ソードアート・オンライン〜Another story〜
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ALO編
第123話 妖精の世界
この世界は……仮想世界 《アルヴヘイム・オンライン》。
そこは妖精の国。
その空には様々な妖精たちが舞っており……。美しい夜空をバックに空を自由に踊る様に羽根を広げている。手を伸ばせば、いや 羽根を広げれば自分自身も、その空へと舞い上がる事が出来る。
―――ああ……早くあの空に還りたい。
夜空に瞬く星々を眺めながら……そう思っているんだけれど。
「ああーー待ってよぉ~~リーファちゃ~ん……!」
……このとても綺麗で、幻想的な空なのに……広い広い何処までも飛んでいけそうな空の下なのに……、その雰囲気を壊してしまう様な情けない言葉がこの美しい空に響いてきた。
「はぁ……」
それは、一気に夢から現実に戻された気分だった。
後ろを見てみると、鈍臭そうな男の子が1人、ひょろひょろひょろ~っと今にも落下しそうな勢いで、飛んで?いる。
「……ったくもー、さっさと慣れなさいよ。だから空中戦でいっつもやられちゃうのよ?今日だって大分やられちゃってるみたいだし」
指を立てて、さっそくの説教をする金髪の少女。
傍から見ると、出来の悪い後輩と言うより、出来の悪い弟を世話する姉の様な感じだ。
「それにここは中立地帯。何があるかわからないんだから」
「だ……だってぇぇ……」
どうやら、レコンはこんな醜態を他のメンバーに見られたくないようだった。変な所では強い自尊心が一人前にあるみたいだ。
「ったく……ん?」
リーファはふいに東の方を見る。
ここは、シルフのテリトリーに近いとは言え、中立の領域 《古森》。
誰が来てもおかしくないけど、最大限に注視しながら警戒していた。でも一瞬……ほんの一瞬感じた気配。その先、森の木々に隠れていた赤い影が見えた。
「ッッ!! レコンっ!!」
何かを感じたリーファは、まるで怒鳴り声の様な声を上げた。
「わっ!!! わわぁっ!!」
レコンはその声に驚いてしまったのか、バランスを崩し落下していた。
「トレーサーよ! 早くっ! 直ぐに追っ手が来るわ!」
リーファがそう叫んだ。
《トレーサー》正式名称は≪トレーシング・サーチャー≫
高位魔法に分類されるもの。
それは、探索用の魔法だ。種族によって形は様々だが、それぞれの色で大体判る。赤く光るあのトレーサーは、間違いなくサラマンダーのモノだ。
リーファはすかさず両手を掲げスペル詠唱を開始する。
その長めの詠唱ワードを唱え終えるとリーファの両手の指先からエメラルド色の光る無数の針が発射された。
その赤い影。
正体はコウモリの様なものだった。
巧みにかわしていたが、最後は弾数の多さに屈したように数本の針に辛かれ手地面に墜落。赤い炎に包まれて消滅した。
「ほら早く!!」
リーファは、辺りを見渡すとレコンにそう叫ぶ。
いつ現れてもおかしくないのだ。あのトレーサーを潰した事は術者にはもうバレているから。
「わわっ! そんなっ 突然そんな事、言われても~~~!」
それはそれとして……『何とも頼りにならないパートナーだ』と、頭を抱えていたリーファだったが、すぐさま臨戦態勢に入る。もう、直ぐ傍にまで来ていたからだ。
「レコン! 迎撃体勢! 行くよ! デスペナが惜しかったら、死ぬ気で戦いなさい!!」
「ええっっ!! は、早いよ、もう来ちゃったの!!」
勿論敵は待ってはくれない。
それに、南西の方角を見てもまだ、シルフ領の中央にある≪風の塔≫の灯りはまだ見えない。即ちまだ相当距離があると言う事だ。そして、トレーサーを潰してから直ぐに現れたその間隔。自分ならまだしも、レコンであれば逃げ切れるはずもない。否、魔法攻撃を連発されれば自分でも逃げ切れないかもしれない。
だから……。
「たまには良いトコ見せてよね! レコン。いつも飛ぶ練習付き合ってあげてんだから!」
リーファは、愛刀を構えながらそう言う
「ううぅ……善処します」
頼りにならない返事だが、まだいい。
何せ、戦力が多いことにこした事は無いのだから。
そして、姿をあらわした敵種族。
《赤い妖精、サラマンダー》
「おらああああああ!!」
サラマンダーのランス使いの1人が突撃してきた。
それが、戦闘開始の合図だった。
~????????~
それは、突然で唐突だった。
あまりの出来事だったから、幾ら彼であっても、こうなってしまうのは仕方がないだろう。
「いったいなにぁぁぁ!! これぇぇえぇ!!!??」
驚き目を見開く。
さっきまで、設定画面だったはずだったのだ。名を決める、そして種族を決める。
など、通常では数分で終わる簡単な作業、と言うよりゲームを始める為の本当の初期設定だからそんなに時間がかかるわけも無い。
だが……。突然目の前にウインドウが現れた。
それは、バグの様な文字が混ざっており辛うじてわかったのは、
≪……データ……存在……利用……ますか?≫
虫喰い状態の文字の列だ。
……アミュスフィアにあのメモリを入れたからなのか?と思ったが、時は既に遅かった。知りたい内容がそのメモリに入っていると確信できるからYESを躊躇いも無く押した。
押したと同時に、世界が一変した。
まるで、デジタル世界の崩壊の様にポリゴン片となって、自分が立っている地面に穴が開き落下する間隔を覚えたのだ。
突然の事で、どうする事もできず、みるみる内に落下していく。その落下していく感覚は正確に脳に叩き込まれている為、その影響もあって、冷静でいられる筈もない。
「ちょちょちょっ! なななっ! なにっ!? ぼ、僕、何かマズイ事したっ!??」
流石の隼人もこれは想定外だったようだ。
ここまで、ゲームで取り乱すのも初めてかもしれない。一応このALOが初VRMMOだから、仕方がないとも言えるだろう。
だから、ゲーム世界ではこうと決めていた人格、口調がでずに……素の自分が出ていた様だ。
爺やが初め試したときは難なくプレイできたと聞いていたから……。誰かに聞く訳ではないが、それでも 落下はとまらない。
「わああああああああ!!」
当然だが 現実世界で、こんな落下はしたことのない経験だから……叫び声をあげてしまうのも無理はない。
そして、世界が急に明りを灯しだしたかと思えば……。
どしゃ!!! と言う音が聞こえた。それは、落下していた感覚から、今度は地面に激突したような感覚に見舞われたから。
そして、更に。
「「「ななっ!なんだーー!!!」」」
「いったいなにっ!?」
今度は、何人かの戸惑いの声が聞こえてきた。
……こうやって確認をするとは思ってもいなかったが、聴覚、触覚はまるで問題ない様だ。
それは、遡る事数分前の事。
リーファは、必死に羽根が続く限り飛び、レコンとの協力で隠行魔法を発動させたりしたのだが……サラマンダーの中にはメイジが存在しており、高位の魔法を操れる。だから、結局リーファたちはサラマンダー5人に囲まれてしまっていた。その内2人は、接近戦に持ち込み、何とか撃退する事が出来たが後は無くなってしまった。MP、そしてHPも3割弱しかなく、頼りになるパートナーはと言うと、リーファが1人目を倒したその次の瞬間。
「わーーー!! リーファちゃーん! ごめーーーん!!!」
と叫びながら、シルフ特有の緑の炎に包まれていったのだ……。そして、残るのは小さな緑の炎。≪リメインライト≫と呼ばれる炎になってしまった。
この炎が消えるまでに要する時間は一分。
その間に、蘇生魔法なりアイテムなりを使用すればこの場で復活する事が出来る。でも、こんな状況でそんな流暢な事していられる訳も無い。つまり、リーファは……。
『相変わらず……まーーーったく頼りにならない!』っと思っていたのだ。
そして、レコンが退場した事で、この場に残ったのはリーファただ1人になってしまった。
「わりいな、これも任務だ。金を出せば見逃すが?」
サラマンダーの1人。
恐らくはリーダー格のプレイヤーだろうか?その巨大なランスを構えながらそう言う。
「えー? 殺っちゃおうぜ? オンナ相手なんてひっさしぶりだし?」
そして、下衆びた声が響き渡った。
リーファは、嫌悪感で肌が粟立つのを意識する。このゲームは1年、プレイをしての経験。この手のプレイヤーははっきり言って少ないとはいえない。
≪女性狩り≫
その名を考えるだけでも嫌悪する。
VRMMOで女性プレイヤーを殺すのはネットにおける最高の快楽だと嘯く連中すらいる。これは、一般にも広く周知している健全なVRMMOのALOだ。
なのに、それでさえ≪こう≫なのだ。
――……なら、≪あの世界≫では……、一体どうだったのだろうか?
その内部は……と思うと背筋が寒くなる。
そんなプレイヤーは心底軽蔑するし、何よりも許せない。人は所詮ゲームだろう?というかもしれない。だけど……、自分にとってはここは夢の世界。
『……その夢の世界……を汚すな!!』
鋭く睨みを効かせるリーファ。
「……あたしは絶対ただでは殺られないわよ! 絶対後1人は道連れにしてみせる! デスペナが惜しくない者からかかってきなさい!」
リーファは、剣道で鍛えたその太刀筋と反射神経を持って、隙を見せず 木を背にして構えた。今まで散々飛んで逃げて、飛ぶことも出来なくなった。
それは 忌々しい滞空制限。この世界ALOでの代名詞とも言える《飛べる行為》には制限があるのだ。
そして何より、飛べない妖精と飛べる妖精。
その優劣は明らかだった。だが、そのリーファの構え。
《堂に入っている》
快楽のままに、オンナを殺そうっと言っていた下衆びたサラマンダーのプレイヤーですら口を閉ざし、警戒心を強めていた。迂闊に飛び込めば確かに間違いなく道連れにされると判断したサラマンダー3人はよりいっそう慎重になっていた。数では勝っていると言うのに、個々の能力は数段目の前のプレイヤーに劣っていると認めているからだ。
(遊べば……こちらが殺られる)
だから、向ける武器。そして相手に全て……集中させた。それは、まるで 邦画映画で見られる侍の決闘の空気。
ぴん……とした空気が張り詰める。
そんな時だった、突然……何かが空から降ってきたんだ。
「わぁぁぁぁ!!!!」
どしゃっ!! と言う音を立てながら、落ちてきた。……突然、何も無い空から降ってきたのだ。否、このゲームにおいて≪空から落ちてくる≫と言う状況は別段珍しくも無い。
訳がわからないのは、その落ちてきた人物だった。
「な、なに? これ……、これがこのゲームの仕様なのっ……? だったら、随分随分荒っぽいOPシーンだね……。幾ら飛べるのが売りのゲームだからって、突き落とすなんて……。不満の声ないのかな……?」
頭をぽりぽり掻きながらそう言う。
その言葉だけなら、恐らくは初心者だとわかる。
でも、解らない所はある。
その容姿が……これまでの種族とは一変しているからだ。このALOでプレイするに当たって、全プレイヤーは初めの設定で種族を選択する。
その種族の数は9つの種族。
☆風妖精 シルフ
☆火妖精 サラマンダー
☆水妖精 ウンディーネ
☆土妖精 ノーム
☆猫妖精 ケットシー
☆影妖精 スプリガン
☆音楽妖精 プーガ
☆鍛冶妖精 レプラコーン
☆闇妖精 インプ
この9つの種類のみだ。
少なくとも現時点でアップデートされているのはこの9種。そしてそれぞれの種族には特徴も勿論有る。たとえば、リーファがなっている風妖精 シルフであれば飛行の速度、そして聴力に富んでいて、その色は緑なのが特徴。そして、今交戦している火妖精 サラマンダーは武器の扱いと攻撃に長けた名の通り赤い色なのが特徴。
そう、これまでの説明から解るとおり、妖精は≪色≫で種族を把握できるのだ。
だが、どうだろう……? 目の前に落ちてきた男は全体的に≪銀≫。
ただの銀ではなく、何と言うべきか……、言うならば白銀だ。
まるで、今、夜空に浮かんでいる月の様な姿だった。
「な、なんだ? アイツ」
「何かのイベントか?」
サラマンダー達も戸惑いを隠せられないようだ。
「はは、これは、オープニングなんかじゃないぜ? ……って いだっっ!!!」
そんな時だ。今度はさっきよりも衝撃音が大きい。どごんっ!! と言う音と共に、また……上から降ってきた。
最近は、空から落ちてくるのが流行っているのか? と思えてしまう程だった。2回も連続でそんな光景を見るんだから仕方が無い。
新たに乱入してきた男は頭から地面に突き刺さっていた。その容姿はよく解る。
「………」
リーファも連続して起こった事にどう言っていいのかわからず、目を白黒させていた。
でも、あのいきなり現れた内の一人はよく解らない存在だが、後から現れた男はその容姿から ≪影妖精 スプリガン≫だと解る。
だからこそ。
「何してんの! 早く逃げて!!」
リーファはそう叫んでいた。
その装備から察するに完全な初期装備。要するに此処最近ALOに参戦した初心者だと言う事がよく解る。
それが証拠に、飛ぶときにスティックを握っていた事もそうだ。
熟練者ならば空を飛ぶのに、そんなものは使用しないから。
「ん~~……、女の子1人に重装備の重戦士3人、それにもう1人……は違うっぽいか、……でもちょっと格好良くないんじゃないか? 多勢で女の子を襲うのはさ?」
スプリガンの男は、呆れ顔でそう言い放つ。
「……え? ……これはOPなんかじゃないって事? 突然真っ暗になっていきなりこんなトコに落下したから、これからチュートリアルでも始まるんじゃないかって思ってた」
鮮やかな銀色の髪を持つ男も、頭を一掻きすると集まっているメンバーの方へと向きなおす。そして、プレイヤー達をじっと見ていた。
「(……冷静に≪視て≫みればそれは一目瞭然だ)」
通常のNPCではありえないコード。複雑なそれは、示すのはプレイヤーのものだと言う事。
「純粋なプレイヤーだ、って言うのなら……僕は……っと!!」
男は口元を抑えて そして頭を振ると。
「オレも黒い彼に同意……だな。多勢に無勢の次点で。……はっきり言えば情けない。大の男がするもんじゃない」
そう言い直していた。
MMO自体はドラゴは幾数もの数をこなしてきている。だからこそ、直ぐに対応できる自信がある。……何より彼は思った事はストレートに言う性格だから、黒い彼に同意してそう言っていた。
「んだと!! いきなり出てきて何を言い出すかと思えば! 黙って聞いてりゃ偉そうに!」
「初心者がノコノコと出てきやがって! 変なビジュアルのクセによぉ!」
サラマンダーの内の2人はその言葉に憤怒した。
初めこそは、招かれざる2人の男。そして片方の見たことの無い銀色の容姿の男、そのイレギュラー性に驚いていた。
……が、黒い容姿のスプリガンを見て更にその男の言葉を聞く。そして、それに乗っかった銀色の男の発言も聞いて、確実に初心者だと言う事は解った。
あの姿はわからないが、ネットで調べれば直ぐに割れると判断もしたんだろう。
「まずはテメーらからやってやんよ!! 望みどおりな!!」
怒声を発しながら、空中を飛びあがる2人。
恐らくはリーダー格であろう1人はその場でホバリングをし、様子を伺っていた。基本的にMMOにおいては、レベルの差が絶対的。この世界であれば、スキル熟練度の差が絶対的なのだ。それなのに、あそこまで強気でいられる2人に何かを感じたようだ。
「おらあああ!! 死ねや!!!」
風を斬る様に飛翔。飛び上がり、滑空するように2人に接近していった。
そんな、まさに襲われる寸前の刹那。
「おい」
「ん?」
黒い男が銀色の男に話しかかけていた。
「両方とも、オレが相手をしていいか?」
そう聞いていた。
悠長に会話している暇なんてない筈だけれど。『肩ならしをしたい』と言っている様にも聞こえてくる。
見たとおり、肩をぐるぐると回しているのだから。だが、それは銀色の彼も同様だった。この世界に降り立ったばかりだから。
「……どうせなら分けないか? 向かってくるのは、とりあえず2人。こちらも丁度2人。1:1だろう?」
銀色の男はそう返していた。
「ん……それもそうだな。よし。解ったよ」
頭を一頻り掻くと突っ込んでくるランス使いに向き合った。
それを横で見ていたリーファは思わず唖然としてしまった。
初心者が、初期装備で太刀打ちできる相手じゃないのだ。掠っただけでも致命傷になるだろう。なのに、そんな危機的状況なのにスットンキョーな会話を聞いていたからだ。
色んな意味で、ツッコもうとしたんだけれど、……相手の方が動くのが早かった。
サラマンダーのランスを使った高速の突きが、スプリガンの男に命中。
ギィィィンッ!!!と言う、けたましい音と、発光エフェクトを発生させていた。それを見たリーファは、思わず目を瞑っていた。
『殺られた!』
と思ったからだ。
「………ッ!! あっ!?」
だけど……、次のシーンを見たリーファは再び唖然とする。
それは、先ほどとは全く違う意味で、ありえない光景を目の当たりにしたからだ。
なんと……、スプリガンの男はあろうことか、重装備の武器である巨大ランスを片手で悠々と受け止めていたのだ。
「な……ななっ!!」
それを見た男も、同様に混乱していた。初心者なのは間違いない筈なのだ。なのに……掴まれた武器が、全く動かない。
まるで、大木に深々と突き刺し、抜けない、或いは巨人の手に掴まれてしまい離せない様な。
「よっ!」
男が軽く押し返すように放り投げると……。
「うわあああ!!」
まるで強力な風の魔法に吹き飛ばされたかのように、宙に飛び上がっていった。
「えーーっと、とりあえず……」
黒い男は腕をぐるぐると振る。
「とりあえず、仲良く1人ずつって事になったんだけど、その人もう斬っても良いのかな?」
そう、いいながらゆっくりと歩いて間合いを詰めていった。
「……さっきから連中の話を聞く限りじゃ、良いと思うぞ? 敵意むき出しだったしな」
銀色の男もそう言う。
「だよな?」
ニカリと笑った黒い男は更に数歩前へと。
「そりゃ、私も同意見……、先方もそのつもりで来たんだし……」
リーファも同意していた。
この場から逃げれない以上は、相手と戦うつもりだったから。
「なら……、失礼して……」
剣を手にかけ……、大地を踏みしめる脚に力を入れる。
力を入れた瞬間、ぎゅんっっ!!!と言う音が聞こえた来た。……それは、まるで、高速な物体が横切ったかのような風切音が聞こえたと同時に、男は消えていた。
「な……消えた?」
サラマンダーの男も、目の前で突然消えた事に動揺したが……、次の瞬間には。
「ぎゃあああ!!」
その巨体の身体を裂かれ、赤い炎となって四散していった。
「「!!!」」
そんな衝撃的映像を見た男達。
少し上で見ていた男ですら、見えなかった。初心者だというのに、敏捷力が桁外れだと言う事。桁外れ、と言葉で表すのは容易い。だが、それだけでは収まらない。
……見えなかったのだから。あの男が、斬るその瞬間すら……。
「さて……」
それを見た銀色の男は、残ったもう1人の男を見る。
「オレ達も始めるか?」
「ッ……!!」
そう宣言した。
あのありえない光景を見ても全く動じる様子の無いそれに驚いていたんだ。その雰囲気から、この男も同等の実力者?とも思えたんだが……。
「……っとと、そういえば初期の武器はなんだ? 確認してなかったな」
敵を目前に、何やらメニューウインドウを呼び出していた。その操作は、まだあまり慣れてない手つきだったようだ。それは当然の事。このALOがVRMMOとしては二代目のソフトなのだから。初心者であれば、いきなりでできる方がおかしいのだ。
「……ちっ!! 舐めやがって!!」
この隙に逃げれば良いものの、サラマンダーの男はプライドに触ったようだ。不快感を前面に出し、相手を見てすらない目の前の男 目掛けてランスを突きつける!
「死ねええええ!!!!」
その巨大なランスを確実に胴体を穿ったはずだった……、あの距離、ましてや目の前の男はコチラを見てすらない状況。目隠しでゲームプレイをしているような状況。
なのに……、そのランスは男を捕らえてはいなかった。
銀の男は、自身の身体を捻り、その突き攻撃を回避をしていたのだ。
「っく……くそおおおお!!!」
サラマンダーの男は、何度も何度も、ランスで突きの攻撃を連続して行う。その巨大武器ゆえに、速度は乏しいがそうは言ってられないのだ。こちらは、このゲームが出て何度もやりこみ、そして武器もスキルも上げていたのに、
その培ったものを全て一蹴されているような、そんな状況に納得が出来なかったようだ。
空回りするランス。空気を斬る様な音だけが場にぬなしく響く。
「悪い……もうちょっとだ。やろうと言ってたのに悪いが もう少し待ってくれ」
銀の男は目もくれず、ただただ躱し続けていた。
「……いくらオレでもありゃ、出来ないぞ?」
とりあえず、1人を始末したスプリガンの男は、傍観に回ったのだが、その光景には流石に唖然としていた。
スプリガンの男……、もうお判りだろう、彼の名は《キリト》
SAOの生還者の内の1人で、間違いなくこのゲームの初心者なのだがSAO時代、使っていたナーヴギア、そしてメモリでこのゲームをやっているせいなのか、あの時のパラメータがそのまま残ってこの世界でその力を使えたのだ。
だから、あんな初心者でも超人的な動きが出来、やたら強くなっていたのだった。
当然……、SAOは茅場が作り出したした≪もう1つの世界≫。≪ゲームではあって、遊びではない≫
その世界で鍛えた力。
その世界と比べればあまりにも生温いから。
そして、キリトが銀色の男に驚かなかったのは当然の事だ。
初期設定の時に、自分はスプリガンと言う種族を選んだ。様々な種族を選ぶ時 そこまで細かく、各種族を見ていなかった。主に黒いのが好きだからこのスプリガンと言う種族を選んだのだ。
銀の種族がいるんだろう、と思っていたようだ。だから、驚かなかったが……、流石に、今目の前で起こっているこの光景には驚く。相手を全く見ずに躱し続けるその姿。
赤い方の男は、自分からしてみれば遅い速度だが、多角方面から攻撃をしている。
なのに全く見ない。ただただ、メニューウインドウにのみ集中している感じだった。
それは敏捷力の差だけじゃ、説明がつかないと感じる。……恐らくは相手の動きを全て予測しているのだろうか。
或いは、相手の動きの全てが視えているような……そんな気がしていたんだ。
(……全てを……《視る》?)
キリトはその言葉が自分の頭に過ぎった。この感じは、………と頭の片隅に残っていたようだった。
そして、サラマンダーの男のランスの素振りともいえる攻撃が数十秒続いた後。
「片手直剣……。サイズはこれか……。どうせなら日本刀の形状で長めの剣……、正宗の様な剣がが好みだったが……、まぁ、初期だし、こんなものだな」
ふむ、っと口元に指をつけてそう呟いた。
「うおあああああ!!!」
それまでずっと攻撃し続けているんだが当たらない。
「さて……」
視線を戻したと同時に、連続の突きの中でランスの先端を掴んだ。
筋力値も、どうやらこの男もサラマンダー達より遥かに勝っているようだった。それは先ほどキリトがした事と同等の現象だったから。
「……待たせたな」
剣を構え、掴んだランスを弾くように剣当てた。
こちらも、がきぃぃん! と言うけたましい音を立てながら吹き飛ぶ。
「く、くっそおおお!!!!」
もう、男に《逃げる》と言う冷静な考えと、そんなコマンドは無かったようだ。ただただ、突進をして……、そして男と交差したその時。
リーファの目には、一瞬だけど……、閃光の様な光が発生した様に見えた。
だけど、銀の男は、すたすた、と歩いているだけだ、それは一瞬だったから、見間違いの可能性も否めない。男は、構えていた剣を肩に担ぎ反対方向へ、こちらの方へ歩いてきている。
「な……何してんの!」
攻撃するわけでもなく歩いている男にそう叫ぶのはリーファ。だけど……キリトはリーファの側に来て。
「勝負、ありだ」
キリトが、そう呟いた。
「え?」
驚いたリーファは再び、2人の方を見ると……。
「ぎゃああああ!!!」
その断末魔の叫びと共に、サラマンダーの男の身体が切れてその身体を四散させていたのだ。
「ふむ……」
男は軽く剣を振ると鞘に収めた。さっきの感触から大体の感覚を掴めた様だった。そして、上空に飛んでいる男の方を見た。
「どうする? アンタも戦うかい?」
キリトも同じように向くと、上空にいる男にそう聞いた。
リーダー格の男は動揺しながらも冷静だったようだ。冷静に見て……この連中には万が一でも勝て無い事を悟る。
そもそも、この異常な強さの男達だけじゃなく、その後ろのシルフの女剣士にも勝てる気がしないと思っているのだ。
だから、早々に首を横に振った。
「いや、やめておくよ……。もう少しで魔法スキルが900なんだ。……デスペナが惜しい」
サラマンダーの男は、そう答え 降参の構えだった。
脱落・戦死……etc
事、RPGに限らずゲームでは、ゲームオーバーには相応の代償が付きまとうものだ。あるゲームは所持金の50%カット。はたまた、以前セーブした場所まで強制送還。勿論セーブをしていなければ、それまでのアイテム・経験値は無かったことになる。……等がある。
このALOでは、スキルPTがペナルティとしている様だ。
「はは、正直な人だな」
「……この場面では、仲間がやられた事で、感情的になりやすい状況だと思うが……、確かに」
2人は、男を見上げながら二人の男はそう言った。
「まぁ……、そこまで実力の差があれば、そういった感情、気持ちも冷めるってもんだよ」
その2人の言葉に苦笑いをしながらそう言う。向かって言った所で、力の差は歴然。逆立ちしたって敵わないのは見て判るから。
「そちらのお姉さんは?」
キリトはリーファの方を向き聞く。
戦う意思があるかどうか?それを。
「……私も良いわ」
リーファもそう答える。確かに仲間のレコンは殺られた。でも、3人の内2人が殺られた。それも圧倒的優位の立場だった筈なのに、返り討ちにされた。……完全に相手のほうが遥かに痛手を負っているのだ。
互いに痛みわけ……と言えないだろう。
だからこそ、溜飲は下がった。
でも……言っておきたい言葉はリーファにはあったようだ。
「今度はきっちり勝つわよ!」
鋭い眼光をサラマンダーの男に向ける。
『多勢に無勢なら兎も角、1対1ならば、決して負けない!』
リーファは、そう強く言っているかの様だった。その目を見た男は、苦笑いをしながら。
「正直……、君ともタイマンで戦るのは遠慮したいな」
そう答えた。
勝ち目の無い勝負はしない主義のようだ。一か八かは止め合理的に動く……、そう考えているようだ。
男はそのまま、上空遥か高くへと飛び上がり……、そのまま東の方角へと飛び去っていった。
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