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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第1章 光をもとめて
  第1話 はじめまして


LP0001 7月

~自由都市 アイスの町~


 ここはルドサラウム大陸 南東部に位置する自由都市・アイス。その町の規模は都会でもなければ田舎でもないその丁度間をと言った規模の町である。その名前の通り、やや寒い気候。

 そんな町の一角に位置するギルドビルの一室。その部屋で男が1人。歳は40~50だろうか?スキンヘッドが似合う風貌の男で名をキース・ゴールド。このギルドのマスターである。

 キースはしかめっ面をしながら葉巻を咥え、そして煙を吐き出していた。

 そして、机に広げているのは書類の数々と写真。様々な依頼が寄せられたのだ。……依頼がギルドに舞い込む事はとても良い事だ。潤う、といった意味では特に。

 だが、勿論 それは時と場合による。

「まいったなぁ……。今、アイツもいねーし。ラーク達も同じく。……ん。ランスのヤツも仕事するかどうかもわかんねぇし。どうしたもんか……」

 書類・写真の隅々にまで目を通しながら呟いていた。そう、このギルドに所属している者達がいない時に、まわってきても意味がないのだ。そして、あまりにも受注するのを遅らせると、他ギルドに行く事になるのだ。

 キースが見ている写真に映っているのは白いドレスを着た赤い髪の美しい娘。
 依頼主は名家の娘だ。そして、その依頼量も破格。通常の数十倍と言ったところだろうか。

 それほどの依頼をこなせば、達成者は勿論だがギルドの株もあがる魅力的な依頼なのだが……、先ほどの呟きに合ったとおり、生憎今はエース達が不在しているのだ。

 直ぐに掴まりそうな1人は……腕こそは文句なしだが、如何せんクセが悪い、悪過ぎるとも言える。

 ……特に女に関しては。

 だが、これだけの上玉の依頼を他に回すのも気が引けると言うものだ。

――……ああ、今すぐこのギルドのドアを開けて今にでも帰ってきてくれないだろうか……。

 と、キースは内心祈る気持ちだった。そして、偶然なのか必然なのか、そのキースの祈りは届いた。

“ばんっ!!”

 とても乱暴に開かれるドア。……そんな風にドアを開ける者は1人しか知らない。

「がははは!! おいキース! 英雄のオレ様が仕事をしにきてやったぞ? 多大なるを感謝しろ!」

 開き方と同じで、口も傍若無人極まりない。そんな物言いで入ってくる男が1人いた。薄手の緑色のメイルそしてマントを身に纏っている男。想像通りの男。

(……確かに、おりゃガラにも無く祈っちまったが、まさか届くとはなぁ……。ん、アイツじゃねえのが残念だが、まぁ 贅沢は言えんか)

 キースは欲を言えば、他の奴等が還ってきて欲しかったと内心思うが これも僥倖だと取っておこうと判断だった。

 このふてぶてしい態度もいつも通り。もう慣れてしまっているのだ。
 彼の名前は ≪ランス≫。

 キースのギルドに所属する戦士の1人にして、1つの時代に3人しかいないとされる英雄たる資質を備えた人物の1人だ。

 だが、彼の行動理念は英雄とは真逆といって言い。

 ≪全てはオレ様の為に≫≪天上天下唯我独尊≫

 横暴が服を着て歩いているとは正にこのことである。
 そして、美女がいれば無理矢理にでもHをし、(本人は大体は和姦と思ってる)邪魔する奴は(特に男・ブス)は皆殺しにする。

 ……ここまで紹介すればわかるだろう。真逆と言う意味が。

 まぁ……腕だけは英雄に相応しいものがあり本物だが、それらの所業から≪鬼畜戦士≫と言う通り名で呼ばれているようになっていた。


「漸く重い腰を上げたか、ランス。」
「ふん! 金が尽きたのだ。貴様は、上手い仕事を紹介すれば良いのだ! さっさと仕事の話をしろ」
「解ってる解ってる。一押しがここにあるんだ。この写真の人物だ。名前はヒカリ・ミ・ブラン。リーザスの名門 ブラン家の御令嬢だ。この娘が3週間前、通っていた学園から突如行方をくらませたらしい。それから、ずっと手掛かりなし。行方が全くつかめないそうだ。……それを探してくる。それが仕事の内容だ」

 キースは苦笑いをしつつ書類……よりも先に写真を出し、そして依頼内容を簡単にだが、説明した。この男の一番のエサは先ほど言ったとおり女だ。だが 人探し、と言う依頼は地味だと言うのが根付いている、とも言える。格好よく、モンスターを倒し、モテモテになる。と常々言ったりしているのだ。

「はぁ? 人探し、ねぇ……。天才戦士のオレ様には似合わない、地味な仕事だな」
「ふん。嫌なら帰れ。それとも何か? 蜂の巣の駆除や、レンジフードの掃除の方が良いのか?」

 キースのこの言葉はハッタリだ。この場所に来た以上は、間違いなく仕事をしに来ている。金に困っている。絶対に帰ったりはしないだろう。
 そして、人探しよりも何倍も地味な仕事を提示したから、この人探しを受けるしか無いだろう。
 
(……んで、写真を見りゃ意見が変わるだろうさ)

 キースは、ひらひらと写真を机の上に置いた。それをランスが拾って確認する。

「ヒカリ・ミ・ブランねぇ……。……って、おおっ!! ヒカリちゃぁん!! 可愛いではないか!」

 先ほどとは打って変わり、やる気満々の表情を見せるランス。……いかつい顔のキースはしてやったりの表情。『……計画通り』とでも言いそうな顔だ。

「よし! 今回はこのヒカリちゃんの可愛さに免じて、最強にして無敵の冒険者。ランス様が、ちゃちゃっ! と片付けてやろう」

 話はどんどん進んで行く。ランスにとって、名家かどうかよりも美女かどうか?が最重要。故に知らないのだ。キースも重々ソレは承知だった。可愛い女の子の写真を見せるだけで、万事解決なのだ。

「それでな、一応説明しとくと、ヒカリは、リーザスのパリス学園で行方不明だそうだ」
「パリス?」
「リーザスにあるお嬢様学校ってヤツだ。当然警備は厳重な筈なんだが……、どんな手品を使ったのか、忽然と消えちまったらしい。煙の様に人間が消える筈がねぇんだがな」
「ふむふむ。……オレ様の優秀な頭脳によれば……、それは営利目的ではなさそうだな」
「ああ、多分な。相手側の真意はさっぱりだ。……ま、その辺も含めた依頼だな。言ったとおり、ちゃっちゃと解決してくれ」

キースは葉巻を灰皿に押し付け、再びもう一本吹かしながら答えた。
それを聞いたランスだったが、細かい事はどうでも良いと言わんばかりに。

「まぁ、とにかく助け出せばいいのだけだろ?それで、報酬は?」

ランスは写真の娘を品定めするように見ながら聞く。そしてキースはその言葉を待ってたと言わんばかりにニヤリと笑いを見せ。

「おお!ソイツは聞いて驚けよ? ブラン家は名門だ。彼女の情報だけでも金になるんだが、完全解決。ヒカリの救出で50000GOLDだ」
「……何ッ!? 可愛い娘をいただけるだけでなく、そんな大金までくれると言うのか! がははは! よしよし、どちらも美味しく頂こう!」
「助け出してから言えよ」

 ランスはいつものノリでそう言っているが、実は、結構驚いていた。そもそも今まで人探しの依頼は何度かした事はある。その報酬額が1人辺り1000~2000GOLD程度だった。つまりは相場がその程度なのだが、キースの口からは30~40倍もの報酬が提示されたのだ。親バカ、と言うのだろう。と最終的には判断していた。

「がははは! 可愛い子ちゃんであるヒカリちゃん、そして オレ様に相応しい報酬! 俄然やる気にもなるってものだ!」
「勿論だが、ちゃんと解決しねぇと 全部は無理だからな。情報料金は、質にもよるが、平均したら500程度だ」
「がははははは! バカ言え、このオレ様だぞ! すべてオレ様に任せておけ、この程度の依頼すぐに解決してやる!」

 意気揚々と書類・写真等が入った封筒を奪い取るように手にとってそのまま部屋の入り口へと歩いていった。

「じゃあな!! がははは 50000か!これで大分遊んで暮らせると言うものだなぁ!」

 ランスは、手をひらひらと振りながら出ていき、バタン……と、扉が閉まった。

「っておい!……ああ、行っちまったか。一応、まだ話しの途中だったんだがな」

 キースは苦笑いをしながらそう呟く。それも含めていつも通りだ。

「あら? ランスさんは、もう帰ってしまったんですか?」

 ランスが出て行った数秒後に部屋に入ってきたのが、秘書であるハイニ。どうやら、来客者であるランスにお茶を用意していたのだが、入れ違いになったようだ。キースは頭頂部を掻きながら頬杖をつくと。

「まぁ、持っていった資料に書いてるし、見りゃわかるだろう」
「もう……、相変わらずランスさんはてきとうなんだから。シィルちゃんも大変ですよね。……はい。お茶です」

 いつも通りとは言え、苦言を言わずにはいられないようだ。ハイニはキースにお茶を差し出しながら思わずそう言ってしまっていた。
 そして、控えの書類を手に取りながらキースは口にお茶を運ぶ。

「まぁ……、手口と言い場所といい、なんだかきな臭ェ案件なんだがな、ランスなら大丈夫だろ。性格はアレだが腕はたしかだ。それに、シィルちゃんもいる事だしな。さっさと結婚しろってんだ」
「あはは」

 キースの言葉でハイニは笑う。……確かにお似合いと言えばそうだから。でも、間違いなく、否定するだろうけれど。
 キースも、大体はハイニと同じ意見。ぱさっ……っと、机に資料を放り出した。まだまだ、ギルドの仕事は終わっていないのだ。この案件はランスに任せ次の書類に目を通しだした。

 その時だった。

“BEEP BEEP”

 ギルド内の電話が鳴り響いた。

「お?」
「依頼者からですかね? それとも新しい依頼かしら……? あ、私出ますよ」

 ハイニは、そう言いながら電話に出た。いつも通り、ギルドの窓口として、応対していたのだが、次第にその表情に笑みが浮かんでいた。いつもと違う様子だ。

「ん? どうした? 誰からなんだ?」

 キースもその表情から何か気になったようだ。いつものハイニの表情じゃないからだ。営業スマイルは見せてくれているが、相手がいない場合はそこまで出したりはしない。

「ふふっ。キースさん。今回の依頼……絶対大丈夫になりましたよ? とても心強い援軍です」

 笑いながら受話器を差出した。キースは多少は半信半疑ながら受け取る。

 すると……その声の主は……。









~アイスの町・ランス宅~



 キースギルドを後にしたランスは、上機嫌で家へと戻っていた。そこで受け取った資料に再び目を通し情報を整理する。普段なら、メンドクサイ。と簡単に済ませてしまうのだが、今回は可愛い子&高額報酬。
 いつも以上に気合が入っているのだろう。

「大金が入る上に、オレ様が颯爽と、格好良く助け出せば……『きゃー!素敵っ 抱いてください!』……なんて展開が待ってるに違いない。うむ。そうに決まっている。ぐふふ、見れば見るほど可愛い子だな!」

 顔はまるで真剣そのもの……なんだけれど。考えてる事はそんな事柄だった。もう、これ以上ないって程に解るだろう。ランスと言う人物像が。そんな時だ。部屋の奥から1人の女性が現れた。

「ランス様。お茶が入りました」
「うむ!」

 トレーにお茶をのせ、現れたこの娘は≪シィル・プライン≫という。特徴的なピンクのもこもこヘアーで、露出の高い白装束を身に纏っている。ハイニが言っていた『シィルちゃん』と言うのは、彼女である。
 
 ランスとの出会い。そして関係。それは、今から数ヶ月前の事。
 とある奴隷商人からランスが買い取った魔法使いが彼女だ。

 彼女には買い取る当初に特殊な魔法がかけられており、ランスの命令には絶対服従となっている。持ってきたお茶を机の上に置き、珍しく真剣な表情で仕事をしているランスに心配そうにしていた。
 これまでにそんな顔をすることなど滅多に無いからだ。まぁ、その後直ぐに表情を緩めていたから、ある程度は安心した様だけど、シィルは一応聴くことにした。

「あの……次のお仕事、大変なのですか?」
「馬鹿者。このオレ様が苦戦する仕事など、この世に存在せん」

 シィルの心配そうな顔を見たランスは、“ぽかっ!”っとシィルの頭をこついだ。普段のソレより遥かに優しい強さだった。本当に機嫌が良いようだ。

「そうですよね……。はい!頑張りましょう。ランス様」

 シィルは、頭を軽く抑えながらもそう返した。いつになく真剣そうだったから一緒にシィルは張り切りながらそう言う。

 ランスをしっかりとサポートする為にだ。

 自分自身も頑張らなければと、密かに握りこぶしを上げていたその時、ランスの大声が部屋に響き渡る。

 そして、全ての準備が整い家を出た2人。アイスの町から うしバスに乗り、リーザスへと向かうランスとシィル。

 勿論、貸切でない為他にも複数の客はいるけど、お構いなく盛大に笑い声を上げるランス。シィルは、申し訳なさそうに頭を下げているが……、冒険者風の男に文句をつける勇気があるものはこのうしバスには乗っていないようで、全員が見てみぬ振りをしていた。

そしてうしバスで走ること数時間。

「もう直ぐ到着ですね。到着したら まずは情報収集ですね。その、ヒカリさんの」
「うむ。その辺りは奴隷の仕事だ! キビキビ働けよ? がはは!! ……む?」

 シィルの今後の予定に頷いていたランスだが、話し終えると、何かに気づいた様にバスの外を凝視していた。

「ランス様、どうかしましたか?」

 シィルからすれば、突然黙ったランスに不思議に思ったのだろう、だが、ランスは答えない。その視線の先……、そのバスの外の流れる風景の中に4、5人の男たちが森の中に消えていくのが見えたのだ。風貌から男の子モンスター等ではなく、間違いなく荒くれ者だ。その内の2人程は、大きな袋を抱えている。

「おい、シィル。今の所持金は?」
「あ、はい。 えっと……、リーザス行きのうしバスに払いましたから、後は500GOLDです」
「ほうほう、ま、所詮は端金と経験値だが、ひさしぶりの肩ならしには持って来いと言う訳だな。がはは」
「え? どう言う事ですか……?」

 ランスは、シィルに答えずに剣を肩に担いだ。そして、ニヤリと笑うと、そのままバス運転手であるハニーに近づいていく。

「おい、ここでいい。2人、直ぐ降ろせ」

 行き成りの事で戸惑っていたが、これでも運転手。そして、こういう客に対する対応の仕方も決まっている。だから、ハニーはマニュアルを頭に浮かべた。

「へ?? ここは停留所ではありませんし。もう少しですから……」

 と、やんわりと拒否しようとしたが、すぐさま考えを改めた。……1秒ともしないうちに鈍く光る切っ先が直ぐ目の前に来たからだ。

「ほうほう、多分このままだと、停留所につくよりも早くに割れて死ぬかもしれんぞ? 直ぐに停れば、死なないのにな、いや残念。……だが、チャンスだ。死ぬか止まるかだ。今決めさせてやろう」

 笑っている。凶悪な笑み。ここまで当てはまる笑顔があるだろうか?

「ひぇぇぇぇっ! お、お助け……っ」
「す、すみません、すみませんっ!」

 シィルはしっかりと謝っているけれど、結局はランスの指示に逆らえる訳も無い。だから ランスが運転手を脅し、無理矢理 一緒に途中下車するしかなかったのだった。
 一応、シィルは 荒くれ者が森に潜んでいるから~っと 説明を早口ですませると、ランスを追いかけてすぐさま森の奥へと入っていった。




~リーザス領 辺境~


 そこでは、町でも顔の知らぬものはいないとされる程の顔ぶれが並び、下衆びた笑みを浮かべていた。1人が更に笑みを浮かべ近づく。

「へへへっ……、これが 今日の戦利品だ……、そっちのはどうなんだ?」
「金はあるぜぇ。……まぁ、 オレとしてはそっちの方が断然好みなんだけどな?」
「ぎゃははっ! ちげーねぇ!」
「あぁ、今度はオレもそっちだなぁ。金も良いけど、やっぱし生身だろ。色々と楽しめるし」

 ここはリーザスの辺境にある肥沃三日月地帯。緑たっぷりの草原であり、絶景……とも言えるのだが、ここから先のモンスターは結構な強さ。故に町の者は一切近づかない無法地帯だ。勿論、強いとはいっても、それなりに装備を整え 万全を喫せれば問題はない。……明らかにモブの様な男たちでもいける事を見ると、説得力があると言ったモノだ。

 そこにいるのは5人。

 如何にも盗賊だろうとわかる風貌の4人と、最後の1人は違う。その表情は涙で覆われており、眼は焦点が合っていない。瞳孔が広がっているのではないか、とも思える表情だった。
 美少女、とも言える容姿なのだが、には相応しくない状態だ。……既にに散々汚されぬいたと思われる後があった。……鼻につく匂いも充満している。

「ぃ……ぃぁ……、も、もう、家に、家に帰してください……」

 必死に必死に懇願していた。眼は虚ろでも、まだ希望は捨てていない。

――……また、暖かい布団で眠りたい。暖かいシャワーを浴びたい。こんな薄汚れた男たちの中は嫌だ。

 その思いは消さずに、言葉を絞り出す。でももう、何度言ったか判らない。だけど、それでも言うしか出来ないんだ。

 そして、今日も絶望の返答が来る。

「まーだそんな事、言ってんのかオメェ。もう、一生奴隷だって事わかってねーのかよ? なんだって、こんな辺境の奥にまで連れてきてるんだと思ってんだ?」
「ぎゃははっ! 仲間が戻ってきたらよ。まだまだたっぷりと喘いで貰うぜ~。奴らは結構な金額狙ってたからなぁ、労ってやらねぇと……。へへぇ、奴らのは、一段と濃いぞ~!」

 この2人は盗賊団だが、流石にたった2人盗賊団を名乗らないだろう。まだ、他にも5人のメンバーがいる。丁度、外へ出ておりそろそろ帰って来るはずだった。散々楽しんだグァンの身体を嘗め回すが如く見ている盗賊に向かって、1人の盗賊が後ろで呟いた。

「でもよぉ……、こんだけ汚しちまったんだけど、大丈夫なのかねぇ? 結構モンク言うと思うぜ?」
「バカ言うなって、こんな上玉連れてきたんだぜ? それに、モンスターはちと多いのがネックだが、結構綺麗な小川だってあるんだ。ちゃーんと、身嗜みも整えて、それっぽくみせれば……、イけるだろ? それともなんだ? お前は、コイツでもう勃たないってか?」
「あ~……、確かにそう言えばそうだな。強姦ってだけで燃えるわ」

 下衆びた声が、周囲に沸く。周囲には誰もいない森だから、その声には遠慮がまるで無い。

「そろそろ奴らも帰ってくる頃だと思うしなぁ……! もう1発どうだ? 輪姦()わそうぜ!」
「へへっ! イイねぇ……! 成り上がる前の祝いだ! 今回の1件での金銭も含めて、どんどん資金貯めて、どーん! とよぉ。  オレ達の規模もどんどん広がっていって、ゆくゆくは盗賊団の《限りない明日戦闘団》の連中も食ってやれるくれぇになろうぜ! ああ、そんときはオレが団長するわ! あのオカマやろーの首、とったらな?」
「ぎゃははっ! 他の奴等に了承得なくて良いのか? 俺は構わねーけど、それならオレが副団長っ! でも、ネカイのねーちゃんの首はとれねぇなぁ。あんないい女、他にはいねぇし!」
「それは、却下だ! オレが貰う! まー、一筋縄にはいかない、だろうけどなぁ……。あのねぇちゃん。色んな意味で、強いし」

 ノリに乗ってきたのか、更に声は上がり続け、盛り上がり続けた。

「「ぎゃ~~はっはっはっは!!!」」

 最後には笑い声が響き渡っていった。目の前で馬鹿笑いをする男たちをを虚ろな目で見る少女。彼女の脳裏に浮かぶのは一生……このまま男たちに良い様に嬲られ続ける自分の姿。
 何度も何度も、抗おうとするのだが、其れが楽しみになってしまっている男たちの姿も。……いままでずっと、掴まってから何度も考えないようにしてきた事をまた思い浮かべてしまう。

 その救いの無い未来……絶望感を。

 そして、男の1人が笑うのを止め、ゆっくりと近づいてきた。

「んじゃあよ。未来を夢見ながら、もう一発ヤるとするか? もう別に処女ってわけでもねーし、よくよく考えりゃ、そこまで あいつらに義理立て必要もないだろ」
「ああ、そうだな。寧ろ先にヤってた方が良い。全部揃ってたら、中々回ってこねーし、気絶しちまったら締まり悪くなるしよ~」

 あの痛みがまた、やって来る。……どれだけ、またヤられてしまうのだろうか。そう思ったら、一気に血の気が引いていく。

「ひぃ……、や、やだ……もうやだよぉ……、だ、誰か……助けて……。」

 何度も何度も首を振った。もう、何もされたくない。……男を、受け入れたくない。枯れたと思っていた涙だったけど、流れ出た。

「ああ? 何度言ゃあ気が済むんだよ。来るわけねーだろぉが! 助けなんざ!」

 『助けは来ない』
 そう目の前で髪を摑まれながら断言される少女。その言葉を聞いて視界がまるで酔ったようにぐるんぐるんと回ったような感覚に陥ってしまった。

――……もう、誰でも良い。ここから出してくれる、助けてくれるのなら悪魔だって魔人だって良い。

 神頼みに縋るように強く、心から願ったその時だった。

「……助けは来ない? あてが外れた様だぞ。助けなら来る。……まぁ大分遅れてしまったが」

 ひとつのある筈のない招かれざる6人目の声が響き渡る。その聞き覚えの無い声に、すぐさま振り返った瞬間だった。

 一番入り口に近いほうにいた男の首が胴体から離れた。

 それは、切り裂く音さえ聞こえなかったのだ。無音の太刀筋。
 胴体から首が離れた男の首は宙を舞い……そして、まるで振り向いたかのように侵入者の方を向いているように地面に落ちた。

 何が起きたのか解らないが、あまりの速度で切られたせいか、自分が切られたことに気づいていない。……更には、離れたその時、暫くは血すら出ていなかったのだ。

「なにも………の……………?」

 異常に気づいたのは、叫ぼうとした時だった。

 不自然に低い自分の視線、声からして、後ろにいる筈の侵入者はかなり遠くにいて、更に、この場にいるのが、招かねざる相手を含めて≪6人≫になっている事だ。
 
 なのに、1人、更に多い。

 その理由は直ぐに判る。……その内の1人は……首がない状態で立っていたのだから。そして、一呼吸する間のなく、その首の無い身体から血が噴出した。

 自分の首が切られた事がわかったのは、この瞬間だった。

 少女も男達も状況が飲み込めずただただ唖然としていた。

 だが、仲間が殺られた事実を理解し、正気を取り戻すと、すぐさま腰の短剣を引き抜き身構えた。

「て、テメェ!よくもやりやがったな!! ぶち殺されてぇか!!」

 目の前の男に声を荒げる男(団長予定)。男はフードを被っており、表情がまるで見えない。男だと思うのは声色からそうでは無いかと判断した。そして何処か、不気味だとも思えた。
 その頭をすっぽり覆っている姿は、まるで死神か悪魔を連想させたのだ。仲間の首を刈られた死体が。


男は、腰にかけている剣に手をかけながら呟く。

「殺されるのはお前達だ。……下衆が」

  低くそう言い放つ男。

「ふざけんな!!糞がァァァ!!!」

 残った男達は一気に駆け出した。

 素早く、最短に斬られていく男達。フードの男の剣速は目で見る事が出来なかった。気づかれたら、斬られていた。

「う、うわぁぁぁ!」

 そして最後の男が、フードの男と交差した。……交差したかと思えば、そのままフードの男は少女の方へと向かっていった。

 彼女はまだ、状況がつかめないのだろうか、身体を震わせていた。それは近づくほど増していく。

「大丈夫だ……じっとしていろ。今、拘束を解いてやるから」

 男は、そう言いながら、拘束ロープを解いていく。何度も何度も、複数の男達に犯され続け、精神が限界近くにまで来ている彼女はまだ状況が飲み込めない様だ。

 だが、直ぐ後ろにまだ男が残っているのだけは解る。

「ぁっ……、う、うしろ……、後ろに……っ」

 言葉を必死に探しながらなけなしの声を上げるが。目の前の男はそっと、唇に人差し指を当てる。

「大丈夫だ」

 男はそう言うと、少女に笑いかけた。

「……もう、君に酷い事をする者はここにはいない。大丈夫」

 彼女の身体を90度横へ向け、側面できつく結ばれているロープを解いていった。別に、彼女の正面のままでも解けるのだが……、見せたくなかったのだろう。

 次の瞬間に、先ほどの男の様に血飛沫を上げながら絶命してゆく男の姿を。




~リーザス辺境・肥沃三日月地帯 入口~


 そこはランスが睨んだとおり、5人の後をつけ会話を聞き、その風貌をもう一度見れば一目瞭然。荒くれ連中は、数に物を言わせてこの場を根城にしているだけで、1人1人の力ははっきり言って弱い。ランスは、正面から堂々と詰め寄っていったのだ。ランスに驚いた男達ははすぐさま攻撃してきたのだが。

「ふんっ、手間取らせやがって、オレ様が言う様に、とっとと金をよこせば良いのだ。何人いようと田舎盗賊風情がオレ様に勝てる筈がないだろう」

 そう吐き捨てる。眼前に広がるのはさっきまでは生きていた男達。もう、物言わぬ肉塊になっていた。堂々と正面から行ったランスだが、流石に一度に同時に5人は殺せなかったが、仲間の悲鳴を聞いた残りが反撃してきたが、戦闘能力が違いすぎるこの相手。
苦戦する事が苦戦だとも思える実力差だった為、あっという間に皆殺しにし、眼前に広がる森に目を向けた。

「さぁて、あの男達によると、可愛子ちゃんを捕まえたらしいな! がははは、オレ様が格好よく助けてやろう。そして……ぐふふふ」
「ぁぅ……、ランス様ぁ」

 ランスは今後の展開を頭の中で膨らませニヤける。写真で見る限りではこの辺りでは稀に見る程のものだ。考えただけで、ハイパー兵器が元気になりそうな程なのだ。シィルはただただ暗い顔をしていた。だけど、その後、シィルは慌てて声を上げていた。

「待ってくださいランス様! 誰か……誰かが洞窟の中から出てきます!」
「む……?おおっ! あれは!」

 ランスはシィルに言われ洞窟の方を見ると、その姿を確認できた。出てきたのは2人。1人は抱えられていた。その風貌はフードで顔が隠れていて解らないがランスは確信した。

「がはははっ! どうやら、中に残った仲間が態々オレ様の経験値になりに来た様だな! 可愛い子ちゃんの居所を吐かせてやるぜ!」

 がはは、と笑いながら剣を向けるランス。これまでに男達の会話を聞く限り……、間違いなく犯されてきたのは解る。自分以外が美女を犯すのなどもっての他だと思っているランスはすぐさま行動に移したのだ。 男が抱えている少女は予備のマント、だろうか? それで身体を覆って上げていたのだ。だから、ランスは見えなかった。

「おっと……、その考えは間違えてるぞ」

 出てきた男はゆっくりと歩きながらランスに近づいていた。

「……立てそうか?」

 腕の中の彼女にそう聞いた。
 洞窟の中で簡単に介抱し、元気の薬も与えた。やはり、精神的にもまだ無理だったようだ。こんな場所にいても治るものも治らないと判断し、早々に両腕に抱えて出てきたのだ。

「は……はぃ……」

 少し顔を赤らめながら頷く少女。今ははっきりと状況はわかっていた。

「むむ!? がははは! 成る程、つまりオレ様に献上しにきたのだな! よしよし、その潔さに免じて、半殺しで許してやろう! さぁ、さっさとその可愛い子ちゃんを渡して剣の錆になれぃ」

 聞く耳もたずのランスはずんずんと近づいてくる

「……はぁ、『半殺しだ』と言っておいて、剣の錆って。全殺しする気満々、って所だな」

 再びため息を吐く。このタイプの男は初めてだったからだ。不思議と戦おう等とは思わなかった。殺すと言ったり、色々と変な男だけど……、本当に悪い男だとは思えない。先ほどの連中と比べてしまっているから、尚更だ。

「あ、や 止めてっ ち、違います。こ、この人は私を助けてくれた……恩人なんですっ」

 今日一番の声だろう。はっきりとそう言えた。言える程まで回復した様だ。その言葉を聞いたランスは見る見る内に表情が強張ってゆく。

「なん……だと? それは、君が騙されてるだけじゃないのか? 助けに来るって風貌じゃないだろう。どっちかって言えば、盗賊が似合うぞ。何より顔、隠してるし」

 ランスは剣でびしっ!っと男の方を指差した。

「ふぅ…… やれやれ、だな」

 ため息をつき、フードを取った。そのフードは身に纏っている《プレラン・ローブ》と一体物でその布地から薄手で簡易な鎧が露になった。通常の鎧は、ゴツゴツしているイメージのあるが、これは、とがった部分を切り取って加工。速度重視にしたような鎧だった。自分自身のスタイルに合った装備も戦いにおいては重要だから。

「な……ななっ!」

 それは今までの荒くれ達の格好から考えたら、流石のもう一目瞭然だった。目の前の男がこんな貧相な奴等と同じな筈が無いのだ。それなりに整った装備。……自分ほどじゃない。と思ったのはランスだから。

「オレ様よりも早く可愛い子を助けただと! 格好いいオレ様が可愛い子を颯爽と助ける、それが決まっているというのに!」
「いや、無茶言うな。訳が判らんって」

 そう強く言っているランスだが、少なからず肩を落とすランス。だって、さっきまでとは雲泥の差だったからよく判った。
 カモがネギしょってきた! と思った矢先、まさか、飛翔でカモ共々逃げられたイメージだろうか。

「まぁ、見たところ、君達はオレと同業者のようだ。 ここにいた連中とは全然違う。……腕もそうだしな」
「あ、そうです。はい。 私はシィルと言いまして、こちらはランス様。私のご主人様になります」

 男は、ランスとシィルを見てそう判断していた。周りには5人の死体が転がっているのだ。連中の会話から察してまだ仲間がいる、そしてその格好も中のヤツと大差ないことから、死んでいる連中が仲間なのだとわかった。

(わぁっ……凄く若い冒険者さんです。ひょっとして、私より……?)

 シィルは、男の顔を見て思わずそう思っていた。
 フードから出てきた男。その顔は、きっと厳ついだろうな……、と失礼ながら思ってしまっていたのだが、見てみれば非情に整った顔立ちだった。でも……、そうあれだ。口に出したら失礼だけれど。

「だぁぁぁぁ! もう少し、オレ様がさっきの連中に気づいていたら! ぐあああ! もうちょっと早くに家を出ていれば! まさか、このオレ様が、こんなガキに 可愛い子を取られてしまうとは! 先を越されてしまうとは!!!」

 ランスが、シィルが思っていた事をそのまま言ってしまった。そう、この人は、顔が非常に幼い感じ。……所謂《童顔》なのだ。
 後5~6年たてば、きっと美青年になるであろう! とシィルは思っていた。自分に弟が居れば……こんな感じかなぁ? とも。

「が、ガキ……っ」

 ランスの言葉を訊いて、明らかに不快感を露にしていた男。まさか初対面でそこまで言われるとは、と思っていた様だ。

 だが、ランスと言う名前は知っている。

 男はこほんと、咳払いをすると。

「どうやら、さっきオレが片付けた連中。仲間がいる、と言っていたから聞いて一応警戒してたが、あんた達が片付けたんだな。……礼を言うよ。手間が省けた」
「い、いえ……、と言う事は、他にもいた、って事ですよね? 悪い人たちが」
「ああ。いたが、全滅してるよ。この辺りを根城にしてるゴロツキの様だ。……町の人達にも色々と訊いていた。結構悪さをしている。賞金こそはかけられてないがな。オレはリーザスの町の人に頼まれたんだ」
「わ、わたし、わたしは…… あの人たちに……」

 こくこくっ と頷く少女。ここまで連れてこられた経緯を考えたら 彼女もよく判るだろう。彼がこの場所に来た理由についても、彼女に話している。……感謝もしてもらっている。報酬はそれで良い、と言って彼は笑っていた。……気障だなぁ とか普段なら、考えてしまうかもだが、今は本当に感謝しかしていなかった。

「大丈夫ですよー。もう 酷い事する人なんて、いませんからっ!」

 シィルは笑顔でそう言っていた。……正直、ランスと2人きりだったら、判らなかったかもだけど、少なくとも、今は大丈夫だろう。ランスは、ガキに負けたとまだ放心しているのか、殆ど反応が無いから。
 正直、彼もイキナリガキ扱いされて腹も立つが、とりあえず、少女を無事に助けれた事だし 不問としていた。

 だが、ショックとは言え、シィルと話していた男が気に食わないようで、不機嫌そうに睨みつける。

「そうだ、よしっ! 殺そう! そうすれば、その可愛い子ちゃんは、オレ様のもの! ついでに経験値と金も得られる! がははは!! 我ながらグッドアイディアだ!」
「……おいおい。幾らなんでも傲慢すぎるだろう。いきなり初対面の相手に。口に出して言うのもどうかと思うぞ……」

 いきなりガキ扱いした事も不快だが、今度は処刑宣告。……流石に初めての事だ。ムカつきを通り越して半ば呆れかえる。心中を察したシィルも苦笑いを噛み締めていた。
 話がわかるのは彼女の方だと思い、話を進めようとしたのだが、それが気に障ったようだ。

「それに、何を勝手に人の奴隷に馴れ馴れしく話しかけているんだ貴様!」
「あ、ランス様。一応自己紹介は済ませましたよ」
「なにぃっ!! おいコラ! 勝手なことをするなシィル! ええいっ! こうしてやる!!」
「ひんひん……っ 痛いです、ランス様っ……。」

 両拳で頭をグリグリと挟みこまれるシィル。傍から見て理不尽極まりないが、シィルがそこまで嫌がってる様子も見られない。一応は信頼関係で結ばれているのだろうと判断した。主従関係はある様だが互いにある程度信頼をしているのだろう。

「はぁ……、キースギルド所属の《ランス・クリア》と言うのはお前だな? なるほど、聞いていた通りの男の様だ。……ここまで情報と印象が正確に合致するのも珍しい」
「なにぃ! オレ様の個人情報を知っていると言うのか! これは、プライバシーの侵害とみなし、慰謝料を請求する! 50000GOLDだ!」

 今度は無茶な理由で金を要求する。まさしく情報の通りだ。ここまで来ると逆に清々しい。

「はぁ……、ってか、それ今回の依頼の報酬額じゃないか」
「なにぃ! 個人情報だけではなく、オレ様の仕事をも盗むと言うのか!」
「いい加減そのノリをやめろって。……同業の好で。同じ所属の好だ。今回も連中の仲間を片付けてくれたって言う借りだってある。今回の依頼、手伝ってもいいし、終えたら、報酬を分けても構わないと思っていたんだがな」
「……なに? ソレを早く言わないか」

 すぐさまシィルの頭を解放そたランスは男に詰め寄った。

「元々、今回の依頼。報酬金額が通常とは、全く比べ物にならないしな。だから別に問題ない。まずオレとしては、この子を先に連れて帰ってあげたいがな」
「がははっ貴様、中々に下僕としての見所があるヤツじゃないか! 自己中であるガキとは思えん!」

 腰に手を当てて笑うランス。その言葉に ぴくぴくっ と二度眉を上げる。正直、もう我慢出来そうにない。

「……言っておくが俺はガキじゃない」
「がはは! ガキは皆同じことを言うのだ。最早テンプレだ!」

 男の言葉を訊いて、ランスはそう言っていた。確かに、それは間違ってはいない。子供、と言うモノは大体そんなものだし、ガキ扱いされて怒る所だって、そうだ。
 だが、今回ばかりはランスは間違っている所があった。

「……オレは19だ。ガキじゃない!」

 男は、怒った様子で身分証明であるギルドカードを叩き付けた。そこにはすべてが明記されている。はっきりと書かれているのだ。

 出生年が《GI997》と。

「んな……!!」
「「えっ……」」

 その場にいる皆が絶句している。助け出した彼女までもがだった。凛々しく助け出してくれた姿にはドキリともしたけれど、まだ全然若い方だと思っていたのに。

「………だから、外したくなかったんだよ。このフード。……ミスった」

 少しいじける様子でそう言っている姿はやっぱり可愛かった。 だが、話を聞くに容姿を随分と気にしているようだ。年齢と外見が一致してないのだから

――……ショウガナイ、ショウガナイ。 

「む、まぁ! それはもう良い」

 ランスは勝手にそう決め付けて先に進めようとする。こちらとしては勝手に素顔で年齢を判断して、ガキだなんだ、と失礼な事を言われて不愉快と言えば不愉快なのだが……、これ以上年齢・顔に関しては引っ張られたくない為何も言わなかった。

「で、ガキ……じゃないか。外見はさて置き。貴様は名はなんなのだ? 男の名など覚えるつもりは一毛たりとも無いが、貴様が知っているのに、オレ様が知らないのが気に喰わん!」
「ん……、ああ、まぁ良いか。名乗りが遅れたのは事実だが。ってか、ギルドカードに全部載っているんだけど」

 少し考えながらそう言う男。だが、不思議に思っていた事もある。これまでは、自分の外見に関してここまで弄られたら怒り、それが男なら一撃かましてやろうとも思うのだが。

 何故だか、この男に関してはそうは思わなかった。

 なんと言えば良いのだろうか、空気を吸うように普通に毒を吐く男だと言う事が解っていたような……、何を言っていても納得してしまうかのような……、そんな自分でも訳の判らない気分だったのだ。

「む、何をオレ様の顔をジロジロ見ているのだ! 男に見つめられるのなど、嬉しくも何とも無い! 寧ろ不愉快だ! ヤメロ! オレ様にそんな趣味はない!」

 ランスは、見られる事が気に食わなかった様で、突っかかる。見ていたと言っても、数秒やそこら。そこまで見ているつもり等無いのだけれど。

 この時、シィルもランスに関して不思議に思っていた。

 これまでは、男の人に関しての扱いは本当に酷い……って内心は思ってしまうほどだった。それこそ、理不尽は当たり前、場合によっては有無言わず攻撃も通常。
相手の名前を知りたい(特に男性。)の等、これまでで見た事ないのだ。

「オレの名は、ユーリ。ユーリ・ローランド。キースギルドに所属している冒険者だ。……あと人を外見で判断すんな」

 ユーリはそう吐き捨てた。

「がははは! 判断して欲しくなければ、ワイルドになる事だなっ! このオレ様の様に、スーパーイケメンにな!」

 ランスは、最後の言葉に腹を立てるどころか、笑いながら、からかい返している。
そして、ユーリも絡み 二人で言い合っている。

 シィルはそんな2人を見てこれがはじめて出会った2人なのか?と思ってしまっていた。
まるで、幾年も共にいたような……、互いに分かり合っている様な感じがした。

 だって、これまででは ランスが男とこんな風に話をしている所など、あまりみないから。最近では、ギルドマスターであるキース位だったから。気の合う仲間、だと。

(……気のせいですね、それは流石に)

 シィルはすぐさま、考えを改めた。流石にランスに限ってそれは『無い無い』っと。








 □        □        □        □        □    




 この世界は、様々な場所で 刃が飛び交う。

 そして、魔力は神秘の内に、その輝きを増す。

 世界一豊かと謳われる大陸の東、リーザス王国。

 この2人の邂逅は後の世界に大きく影響する事になる出会い。

 本当に何気ない出会いだったのだが、人類、魔人、悪魔……そして、神。

 果てない螺旋上の争い、止める事の無い戦争への終止符へと導く者達の出会いだと言う事を誰も知る由も無い。

 この国での事件を切欠に……、今 その歴史の歯車が回り出す




 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ ユーリ・ローランド
Lv 42/222
技能 剣戦闘Lv2 抜刀術Lv2 冒険の知識Lv1 ???Lv3 ??? lv?

キースギルドに所属している冒険者。年齢は19歳で20の歳。つまりはランスよりも2つも歳上の英雄候補の1人でこの小説では主人公。(……外見はさておき)
とある事情により、世界を廻り様々な事を体験。見聞している。彼の素性を知る人間は誰も知らず、中でも一番付き合いの長いキースでもよく解っておらず、自分のことに関してはユーリも話さない。故にキースも突っ込んだ話をしていない。
いつかは話して欲しいとも思っているとか。
そのおさ○い瞳の先が見つめるのは一体何なのか……。
『お○ない言うな!』


□ ランス・クリア
Lv 10/∞
技能 剣戦闘Lv2 盾防御Lv1 冒険の知識Lv1

同じくキースギルド所属の冒険者。原作においては圧倒的な強さと鬼畜さを兼備える主人公。今作では主人公の1人で英雄候補。高い戦闘力・決断力、そして何よりも強運(悪運?)とカリスマを兼備えている男なのだが……、
そして、何故かこの世界の強さである才能レベルに限界が無い為、鍛えれば鍛えるほど無限に強くなっていく驚異的な才の持ち主でもある。
それは、あくまで鍛えて、怠けなければの話し、だが……。

□ シィル・プライン
Lv 13/37
技能 魔法Lv1 神魔法Lv1

ピンクのモコモコヘアーが特徴的なランスの奴隷。(濡れるとセミロングになる。)その才能は天才とまではいかないが、攻撃も回復も出来るオールラウンダーな魔法使いであり、さらには家事全般・内職・夜のお世話までこなす。正にスーパー召使いなのである。
ランスは事あるごとにオシオキをしているが、当の本人はそれほど嫌がっていないようだ。
ランスはもっともっと大事にした方が……。


〜技能紹介〜


□ オリジナル技能スキル 抜刀術

納刀した状態(腰にかけている状態でも可)から抜き放つ動作。
居合術とも言い、剣を抜き出すとほぼ同時に攻撃にも転じる事が出来、尚且つ、剣を滑らせ走らせる事で、速さが抜刀状態より数段早く、数ある攻撃手段の中では最速である。
故に、奇襲状態でも防御・反撃に転じられる可能性が格段に上がり先制も可能。
逆に奇襲の際に使用した場合は、切られた本人でさえ解っていなかったりする。
だが、基本的に納刀した状態でなければ発動出来ない為、一度の戦闘では一度がベスト。
……対峙している時に刀を納めるのは危ないし。

□ ???Lv3 ???Lv?

彼が持つ力の1つ。
全ては謎に包まれているが(誰にも話してないからあたりまえ。) この世界においての技能レベルの最大値がLv3である為、伝説級の力だと言う事。そして、もう1つはLvも不明。能ある鷹は爪を隠す。と言った理由で披露した事が極端に少なく、使ったとしても『これが???だ。』と説明もする分けないので、誰も知らない。
 
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