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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇

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16部分:第十六章


第十六章

 それが終わってからであった。沙耶香はベッドの中で自分の左右にいる二人に声をかけてきた。ベッドの白いシーツの中でそれぞれ横たわっている。
「どうだったかしら」
 沙耶香はくすりと笑って二人に問う。
「女は」
「女っていうよりは」
 小柄な女の子が沙耶香に応えて言う。
「貴女が」
「私なのね」
「はい、今までで一番よかったです」
 そう沙耶香に言うのであった。
「男の人よりも」
「そう。それじゃあ」
 その言葉を聞いてからボーイッシュな女の子にも声をかける。
「貴女はどうだったのかしら」
「私もです」
 整った顔の頬を赤らめさせて述べる。
「こんなことって」
「女はね。男に抱かれるだけではないのよ」
「はあ」
「女に抱かれるのもね。女なのよ」
「そうだったんですか」
「だからね」
 また二人に言う。
「現実を忘れられたでしょう?今」
「嘘みたいです」
 小柄な女の子が沙耶香の言葉にまた頷く。
「だからまた」
「いいですよね」
 ボーイッシュな女の子もまた。二人はそれぞれ左右から沙耶香に身体を寄せてきた。
「積極的ね。はじめてなのに」
 二人の言葉を同時に聞きながら目を細めさせる。
「けれど。いいわ」
「それじゃあ」
「また」
「さあ、いらっしゃい」
 二人に対して言う。そのまま三人で快楽を貪っていった。
 熱い情事の後で二人と別れる。もうマドリードは夜になっていた。
 一人その夜のマドリードを歩いていると左右と後ろから次々と人がやって来る。見ればそれは沙耶香自身であった。
 彼女の影達であった。それが今戻ってきているのだ。彼女はその影達の話を聞いていた。
 街灯があらゆる方角から彼女と影達を照らし出す。沙耶香は歩きながら影達と対していたのである。
「五十人ね」
 影の一つがそう沙耶香に述べてきた。
「消えた女の子達の数は」
「そう」
 沙耶香は影達には目を向けない。正面を見て歩きながらその言葉を聞くだけである。
「全て。彼女の仕業よ」
「五十人も」
「全ては魔力の為ね」
 影の一つがまた述べる。
「彼女のね」
「それだけではないわね」
 沙耶香はそれに応えて言う。
「多分」
「楽しみね」
 影達は言った。
「彼女自身の」
「彼女は欲張りだから」
 すっとその目を細めさせてきた。ブラックルビーの瞳が闇の中で美しく、妖しく輝く。
「何人でもなのよ」
「相変わらずね」
 影達は述べる。述べながら沙耶香に近付いていく。
「そういうところは」
「困ったこと。けれど」
 沙耶香は笑いながら言う。
「だからこそ戦いがいがあるわ。そうよね」
「ええ」
「それじゃあ」
「戻るのよ」
 影達に言った。
「いいわね」
「わかったわ」
 影達はそれを受ける。そのまま沙耶香の影の中に溶け込んでいく。街灯により幾つにもなっている薄い影達に入っていくのであった。
 それが終わると沙耶香の前に今度は速水が姿を現わしてきた。カードを右手に持ち左手をポケットに入れた姿で歩み寄ってきた。
「五十人でしたね」
 速水は沙耶香にこう言ってきた。
「私の調べたところでは」
「こちらもよ」
 沙耶香はその言葉に応えて自分も数を言った。
「同じ数だったわ。五十人」
「そうですか。では間違いないですね」
 速水はその数を聞いて言う。二人は今夜道にいた。そこで相対していたのであった。
「攫われた女の子達の数は」
「そうね。そして問題は」
 沙耶香は言う。
「彼女が。何処にいるのかね」
「さしあたっては自分から出てくれるかも知れませんがね」
 カードを出してきた。それは太陽のカードであった。タロットカードの十九番だ。再会を表わす場合もある。無論逆だとその意味はかなり異なってくる。
「このカードを見ると」
「貴方のカードなら確かなのでしょうね」
 沙耶香はその太陽のカードを見て述べる。
「では今夜にでも」
「はい。ではその場所は」
「感じるわ」
 沙耶香は闇の中に照らされながら述べてきた。
「彼女の気をね」
「しかもこれは」
 それは速水も感じた。左の髪の下が黄金色に輝いていた。
「いるわ」
「はい」
 二人は頷き合う。
「場所は」
「プエルタ=デル=ソルね」
 マドリードの中心部であり繁華街である。二人はそこに気配を察していた。
 そうとなれば話は早かった。二人はすぐに側にある暗闇の中へと溶け込んだ。そのままプエルタ=デル=ソルへと出たのであった。

 
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