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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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脱出

 
前書き
後半は少し急ぎ足です。

伏線的な場所に身を隠す回 

 
運搬通路へ入るには、途中にある地下一階と二階を経由していく必要があった。しかし従業員や社員がことごとくアンデッド化しても、建物が急に劣化したりする事は無い。故に今、俺達はこのビルのセキュリティを前に少し手こずっていた。

『IDカードを入力してください』

地下へ通じる階段を塞ぐ鋼鉄の扉の前で立ち往生している俺達に、セキュリティの音声が再三カードを要求してくる。レヴィが扉をガンガン叩いたり、バルニフィカスで斬ったりしているが、相当頑丈であまり効果が無く、彼女は両手を上げてプンスカ怒っていた。

「もう! 何回言われても、ボク達そんなの持ってないよ~!」

「多分、PAN(パーソナル・エリア・ネットワーク)という人体通電技術が使われたカードの事を指してるんだと思う。近づくだけで扉が開けられるし、社員かどうかも識別できる便利な技術だから、企業区にある建物のほとんどはこのセキュリティが施されているって聞いた事がある」

「ならそこらへんのアンデッドをちょちょいっと倒せば、このビルのIDカードを持ってるのもいるかも! じゃ早速行ってく――――」

チュドォォオオンッ!!!!

『カカカカカカ………ドヲ、ニュニュニュニュ……シテクダササササササササ……』

『よ~し、開いた! 早く行こう!』

「うわぁ~……………レールガン、強ぇ~」

レールガンをぶっ放してセキュリティを扉ごと物理的に破ったマキナが、ドヤ顔でこちらを見る。あまりに豪快な突破法を目にして、来た道を戻ってアンデッドの大群に突撃しようとしたレヴィですら目を丸くしていた。ま……どんな手段であれ、通れるようになったんだから別にいいか。しかしセキュリティの音声がバグったように同じ言葉を連呼する中、俺はマキナの天然混じりな問題解決法で通った事をどこか不安に思っていた。







地下とは即ち光の当たる地上と対を為す場所であり、光は太陽でも世間の目でも意味する。そのため地下では、ある者達にとって公表したくないものが隠蔽されている事も多い。が、隠されたソイツもまた、その空間から出ようと虎視眈々と機会を狙っているのが普通にあり得る。なんでこんな事を考えているのかというと、このビルを建てた企業もまた、アレクトロ社とどっこいどっこいな腹黒い研究を行っていたという事だ。

俺達のいる細い通路から防弾ガラスで挟んで密閉された両隣の……牢獄の中には、猛獣に着けるような頑丈な鎖に繋がれている人間の死体が転がっていた。しかも大人より子供の比率が圧倒的に多い。この数から恐らくニダヴェリールの人間じゃなさそうだが……どちらにせよ、酷な事を……!

「ここでも命を弄ぶ研究を行っていたのか。次元世界の人間はどこまで俺を失望させれば気が済むんだ……」

『サバタ様……この子達は、私と同じだ……。私はサバタ様のおかげで助かったけれど……この子達は違ったんだね』

「一つでも何かが違えば、マキナもこんな風になっていたかもしれない。そんなの想像もしたくない……」

「むぅ~、なんか暗いなぁ。ま、こんなの見ちゃったらしょうがないけどね」

見てて気持ちのいい物ではないため、眉を顰めながら俺達は通路を進み、実験を観察するモニタールームへとたどり着いた。さっきの部屋や地下二階の通路らしき映像が複数のモニターに映し出されているが、一体どんな研究がここで行われていたのだ?

『サバタ様、こんなの見つけたんだけど』

マキナがデスクに置かれてあった研究員の物らしき日記を見つけてきた。一旦休憩でネロを降ろした俺はそれを手に取り、同じくユーノを寝かせたシャロンの翻訳を頼りに読んでみた。


新暦65年8月20日
夜、同僚のラングとモース、それとチームリーダーで紅一点のナタリアとブラックジャックをやった。負けたら飯一回おごるルールでやったが、俺ばかり徹底的に搾り取られた。チクショウ、こいつら絶対仕組んでたに違いない。……ま、最近徹夜続けだったナタリアの機嫌が久しぶりに良くなったから、今回だけ我慢してやる。次はねぇぞ。

新暦65年8月21日
今日、ミッドの本社からまた新しい被検体と投与したサンプルの注射が送られてきた。毎度毎度送られてくるのは動物みたいに叫びまくる奴らばかりで、こいつもこれまでと同じく、実験の経過観察を押し付けてきたようだ。仕事とはいえ、見てるだけってのは退屈でしょうがねぇ。サンプルの研究も気乗りしないから、暇潰しに攻撃能力を切ったシューターであいつらと遊んでやった。そしたら猫みたいに追っかけてやんの。

新暦65年8月22日
今朝、突然だが予防接種を受けろとナタリアに言われた。なんか知らんが、最近次元世界に伝染病が流行ってきてるんだと。それで管理局から全員するように指示が来たってことで、クリアカン中の人間が管理局に出かけた。俺達も当然行って注射を刺してもらったが、ナタリアはリーダーとして被検体の連中を見張っておくって事で行かなかった。彼女は何気に注射嫌いだから、きっとそれが理由で行きたくなかったのだと思う。それとモースも予防接種に来なかったが、あいつは今日から少し休暇だからここじゃなくて別の所で行ってるだろう。

新暦65年8月23日
なんか今朝から身体がだるい。最近の仕事は観察と報告書だけだが、それでも意外と疲れが溜まるものらしい。ラングと同じ調子でだらけてたら、何故かピンピンしているナタリアに叱られた。やっぱリーダーになれるだけあって、彼女は俺達よりタフなんだな。うらやましい。

新暦65年8月24日
昨日はちゃんと寝たのに治るどころか、むしろきのうよりだるい。なのにおなかは減るし、そのせいでいらいらしてきた。八つ当たりでオリの中のあいつらにシューターをぶつけてあそんだり、飯を奪ってやった。ナタリアがいつもとようすがチガうって言ってきた、おれ変わったことはしてナイ。なんであんなコト、キいてきたんだ?

新暦65年8月25日
きょうはからだがぜんぜんだるくない、すごくスッキリした気分。ちょっとヒフが緑色になったけど、むしろゲンキになってきテル。みんなミドリ色で同じだ。だけどなたりあだけチガう。おれ、チュウシャしてないからとおもた。こっち見てないあいだ、さしてあげた。これデ おなじ なる

新暦65年8月26日
はら へった めし おりのなか にくいっぱい いきたい たべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたいたべたい

新暦65年8月27日
モースきた くった うまか った
またたべたい

新暦65年8月28日
たべた うま


………日記はここで終わっているのだが、内容が内容なのでしばらく言葉が出なかった。こいつらは研究後の経過観察を担当していた連中らしいが、一応解析もしていたようだ。それでさっきの牢獄に転がっていた死体は、こいつらが観察していた被検体の成れの果てだろう。そして管理局の予防接種……恐らくこれはラタトスクがクリアカンの人間を一人残らずアンデッド化するために仕組んだ事に間違いない。あまりの用意周到ぶりに逆に感心してしまうが、とにかくラタトスクの策が至る所に伸びていたという事はよく伝わった。

ところで内容から察するに、この日記の所有者もアンデッド化したようだが、日記がここにあるなら所有者も近くにいる可能性が高い。そのため俺は精神的な警戒レベルを引き上げ、いつ敵が襲ってきても対処できるように心構える。

「あれ……使用済みの注射器が落ちてる。ラベルに『エクリプスウイルス試作E-5』と書かれてるけど、これって暗黒物質と関係があるの?」

エクリプス(日蝕)か。名前からして可能性はあるが、真偽のほどは不明だ。それはそれとして、その注射器はナタリアに使われたものらしいな」

「多分ね。ナタリアって人はあの牢獄の子達と同じ薬を投与されたみたいだけど、それなら彼女も既に……」

『ま、同情する余地は無いけどね。その人もこの実験の片棒を担いでた訳だもの』

「実験関係者にはとことん辛口だね、マキナは。一応ボクも君の境遇は知ってるから気持ちはよくわかるけどさ」

「とりあえずその注射器を含めて、ある程度の資料を持って行こう。いずれ役に立つかもしれない」

という事で日記を含むファイル類を、持ってても移動速度に支障が無い程度に確保。そしてネロとユーノを担ぎ、移動を再開した。牢獄を挟む通路を先に進んでいき、地下二階へ続く螺旋階段の部屋に入ろうとするが……。

ピチャ……。

『ん?』

いきなり自分の服に何か液体らしきものが付着し、確認するマキナ。俺達も何となく確かめてみると……真っ赤で鉄臭い液体がポタポタと滴って服に染みを作っていた。

『ち、血っ!?』

「上だッ!!」

部屋の天井から獲物を狙う虎のような殺気を察知して俺は咄嗟に叫び、それを聞いた皆は思わず見上げる。するとそこでは見るも醜悪な光景が広がっていた。アンデッド化した研究員を、文字通り喰っている一人の女性……暗黒物質を取り込んでいる訳だからこの女性も半ばアンデッド化している。そしてマキナの服に落ちてきた血は、喰われている研究員の身体から滴ったものだった。

「そうか……! コイツが日記にあったナタリアの……成れの果てか!!」

『注射で何かのウイルスに感染して、その上アンデッド化までしている……! こんなヤバ気なのとまともに戦える訳が無いよ!』

「時間も押してるし怪我人も担いでるから、こんなのと戦ってる場合じゃないし、戦える状況でもない。逃げよう! 早く!!」

「ォ……ォォァ……! キシャァァァアアアアアッッ!!!」

「あ、気付かれちゃった! ボクが足止めをするから、皆は走って!!」

途端に始まる逃走劇。ヤツは忍者と獣が融合したような人間離れの身体能力で飛び、こちらに襲い掛かって来る。瞬時加速でレヴィが俺達とヤツの間に入り込み、バルニフィカスで防ぐが、そのあまりの力でレヴィが後ろに押されていた。

「うわっと!? 驚いた、まさか力のマテリアルであるボクよりも強いパワーだなんて……でも、それぐらいでボクが怖気づくなんて事は無いよ!!」

螺旋階段であるため、途中の位置でもアンデッドと戦っているレヴィの様子が見える。彼女は自分の魔法とホドリゲス新陰流を混ぜた攻撃的なスタイルでとにかく攻め続け、アンデッドに自由に動ける時間を与えない様にしていた。なにせあのアンデッドは研究のウイルスによって能力が異常に強化された状態で暗黒物質に汚染された訳だから、そこらの変異体を上回る脅威を誇る。故に一瞬でも隙を与えてしまえば、自分の首を絞める事に繋がる。それが本能でわかってるからこそ、レヴィは息をつく間もない連続攻撃をひたすら繰り出しているのだ。

彼女の奮闘を信じて俺達は全速力で螺旋階段を駆け下り、地下二階へ到達する。そして空港に通じる通路に入った途端、いきなり警報が鳴った。

『当該区域への異分子の侵入を確認しました。これより排除を開始します』

「これってもしかして……入り口をレールガンで無理矢理突破したから、セキュリティが働いたのかも……!」

『え、これ私のせい!? ……ごめんなさい!!』

「いや、マキナ一人に責任は無い。まぁ、こうなった以上、セキュリティを突破するしかない。行くぞ!!」

真っ白でいかにも実験ルームであるこの空間の、壁や天井に備え付けられた魔導機銃からマシンガンの如き魔力弾の嵐が吹き荒れる。すぐさま散開した俺はネロを背負ったまま、ジグザグ走行で魔力弾を避けていき、かかと落としや膝蹴り、踏みつけで面倒な位置にあった機銃を破壊していく。そこにマキナがデバイスをモードチェンジしてハンドガン、モデルは“デザートイーグル.50AE”で、それを二丁構えて走りながら機銃を狙って撃っていく。あの銃の威力は折り紙付きだ、この程度の強度なら一発当てるだけで十分破壊出来る。

などと思っていたら、螺旋階段の方からガララッ!! と凄い崩壊音が聞こえ、土煙が通路にも吹き出して来た。

「あいたたた……キッツいのもらっちゃった……」

煙の中からボロボロの姿でレヴィが乱れた呼吸を整えながら立ち上がり、獰猛な唸り声を上げるアンデッドに対してフラフラしながらも身構える。あのバケモノを相手にたった一人でここまで時間を稼いでくれたのだから、彼女も相当奮闘したに違いないが……これ以上は流石に無理か。

『こっちは機銃の掃討は済んだよ!』

「よし、今ならあの化け物から逃げられる。レヴィ! 来い!!」

「っ、わかった……! すぐ行くよ!」

レヴィが持てる力を振り絞って全速力でこちらへ飛行してくる。アンデッドも追ってくるが、彼女程の速度じゃないのと出遅れた事もあり、レヴィが扉を越えてシャロンが扉を閉めるまでにたどり着く事は出来なかった。意外に頑丈な扉のおかげで、ガンガン叩いてくるもののアンデッドと俺達を遮断する事に成功した。

ただ、ありったけの速度を出したレヴィが勢い余って俺に突っ込んできたため、ネロを落とす事無く受け止めてやる必要はあったが。

「わぁ、お兄さんに引っ付いてると気持ちいいなぁ……こしこし」

「頭をこする意味はわからんが……まぁいい。アレを相手に一人でよく頑張ってくれた、レヴィ」

空いてる右手でレヴィの頭を力抑え目で撫でると、彼女は「ふにゃぁ~」っと気持ちよさそうな声を漏らした。バリアジャケットの損傷度も相当なものだが、幸運な事に致命傷は何とか負わずに済んだようだ。

『……で、この部屋にもセキュリティってあったりするのかな?』

「可能性はあるよね……この壁や天井にたくさんある溝とか、いかにも怪しいし……」

そうやってマキナとシャロンが懸念していた事は、数秒後に現実の物となる。通路の奥から奇妙な装置が溝を一定の速度で通って来たため、嫌な予感がした俺はブラックサンを発動、この空間をわざと暗くしてみる。すると装置の間に伸びている赤い筋が見えるようになり、さっきの通路で破壊された機銃の破片を放り投げて光に当てると、触れた部分からまるでチーズのように切断されてしまった。

「まずい、レーザーだ! あれには絶対触れるな!!」

「今来てるのは横一本! 伏せて!!」

シャロンの声を耳にしながら、全員一斉に全身を床へ押し付け、頭のすぐ上をレーザーの光が通り過ぎるのを見届ける。だが……たった一回の回避で済むとは思えない。

「第二射、来るよ!」

「形状はどうなってる!?」

『上下に二本線! 上に飛ぶしかない!!』

マキナの指示通りに、俺達はレーザーを飛び越えるべく跳躍する。ネロを抱えているから割と大変だったが、レヴィの協力で何とか超えられた。同様にユーノを背負っているシャロンも一人ではほんの僅かに届かず、飛行魔法を使えるマキナの力を借りて何とかかわしていた。しかし危機はまだ終わらなかった。

「第三射、来るよ!」

「形状は!?」

(エックス)だ! しかも大きいから、何とか壁際で飛ぶしか――――』

ドゴォォォォンッッ!!

「ォォォォ……!!」

後ろから先程レヴィが相手をしていたアンデッドが、扉をぶち破って追い掛けて来てしまった。

「ちょっとぉ! 一応それなりにダメージは与えたはずなんだけど、なんでアイツ全部回復してんの!?」

「挟み撃ちにされた訳だが、今は何よりレーザーの回避を優先するべきだ。アレの相手は後にしろ」

「それぐらいわかってるって。じゃあ飛んで!」

気持ち的に壁際に寄りながら再び跳躍、しかしこの姿勢のままではレーザーに触れてしまう。しかしそこは飛行魔法を使える二人の出番、レヴィは俺に、マキナはシャロンに身体を押し付けて、レーザーに当たらないように壁に出来るだけ引っ付く。そして金属を瞬く間に溶かす熱線が迫り……、

ジュッ!

「あ、ボクの髪が!」

レヴィの髪……確かツインテールの先端部がレーザーに触れたせいで、彼女の綺麗な水色の髪がほんのちょっとだけ焼け落ちた。マキナの方もカールした部分の髪が微妙にレーザーに当たり、炭化して崩れていった。

そして俺達がやり過ごしたレーザーは、そのまま後ろにいたアンデッドに迫り……。

「見るなッ!!」

「グギャアアアア!!!」

俺達に飛び掛かって来たヤツは身体がX状に切断され、バラバラになって崩れていった。マキナ達は俺の指示に何とか間に合ったようでトラウマを更に増やさずに済み、俺はレヴィを強引に引き寄せて視界を覆い隠す事で対処した。ネロとユーノは幸運にもまだ意識が回復していないから、俺だけがその光景を見たはずだったが……、

[うわぁぁぁぁああああ!!? 戻ってきて早々おぞましい光景を見せ付けるでない!! う、もろに見たせいでき、気分が……うっぷ……]

[大丈夫ですか王!? すみません教主、ディアーチェがノックダウンしてしまったので、また奥の方へ戻らせて頂きます]

間の悪いタイミングで視界共有してしまったディアーチェが、シュテルに介抱されるまま再び精神領域の奥へと引きこもった。なんか彼女には悪いことをしてしまったな……事実を知らないレヴィだけクエスチョンマークを出しているが。とりあえず彼女の犠牲を無駄にしないように、改めて皆に注意しておく。別に彼女は死んでないけど。

「全員、絶対に後ろは見るな。見ようと微かでも思ったら、俺のデコピンが火を吹くぞ」

「え……デコピンが火を吹くって何?」

「ん~でも威力は洒落にならないよ? 実際に打たれたらしばらく悶絶するもの。ボクも打たれたくないと思うぐらいだし」

『打たれた部分に火が吹かれたような痛みが走るという意味では、本当に文字通りなんだよね。サバタ様のデコピンって。それにしても結局……お洒落は一時の夢だったか。丁度良い機会だから、後でバッサリ切ろうかな』

「マキナ……せっかくセミロングまで綺麗に伸ばしているのに、もったいないよ」

『ま、まぁ……シャロンがそういうならそうするよ。じゃあいつか、ポニーテールにでもしようかな……』

意外と余裕だな、あいつら。いや、髪は女の命と呼ばれる程大事な物だ。何だかんだでレヴィも結構気にしてるんだから、あの二人が気にしても何ら不自然ではない。それに後ろを気にしない様にしているなら、むしろこういう話に意識を傾けていた方が良い。

まだビクビク動いている肉塊を放置し、俺達は運搬通路の突破に成功、空港施設の内部へとたどり着いた。来た時と違ってすっかり静かになっている公共施設は、本来あるはずの人気が無い事で不気味な空気に包まれていた。しかしアンデッドもいないから、脱出するには好都合だろう。

ゴゴゴゴ……!!!

「地震が激しくなってきている……ニダヴェリールの崩壊までもう間もない! 急いでラプラスへ乗り込め!!」

そう叫んだ俺達はひたすら第7ハンガーまで突っ走り、来た時のままの状態で停めてあるラプラスに全員乗船。エンジン始動と同時に最大船速で離陸する。その直後、眼下にあるニダヴェリールの大地に無数の地割れが入っていき、さっきまで俺達がいた空港や企業区のビルを飲み込む。崩壊していく故郷をマキナとシャロンは別れを惜しむ表情で見届けており、二人の後ろ姿から漂う壮絶な悲しみの空気を前に、俺は何も言葉を伝える事が出来なかった。

「……~♪」

『シャロン……』

「これは……アクーナに伝わる鎮魂歌か。……そうだな。弔ってやる時間は無かったが、せめて彼らの魂に哀悼の意を示そう」

辛さと悲しさを胸に、涙を流しながらシャロンは死者への弔いの歌を歌う。それは自分達だけ生き残ってしまったニダヴェリールの……アクーナの民としてのせめてもの償いなのだろうか……。それともやせ我慢と元気づけのために、あえて歌う事で気持ちを変えようとしているのか、それはわからない。しかしどちらにせよ、彼女のコンサートのオーディエンスで生き残った人間は俺達しかいない事に変わりはない。彼女と共に暮らしていた大切な仲間達は皆、あの大地と共に滅んでいったのだから……。

「あれ? なんかちょっとだけ崩壊が緩くなったような……ボクの気のせいかな?」

「数秒後に次元航行を開始する。さらばだニダヴェリール……俺達人間のせいでこんな事になってしまって、すまなかった」

その言葉を告げ終えると……ラプラスは次元航行を開始、次元空間へその艦体を乗り出した。

「みんな………さようなら」

その後……第66管理世界ニダヴェリールは崩壊、消滅した。そして……一つの巨大な卵が孵化を始めた……。







「ん? あれはラジエルじゃないか。という事はサルタナ辺りが事態に気付いたか……かつてのアースラより対応が早くてありがたい」

次元航行中、ラプラスは異常事態を察知して近くに来ていたラジエルと遭遇、一時的に接続した。マキナはエレン達を知っているからともかく、シャロンは管理局を信用できないからラプラスで待っててもらった。そのためマキナにはシャロンの傍にいるように頼み、俺はレヴィと共に顔見知りのラジエルクルーによって艦長室に通してもらい、そこにいたエレンとサルタナの二人と会談を設ける。ちなみにエクリプスウイルスに関する資料もこの時渡した。また凄い情報をラジエルは手に入れた訳だ。

「あの世界で何があった?」

「単刀直入に言う。ニダヴェリールに封印されていた絶対存在ファーヴニルが目覚め、あの世界は崩壊した。封印を破ったのはラタトスクだが、要因に管理局も絡んでいる……むしろ人間の欲望が暴走した事でこの事態は引き起こされた」

「なるほど……つまりこの事態はイモータルにそそのかされたとはいえ、管理局にも責任があるという事ですね。やれやれ……これだけでも頭の痛くなる話ですけど、こっちもサバタに伝えておかないといけない事がありますわ」

「その前にネロとユーノを治療してくれ。脱出時に二人が怪我をしてしまってな……応急処置は済ませているが、真っ当な治療を受けさせるべきだ」

「わかった、すぐスタッフを向かわせる。二人の身柄はこちらで預かろう」

「閣下に治療の件は任せておいて、私達は今の管理局で何が起きているのかについての話をしておきます。……サバタ、心して聞いて」

「なんだ?」

「本日、管理局が……あなたを指名手配しました。恐らくラタトスクがわざと流した情報に踊らされた本局上層部の仕業……管理局の戦力である魔導師が使う魔法、それを根本から消し去る暗黒物質を操るあなたの存在に恐れを抱いた連中は、暗黒の力を使える存在全てを抹殺しようとしています」

「フッ……つまり俺はイモータルやアンデッドと同じ扱いをされた、という事か。人類の敵として排除すべき、倒すべき存在と……」

「そう……なります。こういう時、管理局はいつも情報統制を行い、自分達の立場が悪くなる事実を隠蔽しようとして対象を抹殺します。本局の常套句とも言えるんですよ、こうやって彼らにとって表沙汰にするわけにはいかない事を秘密裏に処分する体制は」

「そうか……SEEDの件から何となくそんな気はしていたが、管理局はやはりそういう組織だったか。ならエレンも俺を狙うのか? 俺を……殺すのか?」

「まさか! 私は徹頭徹尾、サバタの味方ですよ。閣下もラジエルの皆も、あなたを捕まえるような真似はしません! 私達は全員あなたの心を知っている……あなたの中にある深い慈愛を、人として尊敬できる志を! あなたが殺されるべき人間ではないと、皆がわかっているから……だから! そんな風に自ら殺される事を受け入れないで下さい!!」

「……………」

エレンの心情が込められた言葉に、俺は少なからず嬉しさを感じていた。彼女が伝えてきた想いが、俺に再び人間の心の強さを思い出させてくれた。この世界には醜い欲望も、陰険な策謀も、辛い絶望も世紀末世界に匹敵……いや、それ以上に蔓延っている。正直に言うと、俺自身この世界に希望はもう無いと、滅びの未来しかないと思いかけていた。

しかし……どうやら見捨てるには少し早過ぎたようだ。まだ……この世界はやり直せる。まだ……希望はある。まだ……未来は取り戻せる!

「そうだな……立て続けの出来事で少し道を見失っていた。俺に残された命はごくわずかだが、まだやるべき事は残っている。エレン、ファーヴニルとラタトスクは俺が倒す。またあの時のように力を貸してくれ」

「む、ちょっと言いたい事があるんだけど! 管理局がお兄さんを追い込んでおいて、結局またお兄さんに戦いを、辛い事を押し付けるの? それって流石に傲慢過ぎじゃない? これ以上お兄さんを戦わせる事は、はっきり言ってボクは納得できないよ!」

「レヴィさん、あなたの言いたい事もわかります。ええ……よくわかりますよ、私自身も同じ気持ちです。しかし私達がいくら止めようとしても戦うでしょう、サバタの本質は元々戦士なんですから。それにこれは世紀末世界から続いている因縁の戦いなので、どうしてもサバタ自身の手で決着をつける必要があります。だから私達に出来るのは、サバタが力尽きない様に支える事、サバタの心に力を与える事、そして……サバタが本気で戦えるように手伝う事。そのためにも私は私の出来る事をします。そしてレヴィさんにもレヴィさんにしか出来ない事があります」

「ボクにしか出来ない事……?」

「そうです。私達はこれから他の世界で、ファーヴニルとラタトスクに対する迎撃準備を整えます。犠牲を下手に出してしまえば、アンデッドにされて奴らの戦力が増してしまうので、そうならないように防衛陣を組む必要がありますからね。そしてサバタ、力は旧友として当然貸しますが、その前にあなた達はこのまま地球のどこかに一旦身を隠してください。そして……奴らに対する戦闘準備をしてください」

「む? 今からでは駄目なのか……?」

「駄目です! サバタの身体が本調子でない事ぐらい、あの時から既にわかっています。その状態でも全力を出し切るためには、一旦休息を取って調子を整えてもらわなければなりません。なにせ相手は絶対存在……それだけでも厄介なのに、そこに最悪のイモータルも加わっているのですから、正直に申しますと準備を万全にしても物足りないぐらいです。大体、絶対存在が目覚めたという事は、即ち再封印の方法も探す必要があります」

「ああ、そういえばそうだったな。イモータルの方はパイルドライバーで浄化できるが、絶対存在は生きても死んでもいない、ただそこに存在するもの。命を持たないものを殺す事は出来ない。故に封印方法を見つける時間が必要だったのか……なら覇王関連の資料を当たれ。ファーヴニルを封印したのは覇王クラウスだから、もしかしたら封印方法が残っているかもしれん」

「わかりました、それなら覇王関連の資料を探ってみます。こんな事態ですから無限書庫を利用してでも情報を集める必要がありますが……」

「何か問題でもあるのか?」

「はっきり申しますと、無限書庫はまともに使える状態ではないのです。とにかく情報を詰めるだけ詰め込んだ結果、ごちゃごちゃして片付いていないゴミ屋敷に匹敵する整理の無さとなっていますから……」

……おい管理局、特に本局。指名手配とかする前に整理整頓ぐらいしっかりしろよ、子供じゃないんだから。……あ、クロノのような子供もいたな。じゃあしょうがないか。

「まぁその時はその時で何とかします。それとあなたの指名手配もこちらで並行して対処しますが、それまでは私達以外の管理局の前に身を晒さないように注意して下さい」

「そうだな……穏便に済ますためには仕方ないか。それにマキナとシャロンに時間を与える必要もある。エレンには世話をかけるが、しばらく大人しくしよう」

「そうしてくれるとありがたいです。ところでその間……サバタは身を隠す当てがあるんですか?」

「一応あるぞ。ちょっとワケアリだがその分、身を隠すには絶好の場所だ」

「あなたがそこまで言うなら大丈夫そうですね。とりあえず今後の私達との連絡方法ですが、潜入任務の時に使った無線機はラプラスにまだ置いてありますか?」

「ああ、アレクトロ社に潜入した時に付けたアレか。それならまだあるぞ」

「あの時と同様に無線周波数の140.85が私と繋がるようにしておきます。いつ重要な連絡を入れるかわからないので、出来るだけ常時装備しておいてください」

そうしてエレン達と今後の話を取り付け、俺達はラプラスへと戻る。出航前にエレンに一つ疑問に思った事を尋ねておく。

「ここまでしてくれて今更な質問なんだが……一応指名手配されている俺を行かせて、エレン達は大丈夫なのか? その……立場とか」

「わざわざ心配してくれてありがとうございます。ですが私達ラジエルもまたワケアリでして、本局に全ての情報を開示している訳では無いのです。それはSEEDの件でもお分かりでしょう? なので今ここにサバタが来ていた、という事実を報告しなければ何ら問題はありません」

「そうか……普通の管理局員としてはまずいだろうが、今回ばかりは仕方ない。それじゃあしばらく身を隠すが、エレンも気を付けろよ? もう大切な者を失いたくないからな、絶対に生き残ってくれ」

「ええ、約束します。必ず……生き残って見せます。それに……覚えてる? 生きてってミズキとも約束している事を……」

「ああ……忘れていない」

「だから……何があろうと、私は生きる。……たとえ地獄に墜ちようとも、この世が滅ぶまで、私は……生きて見せる」

そう宣言するエレンの瞳から、狂気的なまでの強い意志を感じた。ここまで言うなら彼女は大丈夫だろう。

「エレンさん、ボクは君の事をよく知らない。だけどお兄さんを大事に想ってるって気持ちはちゃんと伝わって来たよ。だから……管理局に所属していても、君だけは信用できそう」

「レヴィさん……ありがとう。サバタの事、よろしく頼みますわ」

「うん、任せて。王様もシュテるんもきっとボクと同じ気持ちだから、きっと大丈夫!」

レヴィと軽くハイタッチを交わしてエレンは穏やかに微笑んだ。この短時間に随分仲良くなったようだが、何か通じる物でもあったのか、それともエレンがレヴィを気に入ったのか、いずれにせよ悪いことではないな。

ラジエルからラプラスを発進させ、機体の方向を地球へのルートに乗せる。ラジエルにネロとユーノを任せた事で、今のラプラスは俺と運命共同体のレヴィの他にシャロンとマキナという、ニダヴェリールの唯一の生き残りが乗っている。“裏”の管理局員にとっては、何としても処分したくて仕方がない二人の少女……。俺がいなくなった後でも、せめて安心して寝られる場所を与えてやらなければならないな。

「……サバタさん。エレンさんって……」

「ああ、エレンは俺の旧友で信頼出来る人間だ。彼女がどうかしたか?」

「管理局の中にも、あんな人がいるんだ……」

「まぁ、エレン達ラジエルクルーは管理局の中でもとりわけ特殊だ。次元世界の人間はシャロンが思うような欲深い連中ばかりじゃないとだけ伝えておこう。まぁ、エレンは世紀末世界の人間だから、厳密には違うが」

「彼女はサバタさんの旧友みたいだしね……って、世紀末世界?」

『サバタ様が元々いた世界で、次元世界とは全く違うんだって。私は行った事は無いけど』

「ま、そもそも次元世界から世紀末世界には誰も行けてないんだけどね。今の所こっちに来た人でも、お兄さんとエレンさんしかいないんだよ」

「なるほど……ところでこれからどこに行くの、サバタさん? 隠れ場所に当てがあるみたいだけど、それってどこなの?」

「簡単に言えば……天国の外側だ」

その言葉を告げたタイミングで次元航行が終わり、地球の空へと転移が完了する。そして俺はラプラスを海鳴市には戻さず、機体に搭載されている無線でとある人物へと連絡を取った。

周波数141.80へCALL。

『この周波数で俺に連絡してきたという事は、おまえ達の身に余程の事態が起きたようだなぁ?』

「ああ、そうなる。そして……奴らが俺を敵に回した事で、前に結んだ契約通りに次元世界の文明、魔法についての情報を開示しよう。その代わり、そっちで身を匿わせてもらうぞ」

『ふ、いいだろう。身を隠す拠点はアメリカのウェアウルフ本社を貸してやる。そしてそこの情報端末から次元世界とやらの情報をこちらに送ってもらう。そうすれば契約成立だ』

「わかった。それと俺の代わりに月村家を狙う輩を片付けてもらった事だが……」

『その件なら心配する必要はない。あれはあれで資金や武器の調達に役立ったからな、お互いに利益のある契約だった』

「なら良い。しばらく世話になるぞ……リキッド」

『歓迎しよう、暗黒の戦士。我がアウターヘヴンへようこそ』

 
 

 
後書き
エクリプス:リリなのForceの根幹を為すウイルスで、少しネタバレですが、この作品では暗黒物質を基にして製作された事になっています。
レーザー:恐らくバイオにおける最もグロいシーン。つい使いたくなったのですが、その結果ディアーチェがorzに……。ちなみにレヴィの髪の毛はサバタの中に戻ればすぐ元通りになっています。
ウェアウルフ社:MGS4におけるアウターヘヴン傘下のPMCの一つ。国名を出すのがヤバければ早めに教えてください。


管理局に指名手配されたサバタですが、本人はそれほど気にしていません。しかしレヴィ達マテリアルにとっては看過しがたい出来事で、エレン達ラジエルクルーは味方なので外れますが、管理局に対して結構怒っています。
あとリキッド達に魔法の情報を開示したのは、ジュエルシードの時に管理局に対して胡散臭さを感じていたサバタの処世術とも言えます。そもそも魔法の秘匿に関して、生き残る要素をわざわざ減らすような真似をサバタは否定的に思っているので、誠実な態度を取っていれば何も不都合は無かったのに、こういう事をするから秘匿できなくなる、と行動で示した訳です。

 
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