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零から始める恋の方法

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無限の狂気

 驚いたことに少女が私を介抱してくれた。
 それまで、多少話すことはあっても基本的には私が余った食料などを適当に分け与え、少女は私の後ろをついてくるだけだった。
 だが、その程度の関係だというのになんで私なんかを介抱するの?


 「ねえ、あなたはなんで私を介抱するの?」


 「だって、あなたは私たちを助けてくれたから・・・。どうしようもなくてただし布を待つしかない私たちを助けてくれたから・・・」


 命の恩人というか。
 くだらない。
 そんなことを言うなら私はその恩人を何人も殺してきた。


 「・・・私はあなたを売って食べ物や武器に替えようと思っていたのよ?」


 「それでもいい。あなたは私に何度も食べ物を分けてくれた。貴重な水さえも分けてくれたそ、安心して眠れる場所も与えてくれた・・・。短い時間なのかもしれないけど、私はそれで満足しているから・・・」


 よくわからない。
 死んでしまったら意味なんてない。
 ましてや、売られてしまったらその先は一生性奴隷か使い捨ての駒兵士になるかのどちらかしかないというのに。
 地獄への道だというのにそれをどうして受け入れれるの?


 「あなたがわからないわ」


 「ふふ、そうかもね。あなたは強い人だもの。諦めないその強い心を持っている限り貴方は絶対に生き延びれるわ」


 心なんて関係ない。
 人間は心臓を撃たれると死ぬ。
 頭を撃たれても死ぬ。
 全身を穴だらけにされたり、必要以上に血を流しても死ぬ。
 そんな脆いのに、心なんて気にする余裕があるというのか?
 それよりも正確に状況を分析しより安全に、そしてより長く生き延びることが重要なのだ。


 それからしばらくして、私の足は無事に走れるようになった。
 ・・・なんとなくだが、少女をより安全な場所に預けることにした。
 里親、というやつなのだろう。
 戦争で子を亡くした夫婦に少女を預けた。
 数日私も泊めてもらったが、その村は比較的・・・というか、私が見た中で一番平和な村だった。
 どうやら、他国と小競り合いをしたときに奪われた、いわば植民地のような場所らしく、革命軍も政府軍も手を出せずにいるとか。
 加えて、食糧なども畑から自分で手に入れているため、食糧事情もかなり安定している。
 まさに楽園のような場所だった。
 夫婦もやさしく、私さえもお世話になるといい、といってくれた。
 しかし、人一人が増えたところで彼らの負担になるのは目に見えている。
 私は一人でも生きていけるから、そう言い残してその村を去った。


 そのあとは革命軍に入った。
 私の存在は革命軍も認知していたらしく、快く迎えてくれた。
 私はある部隊に所属することになった。
 部隊というと聞こえはいいが、所詮は寄せ集めの捨て駒兵ばかりの部隊だ。
 すぐに死ぬことは明白だった。


 だが、私は生き延びた。
 そんな劣悪な状況でも生き延びた。
 ときには仲間も殺した。
 でも誰も咎めなかった。
 みんな所詮は捨て駒だ、死ぬ時間が早まっただけ、ぐらいに思っていたのだろう。
 また、ある晩レイプされそうにもなった。
 当然殺した。
 武器を奪い取って弾薬の補給をし、配布されていた数少ない食料も奪い取った。
 正直ついていた。


 そして、最後にはわずか五人しか残っていなかった。
 最初は百人規模の部隊だったはずなのに、わずか五人だ。
 ロクな装備も与えられずに食糧も数日分しかない、だから装備や食料はすべて現地調達するか、仲間から奪うしかなかった。
 もっとも、同じ部隊にいるものを仲間と思っている奴なんてだれ一人いなかったが。
 せいぜいが、肉盾、搾取すべき対象、人によっては襲い掛かってくる恐怖の存在、といったところだろうか。


 流石にここまで生き残った精鋭だけあってわずか五人でも革命軍の大規模なキャンプを占拠することに成功した。
 しかし、内三人は死んだ。
 残ったのは私と|七志期 黄泉(ななしき よみ)という日本人女性だけだった。
 ちょうど私が以前助けた少女と同じぐらいの年齢だろうか。
 だが、あの時の無力な少女と違って、この人はもっと強かった。


 そうして、徐々に戦争は終わっていった。
 私たち傭兵部隊は当然のごとく見捨てられた。


 平和な社会に私たちの居場所はない。
 奪うべき食糧もなく、金を稼ぐ手段もない。
 あるのは血に汚れたこの両腕と、戦争の狂気にあてられた頭だけだった。


 「ねえ、仕事あるんだけど」


 「そうなんですか?部隊長」


 「・・・戦争はもう終わって私たち傭兵部隊は解散したのよ」


 やはり、癖で七志期さんのことを部隊長と呼んでしまう。
 一応この人は交友関係がかなり広く、戦争時にも食糧などで困ったことはなかった。


 「あるお金持ちの家の用心棒だって」


 用心棒・・・。
 確かに戦争終わりということで金持ちの家は略奪対象になりやすい。
 そういうことで、腕利きの用心棒をやとう家も多い。





















 「お待ちしていました」


 と、立派な服を着た初老の男性が出迎えてくれる。
 正直、挨拶なんて戦場式のものしか知らないからどうすればいいのかわからない。
 とりあえず、向こうがしたことの真似をする。



 「プッ・・・なにそれ・・・」


 さて、部隊ちょ・・・じゃなくて、七志期さんはヒラヒラとした動きにくそうな格好をしている。
 で、そのスカートを両手でつまみあげ、右足を少し引いてお辞儀をした。
 おお、サマになってる!


 私もあわてて真似しようと思ったが、今の自分の格好はそんなふわふわしたものではない。
 機能性重視の格好だ。
 ・・・服装間違えた?


 「では、こちらへ。ほかの用心棒の方もおられますのでご注意を」


 用心棒同士での争いは困るのか、そう忠告をしてくる初老の男性。
 ・・・ぶっちゃけ、そいつらのほうが心配だけど。
 私たちの部隊は基本的に二人でいることが多かった。
 猟犬のように獲物をしとめることからハウンド部隊と呼ばれることもあった。


 「意外と少ないんですね」


 「向こうも余計な出費はいやなんでしょう?ただでさえ政府軍やら革命軍に搾取されたんでしょうし」


 金のない私たちは食糧などの物資を差し出すことで命を奪われることはなかった。
 しかし、金持ちは金を差し出すことでも命をつなぐこともできる。
 この家もそうして生き残ったのだろう。



 しかし、その数日後その家は滅びた。
 用心棒の一人が内部から手引きしていたらしい。
 その一人は古株の用心棒によって殺された。
 私たちは中立の立場をとっていた。
 一応護衛対象のお嬢さんは守ったが、それだけだ。


 お嬢さんだけが生き残り、そのお嬢さんはどこかの里親に引き取られた。
 七志期先輩がうまいこと手引きしてくれたらしい。
 そして、私たちはながれの傭兵たちや戦争の狂気から抜け出せないものたちを集め、一つの組織となった。



 
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