戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百十八話 太宰府入りその九
彼はだ。こう言った。
「とてもな」
「間に合いませぬな」
「今日か明日には」
「ここまでは」
「着きませぬな」
「着く筈がない」
立花もこう考えていた。
「それはな」
「では、ですな」
「我等はここで最後まで戦いましょう」
「岩屋城を。万が一でも助けらる様に」
「それでも」
「こうなっては止むを得ぬ」
立花は覚悟を決めて言った。
「島津の軍勢は五万、対する我等は精々三千」
「兵の数は違いますが」
「それでもですな」
「岩屋城の城兵達を救う為に」
「それに千寿殿も」
「そうじゃ、薩摩隼人は強い」
即ち島津の兵達はというのだ。
「天下では武田、上杉の兵が強いというがな」
「島津の兵はですな」
「おそらく比較になりませぬな」
「まさに一人一人が鬼」
「そこまでの強さです」
「しかもその鬼が五万じゃ」
その薩摩隼人達がというのだ。
「尚且率いるは島津四兄弟」
「まさに無類の強さですな」
「これ以上はないまでに」
「だからですな」
「例え戦っても」
「それでもですな」
「そうじゃ、勝てる相手ではない」
とてもというのだ。
「どう考えてもな、しかしじゃ」
「突っ込みそうして道を開け」
「城兵達を救い」
「一気に退く」
「そうするのですな」
「わしが自ら行く」
立花、大友家きっての名将である彼がというのだ。
「わしの命がここで尽きようとも悔いはない」
「全く、ですか」
「そうなられても」
「それでもですか」
「千寿殿と城兵達を」
「わしは充分生きた」
その高齢からもだ、立花は言った。
「ならばな」
「悔いはないと」
「ここでお命を落とされても」
「後はおる」
こうも言った立花だった。
「倅がな」
「宗茂様ですな」
「あの方がおられるからこそ」
「何の悔いもない、では行くぞ」
「はい、では」
「それでは」
「行きましょう」
兵達も言った、口々に。
そしてだ、立花に対して自ら声をあげていった。
「必ずやです」
「高橋殿達をお救いしましょう」
「何、幾ら薩摩隼人といえどです」
「殿には勝てませぬ」
「その武勇の前には」
「うむ、そなた達の命預からせてもらう」
立花は島津の大軍も見た、橙色の具足と旗、衣の彼等を。
しかしだ、その天下に知られた猛者達の色を見てもだ。彼は言うのだった。
ページ上へ戻る