零から始める恋の方法
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マネージャー
数日後。
利英さんは結局ピアノ同好会に所属したようだ。
私はというと・・・。
「はい、上元先輩!」
「おう、ありがとうな、持上」
「頑張ってくださいね!」
結局サッカー部のマネージャーをやっている。
なんだかんだで忙しいし大変だけど、結構やりがいがある。
それに・・・。
「持上さん、ちょっと手伝ってほしいんだけど」
「あ、はーい!」
時刻はもう19時30分。
帰宅部をしていたころでは考えられない時間帯だ。
因みに家から駅までは近いのだが、駅から学校までは結構な距離がある。
・・・なので、夜に一人で帰るのは何だか気が引ける。
上本さんに頼んでもいいけど・・・方角が違ったらダメだし、なにより『好きです』って言ってるようなものだ。
「あ、利英さん!」
「んー・・・雪菜ちゃーん・・・」
なんだか元気がない。
というか、疲れ果てているような感じだ。
「ピアノ同好会ってこんなに遅くまでやっているんですか?」
「うん・・・なんとか結果を出して部活動に昇格させないといけないからねー・・・」
「大変なんですね・・・」
「まーねー・・・。指がつりそうだよ・・・」
と、指をバキバキならす利英さん。
・・・およそ女の子のする行動とは思えない。
「あー・・・疲れたー・・・。雪菜ちゃんおんぶー」
「鞄ありますので」
「雪菜ちゃんケチー」
流石に人一人背負うのはなあ・・・。
あと、なんか恥ずかしい。
「そういえば、明日は部活ないんだっけ?」
「ええ・・・確か明日は強制下校らしいので」
「Karaokeでもいく?」
なんで発音いいんだろう・・・。
「いいですよ。明日は予定も開いていますので」
「やったー!じゃあ、また明日ー!」
え?別々なの?
「一緒に帰らないんですか?」
「え?そういう流れ?」
「はい。さっきまでそうだとばかり」
すると、ニヤニヤと笑ってくる利英さん。
・・・これはあれだ。
なんか、色恋沙汰をかぎつけた女子特有のあの笑みだ。
ぶっちゃけ、こういうの・・・苦手だ。
「そっかー・・・。雪ちゃんはさびしがり屋さんかー・・・」
雪ちゃんって・・・。
またランクアップしてるし。
「え・・・いや・・・そういうわけでは・・・」
「じゃあどういうわけ?」
「いえ・・・その・・・危ないじゃないですか・・・。夜道に一人とか・・・そうです!危険です!二人のほうが安全です!」
「二人同時に襲われるかもよ?女の子二人なんていまどき余裕だよ」
どう余裕なのかはわからないが、一人のときよりははるかに安全なはず。
「それに、二人同時ってことに興奮する人だっているんだよ?」
なにをどうしたらそうなるのかわからないけど、とりあえず興奮していると危ないのは確かだ。
興奮状態にある人は何をしでかすかわからない。
とりあえず、冷静にさせてから対応させるのが一番だろう。
「え、と・・・何を言っているのかよくわかりませんけど、一緒に帰りませんか?」
「雪ちゃん・・・三人でするのに興味があったんだね・・・」
三人でする?
えーと・・・興奮状態の危ない人と私たちですることっていったら・・・。
バトルロワイヤルか。
「確かに二対一のほうが有利だしね」
「ほう・・・雪ちゃんは攻め側か・・・。やるねえ・・・」
「?だって、攻めに回らないとやられちゃうじゃないですか」
「え?」
「え?」
そのあとはずっとそんな感じで、お互い話していることがよくかみ合ってなかった。
翌朝。
相変わらずかったるい授業が終わり、昼ごはん・・・もとい昼休みになった。
放課後の次に楽しみなのがこの時間で、毎日のお弁当を考えるのも何気に一日の楽しみの一つだったりもする。
「んー・・・やっぱりから揚げとノリはあわないよー・・・」
相変わらず利英さんはノリしか食べてないけど。
・・・今度お弁当作ってきてあげようかな。
海苔弁当とかもあるぐらいだし、ノリを主軸として展開すればさすがに利英さんの舌もワンキルだろう。
「今度お弁当とか作ってきましょうか?」
「うーん・・・でもノリで足りてるんだよねー」
そう言いながらバリバリとノリを貪る利英さん。
・・・海苔の欠片落ちてますけど。
「海苔弁当とかそういうものなら利英さんも・・・」
「そこまでいうならいいけど・・・。あんまり無茶しないでよ?」
「はい!」
と、いうわけで一人分創るお弁当が増えた。
うまく利英さんの好みに合っているといいな。
放課後。
今日は古文の授業で音読をさせられたので、かなり不機嫌だ。
あの日本語なのに日本語じゃない日本語は理解不能だ。
正直今言った言葉も理解不能だし、とにかく古文にかかわることすべてが意味不明で理解不能な思考のブラックホール空間だ。
さて、しかしマネージャーたるもの常に部員の状態を把握していなくてはならない。
わが校のサッカー部の問題点は、ずばりメインアタッカーの不足だ。
パス回しで何とかまわせているのが現状だが、火力要因はどのゲームでも必要だ。
いかに罠を仕掛けようとも羽箒だったり薔薇とかで吹き飛ばされたりするのが主流な今日。
全選手の育成も大事だが、切り札を作るのもやはり大事なことだ。
「先輩、切り札を作りましょう」
「え?フォーメーションとかそういうのならもう・・・」
「いえ、メインアタッカーの話です」
選手全体としてのバランスは悪くはない。
悪くはないが、それで勝てるかというと微妙な話。
過去の成績も微妙なもので、このままではいつまでたっても微妙な感じで終わるだろう。
「そうね・・・。それなら一応上本君がそれなんだけど・・・」
確かに上本さんに優先的にパスが回っているのは分かる。
しかし、それでも決定打に欠ける。
正直、ほかのひとにパスを回しても同じだ。
「確かに上本さんはドリブルでの突破力に優れています。しかし、そのさきはまだまだ微妙です」
「な・・・なかなか厳しいことを言うのね・・・。そうなると、上元君がゴールぎりぎりまでボールを運んで、ほかの誰かにパスってこと?」
「それか、前後にパスを回していくのもありですね」
「ぜ・・・前後!?さすがに無理が・・・」
「でも、格好いいですよ」
「恰好だけでサッカーはできないでしょ・・・」
威圧的な意味で使えるのかと思ったのに・・・。
罠の威圧で動けなくなるなんていうのは、よくある話だというのに。
「まあ、上元君たち二年生は主力だからね。できれば、三年生にまかせっきりにしたくないのよね」
確かに長い目で見れば、二年生を重点的に育てることも大事だが・・・。
「先ずは、基本の戦略とは位置を総入れ替えしてみましょう」
と、いうわけで終わったら19時。
部員の練習ももうそろそろ終わり、クールダウンの時間に各々入っている。
中には、マッサージをしてもらっている人もいる。
じゅるり・・・。
「上元先輩!」
「ん?持上か。なんかようか?」
「ドリンクです!」
「お、サンキュー」
私があげたドリンク飲んでくれてる・・・。
ちょっと感激・・・。
しかも、感謝もされちゃったし・・・もう大歓喜だね。
「マッサージでもしますか?」
「おお、悪いな。頼むよ」
ちょっと調子に乗っていってみたが、割と普通にとおった。
ふふふ・・・私のテクニックで骨抜きにしてやるんだから!
「・・・なんで肩もみなんだ?」
「え?疲れてるのなら肩もみでは?」
「・・・足とか頼む」
「それならそうといってくださいよー」
まったく・・・。
私は羽が生えた馬でも左目に義眼埋め込んだ人でもないんだから人の心なんて読めませんからね?
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