歌集「春雪花」
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死を待ちし
巣から落ちにし
燕の子
鳴きにし姿
われと重ねし
ふと…車庫から燕の騒がしく鳴く声がして行ってみれば、巣から雛が一羽落ちていた…。
人が触れて巣に戻せば…親鳥は巣ごと放棄してしまう…。この雛に、もはや生きる術はないのだ…。
それでも鳴いて親鳥を呼ぶ雛に…なんだか自分を重ねてしまい、私は無性に悲しくなった…。
彼にとっては…私はこの雛とかわりないのだから…。
人の世に
立てて言葉も
残るまじ
風と去りにし
君ぞ恋しき
こうして想いを綴り続けても…この世界に、私の言葉など一つも残らないだろう…。
そう思う刹那…風の様に去った彼を想い、恋しくて堪らなくなった…。
所詮は言葉と同じく…この告げられぬ想いと共に、いずれは私も消えてゆくのだろう…。
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