」

 ユーリが、軽く笑いながらそう言うと、ランスは狙っていたかの様に、力を入れた。
 女の刃が首元から 退いていくのを感じ取った瞬間、その女を投げ飛ばしたのだ。

「ぐっ! 正気か!!」

 投げられつつも、その持ち前の身軽さで宙返りし、向き直った。

「お前の言葉を返す様だが……、隠密、暗殺……それらを主としている忍者が正面から、戦士職(アタッカー)であるオレ達と、衝突する。……それこそ、『正気か?』」

 鞘に収められている剣をみせる様に、マントに隠されたそれを見せた。それと同時に、得体の知れない何か(・・)。その根幹を見た気がした。

「くっ……」

 確かに、それは言う通りだった。正面からの戦闘、決して出来ない訳ではない。それなりに出来る。が、この戦いだけは部が悪すぎる。

 目の前の男、乱入してきた方の男の力の底が見えないから。
 それなりに、通ってきた修羅場、それらからの経験が自分に告げているのだ。



――ここは退け、全力で逃げろ、と。



「これ以上は、無理か……!」
「……それにしても、自分の方から姿を見せるとはな。忍者のわりには随分と優しいんだな?いや、誘拐犯さん。と言った方が正しいか?」

 その男の言葉を聴いて、更に女忍者は更に間合いを取った。
 何気ないセリフなのに、その言葉の一つ一つが、自分の心臓にまるで突き刺さる様な感覚に見舞われる。経験が告げる、と言うより 自分の全神経が、警報を鳴らしているのが判った。

『この男……、本当にヤバイ』

 そう確信した時には行動に移せれていた。
 身体が動いたこれは僥倖だった。滑らかに懐に忍ばせた煙玉を取り出すとそのままの勢いで地面に叩きつけ、煙幕を利用しこの場から離脱した。

 だが、その煙の微妙な変化を捕えた。その女忍者の影も。
 跳躍を繰り返し、建物の屋根を伝って、リーザス城、城壁の内側へと入っていったのを。

「ふ……ん。反応良し。……まぁ忍者だからだろうが、判断力もなかなかだ」

 そう忍者を分析する。……更にちゃっかりと、財布を奪い返していたのはユーリだ。
 取り戻しておかないと、ランスは無一文。そうなればランスが更に集ってきそうな気もするんだ。まぁ、大当たり、だろう。

「コラ馬鹿者!! 何を逃がしているのだ!」
「まぁ、仕方ないだろ、これなら」
「煙玉を使うのなら判らんでもない、がオレ様が言うのはそこではない」

 ランスは一歩にじりよると、人差し指を向けた。

「貴様、わざと逃がしただろう!」

 ……少し、ユーリはこの言葉で驚いていた。
 自分の事を過大評価している訳じゃないが、確かにあの間合いを積める事も、遠距離の敵を撃つ術も持っている。
 が、それをランスが知っている訳はないし、ランスは何かを感じた様だ。

 ランスを過小評価していたわけでも決して無い。初めて会ったあの時から、この男には何かあるとは感じていたが、それを差し引いてでも驚いたのだ。

 ……が、財布を取り戻したのに、罵られるのはどうか?とも思ったがそこはこの男だと、早々に理解した。

「……尻尾捕まえた所で、本体が出てくるとは限らんと判断してな。トカゲみたく切り捨てる可能性もある。だから、ここは暫く泳がせた方が良いと思ったんだ。それに少し思うところもあるからな。……ほら」

 ユーリはそう答えるとランスの方へ財布を投げた。
 少し不愉快そうにしていたランスだが、財布はちゃんと受け取る。

「む、どう言う事だ?」
「今から説明する。……が、協力関係がバレた事は少々痛かったか、動きにくくなりそうだ」
「だから、それは逃がした貴様が悪い! それに、オレ様ひとりでも財布を取り戻すのなど、朝飯前だ!」
「なら、次は期待している」
「……あの小娘め、お仕置きだ! 次あったら絶対に犯してやる。」

 やはり、相当に悔しかったようで、暫くランスは不機嫌割増になっていた。盛大に公園のゴミ箱を蹴飛ばし、そしてベンチに腰をかける。……ゴミ箱の中に何も入ってなくて良かったね。

「で、貴様の方は何か摑めたのか?」
「まぁ……それなりには、な」
「ほう……。それが役に立たん情報だったら、報酬を減額するぞ?」
「いつ、お前さんが依頼者になったんだよ。ったく。……有力だ。少なくとも影は摑んだつもりだ。あの女忍者を逃がした理由もそこにある。《背後の影》、想像以上に厄介だと思うぞ?」
「……む、どう言う事だ?」

 ランスは、ユーリの言葉に興味を持ったようだ。
 普段は男の説明、情報など上の空もありえるのだが、表情には真剣味も出ている。背後の影、闇の大きさを口にしたその時、まるで連動したかのように日が陰り、まだ日中だと言うのに薄暗くなった。

「情報の筋は、間違いない。この件には『この国』。リーザスの上層部が関わっている。……それに、さっきの忍者が逃げた先も、見えたか?」
「馬鹿にしてんのか? 貴様は。……だが、その上層部とやらは、ガセネタではないだろうな??」
「残念だが、これは有力な情報だ。出所も信頼できる情報屋。九割九分九厘、ほぼ間違いない、……相手が相手だから、これ以上は無理はさせられないがな」
「ちぃ、マジみたいだな。ったく、キースの野郎、これじゃ50,000GOLDじゃ割に合わんぞ。いくらこのオレ様が空前絶後の超天才だとしてでもだ。その倍、いや10倍はふんだくってやらんと気がすまん!」

 口では強気の姿勢を崩していない様だが、その実、珍しく弱気とも取れるランスの発言だった。
 ……が、それは無理も無い事なのだ。これはただの強盗や盗賊みたいな野蛮な連中が起こした、或いは、何かの遺恨絡みの事件だと思われていたただの誘拐事件が、下手をすれば一国を相手取る大事件の可能性が出てきてしまっているのだ。……随分と穏やかではない。

「先見のあれは、こう言った事からだ。あの女忍者を捕らえた所で、大物までにはいかないだろうな。……忍者だ。雇い主の情報は吐かない。訓練してると思うし、……自害してでも吐かない可能性もある。……だが、正直な所、そこまで錬度が高くはなさそうだ、油断は出来ないが、暫くは泳がせた方が良いと判断したんだ」
「まっ、その部分は、貴様の言う事は当たりだろう! がはは! 相当なへっぽこ忍者なのはなっ! 見ただけで判るというものだ」

 ランスは笑って言ってるが、そのへっぽこに財布を掏られた挙句、背後までのは何処のどいつだ? っとツッコみたいが、野暮な事は言わない方が懸命と判断した。
 だが、あの忍者には、それ以上に思う所はある。

 この場面で、忍者が忠告に来ると言う行動だ。問答無用で一刺しすれば確実だと言うのに。

「……まぁ、いずれは判るだろう」

 ユーリはそう呟く。

「む? 何がだ?」

 ランスはその言葉に気になったのかそう聞くが、ユーリは言葉を飲み込む。

「親玉が、の事だ。大臣か、軍上層部か、……或いは王族か」
「がはは! それは当然だ。女忍者の癖に簡単に姿を現すへっぽこだからな。次会えばご主人にも合わせてもらえそうだ、と思える!」

 ランスは笑ってそう言う。
 ……が、そこまでの考え無しとも思えない。一国に仕える忍者だからと言う事もあるが……他にも考えられる事もある。
 
 極々単純な事だ。

(私情と任務、その狭間と言った可能性もあるな……)

 ユーリは、顎に手を当て思案する。


 かくして、二人の英雄はリーザスという巨大な闇に脚を踏み入れる事となった。







~リーザス城下町 城門前~




 そこは公園から少し離れた場所にある城門。
 そして、城壁の内側、その城門の直ぐ傍に一本の巨大な樹木があり、その上から公園を観察している者がいた。否、公園ではなく……男達を、だ。そう、先刻に姿を現した女忍者。

「……やっぱり、アイツは只者じゃ……、緑の方に先に忠告に行ったのは正解だった。でも……」

 その表情は、何処か暗く、険しい。悲哀な表情とも取れる。

「これで、手を引いてくれる、訳ないわね……、それに、あの男は……」

 自身の手を見た。ゆっくりと開き、そして閉じる。握り締めてみる。
 手は、問題なく動く。だが、その手は僅かながら震えているのが判る。

「っ……」

 得体の知れない恐怖を味わった。こんな事、一体いつ以来だっただろうか、判らない。

「次は……、本当に気を引き締めないと。……ア様の為」

 そう呟きながら、木の上から跳躍。残るのは僅かに揺れた木の枝のみだった。





 2人の事は、その巨大な闇たちに触れられた事だろう。さて……、どう出てくるのだろうか?
 世界一豊かな国に蔓延る闇が 今 ゆっくりと口を開こうとしている……。








~リーザス城下町 旅館 氷砂糖~


 時刻もうすっかり夜。
 情報集め、そして公園での一件。思った以上に時間がかかり日もくれだした為、捜索は切り上げて宿屋へと2人は向かった。

「ふむ……。情報はこんなもの、だな。これ以上は危ない。リーザスにある情報屋がリーザスの闇を売ろうとしてたら、速攻でばれそうだ。念のため、もう一度釘刺しておくか」
 
 ユーリは、そう呟くと、時間帯は遅いのだが リーザスの情報屋の方へと向かっていった。件の相手とコンタクトを取れるかどうか? と言われれば可能性は低い。
 事実、都合がつかず、ここ リーザスに来てからまだ一度もあっていないのだから。情報のやり取りは出来たので、そこまで問題ないが。

「……まぁ 元気そうならそれでいい」

 ユーリは、軽く頭を掻くと、そのまま歩いて行った。








~翌日 リーザス城 城門前~


 情報では城内に連れ去られたと言う事。
 ならば、犯人も城内。手がかりも恐らくはある筈……だが。さぁ、どうやってここに入ろうか?と言う事だ。いつでも正面突破のランスはと言うと、何も相談せず聞かず、門番へと向かっていった。

 当然ながら、それは止められる。

「はーい、止まってー。通行書、見せてくれる?」
「持ってない。ここを通せ」
「ダメだって! 通行書、持ってないと入れないよ!」
「そうか、が。オレ様は城内に入りたい。だから入らせろ!」
「ったく、リーザス城に何か用があるっていうの? 僕忙しい……、事は無いけど、あまり しつこいと許さないよ」

 それは当然の対応だろう。というより、ここまで清々しいカチ込みは中々に無い事だ。真昼間から。酔っ払いでも、ここまではしないだろう。
 だからこそ、彼女は頑なに拒み、通さなかった。

「ええぇい!! いいからさっさと通せ! 無理矢理にでも通ると言ったら、どうするのだ?」
「……戦う事になるけど? 僕が相手をするよ」
「むぐっ……! こんな人目のある場所では……」

 流石に、門番と一悶着、ソレどころか、バトルまであったとなれば、他の兵士達が集まってくるだろう。……あっという間に。

 幾らなんでもこんな方法は駄目だろう。と遠目で見ていたユーリは苦言を呈していた。リーザスの女性門番と喧嘩をして、そして強引に入ってやろうとしたようだが、そこは門を任されている兵。
 威圧感も有り、力ずくでは厳しい、それに応援を呼ばれればこれまた無理。そう判断したランスはその場から逃げ出したのだ。
 そして、公園へと向かった。

「あのわからずや門番め! 女の声だったから、さっさと、通せば。優しくシテやったものを。だが、無理矢理となれば、兵たちが集まりそうだから、断念した」
「……当たり前だ」

 あたり前の事にモンクを言うランスに冷やかな視線をプレゼントするユーリ。

「ええぃ! 貴様も何か案を出せ!」
「はいはい。とりあえず通行書の入手、だな。あれは基本的に1人1枚。オレ1人が取ったからといって、ランスと一緒に入る、なんて真似は出来ない」
「よし、さっそく取ってこい!」
「アホなこと言うな。通行書は国が発行しているモノで、それなりの信頼がいる。一介の冒険者に易々と発行するものじゃない。……原生された審査された上でのモノだ。……ふむ」

 ユーリは、次の手を、と考えていた時に、ランスからの苦言。それも ダメージ抜群の会心の一言。

「はぁ! これだから、ガキは使えん!」
「って、誰がガキだ!! 行動を考えたら お前の方がガキだろうが! 人にばっか頼ってないで、お前も考えろ! ……ったく、兎も角、オレはオレで当たってみるから、ランスも通行書を探せ。流石に、2枚は短期間じゃ無理だ」

 押し合いへし合い……。まぁランスに何言っても、正論を言っても唯我独尊男だから無駄だと最終的には何処か諦め気味に先に手を上げたユーリ。彼の言うとおり、どちらかと言うと、ランスの方がガキ、ガキ大将だと思えるが……、容姿は……。っとと。何でもナイ。

(……何かとても失礼な事、言われたような気がするが。)

これは、気のせいである。

「貴様1人で入るつもりじゃないだろうな!」
「そのほうが手っ取り早いんだが。色々と文句を言われるのも正直ゴメンだ」
「やかましい! さっさと戻るぞ。あの女忍者をお仕置きするのは、オレ様だ!」
「そんなんは、しらん。 ……殺されかけておいてよく言えるな」
「このオレ様が、あの程度で殺られる訳ないだろうが」

 何だか色々と話している間に、買い物をしていたであろうシィルの姿を見かけた。

「こら! シィル! 何をこんな所で油を売っているか! 調査はどうした!?」
「あ、ランス様。これは学園長様に頼まれ……」
「問答無用!真面目に仕事をしないか、この馬鹿者!」
「ひんひん……痛いです、ランス様……。」

これまた理不尽だ、と思うが本当に見慣れた光景なので置いておく。
痛そうにしているシィルだが、心底イヤだというわけでも無さそうだからだ。
マゾッ毛?とも思えるが、ランスに信頼されて任されているのは何処か嬉しいのだろう。
……ランス本人は認めないと思うが、

 だが、引っかかる所もある。
 現在は時刻はまだ午前中。学園であれば2、3間目といった所だろう。
 なのに、シィルはここにいる。それも入学したばかりの彼女が頼まれごとをもうしていて、更にこなしている。


(授業中に、普通頼むか?学園長が……、と言うか教師が生徒に。……彼女が有能だから、という理由もあるだろうが……)

 これがまず初めの綻び。
 ここから、真実へと近づいていくのだった。




~リーザス城下町 酒場 ふらんだーす~


 店内に入ると、がらんとしているのが直ぐに解った。
 閑古鳥が鳴くとはこう言う事だと言わんばかりに。

「うむうむ。いつも通り、なんの変哲もないザ・酒場だな。……む、なんだ? 前に来た時はそうでもないと思ったのだが、繁盛しておらんでは無いか。これならマスターを殺した所で、誰からも文句は出んし、わからんだろ」
「無茶言うな。誰かにはバレるだろうが。……が、この空気はあのマスターのせいで間違いないだろうな。不景気な雰囲気、陰湿、陰鬱、まぁ負のオーラをばら撒いている。……目に見えるほどとはある意味凄い。……というより不自然だな」

 カウンターで佇んでいるマスターを見てユーリはそう呟く。
 負のオーラを具現化しているマスターはそれだけで、桁違いの想像力があるのでは無いか?と逆に感心するほどだった。 と、それが第一印象だ。だが、ランスの言う通りこの酒場には以前に着ている。その時はそれなりに活気に溢れていたし、あのマスターも豪快なオヤジ、という感じだった。……こんな短期間で何があったと言うのだろうか。

「ふむふむ。なる程な。恐らくはアレだろう。借金を抱え、女にも逃げられ、人生どん底。死んだ方がマシ、つまりは自殺を考えているのだろう。ならば、いっその事、引導を渡してやるのが優しさ、奴の為だろう」
「……お前は殺人快楽者か? 殺しと優しさを一緒にするなよ」

 どうあっても殺しをしたいランスにそう苦言した。ランスが先ほどから、ブツブツと言っている事を訳してみると、『女を抱いていない!』との事だから不機嫌の様だ。
 まぁ、他からすればとんだ迷惑極まりない八つ当たり。それも、無駄に腕が立つものだし、冗談でサクっと刺す様な男だから、更に理不尽極まりない。

 そして、これだけ騒いでいるのにも関わらず、ここのマスターは動く気配がない。仕方ないので、ユーリが話しを切り出す事にした。

「一応、聞きたい話しがあるんだが……」
「……なんだ?」

 この時漸く 話しを訊く事が出来る様だ。

「ふん! 貴様の様な むさくるしくて、生気のないオヤジに訊くのは時間の無駄だと思うのだが、ちょっと行方不明の女の子を探しているのだ」

 漸く話しが出来る、と思えばランスが先に切り出していた。ユーリは、通行書についてをある程度聴こうと思っていたのだが……、と軽く出鼻をくじかれた感じだったのだが、その直後に、このマスターの顔がみるみる内に強ばっていく。

「ゆ、行方不明の女の子!!!?」
「うおっっ! いきなりでかくなんな!!」

 ランスが思わずそう言ってしまうのも無理ない。このオヤジはかなりの図体であったのだが、覇気のない顔をしていて、しょぼくれているとも思えていた。……が、次の瞬間には一気に顔面を近づけてきたのだ。
 だから、急にでかくなった、と錯覚しても仕方ないのである。

「そ、それは、《限りない明日戦闘団》の仕業じゃないのか!? お、オレの娘、パルプテンクスもそいつらにさらわれてしまったんだ!!」

 カウンターに両手をばんっ! とつきながらそう言うオヤジ。確かに、以前この酒場に来た時、ウエイトレスの女の子がいた事は覚えている。水色の長い髪をしたコで、かなり人気がある事も。

「……まだ、この辺りには、そんな奴らが蔓延ってるのか。豊かとは言え やはり、何処にでも下衆はいるんだな。掃除してもし切れん」
「!!!」

 オヤジは、ランスの次にユーリに向かって視線を、身体ごと向けた。というより身を乗り出してきた。

「ま、まて!! まさかだが、グァン嬢ちゃんを助けてくれたのは、あんたたちなのか!?」

 目を見開かせながらそう言うオヤジ。
 それを訊いたユーリが頷こうとしたのだが、そこは当然ながらランス。

「がははは! この超天才のオレ様が、格好よく救い出したのだ!」

 と、脳内変換を完全にすませている様で、清々しいまでに捏造をしていた。

「ま、それでも別にいいが」

 ユーリは別段そんな事は気にする様な事はない。だから、苦笑いを軽くするだけですませていた。

「ほ、本当か!! た、頼む! 都市守備隊も誰も動いてくれないんだ。グァン嬢ちゃんのオヤジとオレは古馴染みで、その件の事は知ってたんだ。 オレの娘、パルプテンクスも助け出してくれないか!?」

 カウンターに額を擦り付けるマスター。そして、1枚の写真を取り出した。ランスは半ば強引にそれを奪い去ると、目を輝かせる。

「うおおおお! 可愛いではないか!」
「……やはり、今日はいないと思ったら、そう言う事だったのか。……にしても似てない」
「パルプテンクスは、オレが腹を痛めて産んだ大事な大事な娘なんだーー!! このとおりだ、頼む!!」

 ……オヤジが言っている言葉の意味は理解できいないが、それだけ混乱をしているのだろう。それだけは判った。

「がははは!! それならば、話は早い! この娘の可愛さに免じ、颯爽と解決してやろう。このオレ様とそして下僕その1がな」
「誰が下僕……ま、ガキよりはマシか。ん? マシ、で良いのか? オレ……」

 今まで良く言われているのが自分の顔から言われる童顔・ガキと間違われる。だ。
 だから、それより下僕と呼ばれる方がマシ……と一瞬考えてしまったが、それはそれでイヤだろう。普通。

「事が事だ。ひょっとしたら、確率は低いと思うが ヒカリの情報もあるかも知れないな」
「がははは! 颯爽と助けて 格好いいオレ様に……ぐふふ」
「……訊いちゃいないか」

 ランスは、写真を食い入る様に見つめているだけだ。確かに、美少女に分類される娘だから、無理もないとは思うが……、この男の場合は節操が無さ過ぎるというのが玉に瑕、どころじゃない。

「た、頼む! 手持ちの有り金は全部渡す!! アイツ等は、辺境のそう遠くない所にある洞窟にいるんだ! そこがアイツ等のアジトだ。 こ、これも 足しにしてくれ! あ、あとこれ、これも! これもっ!! これもだぁぁぁ!!」
「そんなに持ち運べないだろ。 ちょっとは落ち着けって。っていうか、お前ら2人ともだ。 いい加減正気に戻れ」

 ランスはランスで、未だに鼻の下を伸ばしており、オヤジは感慨極まった、とでも言うのだろうか、有り金だけじゃなく、酒場に貯蓄してある非常食を含めた全てを持って行かせようとしている。
 ……シィルが運んでいた荷物も大概だが、それを遥かに上回る重量だ。もって行けなくはないが、はっきり言って邪魔なのである。

「頼って、いいんだよな?」
「以前の彼女も助けられたし、な……。まぁ、任せておけ」
「がははは! オレ様を誰だと思っているのだ! ちゃんと美味しく頂いてやるから安心しろ」
「娘が無事なら、なんでも構わん!! 頼むっっ!!」

 美味しく頂くというランス発言もなんのそのだった。

 そして、2人はその名前が長いらしい盗賊団である《限りない明日戦闘団》の元へと行くため、リーザス辺境を目指すのだった。







~リーザス領 辺境~


 勿論道中にはモンスターが生息している。
 リーザスはヘルマンやゼスと違い、魔物界から離れている為、他の国と比べて平和なのだが、やはり、世界は繋がっているから多少はモンスターも出てくるんだろう。

「るろんたか。まぁ、何処にでも出るやつだな」
「がはは! 美女とヤる邪魔するなら殺~~すっ! さっさと経験値だー!」

 目の前に現れたのは、何体かの るろんた。
 赤い十字型の中心に口が着いた不思議な姿で、初級の冒険者が良く世話になっている(経験値を得るため)モンスターだ。分類は軟体系のモンスターに位置され、ぷるんぷるんとしており、強さも大した事無いが、実は侮れない部分もあり、毒をもっている。
 ……が、当然の事ながら、ランスやユーリには叶う筈も無く、あっという間に、三枚におろされてしまった。

 そして、続いて
《ぬぼぼ》《ハニー》《ブルーハニー》《マジック・スコルピリオン》《フィシャー・スネーク》……etc



「うがーーーっ!!! うっとーしぃぃわああ!!! ランスあたぁぁぁっく!!!」
「おおっ!!?」

 初めこそは、通常の武器攻撃で対応していたランスだったが、次第にイライラしてきたようで、複数現れた瞬間に 一気にぶっ飛ばしたのだ。それを間近で見たユーリは思わず驚いてしまっていた。
 アレほどの技を仕えると言う事は剣戦闘Lvは確実に2、名人・天才の域にいると言っても過言じゃない。
 これで、あの性格が無ければ、十分すぎる程の才覚、人が見れば英雄と称されるだろう、と思えるのだが。

「む!? 貴様、何をサボっているのだ! キリキリ働かんか!下僕その1!」
「だから誰が、下僕だ! それに、終わったっつーの!」

 キンっ……と剣を鞘にしまいながらそう反論するユーリ。
 ランスは一瞬信じられず、『嘘付け!』っと言いたかったようだが、綺麗に2つに分かれているハニーやるろんたをその見て言葉を飲み込んだ。自分が吹き飛ばした際には、まだ健在だった筈だ。
 つまりは、スピードが凄まじいと言う事は理解できた。

(むぅ……、オレ様ほどではないが速度だけは、やるではないか。まぁ、楽は出来るといったもんだ)

 ランスは、この時初めてユーリの腕を認めたようだ。
 そもそも、戦いを一緒にしたのは良く考えればこれが初だし。なぜ……、自分が金が無いとは言え、時間も惜しいとは言え、男と組んだのか。心の底では解らないままだったが、まぁここまでの実力を持っていれば、使える男だと言う事も理解できた所だ。

「終わったのならばさっさと行くぞ! 今ので全滅のようだしな。がはは! 流石はオレ様」

 ランスは少しだけ上機嫌になりながらのっしのっしと先へと進んでいった。

「……腕は間違いなく一級品だな。何でか直感で初めから解っていたが……。裏が取れた。……久しく見てなかった。観察眼も、まだなまってなかった様だ」

 先に行くランスを見てそう呟くユーリ。
 事、戦闘に置いては互いが、互いを少し認め合った瞬間だった。








~リーザス辺境 盗賊の洞窟~


 リーザス辺境を踏破しつつ到着した2人。その目の前には如何にもアジトだと思える洞窟、岩肌をくりぬいた形の洞窟があった。そして、ご丁寧に見張りもつけられている。

「おい。ここが 何とかって言う盗賊団のアジトか?」
「おっ? なんだ? 入団志願者か?」
「……ま、そんなトコだ」
「そうか、なら聞いて驚け!そんじょそこらの三流盗賊団とは訳が違うぜ!ここはいずれ世界をまたにかける≪限りない明日戦闘団≫だ。お前ら今日志願とはついてるぜぇ? 活きの良い娘がいるからなぁ! ま、ボスの後にゃなるが今から想像しただけでもオレのムスコが疼いてしかたねぇんだ!」

 下衆びた声を上げながらニヤニヤしている荒くれ。
 如何にも盗賊らしい台詞を吐きながら、これから行う情事を想像、妄想させながら悶えてやがる。……見ているだけで不快だったが、少し泳がせて内部情報を聞き出してからと考えていたんだが。

「黙って死ねーーーーーっ!!」
“ズバンッ!!”
「ぎゃああああああっ!!」

 気の早く気性の荒い男が共にいたからそれは無理な相談だった。何を考えているのか、解りきっていた事、自分が狙っている?娘を犯しているであろうボスを想像して、怒りが湧いたのだろうか。

「はぁ……、ま 胸糞悪かったのは事実だが、ちょっと情報を抜き出してからの方が良かったんじゃないか?」
「馬鹿者! オレ様の女を抱こうなどと考える不埒な輩はさっさと始末しなきゃならんだろうが!」

 ランスは、血の着いた剣を振り、血を落とし鞘へと戻した。それもそうか。とユーリも思い先へと急ぐ。そして、洞窟の中へと入ろうとするが……、

「んが!! 何じゃこれは!?」

 ランスはずんずんと先へ進もうとしたが、何かに押し出されてしまい奥へと進めないのだ。

「む? なんだ!!生意気な。三流盗賊団の癖して、結界なんぞ張ってやがる!」
「仰々しい名を名乗るだけのモノはそれなりにある様だな。簡易結界か。……戦士職(アタッカー)のチームには絶大な壁だ。あんな見張り、いなくてもいいくらいに」
「何を悠長に分析しているのだ! これでは入れないでは無いか!!」
「ま、普通はそうだな。」

 ランスは生粋の戦士タイプ(アタッカー)。それを補佐しているのが彼女、シィルだ。だが、今はシィルはパリス学園へと潜入捜査しているから、この場にいないから、魔法に関しては無知なランス。
 横にいたランスは、恐らく考えている事が大体読めたのだろうか、腹を立てた様にまだ喚き立ててくる。そんなランスを横目にユーリは洞窟の方へと歩を進めていた。


 そんな2人を見ていた者がいた。

(く、くくく……、ネカイのねーちゃんに 出してもらった簡易結界が役に立ったな! ざまーみろ! オレ達とやろうなんざ、10年はえーんだよ、ばーか、ばーか)

 口に出して言えよ。と思いたくなるだろうけれど、これは全部頭の中、及び超小声だ。もう少しで、交代の時間だった為、見張りを変わりに来たのだが……、いざ来てみたら、こんな場面。少し早くに交代していれば、と思えば…… とガクガクと足が震えていて、前に出れていないのだ。


「で、でも どーすりゃ……、ボスは まだ 鍵かけて出てこねぇし……。い、一応 この時間のシフトはオレになってるし……。結構責任問題ってヤツじゃね……?」


 自分の命が掛かっているというのに、責任を口にするとはそれなりに、責任感があるのかもしれない……が、最後の一線を踏み越える事が出来ない様子だった。


 そんな時、ユーリ達はと言うと。


「……モノは相談だ。ランス」
「えぇい! 邪魔な結界めっ!!」

 相談を、とユーリが持ちかけているのだが、聞いてないランス。
 しょうがないから、ユーリはランスが見ていないのを見計らって、手に≪力≫を集中させた。身体に薄い光の膜の様なものが身体を包み込むと……、更に一歩進み結界を踏み越えたのだ。



「「なにぃぃ!!」」



 ランスはユーリがいつの間にか結界を越えている事に気がついたようで、驚いていた。……ランスの叫び声でかき消されて命拾いしたのは、覗いていた男だ。目玉が飛び出んばかりの勢いで、ユーリの方をガン見していた。

「おい! 結界が解けたのならさっさと言え。下僕の勤めだろうが! がははは!! さぁ~て、娘の下へ……んがっ!!」

 意気揚々と結界を踏み越えようとしたが……、同じように弾き飛ばされてしまう。もう、無いと思って気が抜けていたのか、その勢いで尻餅をついていた。

「なんでじゃぁぁ!! なんでオレ様だけが、入れんのだ!」
「……オレが言う前に行動したお前が悪い。が、まぁ……あんまし言いたくないが、別にオレは結界を壊した訳じゃない。ちょっとした、特技ってヤツだ」

 ユーリの周囲にはまだ、薄っすらとだが光の膜は出ている。……次の瞬間にはもう、消えてしまっているが。まぁ、簡潔に説明したが、肝心の所は話はしていない。
 自分のこの能力をおいそれと他人に教えたりするような愚公は犯さない。それは誰しもがそうだろう。……ランスは判らないが。

「なに! そんな便利な力を持っていたのか。がははは! 流石はオレ様の下僕! なら その力をオレ様の為に使え! 許可する!」
「はぁ……、言っておくがこれは、他人に付与する様な力じゃない。だから、一緒に入ろうとするなら……、考えたくないがオレと密着。これでもかーーーーっ!! って程しなきゃならん。……ランスは、オレと抱き合いたいのか?」
「ふざけんなぁぁぁっ!!!」
「いやはや そこは激しく同意だ。大体オレもそんなの試した事無いし、実際出来るかもわからん。だからこそ、……嫌だ!」
「なら言うな!! 男と抱き合うなど考えただけで、鳥肌が立つわ! つーか考えたくもないわ!」

 ランスはやいのやいのと結界の外で喚きたてられるが、ここは敵陣。
 まだ気配は無いから多分大丈夫だとは思うが、見つかるのは囚われている娘がいる以上は好ましくない。

「そんなに騒ぐな。バレるだろ? ……だから、ここは俺に任せてシィルちゃんの所に戻って情報収集をしてくれないか?」
「駄目だ! これでは酒場の美人娘をオレ様が格好良く助けて惚れさせる計画が台無しでは無いか! 貴様と抱き合う以外での方法を考えろーー! オレ様も入れろーーー!」
「だから、大声で騒ぐなって。後、そんな計画は知らん! オレが助けた後にでも口説けば良いだろう」
「だぁーーーっは! ふざけんなーーッ!! そう言いながら横取りするつもりだろぅ!?」
「誰がするかっ! 一緒にすんな!」
「良いから入れろ~! 入ぃれぇろぉーーー!!」

 ランスは、どうしても納得してくれない様子だ。ユーリは、仕様がないな、と軽く頭を掻いた後。

「はぁ、そこの影にいるアンタ。……これの開け方、解除条件は知ってるな?」
「うひぃっっ!!」

 ユーリが、軽く声をかけたのは岩陰。そこからの気配が、ダダ漏れだったのだ。結界を超えるまでは判りにくかったが、洞窟内に入れば、声も反響してわかりやすい。

「おお! いいところにいたな? このブ男! オレ様も、入れろ! 入れれば ランス・キックの刑ですませてやる!」

 ランスも、そいつを視認した様で、大声で叫ぶ。……正直、洞窟内で叫んで欲しく無い。仲間が集まってきたら、厄介だからだ。

「ぐぐ、こ、ここは一先ず戦術的撤退……を……」

 くるり、と身体を180度反対に向け、奥へと逃げようとしていたのだが……、それをさせないのはユーリの刃。
 いつの間にか、剣を抜いて、首元に添えられていたのだ。

「悪いな。アイツも入れてやらないと、いつまでも駄々をこねそうなんだ。……入れてくれるよな?」

 ぎらり、と刃が怪しく光る。刃と共に向けられるのは殺気。返答を誤れば、どうなるか、直ぐに理解出来た。

「ひ、ひいぃ!! わ、判りましたっっ、 だ、だから 辞めてくれれっ!!」

 あっという間に、戦意喪失したので、早速解除をして貰った。結界は 『てきはみんな ぽあ』と唱えた瞬間に淡い光を放ちながら消失した。

「うむ」

 ランスは、軽く頭を振り、肩をコキコキっと鳴らすと。

「らーーんす きぃぃっく!!!」

 ずぎゃーー! と効果音を発しながら、男の顔面にヤクザキックをぶちかました。ランスは、約束?はしっかりと守る様であり、モロに直撃をしてしまった男は、そのまま吹き飛び、しこたま後頭部を強打してしまって、そのまま動かなくなる。

「さぁ! とっとと行くぞ! 下僕その1!」
「いい加減に名前くらい覚えろ!」

 ユーリの文句は全く耳を貸さないランス。
 いや、マジで不思議だと考えていた……。なんで、こんな扱いを受けてまでこの男と一緒に組んでいるのか?だ。

 自分のことを英雄と言っている。そんなもん、実際に聞いたら痛いだけだ。……が、確かに力はある様だ。

(……まぁ、解決するのが早い為だろうか)

 ユーリはそうも考えを改め直していた。


 因みに、交代でやってきた男は、打ちどころが悪かったらしく、そのまま ぽくぽくぽく……ちーん! となってしまっていたのだった。
 
 
 

 
後書き
〜人物紹介〜



□ 女忍者

ランスの前に現れ、忠告を施したJAPAN出身と思われる女忍者。
リーザスの重鎮と繋がってると思われるが………。詳しい事は何もわかっていない。


□ 堀川奈美

 黒神黒目の美しい容姿でJAPAN出身の和服美人。リーザス城下町にある≪氷砂糖≫と言う宿を1人で切り盛りする苦労人だが、本人は楽しんでいる。ランスに襲われても軽く投げ飛ばしてしまう柔道五段の女傑。


□ ボブサ・フランダース

リーザス城下町で、営業をするあまり大きくない酒場のマスター。名を≪ふらんだーす≫。元々は太い眉毛に頑固そうな外見そのままの豪快な性格だったが、娘が盗賊団に攫われ負のオーラを具現化できるほど、意気消沈している。それほどまでに娘を溺愛している。
娘が帰らなければ、今日も負のオーラを放ち続けるだろう。



〜技能紹介〜

□ 結界破り?(現在:仮名)

ユーリが使用した結界を突破した技術。
本人曰く 結界・魔法を≪読む≫事で、中和する事が出来たとの事。
頑なに話さなかった筈の技能のひとつであろうが、随分と軽くランスに披露したな。とも思える。

 
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