普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
086 積年の汚名返上
SIDE OTHER
今となっては昔の事である。……八意 永琳と云う女性にとって〝升田 真人〟と云う人間──と称して良いかは微妙なところだが、〝升田 真人〟──その青年は不確定要素の塊だった。
≪月の賢者≫と謳われた永琳の計算では──本来なら輝夜を拾うのは〝かの竹林〟で竹を伐採してはその伐った竹で道具を造る道具屋の老人だった。……しかし、輝夜を拾ったのは茶赤の髪の青年だった──と云う事を〝監視〟による言葉か知って、永琳は自分の計算ミスを悟った。
それからと云うものの、事態は永琳からして〝おもしろくない〟方向に転がって行った。……輝夜がよもや、肢体を許すとは露ほども思わなかった。そこにまた、〝升田 真人〟がかっさらって行った事を知った時、永琳の反応は筆舌に尽くしがたいモノだったと──とある弟子は語っている。
軈て輝夜を迎えにいく夜の前日、先に地上に降りた永琳は口先三寸で──詭弁と〝思いやり〟を込めた論調で輝夜を丸め込み、翌晩──云わば〝迎えに行く当日〟。……〝升田 真人〟と輝夜を引き離す事に成功した。
そこから1300年以上にも亘る、各地を転々とする日々の末、〝幻想郷〟へと辿り着けたのは永琳にとっても──もちろん輝夜にとっても僥倖だった。
〝月〟からの通達で、(永琳達からしたら)1300年超の運命の歯車が廻り始めた。……119季の〝幻想郷〟での出来事である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 升田 真人
鈴仙は大きな音を発てない様に襖を開ける。
戸の向こうに居たのは灰銀の長髪を大まかに三つ編みしてセンスを疑いたくなる様な色合いの服の上に白衣を羽織っている妙齢の、〝少女〟とも〝女性〟とも取れる女性。
……そして、嘗て辛酸を嘗めさせられた相手。
「こうして会うのは初めてか──≪月の賢者≫」
「そうですわね──〝女たらし〟さん」
期せずしてと云うべきか、これが≪月の賢者≫──八意 永琳との、〝事実上〟初めてのファーストコンタクトとなった。
「………」
「………」
「……あ、私お茶を淹れて来ますね」
会話の先導性を取ろうと八意 永琳と〝(会話の)技撃軌道戦〟にてお互い牽制し合ってていると、豈図らんや──意外にも、この部屋に蔓延していた空気にびくびくしていたらしい鈴仙がそう言って退室して行った。……恐らくだが、鈴仙はこの空間から逃げ出したかったのだろう。鈴仙の目に〝安堵〟の感情が浮かんでいたのを見逃していなかった。
(この場の雰囲気はリセットされたか。……ある意味助かった)
「……取り敢えず座ってはどうかしら」
「……それでは遠慮なく」
そう言われて、忸怩たる思いで示唆された座布団に座る。……〝1対1〟での会話と云うのは、大体は〝ボール1つでのキャッチボール〟である──と、俺はそう認識している。沈黙を肯定と見なして話を進める時も時も有るが、それは今は置いておこう。
……とどのつまり、何が言いたいかと云うと──俺は八意 永琳から〝会話の先導性〟を取られてしまったという訳だ。……今現在でも、俺が〝消えていた分の年季〟──実際にはもっとあるかもしれないが、1300年ものアドバンテージがあちらには在る。ここから巻き返すのはまず無理と考えても良いだろう。
(……って──そもそも、舌戦を繰り広げに来た訳じゃないよな…)
鈴仙がお茶を淹れて来てくれるのを待っている──そんな手持ち無沙汰な状況。ふと【永遠亭】に来た理由を思い出していると、机を挟んで座った白衣を羽織っていた彼女は徐に口を開く。
「取り敢えずは自己紹介からしましょうか。……改めまして、私は八意 永琳と申します。升田 真人さん──貴方の事は輝夜から〝いろいろと〟うかがっていますよ」
「ははは…。……どんな流言が語られているかと思うと気が気ではないですね」
「あら、〝女性の扱い〟が達者だと聞いてますわ。……なんなら私の事も〝扱って〟みますか?」
(……意訳すれば〝女たらし野郎め、輝夜に会いたければ私を倒していきな〟──ってところか)
「ご勘弁を──あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。……升田 真人です。少々道を誤り、人間をやめてしまった愚か者です」
「ふふ、敬語に慣れてないなら外してもらっても結構ですわよ?」
「それでは遠慮なく。……敬語は苦手でも得意でもないからな。……正直に云えばどちらでも構わないんだが、無礼講──と言ったら聞こえは悪いが、どうにもこっち方が慣れてるらしい。八意女史が寛大な懐の持ち主で助かったよ」
「いえいえ、先達の者としては当たり前の事をしたまでですよ」
(こいつぅ…)
やはり〝年の功〟と云うべきか。会話で後手後手に回ららされてしまう。
――「お師匠様、お茶のほうをお持ちしました」
「ご苦労様…鈴仙。そっちに取りに行くから、後は私がお客様の応対をするから下がって結構よ」
八意 永琳と無意味に会話のキャッチボールをしていると、この部屋に1つしかない戸の向こうから声が聞こえてきた。タイミング──それと、気配や声からして鈴仙だろう。……八意 永琳は鈴仙からお茶セットを受けとると鈴仙を下がらせた。
(……鈴仙に聞かせたくない事でもあるのか…?)
「〝鈴仙〟ったら、貴方と目を合わせるのが怖いみたい」
適当に鈴仙を下がらせた理由について考えていると、八意 永琳はそんな俺の考察を類推したのかそう溢した。……正確には俺と──もとい、〝升田 真人と八意 永琳が居る空間〟に耐えられないだけだと推測出来た。
……その事から、鈴仙・優曇華院・イナバと八意 永琳──二人の師弟関係の一角が見えた気がした。……鈴仙は八意 永琳に頭が上がらないらしい。……言い換えれば、師弟間にきっちりとした上下関係が築けている良き師弟関係とも云える。
閑話休題。
「……さて、存外とは云え輝夜の安否を聞けた事だし、お暇させてもらおうかね」
「……大して面白くもないジョークは止めなさい」
気温が体感温度で2℃ほど下がる──それに比例するかの様に八意 永琳の機嫌が急転直下していくのが判る。……淹れてもらったお茶や茶菓子に2~3舌鼓打ったあと、“テレポ”辺りの転移系の魔法で【満足亭】に帰ろうとした時の事である。
「私が〝それでは私が関先まで送っていきますわ〟──とでも言うと思ったのかしら? ……だとしたら──もしそれが〝挑発だとしても〟…つまらないわ、貴方」
「……それで挑発に乗ってたら世話が無いような気がするが──もしそれが挑発に〝乗せられたフリだとしても〟、挑発に乗った時点でこちらの思惑通りだよ。……いやはや、どうにも〝人の機微を察する〟と云う分野では勝っているらしい」
「……はぁ…。もう単刀直入に聞きましょうか──貴方の〝望み(ねらい)〟は何かしら?」
「なんでも良い。八意 永琳──貴女に勝ちたかった。……さて、舌戦はここまでとして──後は〝決闘〟で語りましょうか」
俺の得意な──と云うよりは〝勝てる可能性が高い場面〟に引きずり出す。……それが俺の──鈴仙から〝八意 永琳〟と云う名を聞いた時からの狙いだった。……〝フリ〟とは云え挑発に乗ってしまった八意 永琳は、今更になって俺が申し込んだ〝決闘〟を拒否する事は難しいだろう。
……つまり──漸く数年前(俺の主観での)の雪辱を果たせると云う訳だ。
「……そう云うこと…。……だったら時間も無い──事もないけど面倒だから〝1枚〟だけで相手してあげる。……ここじゃあ少々手狭ね。〝場〟は貴方が用意して頂戴。用意出来る事は輝夜から聞いてるから」
「そちらで用意しても構わないが…。まあ良いか。……〝禁手化(バランス・ブレイク)〟! ……“彼の理想郷が創造主の掟(ディファレント・ディメンション・マスター)”。」
八意 永琳の言葉に〝是非もなし〟と応えるかの様に──もとい、いつぞやの様に“絶霧(ディメンション・ロスト)”の〝禁手(バランス・ブレイカー)〟を開帳し、これまたいつぞやの様に〝設定〟を開始する。
「……〝設定〟。……外界との時間差は等倍に指定。……構築内の景観は行使者を現在地を中心として無機生命体を含め、半径100メートル四方をそのまま模倣。……空間面積は現時点より10倍に拡張。……行使者以外の外界からの侵入可否の判別は行使者の随意選択に委譲。……〝設定〟は終わったぞ」
「空間が拡張されている…。……それに外界からの隔絶かしら──いっその事、ここまでやれば〝世界想像〟と言っても差し支えは無いわ。……輝夜から聞いていたけど芸は細かいみたいね」
広々と拡がった八意 永琳の部屋。そんな空間を見ながら八意 永琳は興味深げに呟く。
「……なに、〝決闘〟が終われば元通りだよ」
「……〝月〟に楯突きし愚かなる現人神よ、〝月〟からの誅罰の代わりに〝賢者〟からの〝遊戯〟…。……〝穢れ〟にまみれたそなたに、この弾幕が超えられるか!」
そんな口上と共に八意 永琳との〝決闘〟が始まった。
SIDE END
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