異世界系暗殺者
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玉璽の時間・3時間目(2016/05/16 一部修正)
前書き
プロ3人衆の中で一番の重傷者はこのグリップさんでしょう。
下手したら数年は片腕が使えなくなっているでしょうね。
【視点:樹】
普久間殿上ホテル5階展望回廊で、俺は握力のみで人間の頭蓋を砕くことができる男――ぬのおっさんと対峙することになった。
「行くぞぬ!」
ぬのおっさんはそう言うや否や、石の試作型疑似玉璽を使って俺との距離を詰め、頭ではなく体の方に掴み掛って来た。恐らく、体なら服を掴むことで動きを封じられると考えたんだろう。
しかし、俺は炎系暴風族特有の超速スピードと烏間先生から見取った防御技術で掴み掛って来ようとする手を捌き続けた。いや、それどころか―――
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬッ!!」
逆に超スピードによる無駄無駄ラッシュで反撃に転じ、ぬのおっさんを殴り飛ばす。ちなみに、本気状態の俺のパンチは二重の極み無しでもサイクロプス・ハンマー以上。
そのパンチをラッシュで喰らったら、相手がどうなるかは想像に難くないだろう。普通なら骨の3~4本が折れて戦闘は終了になる。
が、ぬのおっさんに関してはそうもいかなかった。どうやら、攻撃を喰らう直前に石の試作型疑似玉璽の超振動で服を硬化させ、鎧の様にすることでダメージを最小限に抑えたんだろう。
服にパンチを当てた時の感触も、ぶっちゃけ服とは思えない程硬いものを殴った様なもんだったしな。もしかしたら、服だけでなく体も硬化しているのかもしれない。ならば―――
「少年戦士、お前は強いぬ。ボスから渡されたこの石の試作型疑似玉璽で自身を硬化していなければ、俺も今のラッシュでやられていたぬ。
だが、それは同時に俺が試作型疑似玉璽を持っている限り、お前の攻撃は俺には届かぬことを意味しているぬ。貰い物の力で勝利を得るというのは不本意だが、これで終わりにさせて貰うぬ!!」
ぬのおっさんはそう叫びながら俺に向かって突っ込んできた。確かに、ただスピードに自信があるだけの奴なら打つ手が無かっただろうな。
だが、俺が自分の持ちえる技術の全てを使えば、石の硬化を無効化するなんてのは容易いことだ。蛇活を利用した荊の技なら石の鎧を砕くこともできるからな。
「蛇活!!」
「ぬっ!!?」
俺は両腕の関節を外し、掴み掛って来ようとしていたぬのおっさんの右手――右前腕部に荊の技‐蛇活ver‐を放ち、石の鎧を砕く。そして―――
「オラッ!」
「ヌガッ!!」
俺は瞬時に外していた関節を戻し、拳で両側から挟み込む様にぬのおっさんの右前腕部を殴り、右腕の骨を砕くと同時に握力に必要な前腕筋を損傷させた。
俺の攻撃をモロに受けたぬのおっさんは腕から血を吹き出しながら、痛みを押し殺した様な声を上げる。
「石の鎧ってのは荊の技に弱くてね。それさえ使えれば、意外と簡単に砕くことができるもんなんだよ」
「………今のがその荊の技というものかぬ?」
「いいや。俺は腕の関節を外すことで変幻自在な攻撃を可能とする暗殺技法――蛇活を利用して荊の技を疑似的に再現してるに過ぎないさ。
んなことより、ぬのおっさん。あんたの右腕もこれで2、3ヵ月は使い物にならなくなった。今からでも投降しろよ」
俺がそう言うと、ぬのおっさんは右腕を垂らした状態で構えを取りながら、石の試作型疑似玉璽の本体部分を展開し、床部分に接触させようとしていた。
「プロの殺し屋が子供相手に投降などできぬ!」
ぬのおっさんは轟のおっさんと同じ様な台詞を叫ぶと水晶振動周波を発生させた。が、この水晶振動周波にも石の鎧と同じ様に対抗手段はある。
スプリンクラーも反応しない様な小規模の炎をいくつか発生させ、それが生み出す僅かな上昇気流を足場に空中を移動すれば、地面を媒介とした水晶振動周波現象の影響は受けないからな。
ちなみに、ほんの僅かな上昇気流でも足場にできるのは風系暴風族限定なので、俺の様な統合型暴風族や、炎と風の複合型暴風族でもない限り無理な技術ではあるけどな。
兎に角、上昇気流を足場に水晶振動周波を回避した俺は、そのままぬのおっさんに無駄無駄ラッシュを繰り出そうとした。しかし、それよりも早くぬのおっさんが次の行動を起こした。
ぬのおっさんはポケットから何かしらの装置を取り出し、俺に向けてきたんだ。あれは轟のおっさんが持っていた麻酔ガスか?……丁度いい。これを利用させて貰おうか。
ぬのおっさんが麻酔ガスを噴射すると、俺は自然な感じで脱力し、空中から投げ出される様にぬのおっさんへと向かった。すると、ぬのおっさんは俺の頭を空中で無事な左手を使って鷲掴みにする形で受け止めた。
「悪いぬ、少年戦士。手っ取り早く終わらせる為、スモッグの麻酔ガスを使わせて貰ったヌガッ!!」
俺がガスで意識を失っていると勘違いして完全に油断している隙を突き、俺はぬのおっさんの左前腕部に二重の極みを放ち、今度は左腕を破壊した。
「……な、何故ガスの直撃を受けて意識を失ってないぬ!?」
「轟のおっさん――スモッグだっけ?その人にも言ったけど、俺は毒や菌といった類が効かない特異体質なんだよね」
「ぬっ、ぬぬぬぬぬうぅぅぅ!!」
俺が律儀に質問に答えてやると、ぬのおっさんは最後の力を振り絞ったかの様に突っ込んできた。しかし、そんな特攻攻撃は俺には意味を為さない。
「時よ!」
「ぬぎゃッ!!」
突っ込んで来るぬのおっさんの顎と首筋に十数発の高速蹴りを放つことで、俺はぬのおっさんの意識を刈り取った。これで勝負は決まった。
この後、ぬのおっさんはガムテープを使って両手両足を拘束させて貰った。意識を取り戻した後、追って来られても面倒だしな。それと当然のことながら石の試作型疑似玉璽も回収させて貰った。
後書き
本文で説明を省いていますが、試作型石の疑似玉璽は試作型ということもあって、大気を固めるということは無理だったりします。
それ故に上昇気流を使っての空中移動が可能となったと考えて下さい。
……さて、次話は女子の時間となりますが、女子だけに行かせる気はありません。さて、どうなることか……。(笑)
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