カエサルと海賊
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2部分:第二章
第二章
「もっとだ。もっと高い」
「高いっていうのかよ」
「じゃあどれ位なんだよ」
「一体」
「これだけだ」
カエサルがこう言って出してきた金額は。かなりのものだった。それを聞いた海賊達はまずは目を丸くさせてだ。驚いた顔で言うのだった。
「おい、幾ら何でもそれはないだろ」
「それだけ出すっていうのかよ」
「御前一人に」
「そうだ」
カエサルは胸を張って言い切る。
「その通りだ」
「随分ふっかけるな」
「っていうかこいつそんなでかい家の人間なのか」
「そこまで出せる位にか」
「家についてはその通りだ」
実際彼は傍流ではあったがローマの名門の家の出だ。貴族の中でもかなりのものだったのだ。
「そしてだ」
「そしてかよ」
「今度は何だってんだよ」
「私自身の資質がだ」
これについても言うのだった。
「私にはそれだけのものがあるのだ」
「随分言う奴だな」
「こいつ馬鹿か?」
「いや、何かおかしいんじゃないのか」
「大物か?」
「器が大きいのか、まさか」
「少なくとも私は大器だ」
このことを自分から大いに言うカエサルだった。
「それが私なのだ」
「何処まで言うんだ、一体」
「しかしそれだけの身代金を要求できるんならな」
「そうだな。他の奴等はいいな」
「ああ、放してやるか」
船にはカエサル以外の人間もいる。しかし海賊達は彼等についてはいいとしたのだった。
「別にいいな」
「それだけあればもうな」
「船の金も入れてな」
「それじゃあな」
「人質は手前だけでいい」
こう決めたのだった。そうしてだった。
他の者からは金を取るだけで放してだ。船も取らなかった。カエサルだけを人質に取りだった。海賊達は身代金が届くのを待つのだった。
しかしであった。彼等のそのアジトでだった。
カエサルはだ。常に胸を張ってこう主張するのだった。
「もっと美味いパンと酒をくれ」
「おい、図々しい奴だな」
「それが人質の言うことか」
海賊達はそのカエサルに対して呆れながら返した。
「御前人質なんだぞ」
「もっと大人しくしろ」
「全くだ」
「何を言うか」
カエサルの言葉だった。
「私は五十タレントゥムの男だぞ」
「そうだったな、二十タレントゥムをそこまで吊り上げさせてな」
「二十タレントゥムってローマじゃ一個軍団養えないか?」
「それって相当な値段なんだが」
「さらに二倍半に吊り上げるって」
「言い過ぎだろ」
「言い過ぎな筈があるか」
だがカエサルは胸を張って言うのだった。
「私を誰だと思っている」
「名前は聞いたよ。カエサルだろ」
「ローマのカエサルさんな」
「仕事は弁護士だったな」
「そうだ、その私だ」
傲慢なまでに胸を張っての言葉だった。
「わかったらだ」
「ああ、いいパンとワインだな」
「それだな」
「それに肉だ」
また言う彼だった。
「果物も欲しいな」
「おい、肉もだと!?」
「しかも果物もか」
「そうだ。肉は鶏肉だ」
それを所望だというのである。
「果物はオレンジがいいな。そうだ、オリーブも忘れるな」
「こいつ、何処まで要求するんだ」
「胡椒は我慢しておこう」
当時ローマにおいては胡椒は途方もない贅沢品であった。これは大航海時代まで欧州においてはそのままのことだった。
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