掛かれに退き
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第二章
「よいな、これよりな」
「戦の用意をせよ」
「しかし水がありませぬ」
「それ自体が」
肝心のそれがとだ、兵達は二人の返事に戸惑いつつ答えた。
「これでは」
「どうしようもありませぬ」
「案ずるな、水はある」
それはというのだ。
「その瓶の三つがな」
「あるではないか」
「しかしです」
「それでもです」
兵達は確かな声で言う二人に戸惑いつつ返した。
「その三つの瓶の水がなくなると」
「もう水はありませぬ」
「戦にも」
「とても」
「その三つで充分じゃ」
柴田は兵達に言った。
「よいな」
「その三つで、ですか」
「充分なのですか」
「そう仰るのですか」
「そうじゃ、御主達が案ずることはない」
柴田はこう言ってだ、そしてだった。
汗を手拭いで拭う、髭に付いている汗もだ。佐久間も同じ様にしてだった。そうしてから兵達に彼から問うた。
「それでじゃが」
「はい」
「今度は一体」
「そろそろ六角からの使者が来るな」
このことを問うたのだった。
「そうじゃな」
「はい、どうやら」
「その様ですな」
「ならよい、ではな」
佐久間はそう聞いてだ、そしてだった。
柴田に顔を向けてだ、こう彼に言った。
「ではよいな」
「うむ、その使者に見せてやろうぞ」
微笑みだ、柴田も応えた。
「そうしようぞ」
「あえてな」
「ではな」
「皆の者、水の用意じゃ」
二人はここで城の兵達全てに告げた。
「水を飲め」
「これまで我慢していた分たらふく飲め」
「よいな、遠慮なくな」
「どんどん飲むのじゃ」
「六角の者の前でじゃ」
「たらふく飲むのじゃ」
こう告げてだった、二人は六角の使者を迎える用意もした。そしてだった。
使者はだ、城に入り水を浴びる様にして飲む織田の兵達を見た、そのうえで彼は伴の兵に問うたのだった。
「この城は水がなかったのではないのか」
「そう聞いていましたが」
「それがな」
「はい、こうしてです」
「誰もがたらふく飲んでおるぞ」
「浴びる様に」
兵も驚きを隠せない顔であった。
「どの兵達も」
「わからん、これだけ水があれば」
「はい、渇きを待って攻めることも」
「出来ぬ、囲んで渇き攻めをしてもな」
「意味がありませぬな」
「そうじゃな、それではこれからな」
「はい、守将の柴田勝家と佐久間信盛に会いましょう」
こうしてだった、六角家の使者は柴田、佐久間と会った。その二人もだった。
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