掛かれに退き
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第一章
掛かれに退き
一度は破った、だが。
織田家が朝倉家が治める越前を攻めるその時に後ろの浅井家に背かれ命からがら退いてだ、上洛の時に伊賀まで退いていた六角氏がだ。
また息を吹き返してだ、織田家に再び向かってきたのだ。信長は岐阜においてその動きを聞いて難しい顔で言った。
「当然のことじゃな」
「六角がまた向かって来ることは」
「そうじゃ、それがわかっているからな」
だからこそというのだ。
「近江の南に兵を置いておいたのだ」
「然るべき方々も」
「その通りじゃ、あの二人も置いたのじゃ」
ここで信長が言う二人はというと。
「権六と牛助をな」
「柴田殿と佐久間殿をですな」
「そうじゃ」
柴田勝家と佐久間信盛だ、織田家においてその戦の強さで知られる重臣達だ。
「あの二人も置いたのじゃ」
「六角氏に備えて」
「今近江にある兵は少ないがな」
「それでもですか」
「あの二人ならやってくれる」
信長は今度は確かな顔で言った、今己の前にいる林通勝に。
「案ずることはない、そして新五郎よ」
「はい」
「御主は都に行きな」
林にはこう言うのだった。
「そしてじゃ」
「公方様をですか」
「よく見てくれるか、どうもな」
「近頃の公方様はですな」
「あれこれとあちこちに文を送られておる」
「そしてですな」
「当家によからぬことをされておる」
このことを察しているからだった。
「だからな」
「はい、その公方様に対して」
「目付を頼む」
「して朝廷の方も」
「帝と公卿の方々もお護りせよ」
「わかりました」
林にこう命じるのだった、そしてだった。
信長は六角氏のことは柴田と佐久間に任せることにした、二人は実際に攻め寄せて来た六角氏と対峙してだった。
三上山と野洲川を近くに見る長光寺城に入った、だがこの時はあまりにも暑く。
城の水も僅かだった、しかもだった。
「六角の兵はかなりの数です」
「我等よりもかなり多いです」
「そうか、敵は多いか」
「そうなのじゃな」
柴田と佐久間は兵達から報告を聞いて静かに頷いた。
「そしてか」
「その数で攻めて来るのじゃな」
「はい、この城に」
「野洲川の向こうから」
兵達は二人にまた答えた。
「対する我等は兵は少なく」
「しかもこの暑さで尚且つ」
「水も」
兵達は水のことも話した。
「瓶に三つだけです」
「それだけしか残っていません」
「この状況では」
「最早」
「退かぬぞ」
「それはせぬぞ」
二人は兵達にだ、すぐに答えた。
「戦いそしてじゃ」
「勝つぞ」
こう言うのだった、兵達に。
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