零から始める恋の方法
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終焉
時をさかのぼること二時間前。
ちょうど紗由利たちが利英の報告を受けて少ししてのことだった。
「・・・くら」
ライトぐらい持ってきたほうがよかっただろうか。
一応護身用の鋸は隠し持っておいたが・・・どうもしっくりこない。
万が一この通路の存在が気付かれていた場合、かなり危険な状態になることだろう。
「・・・?」
誰かいる?
敵・・・の可能性は低い。
以前はこのようなことはなかった。
いや、だが今回はイレギュラーすぎる。
紗宮のあの時点での発砲や雪ちゃんたちの心霊体験、あんなものはなかったはずだ。
・・・おかしい。
私は鋸を構える。
「そこにいるのは誰」
影は答えない。
姿勢的には座っているような感じだろうか。
髪が長いことから女性であることは間違いない。
ちょうど紗由利ぐらいだ。
・・・紗由利だったらいいのだがこの時点では紗由利は屋敷にいることになっている。
だとしたら、屋敷のほうで何かあったのだろうか?
いずれにしても今私は大変良くない状態にあるということだろうか。
「あなた・・・凛堂利英であってるかしら?」
私の名前を知っている・・・?
ここで違う人の名前を言うのは危険だろう。
おそらく殺される。
なにより一般人がこんなところにいるのはおかしいだろう。
絶対に嘘だとバレる。
「ええ、そうよ。で、貴方は誰?」
「しがない諜報部員よ。名前は七志期黄泉」
七志期・・・。
そんなやつは今までに出てこなかった。
今まで、このタイミング、このシチュエーションでこの下水道は何十回ととおってきたが、誰蚊と会ったこともなかった。
やはり今回は何かがおかしい。
「で、その諜報部員さんが何の用?あんたも私の敵・・・?」
「平たく言うとそうね。早い話が投稿してほしいの。ハウンド部隊は少し暴走しすぎたみたい。私が監視しておいてよかったわ」
ハウンド部隊・・・?
あの武装集団のことか。
そして、紗宮はおそらくそれを仕切る立場にあるはず・・・。
だとしたらこいつは紗宮の所属する組織の上司?
・・・まだまだ裏は深いようだ。
「拒否するわ。あんたも見たでしょう?私が心臓を撃ち抜かれたところ」
「ええ。弾丸は完全にあなたの体を貫通していた。弾丸だってチャイルドに命じて回収済みよ」
チャイルド?
また新しい部隊か。
とすると、ハウンドを倒してもこいつとそのチャイルドとかいうのが出てくるというわけか。
・・・これはいい情報を得た。
どのみち、今回も私たちの負けだろう。
おとなしく投稿すると私はゲームオーバーだ。
コンティーニューさえも出来ずに終わる。
・・・それだけは避けないといけない。
「なら、わかるでしょう?私を殺したければ殺しなさい。そうしても無駄だから。また生き延びてやるわ」
「・・・なら、殺しても生け捕りってことになるのよね?」
やれるもんならやってみなさい。
私は全力で逃げ切ることができれば次につなげることができる。
奴につかまると私はゲームオーバー。
ただし、『死ぬ』ことができれば次につなげられる。
そのための手段ならもう持ち合わせている。
雪ちゃん、紗由利、想夢・・・ごめん。
また・・・しくじった。
次こそはうまくやるから。
「やれるもんならやってみろ、このクソ女」
そうして私は持っていた鋸で首を掻っ切って自決した。
あるところにある少年がいた。
その少年のそばにはいつもある少女がいた。
その少女はあるとき両親を亡くした。
その少年はその少女を慰めようとした。
しかし、少女はあるとき両親を生き返らせるため多くの人々を生贄にささげた。
少女の願いはかない、両親は蘇った。
最悪の形で・・・。
少女は別の方法で両親を完全によみがえらそうとした。
そして、その願いはかなった。
しかし、それは全てを投げ捨て、孤独となることでしか得られないものだった。
少女は少年のそばから離れた。
少年は少女を救うため、別の方法で少女の両親を完全蘇生させようとした。
それは十数回に及んだ。
そして、それは今までに一度も成功していなかった。
『これでまた失敗か』
少年は本を閉じる。
その本にはある物語が記されていた。
しかし、再び本を開けるとその本は白紙に戻っていた。
『もう、無理なのかもしれない。彼には荷が重すぎたのかもしれない・・・。ならば、少しだけ力を与えてみよう。残された時間で彼がどれだけ頑張れるのかを見てみよう。ねえ』
少年は目の前に立つ己が生み出した少女を見る。
その少女はかつて自分が救おうとした少女とたいへんよく似ていた。
この物語で今目の前に立つ少女を救うことができれば、かつての少女も救うことができると信じて・・・。
『利英』
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