ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第87話 其々の色
そして、暫く4人で笑った後。
「そういえば、キリト君、リュウキ君。君達はギルドに入る気は無いの?」
アスナから、それを切り出した。リュウキ自身は殆どレイナと一緒にいるから、もうソロじゃないが……、キリトは違うんだ。
「え……?」
「………」
そのアスナの問いに2人は笑みを消した。
「β出身者が集団に馴染まないのは解ってる。でもね……」
アスナの表情が更に真剣味を帯びた。
「……70層を越えたあたりから、モンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきてるような気がするんだ」
アスナのその言葉。それはキリトは身にしみている事だ。以前にリュウキが言った事でもあるのだ。CPUの戦術が読みにくくなっている。リュウキが言う視る事も、度々変わったといっているから。それは、当初からの設計なのかそれともシステム自体の学習の成果なのか。後者だと今後もドンドン厄介な事になりそうだ。
「……アスナの考え、それは間違いない」
リュウキも頷いた。
「やっぱり……」
レイナはリュウキの言う言葉、凄く信頼しているから、姉とリュウキの言葉で更に信憑性を増したようだ。
「ほらっ、だから、ソロだと想定外の事態に対処できない事があるわ。いつでも緊急脱出できるわけじゃないのよ。パーティを組んでいれば安全性が随分違うって思う」
それは、キリトの事を想っての事だ。キリトの実力は知っているけれど……それでも。
「……安全マージンは十分に取ってるよ。忠告は有難く受け止めておくけど、ギルドはちょっとな……。それに……」
キリトはよせばいいのに強がって余計な事を言うのだった。そして、それが後悔する事になる……。
「パーティメンバーってのは助けよりも邪魔になる事の方が多いし、俺の場合さぁ」
「……あら?」
中でもアスナの反応は早かった。
その理由は、キリトの目の前の席だからか?キリトの言葉だからだろうか?
正確には判らないが、チカっ! っと目の前を銀色の閃光が過ぎさる。キリトはそう認識したと同時にだった。アスナの右手に握られていたナイフがピタリとキリトの鼻先にすえられた。
「はは、懐かしいな……。《リニアー》か」
リュウキは、アスナの細剣?スキルを見てカップを片手にそう呟いた。これは、彼女達が必殺とも呼べるシロモノに昇華させた細剣の基本技。凄まじい速度のそれは、あの時のそれより遥かに鋭さを増していた。正直、技の軌道を目視する事が至難だと思えるほどに。キリトもそれは承知で直ぐに両手を挙げていた。降参のようだ。
「……それにしても随分と自信家になったモノだな? キリトは」
リュウキも、にやりと笑っていた。邪魔になるとは随分な言い分だと思ったようだ。
「そーだよ! なーんだか、失礼しちゃうなーもー……」
レイナもアスナの様に突きつけたりはしてないけれど、ナイフをひゅんひゅん っと右手で回しながら遊んでいた。
どうやら、隙あらば、自分も……っと、思って言るのだろう。
「わ、解ってるって、強がったんだよ。あんたらは例外だ」
アスナは次にはナイフをクルクル手の上で回しながら……ある提案をした。
「なら、暫く私とコンビを組みなさい。私の実力もちゃんと教えて差し上げたいし」
「ななっ! なんだそりゃ!!」
キリトはあまりの理不尽ないいように思わず仰け反っていた。だけど、アスナは気にせずにどんどん続ける。
「だって、私の今週のラッキーカラー、黒だし?」
「はぁっ??」
「ああ、成る程、黒だったらキリトだな」
リュウキは同意した。部屋着である今のキリトの姿も黒一色と言っていい程に統一されているんだ。
「って、コラっ! よけーな事言うな!リュウキ!!」
キリトはリュウキに突っかかってきた。だけど、まだまだ 反撃?する材料は残っている。だけど……。
「あははっ! 別に良いじゃん良いじゃん! だって、うちのギルドはレベル上げノルマとかないしー。それに、パーティ組むならあの護衛も置いていけるしね? まさに一石二鳥だよっ!」
レイナも笑いながらそう言っていた。そう、キリトはレイナのせいで、反撃材料全て失ったようだ。さっき、エギルの店で護衛には会っていたからだ。そしてギルドの方針とかも突っ込もうとしていた。でも、レイナに全て潰されてしまった、してやったり!と言う事なのか、レイナはにこ~っと不自然なほどに笑顔だった。
だが、正直……キリトにとっては魅力的な誘いではあった。アスナはアインクラッド1、2といっても良い美人だ。
それはそう、勿論1,2はこの姉妹の独占だろうっと勝手ながら思える程。
そんな美人とパーティを組みたくない男など、いるまい。だが、そうであればあるほど、アスナの様な有名人が何故?と言う気後れが先にたつ。当然、キリトにはアスナの心の機微なんてわかるはずも無い。リュウキもそうだ。リュウキはレイナと結婚してからは、随分マシになっているが相当な鈍感君。
つまりは、此処アインクラッドにおいて、鈍感No.1,2は、この2人で決定!っと言いたいほどだ。
だからこそ、キリトは、根暗なソロプレイヤー。憐れまれているのだろうか?っと後ろ向きな思考に囚われていた。だから、うっかりと言ってしまう……。
「……最前線は危ないんだぞ?」
そう、キリトが言ったほとんど一瞬の出来事、凄まじい轟音が部屋に響いたのだ。再びアスナの右手のナイフが持ち上がってさっきより強いライトエフェクトを帯びている。そして、恐ろしい事にナイフは1本じゃない。リニアーによる突きは、もう一本……レイナからだ。その2つのナイフは、キリトの目前でクロスさせていた。
流石は姉妹。全く同じ力量なのだろう。
レイナのナイフも強いライトエフェクトを帯びていた。それを見たキリトは慌ててこくこくっと頷いた。でも思うのは、何故自分とパーティを組みたいのか?と言う事。最前線攻略プレイヤーの中で特に目立つわけでもない。
『……なのになんで自分なのか?』
ソロで圧倒的に目立っているのは横で涼しい顔をしてお茶を啜っているリュウキだろう。まぁ、この男はレイナと結婚しているから例外としたとしてもだ。でも、キリトはこれ以上拒否なんて出来るはずもなく意を決して言う。
「わ、解った。じゃあ、明日朝9時……74層のゲートで待ってる」
「ふふっ!」
「あはっ!」
キリトの返事を聞いて、アスナは勿論、レイナも強気な笑みで答えていた。折角の機会だし、レイナも断ってほしくなかったから、加わったのだろうか?或いは、姉とは一心同体?だから、反応したのだろうか?判らないが、息がぴったりだという事はよく判る。
「やれやれ……」
リュウキはリュウキでカップを片手に苦笑いをしていた。 そして。アスナ、キリトと少し離れたところで、レイナはリュウキの傍へとやってきた。
「そーだっ! ねー、リュウキ君っ!」
レイナはリュウキに笑いながら話す。
「ん?」
「私達も、明日……一緒にいこ? 私もギルド、お休みとるから」
ニコリと笑いながらそう言う。リュウキは、断る理由は無い。レイナが行きたい所なら、何処にでも付いてゆく。
「ああ、……行こう」
「うんっ!」
その一言でレイナは更に笑顔の質が一段階増していた。そして、一先ず今日は御開きと言う事になった。もう時間も時間で、深夜だから。
「じゃあ、今日は……まあ、一応お礼を言っておくわ。ご馳走様」
「こ、こっちこそ。また頼む……って言っても、もうあんな食材アイテムは手に入らないだろうけど」
「え?そんなの、腕次第、だよ?それに想いながら作る料理は……美味しいんだからっ♪」
「……だな。オレも知ってる。間違いは無いぞ? キリト」
「……ああ、なるほどな、説得力がある。……それは随分と羨ましいな」
玄関も楽しそうな4人だ。アスナは、名残惜しそうに手を振ると、キリトもそれに答えて手を振る。今日は良い夢が見れそうだ……とそう思っていたのだった。
そして、その後キリトとリュウキはアスナとレイナの家から後にしていた。暫く歩いていると……キリトは少し遅いと思うが、ある事に気づいた。
「あれ? リュウキは、レイナと……アスナと一緒に住んでいるんじゃないのか?」
その事なのだ。全男プレイヤーからすれば、羨ましすぎる事だが……、それは置いといて、キリトはリュウキにそう聞いた。
「んと……、その事だが、レイナがな」
リュウキは先ほどあったやり取りを話した。
それは、少し前の事、キリトとアスナが話をしている間の事。
「ね? ね? 私達も一緒に行かない? たまにはパーティを組んで迷宮区に……さ?」
「ん? ああ、別に構わないよ。レイナが行きたいのなら」
リュウキは二つ返事でそう返す。すると、レイナは笑顔になって喜んだ。
「わぁ、ありがとっ! リュウキ君。じゃあ、お姉ちゃんたちに肖って、74層の転移門前で待ち合わせない?」
「……ん?? 待ち合わせ? 一緒に行けばいいんじゃないのか?」
リュウキはそう聞いた。確かにそれは、当然だろう。今一緒に住んでいるのだから。待ち合わせる必要性が思い浮かばないから。
「あ~それはあれ! ……えっと、……何だか良いじゃない? どこかで待ち合わせてデート……って言うの……、私たち、もう結婚したけれど、私はそう言う経験した事無いからさ……?」
レイナは少し 恥ずかしそうに、身体をもじもじさせながら、そう言っていた。
「ん――……、よく解らないが、兎に角、レイナはそうしたいんだよな?」
「う、うんっ……」
「なら、そうしよう。異論はないよ」
リュウキは笑いながらそう言う。
「う……うんっ?」
レイナは顔を赤らめながら喜んでいた。彼女が喜ぶ姿。それを見るのがリュウキにとって何より好きだから、反対する筈も無いんだ。
そして、キリトとリュウキの場面に再び元に戻る。
「……つまりは、そう言う事らしいんだ」
リュウキが説明を終えていた。レイナは、待ち合わせて迷宮区へと行きたいと言う事。何でかは、追求しないし、判らないが、どうやらレイナはそう言うことをしてみたいらしいんだ。
「ははぁ~、なるほどな」
キリトは苦笑いしつつも、頷く。どうやら、キリトは納得出来た様だ。
「……ん?? キリト、判るのか?」
リュウキは少し意外そうに聞いていた。
「あ~……まぁ、大体な」
キリトは、ちょっと言葉を選びつつそう言う。
「ふむ……、キリトは解るのか……、何故なんだ?」
リュウキは、意外そうだったが……、嘘を言っているようには見えなかったから、キリトに聞いていた。自分はよく判らなかったから。
「まぁ、あれだよ。リュウキとレイナは直ぐにゴール……結婚しただろ? その……年相応の……学生とかの恋愛のシチュをしたいって思ってるんじゃないか……? 憧れてるんだって、そう思うな」
キリトは頭を掻きながらそう言う……、と言うよりも『って、一体何言わせるんだ!』とキリトは思っているのだった。
「そう、なのか……」
それを聞いたリュウキは、少し考え込む。確かに、レイナとは結構早く(レイナにとっては長かったが……)に結婚した。段取り……、と言われても判らないけど、そう言うのがあるのだろうと、思ったようだ。だから、リュウキが考え込んでいた時。
「……あ~深く考えるなよ? 憧れててやりたいからって、アイツと距離を置く~なんて考えるなよ?」
「っ……。そう、なのか?」
キリトはそう忠告をした。……リュウキは、まさに考えていた事を当てられて少し驚く。学生の恋愛……、知っている訳じゃないが、判ることはある。学生が結婚なんて、金銭的にも中々できるものじゃない。一緒に暮らすのだってそうだろう。
レイナが望んでいるのなら、とリュウキは思っていたんだ。
「落ち着けって、……リュウキがレイナからマジで離れて、別居なんてしたら、レイナは随分ショック受けるだろ? 止めとけ……毎日会えるから安心出来てるんだから」
「そう……か。ん、判った」
キリト自身が経験あるわけじゃない。寧ろリュウキの方が上の状況なんだけれど、何だか この手の話……、それをしている時 世話の焼ける弟を見ているようで苦笑いをしてしまう。
「……とまあ、今日はどうするんだ?」
キリトはそう聞く。
「適当な所で過ごす。それで、時間が来たら74層に向かおうと思っている」
レイナは、自分が家から~とも言っていたが、そこはリュウキは譲らなかった。野外生活だって、人一倍多い自分が行くべきだと言ったのだ。それに、アスナと自分が一緒だったら、色々と言われそうだとも思ったから、キリトはそれを聞いたら少し考えて。
「そうか、なら 今から少し一狩り行かないか?」
キリトはそう提案をした。リュウキと組めば……、ちょっと複雑だけど滅茶苦茶効率良いんだ。そして、その技術を……盗めば、とか考えてないっていえば嘘になる。
その《眼》に関しても。
習得は、絶対に不可能って事は解るんだけれど……まだちょっと諦めきれない。
「む――……」
リュウキは少し考える。こんな時間帯で、狩りになんか言ったら怒られそうだと思ったが……2人であれば特に問題は無いだろうと判断して。
「……いいか。別にいいぞ?」
リュウキはOKを出した。
リュウキは、これは解っていた。そう……この事ならよく解る。今、キリトが何をどう考えているのか。
「……まぁ、頑張れ」
だからそう一言いった。物欲しそうにしてるキリトの表情は見慣れているからだ。
そして勿論、そう言われたキリトはいつも通りに……、『やっぱり嫌味くせえ!!』と、夜の街中で叫んでいたのだった。
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