黒魔術師松本沙耶香 妖女篇
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22部分:第二十二章
第二十二章
「麻薬は外から手に入れるものではないわ」
「中からですね」
「そうよ。中から生み出すもの」
まさにそれだというのである。
「そういうものなのよ」
「確かに。その通りですね」
それについては速水も同意だった。彼等にしてみればドラッグ、所謂麻薬と呼ばれるものに関してはかなり冷淡な態度であったのだ。
その冷淡な態度で。速水はまた言うのだった。
「そうでなくては意味のないものです」
「麻薬は何も生み出さないわ」
また言う沙耶香だった。
「身を滅ぼすだけよ」
「では貴女が楽しまれるものは」
「今まで通りよ」
また煙草を吸いながらの言葉だった。そのくわえ煙草の火が夜の闇の中に漂う。小さく虚ろな、何かの魂が燃える様であった。
「それはね」
「そうですか。煙草に音楽に」
「美酒に美食に」
そうして最後は。
「性よ」
「それはどちらもですね」
「あの後女の子達を抱いたわ」
そのことを思い出して微笑む沙耶香だった。
「人形の様な彼女達をね」
「左様ですか」
「よかったわ」
言いながらさらに微笑むのであった。
「美女もいいけれど少女もまたね」
「そしてそこに快楽をですね」
「麻薬なぞ不要よ」
またこのことを言う沙耶香であった。
「私は私の中にそれを作り出すことができるから」
「だからなのですね」
「そうよ。だからね」
そしてまた言うのであった。
「不要なのよ」
「私もまた同じでして」
述べた沙耶香にこう返した速水だった。
「それにつきましては」
「貴方も麻薬を作り出せるのね」
「見るだけで」
それができると。言うのだった。
「私はそれで充分なのです」
「では何を見るというのかしら」
「貴女を」
微笑みながら沙耶香を見て告げた言葉であった。
「貴女を見てです」
「いつも通りね。それは」
「いけませんか」
「いいえ」
それは別に構わないといった言葉だった。
「そういうことについて何も言ったりはしないわ」
「それも貴女らしいですね」
「興味が湧けばね」
あくまでそれ次第だというのである。
「その時はいいわ」
「それはいつも通りですね」
「そういうことよ。じゃあ」
ここで沙耶香の言葉の調子が変わった。そうして速水に告げてきたのだった。
「そろそろだけれど」
「ええ、前に見えてきましたね」
「あれね」
二人は前にあるものを見た。それは闇夜の中に浮かぶ薄いオレンジの宮殿であった。屋根は高くそれ自体が二階はあった。それが二階建てで左右対称の四角い窓のある宮殿の上にあった。屋根は闇夜の中にその白銀色を見せて聳え立っていた。
止めは中央が円形になっており最上部にさらに小さな独特の六本の柱で支えられたテラスがある。そこから外が見えるようになっている。そして左右は二人から見て横に三角になっている。それが幾重にも重なるようにして続いている階段の上にあった。
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