月の聖杯戦争 ~青き騎士と共に~
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一章 隸属庭園
再会
───女の話をしよう。
目覚めた時から、女は病理に繋がれていた。
重い鎖は満遍なく
つま先から頭まで、ミイラの如き死に化粧。
自由がない、と余人は憐れむ。
自由はない、と彼女は喜ぶ。
鉄のドレスは難攻不落。
城門開いたその奥に、在るのは乙女か魔性の罠か。
他人の秘密の蜜の味というが、さて────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「....脳波の正常活動を確認しました。
アルファ波、ベータ波平常。
─── 覚醒状態です。」
近くから女性の声が聞こえた。
「この声が聞こえますか?
落ち着いて、
ゆっくり瞼を開けてください。」
瞼を開け、周りを見るとそこには見覚えのある少女が立っていた。
そう、桜だ。
「あれ.....?ここは.....?」
ベットに横たわっている身体を起こしながら、少女は桜へと質問を投げた。
「ここは保健室です。良かった.....」
桜は場所を告げると少女へ微笑みかけた。
そして、何故か桜は保健室の端へと移動していった。
「もしもし、こちら保健室です。
岸波白野さんが目を覚ましました。
精神、肉体、共に問題は無さそうです。」
何もない様に見える場所に桜は少女のことを報告した。
ただの独り言かと思われたが違っていた。
「それは良かった。では、早速ですが
こちらに来ていただけるよう
伝言をお願いします。」
男の声が聞こえた。
この声に少女は聞き覚えがあった。
が、まだ確信した訳ではなく、口には出さなかった。
──────────
────
「はい....分かりました....」
何者かとの通信を終えたようだ。
「あの......
今の通信、聞こえていましたか?」
桜が申し訳なさそうに少女へと顔を向けた。
「うん、聞こえてたよ。生徒会室に来てってことでしょ?」
あれだけの音量、聞こえない方がおかしい。
「......そう、ですか。
生徒会室は二階にあがって
左手側の教室です......」
桜はばつの悪い顔をしている。
「時を争うんでしょ?しょうがないよ。」
そう言い、少女は保健室から出ようとした。
「あ、岸波さんのサーヴァントは
二階に上がって右手側の教室に
待機してもらっています。」
少女の英霊、アルトリア=ペンドラゴン。
“ペンドラゴン“と言う名だけでも気付く人間は多いだろう。
彼女の英霊こそ世界に名高い騎士の王、“アーサー=ペンドラゴン“。
「会いたがっていましたので、早く会いに行ってあげてくださいね。」
その言葉に少女は苦笑いを浮かべた。
「色々とありがとう桜。ーーまたね。」
そう桜に告げ、少女は保健室から退室し、セイバーが待つと言う教室へと向かった─────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
教室に入るとそこには木造の机、木目のタイル、レトロな窓枠と、昔懐かしの物がたくさん存在していた。
THE・旧校舎である。
「お待ちしていました、マスター。
ご無事で何よりです。」
聞き覚えのある澄んだ声が横から聞こえた。
「セイバー.....」
そこには白銀の鎧を身に着けた少女がいた。
共にあの聖杯戦争を駆け抜けたセイバーだ。
聖杯戦争で共に戦ったのだから間違えようがない。
「はい、どうしましたか?マスター?」
セイバーは笑顔で少女の方を向いている。
「確認だけどいいかな....?
セイバー、もう一度私と戦ってくれる?」
その言葉に一瞬驚いたような顔を浮かべたが、すぐ戻りこう述べた。
「何を言うのかと思えば。良いですか、マスター?
この身は御身の剣となると誓った身です。
今更、誓いを変えるつもりはありませんので」
決意のこもった顔でセイバーは少女の方へと向いていた。
「なら良かった。
────またよろしくね、セイバー。」
「はい。
こちらこそ、マスター。」
そう言うと少女とセイバーは握手を交わし、目をあわせた。
不意に、少女が目を逸らした。
「───あ、生徒会室行かないと...」
少女は行くところを思い出したようだ。
保健室を出てからかなりの時間が経っている。
〈時を争っている〉と言う事自体、忘れていたようだ。
「セイバー、走るよ.....!」
そう言って少女は扉を開け、物凄い速さで教室から飛び出していった。
「マ、マスター....待ってください.....!」
セイバーも遅れて少女の後に付いていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
生徒会室の扉を開け、少女は中へと入った。
セイバーも少女の後ろから入り、扉を閉めた。
「これは...」
そこは先程の教室とは異なっていた。
一つは豪華な絨毯がある点。
二つ目は巨大なモニターがある点だ。
ちょっとした会議室のようなものへとなっていた。
「あ、来ましたね!」
時代錯誤な木造の教室には、
黒い学生服の少年、黒のコートを着込んだ青年、白い鎧を着た騎士がいた。
黒い学生服の少年の名はレオ。
少女が月の聖杯戦争の決勝において死闘を繰り広げた相手だ。
ーーご機嫌よう、ミス岸波
あの気品のある態度など忘れるはずがない。
「はい、それじゃあ二人とも、せーの.....
おはようございまーーーす!」
瞬間、生徒会室は重い空気に包まれた。
「「........はい?」」
セイバーと少女はドン引きしている。
あの気品のある態度はどこへ行ったのだろうか。
「あ。もう、二人とも
打ち合わせ通りやってください。」
やりたくないだろう。誰も。
「もう一度いきますからね。
せーのっ.......
おはようございます、岸波さん!」
「グっ、グッドモーニング.....」
「お......おはよう、ございます。」
瞬間、少女は扉を蹴破り、生徒会室を出ていった。
しょうがないだろう。怖いもの。
セイバーも後から出て扉を壁に立て掛けた後、少女の後を付いていった。
「ま、待ってください!岸波さん!」
後ろからそのような声が聞こえたが少女とセイバーは無視をし、二人は再会した教室へと逃げ込んだ。
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