グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第33話:モブらはみんな生きている 二
前書き
♪モブらはみんな生きている 生きているけど出番ない♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど台詞ない♬
♪手のひらを太陽に透かしてるポーズは 主役級が良く似合うのさー♬
♪子供だ~って メイドだ~って お城の兵だって~♬
♪みんな みんな 出ているんだ 台詞ほしいんだー♬
(グランバニア城・廊下)
スカーレットSIDE
「スカーレット、ちょっと待ってくれ!」
休憩時間も終わり、噂話好き共がそれぞれの持ち場に戻りだした時、城内警備をしてるロバートが廊下で呼び止めてきた。
「どしたん?」
首を傾げながら振り返り会話を続ける。
さっきの噂話で気になる事でもあったのかしら?
「あ、いや……その……」
「何よ? 呼び止めておいて随分と歯切れが悪いわね」
ちょっと時間を押してるので、早々に本題を切り出して欲しいわ。
「う、うん。あのだな……今夜、暇か?」
「今夜?」
「ああ、今夜……仕事が終わったらなんだが……」
「あ、うん……べ、別に予定なんて……無い……けど……」
も、もしかして……デートのお誘いか!?
“夕食を一緒に如何?”とか“ステキなホテルで夜明けのコーヒーを!”とか!?
そ、そんな安い女じゃないわよ! で、でも……夕食くらいなら……
「よ、良かった……それじゃぁ、俺と食事に行かないか? 港地区で美味しいレストランがあるって聞いたんだ」
キターーー!! やっぱりデートのお誘いよ!
ど、如何する!? 乗っちゃう? 断っちゃう?
断るか馬鹿!!
「い、良いけど……アンタの薄給で私を満足させられるの?」
断らないけど安易にOKしちゃう訳にもいかない。
ちょっと焦らして良い女ぶらないと。
「それは大丈夫だ。陛下が教えてくれたレストランで、値段もリーズナブルだし雰囲気も良い。勿論料理も完璧らしい」
「う~ん……リュカ様お墨付きなら安心かな」
安心どころではない。
グランバニアの……しかも城下町のデートスポットで、リュカ様程詳しい方は居ないだろう。
しかもリュカ様は、若い兵士や文官等に……特に独身の男共に、ご自身が見つけられたムーディーなスポットを紹介しているのだ。
「じゃ、じゃぁ……仕事が終わったら着替えて、グランバニア城前ステーションの改札で待ち合わせ……で、良いかな?」
「えぇ問題ないわよ」
当然だ。ロバートも鎧を着たまま出かけられないだろうし、私だってメイド服のままじゃ出かけたくない。この服は可愛いけど、プライベートで彷徨くのには不向きだわ。
「それじゃ後で!」
動揺を悟られない様に返事をすると、ロバートは嬉しそうに持ち場へと戻っていく。
私も時間を押してる事を思いだし、慌てて持ち場に戻った。
するとそこにはメイド長のブレンダさんが居り、オーバータイムな休憩時間を渋い顔で咎めてくる。
「す、済みませんブレンダさん……ちょっと呼び止められてしまいまして」
ロバートの所為にはしたくなかったが、怒られたくもなかった私は、思わず本当の事を言ってしまう。
「呼び止められたって……何でかしら?」
「あ、いや~……デ、デートに誘われてしまいました」
本来こんな報告は不要だろう。どう考えても遅れる言い訳にはならないのだから。
「まぁ、それは本当? で、相手は誰なのかしら」
「あ、はぁ……え~と……城内警備のロバートです」
ブレンダさんは“デートの誘い”と聞いて、顰めっ面から笑顔へと変わる。
「あらぁ~……彼だったら真面目そうだし、貴女にお似合いよね! 勿論そのお誘いをOKしたんでしょ?」
「は、はい。今夜食事をすることに……」
他人の色恋事だというのに、凄まじい食い付きだ。まぁ仕方ないのだけど……
「いきなり今夜……って訳にはいかないでしょうけど、正式にお付き合いするのであれば報告はするのですよ」
「はい。そうします」
普通に考えたら『何だこの職場は!?』って思えるが、グランバニア城では当たり前の事なのだ。
遅刻した事を咎める事なく、嬉しそうに私の前から去って行くメイド長を見ながら、私は自分の仕事に戻った。
そしてこの不思議な風習について考える。
何で職場の上司が、部下の色恋事に首を突っ込むのかを……
答えは簡単である。国王陛下がアレだからだ!
アレといのは、女性問題がアレということだ。
女性問題がアレで、跡取り候補が沢山居すぎて、万が一収拾が付かなくなったらって思いがあるからだ。
でもリュカ様は闇雲に女性問題を発展させてるわけではない。
リュカ様の好みに合った女は口説かれる……言い換えれば、好みじゃない女はお近くで働いてても手を出される事は無いと言う事なのだ。
で、100%手を出されない要因ってのが“他人の女にゃ手を出さない”って事なのです。
つまりね、未婚で彼氏も居ない若い女性はリュカ様のターゲットになりやすいから、相当メイドレベルが高くない限りお側での仕事は回ってこない。
でも既婚者か彼氏持ちの女は、メイドレベルが多少低くても重要な仕事を任せられるのだ。
その分お給料も上がるし、未婚および彼氏無し女は挙って若い兵士等をターゲッティングしている。
言っとくけど、誰彼構わずヤってるってわけじゃないわよ! そんな女も居るのだろうけど、殆どが真面目に婚活してるのよ。
このグランバニアで、最も結婚率の高い職業は城のメイドだ。
彼氏を探しやすい職場であり、彼氏が出来れば給料が上がる。
別れると給料が戻るので、多少の事じゃ別れない。
別れないから、ほぼ結婚する。
私も結婚が近いわね!
スカーレットSIDE END
(グランバニア城)
ロバートSIDE
以前から気になっていた女性を食事に誘い、舞い上がる様な足取りで持ち場に戻ると、そこには同僚のドンが待っていた。
少し戻りが遅くなったのを咎める様に俺を睨んで……
「悪かったよ……ちょっと用事があって遅れただけだ。ワザとじゃないってば」
俺が遅れると言う事は、俺と入れ替えで休憩に行くドンの時間を削る事だ。
怒るのは解るが、今回だけは許して欲しい。
「どんな用事があって遅れたんだ!? お前の所為で休憩時間が減ったんだ。聞く権利が俺にはある」
「確かに……でも良いのか? 俺の話を聞いてたら、もっと休憩時間が少なくなるぞ」
もう既に10分のロスが出ているのだ。それでも俺の話を聞きたいのか?
「納得いく理由なんだろ? 早く聞かせろ!」
「いやぁ~……そこまで言うなら聞かせるけどさぁ」
俺は思わずニヤけ顔になる。
「実はさぁ、スカーレットを食事に誘ったんだ」
「何!? あのナイスバディーなメイドのスカーレットか?」
そうなのだ。スカーレットは結構良い体付きをしている。
「そ、そうだけど……その言い方は嫌いだな。俺は彼女の身体だけに魅力を感じた訳じゃないんだから」
「本当かよ?」
少し真面目な顔でドンの台詞を注意するが、遅刻を許してくれた彼は笑いながら俺の発言を否定する。
「……まぁ、俺も最初は身体だけしか見えてなかったけどね!」
「ほれみろ~」
思わず笑いながら白状。
男なんてそんなもんだよ。
「確かにスカーレットは可愛いもんなぁ……俺も、もっと接点があれば口説いたのになぁ」
同じ城で働いていても、ドンとスカーレットは接点が少なかった。
俺にとって彼女との接点は、休憩時間が同じってだけだったし……グランバニア城は広すぎて仕事中に会う事など皆無なのだ。
勿論、メイドの仕事内容や兵士の仕事内容によっては、仕事中に仕事として会う事はあるのだろうけど、俺やドンには皆無だった。
そんな中で噂話好きの同期マイクが、俺に彼女を紹介して(紹介と言っても噂の情報源として)くれて接点を得る事が出来たのだ。
「何が『口説いた』だ? お前はリュリュ様一筋なんだろ!」
「馬鹿野郎。憧れてるだけで、リュリュ様を口説こうなんて考えてもいない!」
「本当かよ……酒に誘った事があるんじゃないのか?」
「俺は、あの事件とは無関係だ! ……誘った事はあるけど、『先約があるから』って断られたし」
「有罪じゃん。陛下に申告しとけよ……そして減給されちゃえ(笑)」
「うっさい、断られたんだから未遂だ! よって無罪だ!」
お互い笑いながらツッコミ合う。
「それに聞いた話じゃ、既にリュリュ様にはフィアンセが居るらしいぞ」
「はぁ、誰だよ……それ!?」
「何だ知らないのか? さっき聞いた話じゃウルフ殿がフィアンセだって噂があるらしいぞ」
え……そ、それって……
「安心しろ。それはデマだ」
「ほ、本当かよ!? っつか、何で言い切れるんだ?」
やれやれだな。
俺は休憩時間に仕入れてきた“シージャック事件”の事を教えてやった。
「そ、そうか! てっきり俺はウルフ殿が……」
「まぁ確かに、彼の信頼度なら陛下がリュリュ様を託されても納得出来るがな……」
「だ、だよなぁ……それに噂じゃウルフ殿は姫様とお付き合いしてるって言われてるし。やっぱりリュリュ様じゃないのか?」
「姫様って言っても沢山居られるだろ。リュリュ様限定じゃないよ」
「そ、そうか……うん、そうだよな!」
「安心したか? 安心してリュリュ様を口説く気になったか?」
「……いや。やっぱりリュリュ様は、憧れの存在であって口説く対象じゃないよ」
「酒に誘ったクセに?」
「あ、あれは……みんなが誘ってたから……つい……」
「まぁそういう事にしといてやる。でも、口説き続けてればリュリュ様に気持ちが伝わる日が来るかもよ? ラングストン閣下が実戦してるじゃん」
「そんな日が来るかぁ? 言いたくないがリュリュ様は極度のアレだぞ!」
「何だ“アレ”って? 不敬罪になるぞ(笑)」
俺もドンもお互い笑ってしまう。
グランバニアじゃなければ、ここまでの会話は全て不敬罪だろう。
「兎も角……俺は俺の相手を探すさ。お前はスカーレットと仲良くやれよ」
「そうさせてもらう。って訳で、今日は残業しないから。彼女とデートの約束をしたから、1秒も残業せずに帰るから!」
「分かった分かった……その代わり、俺の時も協力しろよ」
「お前の時? 相手の候補も居ないのに、今から予約するの? それ何て言うか知ってる? “取らぬ狸の皮算用”って言うんだぞ」
「うるさいよ。狙ってる女性は居るんだ。ただ話しかける機会が無いだけで……」
「誰だよ……そのイカ臭いターゲットの女って?」
「イ、イカ臭いって何だよ!? それにまだ話しかけてもないんだから、今は秘密だ」
「言えって……もしかしたら協力出来るかもしれないだろ!」
「……メイドのマオ」
「マオ? マオって、あの上級メイドのマオか?」
上級メイドとは、ロイヤルファミリーに仕える事が出来る優秀なメイドの事だ。
そんじょそこらの能力じゃ上級メイドにはなれない。
人柄が信頼出来、仕事も完璧で……何より陛下の女性問題を複雑にしない女性だけが、その職に就けるのだ。
過去には現メイド長のブレンダさんや、ウルフ殿の補佐をしてるユニさん等が上級メイドだった。
尤も、ブレンダさんは既婚者だったし、ユニさんは陛下が奴隷から解放させた娘みたいな存在だったから、お手を出したりはしなかったらしい。
はて、マオは独身で彼氏も居ないらしいし、何より体付きが陛下好みだったけど……何で上級メイドを務められるんだ?
ロバートSIDE END
ページ上へ戻る