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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇

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24部分:第二十四章


第二十四章

「この街にいながらにしていない」
「普通にあるマドリードではないとするならば」
「そこは一体何処か、ですね」
「そうね」
 ここでようやく席に着く。速水の向かい側に座った。
「次に知るべきものが見つかったわね」
 沙耶香は言う。
「彼女が何処に隠れているか」
「それについて調べましょう。それでは」
 カードを収めたうえで彼女に目を向けてきた。
「話はそこね」
「そうですね。ただ」
「ただ?」
「あの方のことです」
 速水は右目に思案の色を浮かべて述べた。
「また洒落たところでしょうね」
「そうね」
 沙耶香もそれに同意して頷く。
「彼女のことだから。あの美意識で動いているのでしょうね」
「厄介な方です。いつもながら」
「因縁というものね」
 沙耶香はそう言って口元に笑みを浮かべる。
「私達のね」
「願わくば因縁ではなく赤い糸であって欲しいものです」
「あら」
 沙耶香はその言葉に顔を向けてきた。
「赤い糸だなんて。また少女趣味ね」
「私は信じているのですよ」
 すっと沙耶香の顔を見て言葉を送る。
「貴女とは運命があるということを」
「どうかしら」
 しかし沙耶香はそれには疑問の顔を浮かべてみせた。
「私は赤い糸なんてないわ。あるとしても」
「どうなっていますか?」
「幾つも。美女や美少女達とね」
「花から花に、ですか」
「そういうこと。わかってもらえたかしら」
「どうでしょうか。私には見えますよ」
 速水も負けてはいない。沙耶香に笑って返す。
「赤い糸がね」
「それが幻でなければいいけれど」
「幻は真になる時もありますよ」
「聞いたことがないわ」
 目を細めてその言葉をとぼけてみせる。
「そんなことはね」
「手厳しい方です。常に私をかわされる」
「そうでもないわよ」
「では。今夜はどうでしょうか」
 そうでもないといった言葉に間隙を見て言葉を入れてきた。
「夜はまだ長いですよ」
「長い夜ね。それなら」40
 そこでまた言葉を変えてみせる。
「街に出るわ」
「おや、街にですか」
「そうよ。街にね」
「ここでは過ごされないと」
「残念ね。気分じゃないのよ」
 笑みをたたえ続けたままの言葉であった。言葉を操りながら進めていく。
「そういう気分じゃ」
「残念なことです。折角スペインの名酒を用意しておいたのに」
「別の名酒があるわ」
 だが沙耶香はそう返す。
「だからね」
「わかりました。それでは」
「ええ。またね」
 五枚の花びらを持つ花を出してきた。赤、青、黒、白、黄の五色の花を。花を掲げるとその花弁が無限に別れてその中に覆われる。花びらと共にその姿も消すのであった。
「勝手な方です」
 速水は姿を消した沙耶香の姿を見て薄く苦笑いを浮かべる。薄い笑いであったがそこには確かに残念なものを漂わせていたのであった。
「ですが。また時間があるでしょう」
 だからといって諦めるわけではない。それでも。彼は今は一人で飲むのであった。


 
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