炎の中の笑み
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第一章
炎の中の笑み
今東京は恐ろしい悪夢の中にあった。
まただ、夜の繁華街の中で惨たらしく殺されている美女が横たわっていた。
「酷いな」
「ああ、本当にな」
検死官達も顔を顰めさせてだ、血の海の中の骸を見て言った。
「首が千切れかかってるぞ」
「えらく鋭い刃物で切られてるな」
「左目はえぐられていて」
「顔の右半分は切り刻まれている」
「腹は縦に切られ」
「内蔵もな」
外に引きずり出されていた、血の海の中に内蔵の液も溢れ出ていた。
「食道やら胃は切り刻まれ」
「手足までな」
「相変わらずな」
「酷い殺し方するな」
「殺人鬼だな」
「間違いなくな」
ここでだ、彼等は殺人鬼という言葉からこの謎の人物の名前を出した。
「切り裂きジャックみたいだな」
「殺すのは女ばかりだしな」
「しかも風俗嬢な」
切り裂きジャックは娼婦だが、だ。
「似てるな」
「殺し方もな」
「刃物使ってるしな」
「連続猟奇殺人事件か」
「そこもそっくりだな」
こう話すのだった、そして実際にだった。
ネットやマスコミでもだ、東京の切り裂きジャッキと言われる様になっていた。言うまでもなく容疑者が探された。
それでだ、二人の人物が東京に呼ばれた。
京都から二人の探偵が呼ばれた、茶色がかった髪を中央で分けた涼しげでかつ知的な顔立ちのスーツとトレンチコートの青年と。
ジャケットにラフなズボンという格好の黒髪を短く刈った勇ましい顔立ちの青年だ、その二人が警視庁に来て事件の総責任者の高篠良警視正に名乗った。
「役清明です」
「本郷忠っていうんだ」
二人は自分の名前を名乗った。
「宜しくお願いします」
「まあ仲良くやろうな」
「こちらこそです」
高篠は二人に礼儀正しく返した。
「宜しくお願いします」
「はい、お話は聞きました」
役は早速だ、高篠に仕事の話をした。三人は今警視庁の応接室で向かい合っている。高篠の前に二人が座っている。
コーヒーも出ている、役はそのコーヒーを飲みつつ言った。
「京都でも噂になっていますし」
「全国的、いえ世界的にですね」
「東京の切り裂きジャックですね」
「本当にそうした感じです」
高篠は困った顔で話した。
「風俗嬢が何人もです」
「夜にですね」
「一人になったところで、です」
まさに一瞬で、というのだ。
「鋭利な刃物で切り刻まれています」
「切り裂きジャックそのままに」
「真似ているのではという説があります」
その切り裂きジャックをというのだ。
「それもかなりです」
「支配的ですね」
「警視庁の中でも」
「そうですか」
「しかしです」
ここでだ、高篠は二人に言った。
「問題はです」
「そこじゃないよな、やっぱり」
三十代後半でだ、髪の毛をオールバックにしている面長の高篠の顔を見つつだ。本郷がその口を開いた。
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