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龍が如く‐未来想う者たち‐

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秋山 駿
第一章 崩壊する生活
  第五話 正義の味方



翌日、谷村の連絡を待っていた秋山は、この街最大の建物である神室町ヒルズの前にいた。
ここにきた理由は2時間前、事務所の電話に届いた匿名の着信。


『神室町ヒルズで待ってる』


明確な罠への誘いだった。
誰の声かもわからない連絡に耳を貸す程愚かでも無かったが、今は僅かでも情報が欲しい。
花ちゃんにこの事を伝えずに出てきてしまったが、言ったところで全力で止めてくるだろう。

煙草を吸いながらヒルズを眺めていると、歩行者の多いヒルズ前から蜘蛛の子を散らすように人々が逃げ出し始める。
全員が見ていたのは、ヒルズの入り口。
遠目でも誰だかわかるバンダナの男、喜瀬だった。
姿を見るなり、秋山は煙草を地面に捨て足で火を消す。


「やっと来たか、喜瀬」
「俺だってわかってたみてぇだな。なら、覚悟ができてんだろ?」


バンダナから覗かせる鋭い眼光が、ただの堅気を震え上がらせる。
さすが極道と言わんばかりの、獣の様な目。
だが一時たりとも、目を逸らさなかった。


「遥ちゃんは、どこだ?」
「あぁ?」
「証拠はあがってんだ。お前と一緒にいたあの子、今すぐ返してもらおうか」
「けっ、お前あの子の保護者かよ」
「違う。だけど、大切な人だ」


呆れたような表情の喜瀬が合図を出すと、ヒルズの中から20人ほどの組員が飛び出してくる。
全員、喜瀬組の組員だろう。


「堅気相手に、ここまでするのか」
「極道の世界に首を突っ込むなら、これくらいは予想してただろ」


わかっていた。
この事件に首を突っ込むことがどれだけ危険か、重々承知していた。
巻き込まれて、首を突っ込んで。
結果は死にかけたり、大切な人を失ってばかり。
本当なら、もう極道とは関わりたくない。
だけどその度に思い出すのは、ある男の背中だった。


「桐生一馬の護ってきた宝物。今の俺は、これを護る為に動いてるだけさ」


東城会元四代目、桐生一馬。
秋山は今でも、あの背中を覚えている。
大切な人や居場所を護る為に、極道を引退した後でも東城会の為に立ち上がった‟堂島の龍”と呼ばれた伝説の極道。
再び咥えた煙草に火を点け、やる気を出さんばかりに膝を大きく叩いた。


「この後集金もあるんでね。悪いけど、澤村遥を早く返してもらうよ」
「あーそうかいそうかい。お前ら、可愛がったれや!!」


号令を合図に、喜瀬一派は全員で殴りかかる。
だが、この人数でも秋山にとっては『朝飯前』だった。

繰り出された蹴りは、自身に傷をつけられること無く敵を全て一掃した。
組員は顔や腹に蹴りを受け、痛みで悶え苦しむ。
軽やかな足技だけは、誰にも負けない自信があった。


「何やってんだお前ら!!死ぬ気でぶっ潰せ!!」


飛んできた怒号に、悶えていた組員達は隠し持っていた武器を構え始めた。
金属バットにスタンガン、どこから持ってきたのか模造刀まで握られている。


「そりゃ、ちょっとやりすぎじゃ……」


武装した男に思わずたじろぐが、不意に後ろに気配を感じ、驚き振り返る。
後ろに立っていた男の姿に、咥えていた煙草が口からこぼれ落ちる。


「携帯繋がんないと思ったらここにいたんっすね、秋山さん」


スーツを身に纏っているがかなり着崩した格好をしており、青色のネクタイがかなり緩められ、もうつけなくてもいい程垂れ下がっている。
身なりは変われど、根本的な部分は変わってはいなかった。


「谷村、さん」


谷村(たにむら)正義(まさよし)
かつて警察の中で『神室町のダニ』と呼ばれ嫌われてきたが、過去に秋山と解決した事件がキッカケで捜査一課に配属され新たな道を歩み始めた。
喜瀬は谷村の姿を見るなり、眉間にしわを寄せて睨む。


「警察か?」
「ただの通りすがりの男ですよ」


だるそうにする谷村は、返答すら適当だった。
胆が据わっているのか、はたまた面倒くさいのか。
共にいた時間があったとはいえ、何を考えているか未だよく分からずにいる。


「谷村さん、本当に正義の味方っすね」
「俺の名前にかけたんですか?面白くないですよ」


失笑しか生まれなかったこの場の居心地の悪さが肌身に染みる中、更に近付いてきた谷村が耳元で呟く。


「喜瀬はこのヒルズに、澤村遥を幽閉しているみたいです」


耳を疑った。
思わず声を上げて驚きそうになったのを、グッと堪える。
喜瀬に問いただそうとするが、答えが来る保証も無く口篭っていると。


「澤村遥を攫った理由は?ここに、監禁してるんでしょ?」


考えていた秋山を他所に、谷村がストレートに問いかけた。
まともな答えが返ってくるはずがないと踏んでいたが、どうやら相手はそんなつもりは無かったようだ。


「必要なのは、あの子供じゃない。あの子は、俺の野望の鍵を握っているだけだ」
「鍵……野望?」
「俺が狙ってるのは、東城会7代目の座だ。その野望の為に、必要な男がいる」


必要な男。
谷村が隣で考える中、秋山には大まかな察しはついていた。
堂島大吾、現6代目の座にいるあの男が邪魔だと言っているのだろう。


「お前ら見たんだろ、あのニュース」
「桐生一馬死亡、のニュースですよね」
「あぁ。あれがもし『偽物の報道』だと言ったら、お前らは信じるか?」


その言葉を聞いて、頭の中で渦巻いていた考えが全て繋がった。
澤村遥の誘拐、7代目の座の鍵、偽物の報道。


「桐生一馬は、生きている?」


ポツリと呟いた言葉が聞こえていたのか、遠くで喜瀬が口端をつり上げ気味の悪い笑みを浮かべていた。 
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