ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
狂乱者-バーサーカー-part1/闇に誘われる少年
ガーゴイル。それはレコンキスタを統率する偽虚無の担い手であるクロムウェルの使い魔を騙り、彼を通してレコンキスタを影で支配していた謎の女、シェフィールドの使役する悪魔を象った石の人形。
奴は常に自らの目的のために闇の中から光の差す場所を監視し続ける。その目に移る世界は、常にシェフィールドに通っていく。
「ゼロ、そしてネクサスの人間体…」
ウェールズがアンリエッタを連れ去った、後に王女誘拐事件と呼ばれる騒動の最中、彼女はある場所から、ガーゴイルの目を通してサイトやシュウの動きを常に観察し続けていた。
「ゼロは主だけでなく、自身の身を忘れない。さらには伝説のガンダールヴの力を持ち、変身後に至っては肉弾戦にも長けるオールラウンダー。
対してネクサスの方は、緊急ならば人前で堂々と変身し、己を省みない力押しの戦い。根性は座っているとはいえるし、ゼロよりも場数を踏んでいるようだけど…」
ガーゴイルの目に映る先のヴィジョンにて、二人が変身し、さらにグレンファイヤーが現れ、メフィスト・ガルベロス・そしてミラーナイトと3体3の激闘を繰り広げる。
「ご主人様はしばらく泳がせても構わないとは言っていたけど、彼らがいずれ我らの野望の邪魔となるのは明白。今の内に、処分しておくことに越したことは無いわね。
しかし、今回アンリエッタを連れ浚い、操って裏からトリステインを乗っ取りつつ奴らを始末する作戦は失敗したか…」
「いかがいたしますか?」
クロムウェル―ただし、彼に成り代わった擬態―がシェフィールドに問う。
「今回はグレンファイヤーという不測の事態もあったし、一度に同時始末するのが間違いだった。奴らは一人ひとりが精強、そして一つになると強敵。
しかし一体だけならたとえどんなに強くても、策を講じれば力の差を埋められるわ。
まずは、ネクサスの方を叩いておきましょうか。彼の戦闘データも集めておきましょう」
「メンヌヴィル殿には何もおっしゃらないので?」
「彼からの情報が入ったわ。ネクサスの変身者の潜伏先に、利用価値のある奴がいるそうよ。恐らく、奴も独自でネクサスの動きを探っていたのかもしれないわね。実際、情報通りガーゴイルを飛ばして観察したら、一人面白い子供がいたのよ」
そう言った時の、シェフィールドの目に移るガーゴイルの視界の中に、木陰からシュウと、披露した彼を運ぶテファを睨むサム少年の姿が見えていた。シェフィールドにはわかる。あの目からは、マイナスの感情が溢れている。厄介な相手を始末するのに利用しないわけがない。
「それともう一つ、グレンファイヤーのことも含めた奴らの動向と対応ね。まずは…」
ふと、シェフィールドは自分とクロムウェルとは別の新たな気配を察し、一旦ガーゴイルから、自分の視界を元に戻し振り向く。
「あら、あなた…トリステインの方に行ってたのでは?」
そこにいたのは、以前黒いフードに身を包んだメンヌヴィルと共にシェフィールドたちと会っていた女だった。この日もまた以前と同じ、素顔を覆うほどの黒フードを被っていた。
「『人形』がもうじき再起動できるので、その報告に来ました。それと一つ…」
「一つ?何かしら」
「できれば、彼…ネクサスは殺さずに置いてくださいませ」
的であるはずの、シュウを殺すなという言動にクロムウェルは目を細めた。
「なぜだ!?ウルトラマンが我々の計画にとってどれほど邪魔なのか知ってて…」
シェフィールドが憤る彼に手をかざし、一度黙るように命じると、その詳細を女に尋ねる。
「殺さずに?メンヌヴィルが文句でも言いつけてきたのかしら?彼はネクサスと戦い足りていなかったみたいだから」
「いえ、生かしておいたほうが都合がいいからです。なぜなら、彼『も』…」
「『供物』だから、かしら?私たちが求めているものとはまた別の…」
「ええ。あなた方が求めているもの、そして我らが求めている…もう一つのもの。それらが一つの力となれば、たとえいかに強い光が差し込もうと、決してそれを照らすことはできません」
「……」
シェフィールドと、女の間に奇妙な沈黙が走る。決して厚い友情などで結ばれた間柄ではない。本来は別の道を歩んでいるもの同士があくまで利害が一致し、互いのために協力し合っている…それだけの関係。もし片方が自分たちに害を成すようなことをすれば、その途端に対立する、実に不安定な関係でもあった。
「ところで、人形がじきに動かせるようになると入っていたけど、私が頼んで置いたトリステインでの作戦の方…忘れていないかしら?」
「まさか。しっかり準備の方を進めておいております。もう一つあなたが頼んでこられたゼロの戦闘データ収集も兼ねてね」
「そう、それはよかったわ。…そうだ、閣下。あの虚無の担い手とかかわりのあった怪獣はどうかしら?」
「…手を焼かされております。言うことを聞かせようにも、暴れだしてこちらに負傷者を出させて…お預かりした『バトルナイザー』だけで言うことを聞かせるのも限界かもしれません」
「そう…。以前はバトルナイザーの力のみで抑え込ませていたけど、まあ少なくとも今回あいつは使えないと言うことね。たかが獣の分際で、飼い主のいうことも聞けないようじゃ仕方ないわ」
ふぅ、と息を吐くと、シェフィールドは全員の方へ振り返った。
「『あの方』がお目覚めになる前に、我らの計画を完遂させ、邪魔者を排除する。各自作戦に当たりなさい」
自分たちの目的を完遂させ、我らの主の心を満たすため…。
シェフィールドたちは再び動き出す。自分たちの行動が、世界にどれほど歪みきった影響を与えることも厭わずに。
少年は空に浮かぶ浮遊大陸に存在する国の人間。その国は王党派と貴族派の二派に分かれて国が対立している。そのせいで秩序が乱れる一方にあった。本来秩序を守っていた貴族の仲から氾濫分子が発生し、それを防ごうと王党派が躍起になっている。その間に無関係の民たちが、同じく政府とは無関係の悪党たちの犯罪をみすみす見逃すことになり、国はそれを支える貴族たちの知らないところでさらに乱れていく。
その少年は、物心がついたときから一人だった。名前を持たず、住む家も持たず、浮浪者といってもなんら間違いではなかった。ただ生きている。生きるためには食べ物が必要だった。しかし少年はお金を当然ながら持っていなかった。それに見た目からして貧乏臭すぎる上に教養を何一つ学んでこなかった少年を、同じ平民でさえも雇いたがらないからお金を1ドニエも手に入れられない。
だから食べ物を手に入れるには、盗むしかなかった。もちろん何度も捕まってはその度に、彼に食料を盗まれた店の主から酷い仕打ちを受けることになった。ちょっとくらいいいじゃないか。こっちなんか生きる術といったら食べ物を盗むくらいしかできないのだ。それなのに自分がこんな仕打ちをどうしてされなければならない。
理解できない。ただわかるのは、理不尽な現実を押し付けてくる大人たちに対する怒りが募っていくことだけだった。大人たちがしっかりしていれば自分がこうなることはなかった。それは事実その通りと言えなくも無かった。貴族たちは二派に分かれ自分たちの権力闘争にばかり集中し、平民の大人だって乱れていく国の中で自分たちが生き残る方に必死で、自分みたいな弱い立場の子供のことなど気にもかけない。教育の機会を得られなかった少年だったが、それでも国のことを学びつつあった。
大人が身勝手で、自己中心的だ…と。
大人は信用しない。誰も信じない。だから一人で生きることを決めた。
だがある日、少年に転機が訪れた。
その日、少年はあるパン屋からパンを盗もうと店の中に忍び込んだ。そしていつもどおりパンを盗み出してやった。いつしか盗みそのものが楽しみに思えてきていた。大嫌いな大人たちのあわてふためき、こちらに向けて怒りや顔がたまらなくなっていた。
追いかけてきている大人の喚く姿は甘美に思えていた。しかし、流石にここまでのレベルになって来ると、現実はなけなしの譲歩さえも与えてくれなくなった。
前を見ていなかった少年は、ある者にぶつかってしまう。なんだよ、といらだって顔を見上げると、自分がぶつかった相手は、とあるアルビオン貴族の当主だった。トリステインにもコルベールやオスマンのような身分差別などしない模範的な貴族もいれば、モット伯爵やチュレンヌのような貴族の風上にも置けない愚か者もいる。アルビオンにもそれは同様で、運が悪いことに少年がぶつかった相手は、後者だった。誰でも相手とぶつかったりその拍子に服を汚されたら怒りたくもなるが、その貴族は悪辣な言葉を吐いてきた。
『ドブネズミの分際で、よくもこの私の服を泥で汚してくれたな!始祖の名において八つ裂きにしてくれる!』
明らかに自尊心と傲慢さを吐き出し、貴族は自分の服が汚されただけで少年の命を奪おうとしたのだ。たかが窃盗と服を汚しただけで死刑宣告。地球では考えられないケースだ。
直ちに少年は衛兵に捕らえられる。
『放せよ!この成金野郎!』
死にたくなかったし、少年は殺されるような謂れはない。まして服を汚されただけでここまでいきり立つ貴族の大人気ないにもほどがある脳みそが知れない。抵抗をする少年だが、もちろん相手は大人の集団。勝てるはずがない。
『ボウズ、悪く思うなよ』
剣を引き抜いた、貴族の私兵は少年が盗んだパンを踏み潰し、彼に向けて剣を振り下ろそうとする。
『うあ…』
いやだ、死にたくない。死にたくない!!
少年は殺気までむき出しにしていた貴族への反抗心が薄れ、死への恐怖を募らせた。だが、今まで一人きりで生きてきた自分に味方がいるはずもない。無常にも振り下ろされてきた剣に対して少年は目を閉ざすしかなかった。
が、ここで思わぬ助け舟があった。
『ご、ゴーレムだ!!』
『うぎゃあああ!!』
突如全長20mほどの土の巨人が現れ、その貴族や私兵たちを殴り飛ばしてしまった。
『な、何をしている!さっさと殺せ!』
貴族はゴーレムに向けて反撃に出ろと命じるが、私兵の大半はゴーレムに恐れをなしてすでに逃げ出していた。
『く、くそ!覚えておれ!』
自分に勝ち目がないことを悟ったのか、貴族も捨て台詞を吐いて逃げ出した。
少年は不測の事態に呆けていた。ゴーレムの肩に、ローブに身を包んだ女がいる。彼女が杖を振るうと、ゴーレムは少年を行き成り掴み上げ、自身の肩に乗せてきた。結果として少年は助かったが、何が起こったのかわからず呆然としていた。ただ、この女がメイジで、自分を助けてくれたことは理解できた。
『大丈夫かい?』
『え…あ、うん…』
『ったく、たかが服を汚されただけで…小さい男だね』
先ほどの貴族の、この少年に対する対応を思い出してか、ローブの女は舌打ちする。ともあれ、いつまでもゴーレムの上に乗った姿を晒すわけに行かない。彼女は自分たちを乗せているゴーレムを街の郊外へ走らせた。
なんとか町から撒いた後、女はゴーレムを土くれに変えて少年を森の中の草の上に下ろした。
『そうだ、あんた。名前は?』
『……』
名前を尋ねられた少年だが、答えられなかった。ただ、首を横に振ることしかできなかった。
『そっか、…名前無いのかい。とすると、お母さんもお父さんもいないんだろ』
その問いには率直に頷いた。少し思案すると、女はあることを提案した。
『…そうだ。あんた、うちにくるかい?』
『え……?』
『金のことなら大丈夫さ。ついさっきだってあいつの屋敷からちょいと盗んできたし、一人二人増えたところで問題ないさ』
少年は行く宛てが無かった。ほぼ流される形とはいえ、彼は女についていった。
突いた先は、小さな村…だろうか。一世帯の家庭が済める程度の小屋が立っているだけで他は何もない。
『今戻ったよ~』
『あ、お帰りなさい!』
女が小屋の方に向けて呼びかけると、中からもう一人少女が迎えに来た。サムは目を疑った。年上のようだがまだ10代に差し掛かったばかり。しかし幼い少女の容姿と黄金の頭髪はとても美しかった。ただ一つ代わっていると思ったのは、彼女の先のとがった耳だった。とはいえ、それ以上に彼は少女の美しさに見ほれていたこと、そしてエルフがこの世界で々思われているのかも知らなかったので恐れを抱くことは無かった。
『あら、この子は?』
『行く宛てがない可愛そうな子だよ。あんたを一人で待たせるのもちょっと寂しくさせそうだからね。この村の新しい住人として迎えようと思って連れて来たんだ』
女もエルフである少女の境遇の危うさを知っていたに違いないが、この少年の少女を見る姿が敵意でないこともあったし、何より名前さえ持っていないということは知識もほとんど持っていないということ。だから少女が恐れられることは無いだろうと予想していた。そして少女はエルフの血を引くために、このローブの女がいない間は一人である。少年の行く宛てが無いこともあり新しい住人として村に置こうと考えた。
『そうなの。ありがとう、姉さん。お話しする相手が欲しかった頃だったの』
行き成りの来訪者に少女は決して迷惑に思わなかった。寧ろ、新しい住人が北と言うことに喜んでいた。
『私はティファニアっていうの。あなたのお名前は?』
『……』
名前をまた尋ねられたが、少年は答えられない。
『実はね、この子名前が無いみたいなんだ』
『え?』
『おそらく親が物心着く前に死んじまったか、又は捨てられたかもしれないね』
女は名前さえわからない少年を可愛そうに思っていた。無論金髪の少女も同じだった。
『だったら名前をつけてあげよう?せっかくの新しい村の仲間だもの』
少女の提案で、少年に新しい名前がつけられた。
『じゃあ…あんたの名前は、サム』
『…サム?それが…僕の名前…』
これは数年前のアルビオンでのちょっとした出来事、でも小さな世界で生きてきた少年にとってはとても大きな転機だった。
すでに盗賊として活動していた、少女時代の土くれのフーケことマチルダ・オブ・サウスゴータと、このときは名前さえ持っていなかったサム少年の出会い。
サムはその後、決して盗みをすることはなかった。盗む理由をなくしたからだ。テファとすごす日々、そして仕事の都合で村を開けることが多かったが、時折帰ってくるマチルダの優しさに触れて、黒く染まっていた少年は白に戻りつつあった。やがて少年以外にも、新しい家族が増えた。ジム、ジャック、サマンサ、エマ。この子達もまた自分と同じ孤児だった。マチルダも生活費が苦しくなることがわかっていたが、サムを助けたのがきっかけで、やはり見捨てることができなくなってしまったらしく連れてきたのだ。しかしテファもサムも苦に思うことは無かった。寧ろ自分たちの同じ境遇の子が新しい家族となったことを喜んでいた。同じ痛みを知るもの同士、そして幸せな日々を過ごすもの同士として、裕福とは言いがたかったが、それでも楽しく幸せだった。
ただ、ジャックやジムがたまにテファにじゃれ付くのを不満に思い、テファのぬくもりをめぐって喧嘩してしまった。もちろんテファに怒られてしまい、そして仲直りをするように言われた。そして次の日にはまた仲良しに戻る。
朝昼晩と食事や遊ぶ時間を共有する平穏な日々が続いた数年後…。テファが17歳になってしばらく経った頃だった。
テファが使い魔として、シュウを召喚したのは。
サムは、シュウの最初のテファへの警戒する態度、鉄仮面のような無愛想さが気に入らなかった。なにより、見た目からしてテファと同じ年くらいかそれ以上ほどの青年であること、テファがここ最近シュウをやたら気にかけていることに気づき、余計に気に入らなく思った。
しかもある日、自分たちがまるで敵いっこなかった盗賊たちにテファが誘拐された日、彼はいともたやすく盗賊たちを撃退しテファを無事救出して見せた。それをきっかけに、最初はシュウを警戒していた、自分を除いた子供たちもシュウを強く信頼するようになった。
そしてシュウも、少しずつだが子供たちの相手をするようになった。ただ、子供との付き合い方にまだ慣れていないのかぎこちなさがあちこちで見受けられ、その度に子供たちやテファからも笑われ、彼は気まずそうに頭を掻くことも多かった。それでも彼は子供たちとの付き合いを苦手に思いながらも、彼なりに向き合いながら家事を頑張り、手伝っていった。
『よかった…シュウって最初は怖い人だと思ってたけど、本当は優しい人で』
テファのシュウを見る目が、だんだんと光っていくことに、サムは内心黒い感情がわきあがっていくのを感じた。
そしてある日、彼は偶然にも見てしまった。
シュウが、銀色の巨人に変身したのを。
あいつが盗賊を撃退できた理由もわかった気がした。あいつは、本当は人間じゃない。だから盗賊に浚われたテファを助けることができたのだと。
このままではテファが危険だと思った。
そしてさらに数日過ぎたある日、疲労したシュウがテファの肩を借りながら小屋に戻るのを見たとき、自分の頭の中に誰かが語りかけてきた。
―――――あの男が憎いかしら?
本当なら、過去の経験もあってこの声に警戒を露にするはずだった。
―――――あの男の力を奪い、あなたのものにする方法があるわ
しかし、シュウへの黒い感情を募らせるサムには、不思議と心が安らぎ、甘美に聞こえていた。
―――――あの男の剣を奪いなさい。あの剣さえ手に入れれば、あの男の持つ巨人の力はあなたのものになるわ。
あの男の力が自分のものになる。それはつまり、あいつが巨人になれなくなる。代わりに自分が、あの銀色の巨人に変身できるようになる。
―――――私が、手伝ってあげましょう
そうなれば、今度は自分がテファを自らの力で守ることができる。あんな男に頼る必要も無くなる。あの時の憎い盗賊たちも敵じゃなくなる。テファや子供たちも、目を覚ますことだろう。そして、自分に再び目を向けてくれるだろう。
―――――さあ、これを
サムの前に、何かが宙に浮きながら下りてきた。それは、一本のナイフだった。
「く…くく…」
それを手に取った瞬間、サムはまるで何かに取り付かれているように、無自覚に笑い出していた。その後ろで、シェフィールドのガーゴイルが怪しい眼光を放っていることにも気づかず。
トリスタニア城からラグドリアン湖に続く連戦が続き、ついにシュウは倒れてしまった。意識を手放すほどではなかったにせよ、丸1日以上は休まないと回復が見込めなかった。
「………暇だ」
以前マチルダが使っている部屋をそのまま資質として使っているシュウはベッドに寝かされていた。休むのも戦いのうちだぞと、少し訓練をやりすぎた日には和倉隊長に注意を入れられたことがあったが、何もしないままというのはなんだかもどかしさを覚える。
「最近のシュウ兄は働きすぎてるんだよ。ちゃんと休まないとお熱が出ちゃうんだから」
(…このじっとしている感じが、もどかしいな)
傍らで水をグラスに注いでいるエマからも注意を入れられるも、それでもシュウは何かをしたくてうずうずしていた。こんなの自分らしくないと思いつつも、何かをしたくて体がさらにうずく。
先日の事件にて、新たな闇の巨人…メフィストと遭遇した彼は、奴とはいずれまた戦うことになることを確信していた。奴は危険だ。実力についてもかなりのものである上に、死人を人形のように操り、相手の肉体よりも精神を追い詰めようとするなどタチが悪い。
元の世界のデータベースにも記されていた通り、奴は正真正銘の悪魔だ。野放しにすればその分だけ奴の手によって犠牲が出てしまうことは必然。できることなら今すぐにでも探して倒さなくてはならない。…のだが。
「気分はどう?」
たった今テファとサムの二人がスープを持って部屋に入ってきた。
テファたちは厳重にこちらを監視しているかのように、交代制でシュウの看病をしてきている。
「…まぁ、悪くはないが…」
「あれだけ疲れて帰ってきたんだから、しばらくお仕事は休んでで」
エマと交代し、ベッドの傍らの台の上に皿を置くと、彼女はスプーン一さじのスープをついでシュウに向ける。
「はい」
「い、いいって…自分で吸えるから」
自分の意思と関係なく召喚された身とはいえ、あまり世話を焼かされるのもあれだ。シュウは体を起こし、皿とスプーンを取ってスープを吸い始めた。熱すぎず、ほどよい暖かさがあった。
「ねぇ…」
テファがシュウの横顔を見ながら口を開いた。
「?」
「前にも言ったと思うけど…一体どんな仕事なの?」
「マチルダさんから聞いてなかったか?ちょっとした、ものづくりだ」
「ものづくりって…」
ものづくりであんな怪我を負うことがあるのか?と疑った。
シュウは、一見冷たい印象を抱かせるが、実は優しい人でもある。でも…テファは思った。
彼は危なっかしい。盗賊たちは愚か、ナメクジの怪物が現れたときは顔色一つ変えずに自ら立ち向かった。以前は火事で焼け崩れ出した建物から人を助けてやけどを負ったそうだが、やはり気にならないわけがなかった。
それにマチルダだって、サイトたちと会った際にはトレジャーハンターで競い合っていたとは言っていたが、思えば彼女は仕事の話をするといつもどこかはぐらかしたような言い回しをしている。マチルダも、彼も、本当に『仕事』といえるようなことをしているのか?
「ところでマチルダさんはどうした?」
一方でシュウは、村に戻ってからマチルダの姿を見ていないことに気づいて、彼女の所在をテファに尋ねた。
「……」
「おい、どうした?」
「え、あ…うん。姉さんなら、ちょっと村から離れてるの」
話題の切り替えのタイミングからして、またどこかはぐらかされたような言い回しをされた。それに気づいたテファは言葉を途切れさせたが、シュウからの声に我に返ってすぐに返答した。
「どうして?」
自分がトリステインで稼いでいる間は、村を守るように頼んでいたはずだ。
「実はね、姉さんの提案で…村を引き払う準備をしようとしてるの」
「引き払うって…村を捨ててどこかに行くのか?」
「うん」
「お引越しするの?」
エマからの同じ問いにテファは頷いた。
「ほら、前に村に悪い人たちに襲われて、私が連れ浚われたときがあったでしょ?それに今のアルビオン、どこかおかしいから…ここに要るのは危険だから引越しの準備をしようって」
「だから、準備のために必要なものを買いに出かけていたと言うことか」
それなら、今ここにマチルダが会えていなくなっているのも納得できる。けど一言くらい言ってほしかったところだ。それだけ急いでいたのだろうか。
「いつごろ出るんだ?港町の船だっていつでも出られるわけではないだろう?」
「こっちでも準備を始めて…後5日以内には」
「そうか…」
戦いに明け暮れていたシュウにとって、この自然に溢れた村の暮らしは、まるでキャンプしているかのようで過ごしやすかった。その矢先にこの村を離れることになろうとは。しかし無理もない。またここに、あのような盗賊が現れないという保証もない。それに、この国はレコンキスタが使役した怪獣による被害が出てしまっている。いつまでもビーストの巣窟も同然のこの国に留まるのは危険だ。
「しかし引越し先の目処は立っているのか?」
「とりあえず、トリステインに行くって。そこも危なかったらゲルマニアに住むことにするそうよ」
トリステインもトリステインで、危険度がある。あそこはすでに怪獣被害の起きた国だ。ハーフエルフであるテファのこともあるし、出現例の確認されていない森の中に住むことになる。一方でゲルマニア。確かまだ、あそこは怪獣の出現例がほとんど無かったはずだ。しかしトリステインよりもはるかに遠い。候補としては、まだトリステインよりも弱いほうだ。
(少し長い旅路になりそうだな…)
スープを吸い終え、シュウは皿をテファ手渡し、ベッドに背中を預けて天井を見上げる。
「スープおいしかった?」
「ああ…ご馳走様」
エマがベッドに身を乗り出してシュウに尋ねると、彼は素直に頷いた。
テファは彼のベッドの傍らの机の引き出しの方に目を向ける。リアルに描かれた絵(=写真)。そこに描かれた、彼の知人と思われる人たちや、惨状を映し出した光景。
シュウがこの世界に現れた際に一緒に持っていた所持品がしまわれている。彼女は今でも気になっている。
「そういえばティファニア。マチルダさんから聞いたが、人のものを漁るのは感心しないぞ」
彼女の視線がどこに向かっているのか気づいたシュウは、以前マチルダが教えてくれた、村にいない間のテファが自分の荷物を見ていたことを指摘する。
「え…き、聞いてたの?」
「ああ。今回は許すが、次は止めてくれよ?」
「ご、ごめんなさい…」
知りたいという好奇心がかえって彼を不快にさせてしまったようで、テファは焦る自分を反省した。盗賊から自分を助けてくれた後の彼は村の子達の遊び相手をできうる限りしてくれていた。しかし一方で焦りたくもなるだろう。シュウは仕事のことも、目を放している間にどこへ行っているのかも、何も言ってくれない。何かを隠している態度を通している。
「……」
一方で、さっきから黙り続けているサムはジロッとシュウを見ていた。
テファ姉ちゃんがお前なんかを心配してやっているのに、何だその態度は。お前はそんなに偉いのか?たかが使い魔のクセに。新参者のクセに。ぐ…と手に力を入れる。
「…なんか疲れてきたな。少し寝る」
「しっかり休んでね」
「ああ…」
頷くと、シュウは背中を布団に預け、身を毛布でくるませ目を閉じた。そして1分も経たない内に眠ってしまった。
「シュウ兄、もう寝ちゃった」
「ええ、よほど疲れていたのね」
思った以上に早く眠りについたシュウにちょっと驚きを覚えながらエマとテファはそれぞれ感想を呟いた。
「テファ姉ちゃん、エマ。僕が兄ちゃんを見とくから、引越しの準備にかかったらどう?」
「え…いいの?」
「サム兄、シュウ兄のこと嫌いだって思ってたのに」
サムが寝ているシュウの面倒を見るという提案にテファとエマは目を丸くした。自分たちの知る限り、サムだけがシュウに心を開いていない。
「別にそういうわけじゃないって。ただ、まだ怪しいって思うだけで…」
「サム、大丈夫よ。シュウは決して悪い人じゃない。私は信じてる」
「…ふーん」
テファは優しげな笑みを見せてサムに言う。そのときの彼女の笑みが、やたら明るく見える。サムにはそれが余計に不快だった。あんな笑み、今まで自分たちに見せたことなどないはず。それだけの顔を浮かべさせるシュウが、たまらなく許せなかった。
「サム、シュウが目を覚ますまでお願いね」
「うん」
とりあえず頷き、サムは部屋を去るテファとエマを見送った。
さて、と彼はベッドに眠るシュウを見下ろした。シュウはすでに眠りに着いている。目覚めるのは数時間先だろう。
「それにしても、このナイフもすごいな…」
サムは、自分の元に現れた一本のナイフを見て呟く。その刃は吸い寄せられるように
「まさか魔法が使えるなんてさ。こいつのおかげで、こいつを眠らせることができた」
しかも刃が美しいだけではない。このナイフ、なんとメイジでもないものでも魔法が使えるようになるという不思議なナイフだった。そしてこの部屋に来る前、テファたちが目を離している間に、睡眠魔法をスープに仕込ませたのだ。テファたちはともかく、いくらシュウも、機能まで魔法が使えなかった子供が、ナイフ一本手に入れた途端に魔法が使えるようになったうえに、自分を眠らせるなんて思いもしなかっただろう。
サムは狙い通り、シュウが壁に掛けていた黒い上着を手に取り、胸のうちポケットを探る。予想通り、シュウが変身に使っているエボルトラスターと、護身用の銃ブラストショットが出てきた。
もうすぐだ。もうすぐこいつを…。
テファ姉ちゃんのことだ。おそらくこいつも今回の引越しに連れて行くことは間違いない。でも、この数日の間にこいつからあの剣を奪ってしまえばいい。そうすればこいつはもうこの村でいい顔はできない。自分がこんな奴に代わって、テファ姉ちゃんの守護者になれるのだ。
「流石に永眠まではしないさ。目が覚めたその時の、自分の無力さを呪えないからね」
自身の心が歪み始めていることに、少年は気づいていなかった。
ちょうど彼が眠りについているシュウを見下ろしている姿は、窓を通して外から見えていた。それを見ていたのは、1匹のガーゴイルだった。
しばらくして、マチルダが村に戻ってきた。しかもただ帰ってきただけでなく、奮発して購入して北と言う大きな天幕付き荷馬車を引っ張りながら。
「さて、みんな。荷物を積んで」
「「「はーい」」」
子供たちはマチルダにいわれたとおり、生活必要な毛布や布団、服、その他の生活用品や、人形など自分の手放したくない宝物を馬車に積んでいった。村の人間8人分の荷物となるとそれなりの量だが、最低限のものに絞りつつ積んでいくことで、なんとか積むことができた。
と、マチルダはシュウの姿が無いことに気づく。
「おや、シュウはどうしたんだい」
「シュウ?なんだかすごく疲れてたみたいだから、今はサムが見ていてくれてるの」
「サムが?」
マチルダも、さっきのテファやエマと同様に目を丸くした。サムはシュウのことを嫌っていたのに、どういう風の吹き回しなのだろうか。
「…ちょっくら見てくる。テファ、他に忘れ物がないか皆と見ておいで」
「うん、わかった」
マチルダはテファにそう言い残し、一度小屋の方へ足を運ぶ。
シュウは、思ってみれば勝手に自分たちが呼び出してしまった身でありながら、この村のために彼なりに良くしてくれていた。そして同時に、自身に授けられた強大な力におぼれることもなく、正しいことのために彼は光の力を行使し続けてきた。しかしそれをずっと続けていられるほど頑丈ではなかったらしく、疲れがたまってしまったのだ。何か、労いの言葉でもあげよう。
以前自分が使っていたシュウの部屋を開ける。テファの言う通りなら、部屋には疲れて眠っている。彼女は部屋の扉を開けて中の様子を見る。
「サム?」
…が、妙なことがあった。まだ眠っているシュウがいるが、彼を見ているはずのサムの姿がどこにもない。それに、ベッドの傍らの机の引き出しが開けっぱなしだ。
マチルダは、長年の勘からか嫌な予感を感じた。開けられた机の引き出し。それに、よく見ると壁に枯れられた彼の上着が乱れた状態になっている。そう言えば、シュウは常にあの服の胸の内ポケットに、巨人になるための短剣を隠していた。
「まさか!」
彼女はシュウの上着を取り、そのポケットを探る。悪い予感が的中した。エボルトラスターとブラストショットの両方がなくなっている。だが、あのシュウがここまで不用心になるのか?いくら同じ村の住人であるサムだとしても、自分が大事に持っていなければならないものの盗難を許すはずが…!
もしやと思い、杖を取り出して軽く詠唱し探知魔法『ディテクトマジック』を唱える。さらに悪い予感が的中。シュウ自身の体から反応があった。
「まさか…睡眠魔法を…!?」
そうなれば、盗まれたことにも説明が…いや、おかしい。サムは平民だから魔法など使えないはずだ。ましてやテファだって使えるはずもない。それとも、あいつ自分がメイジだったことを隠していたのか?いや、まさか。だったら別の誰か?いや、テファは相手の記憶を奪う魔法しか使うことができないし、もし仕えたとしてもそれをシュウにかける理由など皆無だ。というか、自分の妹を疑うなどどうかしている。
ともかく、今はサムを探さなくては。一端部屋を出て、マチルダはテファたちの元に駆け付ける。
「サムの奴、部屋からいなくなってた」
「え?」
「多分トイレにでも行っちまったんだろうけど、探しに行ってくる。シュウの面倒は任せたよ」
「ちょ、姉さん…?」
どこか強引に役目を押し付けてきたような言い回しのマチルダに戸惑いを覚え引き留めようとしたテファだが、マチルダはせっせとその場から離れて行ってしまう。
「ったく、二人そろって世話の焼ける子だね!」
シュウは盗まれちゃいけないものをとられるし、サムはなんだか不穏なにおいを漂沸得せるようなことをしているし。ガキの頃からの波乱万丈な人生と相まって、マチルダはいくらため息をついても足りないと思った。
その頃、姿を一時姿を消していたサムは、村からさほど距離の離れていない森の中に居た。
「やった…!これで、これで僕が…ウルトラマンだ!は、はは…」
これで、自らの手でテファたちを守っていくことができる。もう魔法が使えるからってえばり散らす貴族にも、盗賊にも、あんな奴に遠慮する必要などない。
自分は無敵だ。もう誰にも負けることはない。
湧き上がる感情が抑えきれないあまりに浮かべていた笑みは、普段の本人なら普通に気付くはずの歪みようだった。手に取ったエボルトラスターを眺めながら彼は勝ち誇ったように笑っていた。
すると、そんな彼の力を試そうとしにきたのか、一体の巨大な怪獣が地面をかち割って姿を現した。通常の怪獣の首に位置する先には頭がなく、尾こそが首として機能しているという見た目だけでもどこか不気味さを孕んだ怪獣、『百足怪獣ムカデンダー』。かつてウルトラマンタロウ、メビウスが戦った、百足のように長い首と胴体をもつ怪獣である。
「ふん、もうお前みたいな奴なんか怖くないぞ。僕の力を見せつけてやる」
怪獣を見上げても物怖じせず、ニヤッと笑みを浮かべるサムは、エボルトラスターを鞘から引き抜く構えを取る。だが、その時彼の背後から聞き覚えのある声が飛び出す。
「サム!なにやってんだい!」
振り向くと、自分を追ってきたマチルダがそこにいた。
「マチルダ姉ちゃん。ちょうどよかった。見ててよ、強くなった僕の力」
そう言って彼はエボルトラスターを見せつける。それを見てやはりと彼女は顔を歪ませた。サムがシュウを嫌っていることは知っていたが、まさかここまでとは思いもしなかったし、信じたくもなかった。なるべく自分を落ち着かせようと心の中で言い聞かせながら、マチルダはサムへの説得を図った。
「それはあんたの力じゃない、シュウのもんだ。さっさと返しに行って謝っておきな」
「謝る?何言ってんの?僕がどうして謝らないといけないのさ?」
「当たり前だろ。本当は盗みなんざやるもんじゃないんだ」
「盗みぃ…?今更じゃん、僕が盗みをやってたなんて。生きるために必要だからやったまでだもん」
それを聞いてサムは首を不気味に傾げてきた。その様を見て、マチルダは戦慄する。これがあのサムなのか?浮浪児だった頃の暗かった頃から今までの生活で明るさを手にしていくまでの彼は知っていたが、いくらなんでもこんな…吐き気を催す悪党のような姿を見せるはずがない。
「それに、土くれのフーケとして、名高い貴族の屋敷から値打ちものを盗んできた姉ちゃんがそれを言うの?」
しかも、シュウ以外には誰にも言っていないはずの真実を暴露したのだ。なぜ、そのことを…!?マチルダは今のサムに対して猛烈な異常さを覚える。いや…本当にこの子は、自分のサムなのか?
誰かがギアスの魔法などで操っているのか?もしや…とマチルダはサムの背後に姿を見せつけている、一体の巨獣を睨み付ける。
原因はもしや、あいつ?すると、巨獣はサムとマチルダをよそに、ある方角へ向かう。その先は、シュウやテファたちのいるウエストウッド村だった。
「行かせるか、ゴーレム!」
マチルダは直ちに30mゴーレムを形成、真正面から土俵際の横綱のごとく、ムカデンダーを押し出そうとする。しかし、ゴーレムを目障りと感じたのか、ムカデンダーは首を鞭のように振りおろし、ゴーレムの頭を破砕する。
「っち…!」
これだけの大きなサイズのゴーレムを作るだけでも精神力を大きく絞ってしまう。まして怪獣の攻撃にすぐ倒されないだけのゴーレムなど、土の高レベルのメイジが何人そろえる必要があるのだろうか。いくらトライアングルクラスでも、マチルダ一人で食い止められる相手ではなかった。
「よそ見してる場合じゃないんじゃないの?」
「!」
瞬間、マチルダの体に向けて火炎弾がいくつも放たれ、彼女は大きく吹き飛ぶ。地面に倒れ伏し、顔を上げると、彼女に向けてナイフを向けているサムの姿があった。
「あんた…今の…!」
「うん、魔法だよ。すごいでしょ?このナイフ、持っているだけで誰でも魔法が扱えるみたいなんだ」
この貴族と平民の隔たりの差が目立つ世界で、それを持っているだけでも世界の常識をも覆すことができそうなものじゃないか。しかしマチルダにはそれだけのものには決して見えない。
あのサムがここまで変貌するはずがない。何か、やはり魔法らしきもので操られているはずだ。
「ねえマチルダ姉ちゃん。どうして邪魔をするのさ。僕はあんな信用ならない奴に代わってテファ姉ちゃんたちを守ってあげるっていうのに」
「…サム、それがもしあんたの本心だってんなら…正直見損なったね」
「なんだって?」
「あんたのそれ、自分の力じゃない。あくまで他人の力じゃないか。シュウから奪い取ったそいつだって同じだ。あいつのものであって、あんたのもんなんかじゃない」
「違うね。こいつはもう僕の手の中にある。だから僕の力なんだよ」
「……」
マチルダは目を細める。だんだんと胡散臭さをサムに対して覚えていった。
「だったら、その鞘を引き抜いてみなよ」
「あれ?いいんだ?これ引き抜いたら、この力は完全に僕のものだって証明されちゃうんだよ?」
「いいから、さっさと引き抜いて見せな」
挑発するマチルダに、何かひっかけられようとしている気がしたサムだが、遠慮なくエボルトラスターを両手でつかみ、鞘から引き抜こうとした。
ページ上へ戻る