ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第104話 大切な親友
前書き
アスナとキリトが結婚し、リュウキがこの家を見つけ引越ししてから2日後の朝の事。
レイナは、毎朝起床アラームを7時50分にセットしている。なぜ、そんな中途半端な時間なのかと言うと……、実はこれは姉のアスナの案なのだ。
キリトの起床時間が朝8時。
アスナは、隣で眠る姿を見るのが好きなのだ。それはレイナもまったくの同意。
リュウキの寝顔を見るのは本当に至福の時って思える程に。リュウキ自身も、レイナのおかげも合ってか、普通の生活については解ってきているようで……。
前みたいに、『睡眠?5日は寝ていないが?』とか、『睡眠?30分ほどで十分だろう?』とかはなくなっていた。
睡眠時間についても、大体の一般の人がとる時間も教えてもらって……、それで起床アラームのセットも行っているのだ。これは、レイナの策士?って想ったけれど、リュウキ自身の為でもあるんだから。
脳でプレイする以上は睡眠は必要なものだ。如何に他の人も言っている様に超人扱いされているリュウキだってそれは例外じゃない筈だから。
単純に、リュウキは生活の大体のリズムと言うものをレイナやアスナ、キリトに聞いていて、タイムスケジュールも出来たのだ。……現実世界では、爺やがしっかりと体調管理をしてくれていたんだけれど。この約2年程の期間で忘れちゃったみたいだ。
――……リュウキが目を覚ますまでの10分間。
彼の寝顔を眺めるレイナ。想いが伝わって、結婚して……約半年になるけれど。この世界で誰よりも彼の事を見ていて……誰よりも愛する人だけれど、やっぱりリュウキに関してはまだまだ、わからない事、知らない事も多い。それは寝顔のひとつにとっても言える事。そして……、初めて会ったあの時から思っていた事だけれど、リュウキの顔はとても整っており、寝顔ともなると、髪をもう少し伸ばせば女の子に間違われかねない様な顔。美少年……といえばその分類になるって思う。
普段の彼はとても凛々しく、格好良いとおもうけれど今は可愛いとさえ思ってしまう。そんな顔を見ていたら、だんだん年齢だって解らなくなってくるんだ。少しばかり斜めに構えてレイナはリュウキの顔を見た。攻略しているときの逞しさ、頼もしさを見れば自分よりもしっかりしているから、歳上だって思えてるんだけれど……今の彼を見たら、歳下?っとも思える。深い眠りに落ちているリュウキの寝顔は無邪気と言っていいほど、あどけなさがあるんだ。だからこそ、歳下の少年……歳下の美少年のように見えてしまう。
本当の歳を聞いてみようか……とも思ったけれど、やっぱり現実世界の事を話すと今この場、この場所が仮想世界と言う薄っぺらなものになってしまいそうで怖いのだ。
以前……リュウキが不安に感じていたこと。
それはレイナの心の奥底でもその機微はあった。今が幸せすぎて……忘れていたんだ。リュウキの想いも聞いたけれど……自分にとって今この瞬間が何よりも大切。唯一の現実派この森の家で穏やかに暮らしていて……、そう、たとえこの世界からの脱出が叶わぬまま現実世界で肉体が死を迎えたとしても……。
―――……最後の瞬間まで、この暮らしが続いてくれるなら、悔いはない。夢から覚めるのはもう少し後でも良い。
レイナはそう思いながら傍らで眠るリュウキの頬に触れた。……やっぱり、とても可愛い。とても強いのに……格好良いのに、可愛い。とても贅沢な組み合わせだ。そして、心に傷も持っていて、逆に守ってあげたくなる。そう……弟の様に思う瞬間だってある。……こう想ってると、リュウキに知られたら、怒られちゃいそうだけれど。レイナは更にリュウキの顔に近づけて呟く。
「大好きだからね……リュウキ君……。ずっと、ずっと、一緒に……」
「……ん。……うん」
「ッ!!」
まさかのタイミングで、返答が来たことにレイナは驚き、リュウキの顔を再び見た。でもどうやらそれは、彼の寝言の様だ。でも……このタイミングでそんな事ってあるんだ……。っとレイナは思わず笑ってしまっていた。
「あはっ………」
レイナはそっと、リュウキの傍に寄り添った。もう、あと数分程度だと思うけれど。
彼が目を覚ますその瞬間まで……、この心地良い幸せな温もりを……と。
――……そして、その数分後。
AM 8:00
「ん……」
リュウキは設定していた起床アラームと共に目を覚ました。
アラームが鳴ったから起きたのか、リュウキが起きたからアラームが鳴ったのか……。解らないほど正確で。……一体どう言う身体の構造してるんだこいつは、と思わず思ってしまう。
「……あ、あれ……」
目を覚まし、身体を動かそうとしたとき、右腕に?まれている様な感じがした……。そして、柔らかな感触と、温かなぬくもりも感じる。横目で見て見ると。
「すぅ……すぅ……」
レイナが、自分の腕を抱き眠っていたんだ。……ここまでくれば抱き枕にされていると言っていいだろう。
「……ふふ」
リュウキは、空いた方の手で彼女の頭を撫でた。
くすぐったそうにしながら、ふにゃりと顔を歪ませていたが、その行為が気持ち良いのか、直ぐに微笑む。この時、リュウキはあることに気がついた。
「……そういえば、レイナの寝顔は久しぶりに見た気がする……な」
頬に手を沿え、そう呟くリュウキ。
ここに来てからは殆ど毎日レイナが先に起きており、朝食の準備をしてくれている。時には彼女が起こしてくれてる事だって多々あるんだ。
「む……、なんだか悔しいな。いつも自分だけ見られているというのは」
リュウキは変な所に対抗意識持っちゃったみたいです。……今の今までは深く考えていなかったんだけれど。そして、リュウキは時間を確認する。
今現在の時刻はAM 8:02
普段のレイナであれば起きている時間帯だ、とリュウキは思うんだけれど……。
「……こんな日があっても、良い……よな」
レイナの寝顔を眺めながら呟いていた。
自分の一番大切なものは? と問われれば即答できるであろう。
それは、目の前の女性。かけがえの無い最愛の人だ。リュウキは、口元を何度も、もごもごと揺らすと……。ぎこちなさそうに、レイナの頬に顔を近づけた。
そしてゆっくりと……、レイナの頬に唇をそっと当てた。
“ちゅっ……”
それは一瞬の……、本当に刹那の時間だったけれど。とても不器用だけど、その光景はとても微笑ましく、朝日の光を浴びているその光景はとても心地良いオーラを孕んでいた。
「……///」
リュウキは顔を紅潮させる。
普段の自分であれば、こんな事出来ないだろうと思える。確かに、結婚はしているけれど、やはり恥かしいと言う思いが強いからだ。
「……大好き……だよ。レイナ。ずっと、ずっと 一緒に……」
この時、彼は普段の彼の口調に戻っていた。
この世界に来て、もう数年になるから あちらの世界での口調が逆に作っているものと勘違いしてしまいそうだ。
――……そして、更に数分後。
「ん………」
レイナは漸く意識が戻ってきたようだ。
自分は何をしていたんだっけ?と頭の中を廻りながら、レイナはゆっくりと目を開けた。見えているのは木製の天井。アンティークな回転体があり、空調を整えてくれている。
(……そんな事はどうでも良い!!)
この瞬間レイナの意識は完全に覚醒した。
「っっ!!」
急いで起きようとしたけれど。
「……おはよう。レイナ」
目を開け、横を向いた先には最愛の人の顔があったんだ。そして、後頭部に感じるのは枕の感触じゃない。温かくって、鼓動だって感じられるもの。
そう……腕枕の感触だった。
「りゅっ……リュウキ君……///」
一瞬、レイナはどうしてこういう場面になったのか解らなかった。でも、その事を聞くのも聞けない。
「ご、ごめんねっ! 寝坊……しちゃったのかなっ!? す、直ぐに起きるからねっ!」
レイナは頭を急いで起こそうとするけれど、額に リュウキの手が添えられた。
「……折角の休みなんだ。ゆっくりしよう」
ニコリと微笑みながら……そう言う。そんな顔さたら……、
「う……うん……///」
レイナは、かーーっと顔を赤くさせ、羽毛布団を顔半分にまでかけて表情を隠した。
「……今日の気象設定も悪くない。少なくとも、今日の設定は今月では随一だろうな」
窓のカーテン越しに差し込む光に手を当てながらリュウキはそう言う。レイナも窓の光を見た。手を翳せば、朗らかな温かみを感じることが出来る。
(あ……、私、リュウキ君の寝顔を見てて、寝ちゃったんだ)
レイナはこの時、理解できていた。あの時見蕩れてて、そして温もりを感じたくて……。
「~~~ッッ///」
何だか、レイナはこの時無償に恥かしくなってしまっていた。寝顔を楽しんでいた筈なんだけれど、いつの間にかリュウキを抱き枕にしちゃっていたんだから。
「……? どうかしたか?」
リュウキはそんなレイナにそう問いかける。……相変わらず、やっぱり疎い。
「やっ! やーー、何でもナイヨ?それよりっ!」
レイナは、誤魔化しながら両手をぽんっ!っと叩くと。
「今日は何処に遊びに行こうかっ!?」
にっこりと笑いながらそう言うレイナ。
「ん……そうだな」
リュウキは考えた。
いつもいつも言っている言葉『レイナが行きたい所なら何処でもいい。』……だけど、今日は少し言葉を変えた。
「……レイナと《一緒》なら何処でも良いよ。何処であろうと楽しいから」
笑顔でレイナにそう言うリュウキ。これは嘘偽りの無い言葉だ。行きたい所……だけじゃなく、一緒なら何処でも楽しい。彼女がいてくれてる事だけでも。
「ッ! ……もー りゅーきくんっ///」
レイナはだんだん彼のどストレートで計算の無い台詞に、顔を赤らめながらも慣れ始めていた。やっぱりそう言ってくれるのは凄く嬉しい。何度感謝を想ったか解らないほどだった。
こんな感じで、今日も一日スタートした。
まぁ、基本的にレイナとは行っていない場所は無い!っと言える程にまで各層を2人は闊歩していた。
闊歩……と言うよりはデートだろう。
アルゴに調べてもらった月例イベント等にも参加して……毎日を充実させていたんだ。
「そうだっ!」
レイナはある事を提案する。
「そう言えばさ? 昨日、時間いっぱいかけて、色んな所、層にも行ったけれど、この層の湖の周囲とか、行ってないよね? 遠目で見たけど歩道もあるしっ ここの湖は凄く綺麗な所だよ! 行ってみない?ぐる~っと湖畔を眺めながら散歩しようっ?」
「ん……、良いよ。今日は天気も良いし丁度良い」
リュウキも即座にOKを出す。その言葉にレイナは笑顔を見せると。
「うんっ! 美味しいお弁当用意しておくね~!」
ぐっと腕をまくりながらそう答えた。
「おっ~と!その前に朝食が先だね?ちょっと待っててね」
思い出したようにパタパタと早歩きでキッチンへと向かうレイナ。まるで スキップをしているのではないか、と思えるような足取りと楽しそうな雰囲気をみたリュウキはそれだけで一日が穏やかでいられると想っていた。
――……その後、朝食を済ませ2人で出かけた。
気候はリュウキの言うとおり素晴らしいもので歩いているだけでも気持ち良い。
「あはは……、リュウキ君たちとお昼寝した時もこんな陽気だったよね?」
レイナは両手を広げ、日光を身体に浴びながらそう聞いていた。日差しの温かさが全身を包み込んでくれる。とても気持ちよくレイナは感じていた。
「ん……。あの時と負けずと劣らないものだな」
リュウキも頷きながらそう答える。……ここが仮想空間だとは本当に思えない。
現実で……本当にデートをしているんだって思えるんだ。レイナは風を、太陽を感じながらくるりと身体を回転させ、リュウキの方を見た。その表情はほんのりと赤みを帯びている。
照れくさそうに手をもじもじさせていて……、そしてそれを見たリュウキは察したようだ。まだまだ鈍感君な彼だけど、徐々に解っていってる様だ。レイナの事……ならだけれど。
リュウキはレイナの傍まで行き。
「レイナ」
微笑むと右手を差し出した。『手を繋いで歩こう。そう、恋人がしているみたいに』と言う様に。
……厳密には結婚までしている2人だけれど。最前線ではこんな事、中々出来るものじゃない。
顔見知りも沢山いるし、何よりどうしても注目が集まってしまう。……レイナの為なら大丈夫と公言しているリュウキだけれど、流石にレイナ自身も恥かしいから配慮していたんだ。
だけど、ここは下層。
攻略組などは一切いなく、いたとしても数人。特別なクエストがあるわけでもないから、限りなく可能性は0だろう。そして、ここは絶景のポイントだけれど、ログハウスはこの層としては破格の値段。
おいそれと手が出せる値段ではないのだ。
だから……、人はいないだろうと。でも……。
「「あっ……!」」
「………」
「ッ……」
――……ある~日♪ 森の中~♪ ???さんに♪
……ばったりと出会ってしまった。
誰もいないだろうな~って想ってたけれど、よくよく考えたらホームは同じ地区にあるんだから そりゃ会うだろう。位置は湖畔を挟んだ反対側の森にあるログハウスだ。 徒歩で数分の距離なんだから。
とまあ、出会ってしまったのは誰なのかは察していると思うがキリトとアスナ。曲がり角でばったり!的な感じで、沿道の曲がり角で出会った。……キリトはアスナを肩車してて、アスナは木の実を取ったり、景色を楽しんだり……。
そして、視線が交わる。
「わぁぁっ!! れ、レイッ!!」
アスナは慌ててキリトの肩から降りた!器用に後方へとくるりと一回転させながら着地をする。
慌てていても、行動の1つ1つが優雅なのは流石だろう。
「……あはははっ!」
そんなアスナを見て思わず笑ってしまうレイナ。……見て解るんだ。
とても幸せだと言う事が。
「誰もいない事なかったな……。よく考えたら」
キリトは思わず苦笑いしながら頭を掻く。同じ層にプレイヤーホームを購入しているんだし。アスナに言われ、肩車したんだけれど。やっぱり恥かしいようだ。
「む……。そのようだ」
リュウキとレイナが手を繋いでいる所。よくよく考えたらあまり見た事ない。だからこそ、リュウキも恥かしいようだ。
女性陣は楽しそうに笑っているが(アスナは若干照れている。)
男性陣はちょ~~っと苦笑いが止まらなかった。
気まずそうにしていた2人だけど、とりあえず今日は別れた。今はデートの最中。ダブルデートも良いけれど……新婚さんになったばかりなんだから。
~第48層 リンダース・リズベット武具店~
今日も天気は快晴設定。
お日様は頭上高くまで昇って……この第48層も明るく照らしているんだけれど……。リズベット武具店の店主こと、リズベットの表情は一向に晴れない。だら~っとカウンターに突っ伏していた。
何やら、メッセージウィンドウをチラチラと見ながら……。
「……レイ達は理解できるわよ~。ええそりゃ勿論!あたしも一枚噛んでるんだし。……でも、まさか殆ど一緒に……」
指先で、メッセージ受信フォルダをクリック。その差出人はアスナだ。
『この度、キリト君と結婚する事になったの。リズ、これまで色々と面倒を見てくれてありがとう。私の相談も乗ってくれて……ありがとう。レイも私もリズの事、大好きだから。リズの事、一生の親友だって思ってるからねー』
普段なら、嬉しい事、極まれりだ。アスナの事もレイナの事もリズ自身も大好きと言っていいのだから。……決して百合的な意味じゃないよ??
でも……問題はある。それは、ある一点において。
「はぁ……け……けっこんて……血痕の間違い……なわけ無いわよね……、おわたおわた……」
リズは、キリトに恋をしたのだ。
あの第55層・グランザムの西の山に生息しているドラゴンから、クリスタライト・インゴットを取りにいった時に。
人の温かさを知る事が出来た。それは、キリトのおかげで。
……この世界に来てから心の一部に居座り続けていた渇きの正体、それが心から温めてくれる人の存在だった。
まだ暫くは熱が残ってるから、覚ました後、改めて絶対に戻ったら……現実に戻ったら第二ラウンドをすると決めていたんだけれど……。
「ここまでされちゃったら……ねぇ? あ゛ーけしからん!! 未成年でしょうに! 次は既成事実でも作ろうって言うのかしらっ!!」
うがーーっと、両手を振り上げて騒いでしまうリズ。今この瞬間、店に誰も来ていなかったのは幸運だろう。誰かがいたら、絶対にぎょっ!とするに違いないから。
「うう~ん……、今日はもう店仕舞いしようかなぁ……、ちょっとショックが……」
更に盛大にため息を吐いた時だ。店の扉をノックする音が聞こえてきた。扉から音を透過するのは、ノックと叫び声、そして戦闘での効果音のみ。
その内のノックを認識した様で、店の中に確実に聞こえる様に響いてきたのだ。これで、聞き逃す事は有り得ない。
「はぁ……、ってダメダメ、接客接客!」
リズは、両手で両頬をぱちんっと叩き気合を入れ直した。いつもなら、普通に入ってくる筈なのに、ノックをすると言う事は新顔さんの可能性もある。接客業は初対面が重要だと言う事をリズはよく知っているのだ。
だから、鏡の前で しょぼくれてしまった顔を必死に戻し、笑顔をとりあえず作り……。
「っよし……」
問題ない事を確認。そして、扉を開けて。
「いらっしゃーい! リズベット武具店……へ?」
扉を開けたその先にいたのは2人組。
栗色のショートヘアーの髪の少女と、もう1人は鮮やかな銀髪の少年。……その容姿から考えたら誰なのかは一目瞭然だ。
訪れたのはレイナとリュウキ。
ただ、いつもと違うのが 装備しているモノは、攻略の類のものではないと言う事だ。鎧……は元々リュウキはつけないが、レイナは血盟騎士団のユニフォームを普段から来ているのに、今は部屋着、普段着と言った方が良い。
随分とラフな格好だったのだ。
「リズさん、こんにちはっ!」
「暫く、だったなリズ。こんにちは」
其々挨拶を交わす。
リュウキに関しては、以前にまた使わせてくれ、と言われているが、まだレイナと一緒にいる時間を優先させている様だから、あのエギルの店で会って以来、まだ会っていなかったし、店も使ってないのだ。
「はいはい、こんにちは。ってどーしたの?2人して。確かあんた達って今はどっかに隠居生活してるんじゃなかったっけ?」
にかっと笑いながらそう言うリズ。
驚いたのは事実だけど、2人が来てくれた事は嬉しく感じている自分もいた。しょーじき、嫉妬心はあったけど……、レイナの笑顔を見たらそれも吹き飛びそうになるんだ。前の時の様な顔はもう微塵もないから。
「隠居って……、まぁ 副団長補佐であるレイナがギルドを離れてるって言う意味じゃ、それもそうだな?」
「う~ん……確かに静かに暮らしたいって思ってるけど、そこまでゆっくりも……」
レイナはそこまでゆっくり出来ないと言おうとしたが……口をつぐんだ。今、この瞬間を楽しむ、精一杯幸せを噛みしめると思ってるのに、その言葉、戻ると言う言葉はあまり使いたくなかったのだ。
「あーはいはい。そこまで深く考えなくたっていいわよ? 相変わらずだね。リュウキもレイも。ほらほら、入った入った」
リズはやれやれと、していたが、とりあえず扉を全開にして、2人を迎え入れた。
そして、2人を入れたのを確認すると、閉店を意味する『CLOSED』の立掛けを扉の前に置く。職人プレイヤー、店を持つ職人アイテムで合った為以前リズは購入したのだ。これにより、リズは店の時間帯を好きに変えられるのだ。
……ただ、信用問題にもなるから、妄りに使ったりは出来ないけれど。もしも、客が来たら、メッセージを送るよう促す文も添えている。
本当によくできたゲームだって改めて思っていた。
「じゃあ、改めて お邪魔しますっ!」
「ん。失礼するよ」
「そんな畏まらなくたって良いわよ。だ~って レイやアスナなんて、勝手知ったる他人の工房状態だったじゃない?」
「あ~、それ言われちゃったら グゥの音も出ないかな~。癖になってたからね。お姉ちゃんと私」
リズの言葉に、思わずレイナは頭をグーでこつぎながら舌をペロリと出していた。
本当に仕草の一つ一つが愛らしい。
美人の分類に入る癖に、幼さも残っているから、更に強攻撃だ。落ない男なんていないって思えた。……それに、この男だって最終的には落ちたんだから。
「??」
リズの視線に気になったリュウキだったが、直ぐにリズはニカッとレイナを見て笑った為、何も言わなかった。
「えっとね、突然押しかけてごめんなさい、リズさん」
「な~に言ってんのって。二人ならいつだって大歓迎よ?んで、今日はどうしたの?武具のメンテ……っぽい格好じゃないわよね?」
リズは、2人の全身を満遍なく確認しながらそう言う。この2人がつけている普段着……、所謂 某有名RPGで言う た○びとの服の様なもので、防御等のステータスは殆ど0に等しい。ただ、敏捷性だけは上昇するけど……それは軽量化しただけでだ。でも、この装備でも通常生活をするだけならば、問題ないのだ。色もお好みでカスタマイズ出来るから、おしゃれアイテムにも早変わりする。
「んっとね……、今日はリズさんにお礼を言いに来たんだ」
「ん? 礼?」
リズはきょとんとした。
一瞬『レイが礼を?』とか言いそうになったけど……、あのドラゴンが住む55層の氷雪地帯、西の山の風よりも寒~~い風が吹きすさびそうになった為、直前で何とか口を噤めた。オヤジギャグとも言われても嫌だし。
とりあえず、ふざけた事を考えるのを止めて、レイナの方を見るリズ。
「リズさんのおかげで私は勇気が持てたんだ。……あの時、リズさんが抱きしめてくれたおかげで、私は立ち直る事ができた。……本当にリズさんにはお世話になりっぱなしだから、一言、直接改めてお礼を言いたくて」
レイナは、真面目にそう言っていた。……そんなセリフを真顔で言われちゃったから、リズの方が照れてしまう。
「オレも同じだよリズ。レイナと同じ気持ち。……あの時、リズがオレに話してくれたから、オレの事を聞いてくれたから、オレは向き合う事が出来た。……立ち直る事が出来たんだ。それに、工房の件だってある。……感謝してるよ」
リュウキと言い、このコと言い……いろんな意味で似た者だと思えてならないリズだった。本当に真顔で言っちゃってくれるんだから、臆面もなく。
「……あはは! なーに言ってんのよっ! 私達、友達じゃない! そんなのとーぜんとーぜんだって。それにね、あんた達が元気が無かったら私も、皆も元気が無くなっちゃうんだよ? それに、レイ達のおかげで、着々と攻略が進んでるんだから。お互い様だって」
リズはそう言って笑いかけた。
リュウキもレイナも、共に笑い……そして、3人は握手を交わしていた。小っ恥ずかしい!っとも思えたけれど、それでも良い。この2人と出会えた事が自分にとっての何よりの宝だから。
あのくらいの事なら 随分と安いモノだとリズは思いながら笑っていた。
更に聞く所によると……お礼と一緒に、この度の結婚報告に直接来たとの事だった。
レイナはメッセージは送っているけれど、やっぱり直接言いたかったのだ。何度でも言うけれど、あの時……リズには本当に世話になったから。立ち直れそうになく、涙を流してしまった自分を包み込んでくれた、そんな優しい友達。だからこそ、感謝の言葉と無事、想いが伝わって結婚出来た事を報告したかったのだ。
「じゃ、今日はあんた達が主役でいいんじゃない?ちゃ~んとおもてなし、してあげるからね~。ちょっと座ってて。お茶入れるから」
「あ、そんな、そこまでは……」
「良いって良いって。私がしたいんだからさ?リュウキにも沢山、たくさ~~ん貰ってるし?」
ニヤリと笑ってそう言うリズ。明らかにからかっている顔だ。レイナもそれはいい加減わかってきてるから、頬を膨らませる。
「ぶーー、リズさん……また楽しんでる!」
「あはは!ごめんごめん。リュウキも座ってて。前に入れたげたヤツ、もう一度ご馳走してあげる」
「……ああ、ありがとう、リズ」
2人のやり取りを見てて、そしてリズにもそう言われて。リュウキの表情は綻び、柔らかくなる。レイナはいつも見ている顔だからなんともないけど、リズはそうはいかない。あの時以来見ていないから直接そんなの見たら、また赤くなってしまう。からかうのではなくて、素で。流石にそれは罰が悪い為、リズは顔を逸らしながら。
「ほいほーい。さぁ、持ってくるから待ってて」
「ありがとー、リズさんっ!」
そう言うと、リズは店奥に備え付けられている簡易キッチンへと向かっていった。レイナの事はまるで、自分の妹の様で、そして友達の様な存在。
だけど……。
「う~、やっぱし、羨まし……、リアルであれ、見せ付けられたら……流石に来るものがあるわ……」
リズは、チラリとレイナとリュウキの方を見た。あの時が嘘のように、2人は笑顔で何かを話している。と言うか、イチャイチャしている様だ。
『むー……リューキ君っ~本当に何も無かったのぉ?』
『無いって。……レイナだけ、本当だ』
リュウキはレイナの頭を撫でながらそう言う。
『も、もうっ くすぐったいよっ!リュウキ君っ』
そんな会話が臆面もなく聞こえてくるんだ。失恋……じゃないけど、アスナ達が結婚報告をしてきて、多大なるダメージを負っていたリズには本当に来るものがあるのだ。
だから、リズは思わず、壁ドン!!をしてしまった。
……してもらう事が理想であり、する方は(それも1人で……)ちょっと……とも思ったけれど、思わずイチャラブ会話が聞こえてきたから。
「だ、ダメだって。リズベット。だって、あの2人だよ? 本当に可愛い妹や弟の様なものじゃない。それに今日はあたしのお礼に来てくれたんだし、お返しにもてなさないと! ちゃんと祝わないと! ……う~でも、だけど……どーしても!! ああ」
頭の中で盛大に騒ぐ。その単語は『腹が立つ!』『羨ましいなぁ!ちくしょー!』と言う女子力皆無な発言だった。
カップに注ぎながら……悶絶しかけていた為、マグカップに入れすぎてしまって……。
「うあちゃああっっ!!!」
自分の手に盛大に熱熱の液体を思い切りかけてしまったのだ。触覚エンジンは今日も良好。自分の触覚で確認したくは無かったけど。
「……大丈夫か? リズ。凄い音がしたけど、何かあったのか?」
ひょいと、キッチンを覗き込むリュウキ。
それを見たリズは、火傷をした手を隠しながら、力コブを作る仕草をして。
「あー、だいじょーぶだいじょーぶ!そだ、他にもご馳走なんか、振舞っちゃうからねー」
その表情は何処か、自棄になってる様な気もするけど……、一先ず大丈夫というのだから置いておこう。リュウキがキッチンから顔を引っ込めた後、リズはアイテムを確認していた。
そして、リズは思わず『ご馳走も作る』と言ってしまった事を後悔してしまう事になる。
「……とは言ってみたけどねぇ……」
料理ウインドウを呼び出して……確認するけど、どれもかしこも、全部の料理項目に同じような数値が並んでいるんだ。
即ち、成功率の事。ウインドウに表示されているのは……。
――フェルスバード・ソテー 成功率20%
――ファジー・パスタ 成功率20%
――メリアン・ケーキ 成功率10%
………etc
それを見たリズは思わず涙を流す。勿論デフォルメ、ギャグっぽい涙である。
「うぅ……自分の料理スキルの無さに涙が止まらないわ。いつもご馳走なんか作らないし……、鍛冶スキルは文句なしのMAXなのに……」
正に生粋の鍛冶職人と言った所だろうか。……鍛冶職は花嫁修業にはならないって思うし、女子力向上にも繋がらないわよね……と考えていた、そんな時だ
「リズさーん。私も手伝うよ? 料理だったらさ!」
「え? いいよいいよ、レイは主役みたいなもんじゃん? ゆっくりしてて」
「大丈夫大丈夫!」
レイナは決して悪気があるわけではない。
そもそも、そんな事をするよーなコじゃないのは周知の事実であるから。でも、この時の笑顔はリズにとってどう見えたのだろうか……。
「私は、リュウキ君に美味しい料理を教えてあげたくて、作ってあげたくて、マスターしたんだからね♪ ほら、その他に、調味料だってばっちりだよっ!」
(……ちっくしょーーーー!!!!!!)
リズは、レイナにバレないよーに、再びデフォルメ泣き。チラリと見たレイナの料理ウインドウ。
成功率は勿論……――100%だ。
使う食材アイテムもレア度が高いモノばかり。……食材を取ってくるスペシャリストでもいるのか?と思えたが……リュウキだったら納得だ。
「はぁ、でもこんな手料理をなんて、妬けるわね。羨ましいぞ? コノヤロー」
あくまでオブラードに包みながら、からかうようにしながら、そう言うリズ。でも、レイナは首を振った。
「んーん。今日はリズさんにもって思ったの。リズさんがご馳走してくれるって言った時に思いついたんだけどね」
「え?」
リズはきょとんとした。そんなリズにレイナは微笑みかける。
「料理ってね、本当に相手を想いながら作ると気持ちが篭ってるみたいに、美味しくなるんだ。……この世界でだって同じだった。だから、私、リズさんに感謝してる気持ちをいっぱい料理に込めてご馳走したい。……大切なお友達だから。先輩だけどね?」
「れ、レイ……。……って、それより止めてって。先輩はさ? 言わないでよ? 私達、友達でしょ!」
「あははっ! そうだったね? よしっ! はい、出来上がりっ!」
「ははは! って早っ!? 料理でも閃光速度? 双・閃光の一角っ??」
あっという間に、出来上がった料理の数々を見せてリズは思わず舌を巻いた。気づいたら出来上がっていたのだから。
「……料理は人を笑顔にするから。今日はリズさんとリュウキくんとだね?またお姉ちゃん達や、他の友達とも一緒に皆で食べたいかな?」
「レイ……ふふ、そうだね?現実世界でもこうやって食べたいな。ほら、確かエギルって現実でも店を経営してるって言うし、OFFしようよ。そこ貸し切ってさ?」
「あはっ! 良いね? それっ♪」
笑顔の絶えることのないクッキング教室となった。
最終的にはリズが作ったのは10%の成功率を執念で成功させて作った食後の後のデザートのケーキ。
それだけだったけど、良い。レイナも笑顔で、リュウキも笑顔になったから。
……友達と言うより、親友だ。
歳が少し違っても、間違いなく……レイナは、大切な親友。リュウキも勿論。
今日は本当に良い日だ。
今朝沈んでいたのが嘘だと思える程に……。
「ふぅ……美味しかったよ、リズ。ありがとう。ご馳走様」
「あーうん。お粗末さま~(殆どレイが作ったんだけど……)……あ」
リズはそう思った時、リュウキが美味しそうに頬張っているケーキを見て表情を綻ばせた。あれは間違いなく自分が作ったものだから……。
「さてっ、今日はさ? 折角だから記念撮影しない? レイが見事にリュウキを懐柔!! その幸せのお零れを受け取れた、ちょっぴり幸福になったリズちゃんとの写真っ!」
「あ、あうっ~~/// も、もぅリズさん!?」
「あはは、じょーだんじょーだん。ほら、リュウキも来て。まさか写真やだ! なんて言わないよね?」
「ん。言わないよ。ただ……」
「ただ?」
次のリュウキの言葉に、リズはちょっと戸惑いを隠せなかった
「写真……撮った事無いんだ。これまでで」
「……へ?」
それを聞いてだった。
これまで……と言う事は、現実世界でも?
学校とかで顔写真だって取ると思うし、それすらも撮った事が無いのか?と色々と頭によぎったが……、直ぐに頭を振った。
リュウキの経歴は少しだが知っている。
彼はプログラマーと言う話を訊いた事があるし、事情があって、他者との接触を絶ってきていたんだ。もう、この歳で働いているし、写真だって撮る必要がこれまでに無かったんだろう。信頼してる人と一緒とは言っても、一般家庭の様にはいかなかったようだ。
「そっか! なら、それも記念にしちゃおう! リュウキ、初撮影記念にさ?ほら記録結晶もあるから!」
「あはは、そうだね? これからも沢山撮ろうっ! リュウキくんっ」
レイナもその事は知らなかったんだ。今日初めて知った。……これからも、思い出を沢山作っていこうと心に決めた瞬間でもあったんだ。いろんな所で、記念撮影をしようと。
「ほらー撮るわよー? セルフタイマー機能があるから、あたしも一緒に取れるのよ、リュウキ」
「あー……なるほど、聞く前に説明ありがとう」
「ん。聞かれるの、判ってたし、全然OK!」
「さ、リュウキくんっ寄って寄って!」
「……ん」
レイナは、リュウキをひっぱる。そして、リズはタイマーを仕掛けて、素早くレイナ達に駆け寄った。レイナの横に立って。
「「はい、チーズ!」」
「ちー……ず?」
撮影のタイミングがよく判ってなかったリュウキは、勿論テイク1で成功するはずもなかった。チーズの意味から、タイミングまで全てレクチャーするレイナとリズ。それを真剣に聞くリュウキ。
そして、テイク5にて、無事成功する。
――……それは、何処か可笑しくて……笑顔が絶える事はなかった1日だった。
後日。
アスナ達もレイナ達と同じように、少し遅れてリズの所へと挨拶に来ていた。レイナとの事があったし……心穏やかにもてなせるだろう! とタカをくくっていたリズだったけど……、
流石に本命相手にはキツかったようで、再び火傷、や壁ドン、じゃなく、壁パンをしてしまったりして、色々とトラブルもあり、もうちょっとで、折損をしてしまう所だったとか。
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