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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  083 「私に任せて先に行け」


SIDE OTHER

月は妖しく輝く。それはきっと数多もの歳月を越えての、まずは有り得なかったであろう──とある2人の再会を祝しての事だったのかもしれない。

……〝少女〟からしたら、連綿と続いていた虚無感を覚える事を禁じ得ない夜が明けた瞬間だった。……しかし〝少女の夜〟は明けたが、〝幻想郷〟の夜は止まったままだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 升田 真人

「……おかしい」

【満足亭】の自主休業日。2回で最近の日課となっていた〝PSY(サイ)〟の鍛練の後、いざ布団に入ろうと云う時に〝いつもとなんか違う感〟で眠れなくなっていて呟いた言葉である。……どうにも、昨日まで──いつもとは〝月〟が違っているらしかった。

「それにしても──なんだこの充溢(じゅういつ)している魔力は…」

〝月の魔力〟は妖怪に力を与えるとは云うが、どうも今は〝度〟が過ぎている様にも思える。……実際、〝見聞色〟で聴力を強化してみれば〝幻想郷〟の至るところから獣やら妖怪やらの遠吠えが聞こえる。……恐らくは木っ端妖怪が〝月の魔力〟にでも充てられたのだろう。

「……〝これ〟はちょっと、拙くないか──そうか、これが〝異変〟か」

〝異変〟。……この〝幻想郷〟では、空が血の様に紅い霧で覆われたり、春になっても雪が止まなかったり──文字通りの[異変]が屡々(しばしば)発生するとの事。今回の〝これ〟も〝異変〟になるのだろう。

(このままじゃ、〝酔っ払い〟が大量生産されるぞ)

遠吠えしているのは獣人──ないしは木っ端妖怪なくらいで、先にも触れた通り〝月の魔力〟に充てられて軽い酩酊(めいてい)状態に陥っていて気が大きくなってしまったらしい──それでそこかしこから遠吠え等が聞こえてくると推測した。

「……さて、寝るか」

寝る事にした。〝餅は餅屋〟…。かねてよりそう云われる様に、〝異変の解決屋〟なるものも存在しているとの事。……その〝解決屋〟が≪博麗の巫女≫──つまりは博麗 霊夢、その人らしい。……〝らしい〟とついているのは、霊夢が何の気無しに語っていたのを偶々(たまたま)聞いていたからである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……そう思っていた時期もありました」

俺は今〝3人〟で夜半の幻想郷を駆けていた。……寝たはずの俺がこうして寝惚け眼で幻想郷を走っているのは、大体俺を叩き起こしてくれた〝2人〟のお陰だったりする。

『どうかしましたか、マスター』

「はやく行こうよ、真人! じゃないと幻想郷が大変な事になっちゃう!」

今のところ俺を〝マスター〟と呼ぶのはミナだけである。……〝餅は餅屋〟にと、今回の〝異変〟については高見の見物を決め込んだのだが、ミナ──それにシホに、寝ている最中だったがその両名に叩き起こされた。……曰く──

―ミナに頼んで、夜をミナの魔法で止めたから、止まっている内にこの〝異変〟を私達で解決しよう。……そのくらいには〝あの月〟は拙いからね―

とはシホの言。

〝混じり〟であるシホは、より〝月の魔力〟に当てられやすいのかもしれない。……それだからか、それなりに焦っているのだろう。

閑話休題。

(それにしてもミナさんや、貴女は俺の使い魔なんじゃないですかねぇ…)

どうにもミナから俺に対する尊厳度の様なものが低くなっている様な気がしている。……まぁ、それもそのはず。1300年以上の間を放っておいてしまったのだから、それも仕方無い事なのかもしれない。……しかし、昔より幾分かとっつき易くなっているので、ある意味では助かっている。

また閑話休題。

「……竹林、か…」

『……ええ、竹林ですね。どこからどう見ても』

「……まごう事無き竹林だね、うん」

霊体と化しているミナの先導に従い数十分と走っていると、何の変哲も無さそうな竹林に着いた。……どうやらミナはこの竹林で俺達を迷わせたいらしい。起伏の少ない道、どこまで進んでも変わらない〝竹〟一色な景色。そして妖精の悪戯(いたずら)──それらが相俟って、この竹林は【迷いの竹林】と通称されている。

「……で、ミナ。俺達をこんな竹林に導いた理由は?」

『この規模の〝異変〟が初体験なマスターは知らないかもしれませんが、〝異変〟の時は大体〝妖精がとても暴れている方向〟に向かえば〝その異変〟の黒幕が見つかる公算が高いのです。つまり…』

「つまり──この竹林の中に黒幕が居る可能性が有るって事だね」

シホはミナの説明を引き継ぐかの様に〝異変〟に関するチュートリアルを終わらせる。

道中、〝蛍〟〝夜雀〟〝半人半獣〟の順に襲われたが、〝スペルカードルール〟でコテンパンにした。

蟲を操ってきた〝蛍〟は、ミナが(おびただ)しい程の蟲を〝汚物は消毒だーっ〟と云わんばかりに焼き払い(峰打ち)、視力を落としてきた〝夜雀〟は俺が〝仙術〟で探知しながら撃ち落とし(峰打ち)、〝半人半獣〟は残っていて──かつシンパシーを感じたらしいシホが応対(峰打ち)した。

……敢えて云っておくが、全員一対一(サシ)でやっている。スペルカードルールは〝遊び〟ではあるが〝決闘〟である事にも変わりはないので、他人(ひと)の〝決闘〟にちょっかいを出すような──そんな野暮ったいマネはしていないし、させてない。

――「おっと、そこのお三方。撃つと動く──間違えた、動くと撃つぜ」

竹林を妖精が〝うるさい〟方向に駆けていると、聞き覚えのない声が掛けられる。声の主である白かったり黒かったりする少女──魔理沙は俺達に向かって、“ミニ八卦炉”を──マジックアイテムをこちらへと向けていた。

……そんな魔理沙だったが、〝蛍〟を倒して以来ずっと実体化していたミナに気付くや否や、とんでもない事を(のたま)った。

「……って、師匠じゃないか」

「「師匠っ!?」」

「あー、少し魔法について悩んでいた少女が居たので、アドバイスしたら〝師匠〟と懐かれる様になってしまって…。……ほんの少しし──それも、大したアドバイスはしてないんですけどね」

驚く俺とシホに、ミナは言い訳がましく説明してくれる。

「……さて、時間も逼迫(ひっぱく)してますし、ここは曲がりにも〝師匠〟な私が残りますから、シホさんとマスターは先を急いで下さい」

「……判った」

「……行こう、シホ」

そんな死亡フラグみたいな事を宣ったミナの目を見ても〝不退〟の意思が強く感じられたのでミナの言葉に従って、俺とシホは【迷いの竹林】を強く駆け出した。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「寝入っていたところ、紫に〝月がうんぬんかんぬん〟って叩き起こされているから機嫌が悪いのよね。……くぁぁ~」

魔理沙に続いて、今度は欠伸をしている霊夢と鉢合わせになってしまった。……どうやら霊夢の中では、今回の〝異変〟犯人は俺達になっているらしい。……〝夜を止めた〟のはミナ──つまりは俺達なので、〝月〟の件に目を瞑るなら、〝異変〟を起こしている事は(あなが)ち間違いでは無い。

(……同類発見…)

霊夢は、霊夢の言葉を信じるなら──紫に叩き起こされたらしい。……正直、同情を禁じ得ない。

「……真人は先に行って」

「ああ──って、俺が行くのか? ……どっちかと言わばシホの方が良くないか?」

返事をしかけたところでのシホの信じられない言葉に転びそうになった。……普通に考えれば、シホが先に行った方が確実なのだが、ミナと同じくシホも譲るつもりは無いらしい。シホの眼がそう語っていた。

「……判ったよ」

数瞬だけ月を見上げた後、シホを尻目に見ながら【迷いの竹林】を駆け出した。……心無しか、月が妖しく輝いている様な気がした。

SIDE END 
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