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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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九校戦編〈下〉
  九校戦八日目(2)×対八高戦と三人の戦い振り

選手の姿はルール違反監視用のカメラが追い掛けているが、映像は客席前の大型ディスプレイに映し出される。障害物の多いステージでは、この映像が観客の頼りとなる事だ。だが俺の姿があまりにも速すぎるので、急遽CBでよく使われる小型偵察機のカメラを映し出されても、ギリギリ見える範囲だった。

「速い・・・・!」

「自己加速か?」

吉祥寺の呟きに目を『画面(ディスプレイ)』に固定したまま一条が質問の形で応える。一瞬映し出された背中は、次の瞬間フレームアウトとなった。その向こうには急遽ディフェンスを三名にしたが、二名は既にやられてしまった様子だった。

一方俺はエレメンツの一つである風で、素早く相手のモノリスに近付いてからディフェンス二名を風と精神系統で倒した。見えない風でのデスサイズなので、観客にも一条もどういう魔法かは分からずにいた。

「移動に魔法を使っている様子は無さそうだし、第一ディフェンス二名をすぐに戦闘不能というのは僕にも分からない・・・・あっ!」

残りの一名であるディフェンスを重力で片膝を突かせた間に、モノリスに回り込んだ俺にデバイスの銃口を向けた。重力によって地面に押される感じが無くなったので、そのままの態勢で拳銃形態の銃身部分が短いショートタイプの特化型デバイスに起動式展開後、想子(サイオン)の視覚化処理が施された画面は八高選手の展開した起動式が急激に拡散した非物理的衝撃波による物で、想子(サイオン)の爆発に消し飛ばされる所を映し出した。

「さっきは俺の左手にあったデバイスだったが、背中越しだと見えない様子だと思える。右手は空いてるが、既に持っているからな」

画面の中の俺は、走りながら右手に握ったデバイスの銃口をディフェンス選手へ向けていた様子を映し出していた。

「何時の間に?」

抜いたんだ?という言葉が省略された一条の問い掛けだったが、吉祥寺の応えは質問に対する答えではない。

「今のは、まさか・・・・術式解体(グラム・デモリッション)」

「術式解体だとっ?」

起動式を破壊して見せたのは、残念な事に術式解体ではなく無効化を使ったに過ぎない。だが魔法師にとってはそう見せたからか、無効化の力を他所が知るような真似はしなかった。そんでモノリス手前にて、右手の引き金を引いてから端末を取り出して第一条件であるモノリスに隠されたコードを打ち込む事をしながら、残りのディフェンスはそうはさせないと攻撃をしようとしていたが、シールドビットによって防がれていた。

「やった!モノリスが開いたわ!」

一真が打ち込んだ鍵が作動し、敵チームのモノリスが二つに割れたのを見て、ほのかが手を叩きながら飛び上がった。そしてそれを見た一年女子の中で、特に一真の事を好意を持っている雫にほのか、エイミィにスバルと和美、そして妹の深雪が歓声を上げていた。

「流石一真君だ、でもモノリスを目の前にして端末を取り出したみたいだけど」

「危ない!・・・・僕の目がおかしいのか、ディフェンスの攻撃を全て弾いているみたいだけど深雪には分かるかい?」

「たぶんあれはビットによる防御しながらだと思う。それに端末を取り出したから、ゼロによってすぐに五百十二文字を読み取る事が出来る」

モノリス・コードの勝利条件が加わった事で、まず先にモノリスの中に隠された五百十二文字のコードを審判席に送信する事。本来なら左腕につけたクラムシェル型のウェアブルキーボードが、コードを打ち込み送信するための端末となっている。だがゼロが入った端末をモノリスに入ったコードを見る事で、数秒で送信してしまう機能を取り付けた端末を持っているのは俺ら三人。

「今のあれは何だ?」

一真が使った対抗魔法に最も衝撃を覚えたのは他校であるが、第一高校もだと思った。真由美は妙に感情を希薄な声で呟いた。

「術式解体(グラム・デモリッション)に見せかけた無効化のようね。まあ無効化を知らなかったら、私らも術式解体(グラム・デモリッション)だと思うから」

「真由美、無効化については知っているが術式解体(グラム・デモリッション)とは何だ?」

妙な勢いで迫る摩利にチラッと目を向けてから、すぐに視線をモニターへ戻したが説明をするのは真由美ではなく後方にいた者によって説明された

「無効化を他校には知られたくないから、ああしたんだと思う。術式解体は、圧縮したサイオン粒子の塊をイデアを経由せずに対象物へ直接ぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式何かの魔法情報を記録した想子(サイオン)情報体を吹き飛ばしてしまう対抗魔法の事よ」

「魔法の記録またはマギ・グラムを粉砕(デモリッション)する魔法だから、グラム・デモリッション。魔法と言っても、事象改変の為の魔法式としての構造を持たない想子(サイオン)の砲弾だから情報強化にも領域干渉にも影響されないし、砲弾自体の持つ圧力がキャスト・ジャミングの影響もはね返してしまう。物理的な作用は一切無いから、どんな障害物でも防ぐ事は出来ない。そうして、対象座標で発動途中の魔法を力付くで吹き飛ばしてしまう」

「強大な想子(サイオン)流で迎撃するか、想子(サイオン)の壁を何層にも重ねて防御陣を作る事で無効化出来る。射程が短い以外に欠点らしい欠点が無いから、実用化されているものではない最強の対抗魔法と呼ばれている無系統魔法を無効化という力を隠して見せる一真さんだから出来たんだと思うわ。それにこれを使える人はほとんどいないし、私や真由美にも無理だから一真さんはあえて術式解体に見せかけた無効化を使ったんだと思う」

「ま、それが一真様の力であり見せたくない力がほとんどですからね。術式を乱すのではなく、吹き飛ばす圧力は一真様ぐらいのサイオン保有量が無いと無理です。なので超・力技と言っていい程です」

上から深夜、穂波さん、真夜、蒼太が説明したのか、真由美らは後ろにいた母親に驚いていた。そして蒼太の例えだと、パワーバカのパワータイプがハンマーを振り回して建物をぶっ壊すような感じだと言ったら摩利は納得したかのように見えた。

「まさかここにお母さんがいるとは思わなかった。それより蒼太さんの例えと同じで、はんぞー君との試合から判断してエレメンツ使いや繊細な技巧派だと思っていた」

「真由美、それは大きな勘違いよ。一真さんが技巧派な訳ないわ、パワーファイターであり半分戦闘狂のようなものですもの」

「それではここに来る途中で一真君が見せたアレは・・・・」

「摩利や私が見た事故現場は、十人分以上の重ね掛けされた魔法式を一撃で消し飛ばすぐらいのを簡単に打ち消してしまう。あの力を使うぐらいの人数相手でも一真君相手では、勝負にならないわ」

八高のフォーメンションは、ディフェンス三人にオフェンス三人でその内二人はモノリスに近付いていた。

「一真さんもだけど、レオ君と幹比古君も頑張って!」

「昨日のデバイス実験で味わってみたけど、楽勝だと思うわ」

一高本陣にいたレオはゼロのメモリ選別されたので、今現在自陣モノリスにいるレオが二人に見えていた。剣先を既に分離していたが、左右のレオは左右に剣先を飛ばしていた。木の陰からオフェンスが姿を見せると、ゼロからの念話で来た事で目を開けたのだった。手に持つデバイスはチームメイトが持つ特化型であるが、モノリスを開く前にディフェンスを倒す意図が明らかになっていた。

『レオ、木の陰にて敵反応がありました』

『了解。にしてもこれは便利な機能だな、念話が出来る何て思ってもみなかったぜ』

オフェンス選手が銃口をレオに同時攻撃しようと向けた瞬間、武装デバイスであるエレメンツビットを横薙ぎに一振りしたレオ二人。

「やった!」

「やるわね、流石は一真君が仕上げたデバイス。アイツが二人見える事が、もう可笑しいんだから」

美月とエリカ、二人の口から歓声が上がったと同時に八高の選手二人は木立の真横から飛来してきた金属板により、脇腹を痛めながら左右に倒れた。木の配置からゼロが計算した迎撃位置に立つレオ二人は、注文通りの距離で立ち止まったオフェンス二人を分離した刀身で殴りつけた事により、刃と合体して元に戻った事で天に向けて撃ち出してから、静止した。

「ウォオオリャァァ!」

雄叫びと共に振り下ろされた刀身は、運動半径に相応しい速度で倒れ伏す八高の選手にトドメを差したが、もう一人は攻撃後のレオに銃口を向けた。それにより観客や八高は、倒したと思ったがオフェンス選手が発動した魔法による弾は直撃したはずが無傷で立っていたレオ。

「俺にそんな攻撃したって無駄だぜ!これでも喰らいやがれェェ!」

一つの刀身がたくさん出現し、所有者を守護後に刀身がリフレクターの役となり、レオが撃った威力の小さい雷撃砲は反射されながらもう一人のオフェンス選手を気絶させたのだった。そして敵を倒した事により、刀身は元の一つとなってから元通りの剣となったと思いきや照明弾が上がった事により、あとは頼んだと念話で言ったレオに対して二人の返事が来たのだった。

「何ですか、今のは?」

声を荒げるような事はなかったが、問い掛ける鈴音の口調は持ち前の冷静さが刃毀れしている様に聞こえた。ちなみに真由美や摩利がいる所とは違うモニターを見ていたので、深夜や真夜らが素通りした事に気付いていなかった。

「一真様が開発した武装デバイスとオリジナル魔法である『エレメンツビット』です」

答えを返したのは、昨晩見ていた沙紀だった。さっきまで真由美の方にいたが、同じ説明は面倒なので沙紀だった。

「『エレメンツビット』とは、一体どういう仕組みなんですか?」

簡潔な沙紀に対し、鈴音は繰り返し頷いた。

「なるほど、とても斬新な発想でも言えるでしょうがこれは所有者限定にしたモノと考えていいのですよね」

「そうです。そして一真様だけが創れる代物と言った方がいいでしょう」

第八高校のオフェンスは三人で、ディフェンスも三人であるが、既に一真とレオによって四名倒されてしまった。あとの二人の内、一人は一真を追っていたがもう一人は樹々の間を彷徨っていた。森林ステージと言っても富士の樹海を会場に使っているのではなく、演習場の一部に人工の丘陵地形を作りそこに樹木を移動した。

あくまで訓練の為のフィールドである事を知った一真により、幹比古に特化したフィールドだなと思った。移植から半世紀過ぎているからなのか、自生化していて八百メートル程度の道程迷うような密林ではない。ところが現実では、八高の選手が自分の現在位置を見失っていた事で更に密林の中へと進んでいたのだった。

「どこだ、畜生!こそこそ隠れてないで姿を見せろ!」

苛立ちが剥き出しとなった声で喚きながら、八高選手は超音波を打ち出す魔法を発動した。超音波に威力自体は大した事ないが、精々耳鳴りがする程度だ。その耳鳴りが妙に鬱陶しくなっていたが、選手が被っているヘルメットは軍が使用している物だ。とはいえ衝撃と圧力から、頭部を守る事だけを目的とした一般歩兵用の基本装備なので、ガスや音波の遮断効果は無い事については既に知っている一真。

国防軍が使っている防護服については、CBや蒼い翼との繋がりがある独立魔装大隊が情報を流しているので弱点などは知っている。とは言っても、記憶共有者が国防軍にいるので情報関連については簡単に横流し出来る。ヘルメットは顔は剥き出しとなり、耳の部分は音を通す為の細かな穴が多数開いている程度。音波攻撃を受ければ、自分の魔法力で防御しなければならない。

八高の選手は、チームメイトでお揃いのデバイスをホルスターにしまって、予備の携帯端末形態・汎用型デバイスをポーチから取り出して断続的に襲ってくる超音波に対抗しながら敵チームのモノリスへ向かっているつもりだった。何時まで進んでも敵本陣が見えてこないし、彼は気付いていなかった。超高周波と超低周波を交互に浴びせられ、高周波にばかり気を取られている内に、低周波によって三半規管を狂わせてしまっていた事だ。

視界が制限されて、右に左に次々と方向転換と言っても回転を重ねなければならない状況となる。回転を知覚する器官を狂わされては、自分が今どちらを向いているか正確に把握出来なくなるのも当然だろう。方向を見失ったという自覚があれば磁石(コンパス)を見るという対応も取れるが、気付かぬ内に感覚を狂わされては迷うはずが無い人工的な環境から修正が効果が薄いと思う。

「流石は一真の策通りとなっているね、このまま八高選手の思い込み通りとなればこの魔法は最大限に発揮される」

『今の所は地の精霊王との連携でありますから、木霊迷路は最大威力で発揮されます』

「ははは、このエレメンタルメモリのお陰だと思うよ。地・水・風・火の四大元素を素となったからか、それぞれの精霊王とリンクして一真みたいな精霊術師として使えるからだよね」

『反撃しようにも、方向感覚を狂わせているので術者である幹比古の位置が特定される事はありません。それに一真様もレオもそれぞれ倒しているようなので、幹比古も倒せばいいと思います』

幹比古は精霊魔法を使う魔法師だが、実体から遊離した独立情報体を介して音波攻撃を仕掛けているからだ。仮に発信源を突きとめてたとしても、それは精霊が漂っている座標なので後ろを見たら倒しているだろう。相手に居場所を掴ませない隠密性というのが、精霊魔法での最大の奇襲力だ。そろそろ八高選手の後ろに付くが、風と同化したので幹比古本体を見つける事は出来ない。

「くそ!出て来い、うぅぅぅ」

「そう言われたのなら、君を倒そうかな」

「何!グアァァァァァアア・・・・」

『一真、こっちも倒したよ』

『了解した』

幹比古は風と同化しながら、姿を現した所で鎌鼬をして倒したのだった。俺はそう返事をしたら、こちらに追ってくるディフェンダーをモノリスから引き離してからエレメンツの一つであるゴーストを発動させて影の中に入った。俺を見失った相手選手だったが、影がぐるぐるとしていたので地面に向けて攻撃しようとしても効果はない。相手の影を打ち込んだので、行動を封じた。

「何で俺の動きが動かないんだ!?」

「そりゃそうだろ、お前の影は動かなくしたんだからな。ついでに言っとくが、エレメンツ使いであるから光や闇を使える。今まで名無しとしてはハンデがあったのでな、余り本気してなかったがそろそろ倒れろ」

そう言った俺は相手の影内に入り、相手を気絶までに追い込んだ所で倒れた八高選手。想子(サイオン)の可視化処理が施された大型ディスプレイは、系統外魔法の想子(サイオン)波が八高ディフェンダーに浴びせ掛けていた様子を映し出した所で崩れ落ちた八高選手。

「・・・・分からないけど、恐らくエレメンツを使ったんだと思うから。系統外の」

「ジョージでも分からない現象なら、名無しの時に使ったのもエレメンツなのだろう。早撃ちの時もそうだったように」

吉祥寺の言葉に一条もそう言った。

「どうやら、左右のデバイスはそれぞれエレメンツが最大限に発揮出来るように使い分けているようだ」

「ジョージ・・・・アイツの系統外は妙に古式魔法っぽいと思わないか?」

「将輝もそう思うかい?修験道か忍術か、エレメンツはかつて2010年代から2020年代に開発されようとしていたけど、四系統八種の体系が確立した事によってエレメンツの開発は中止されたと聞いている。でも織斑一真が使っているのは、間違いなくエレメンツだろうね」

「古式でも現代でも無ければ、残りは直接本人に聞くしかなさそうだな」

八高ディフェンダーを倒した事で、レオと幹比古も倒したので八高応援団の悲鳴が聞こえようとしても、真由美と摩利はお互いの顔を見た。ちなみに深夜達は既に撤収しているので、残った蒼太と沙紀はここにいたのだった。

「・・・・勝ったな」

「・・・・勝ったわね」

これで決勝トーナメント進出が決まった事だが、二人は何故か喜ぶ気になれずにいた。第一条件であるコードが受信された事で第二条件である相手選手を全て倒した。全ての条件を果たしたので、試合終了のサイレンが鳴った。一高の校旗が掲揚されるその途中から、第一高校の応援席は大騒ぎだった。

「勝った!勝った!!」

「やっぱり一真君は凄い凄い凄い!勝利条件をクリアした。完勝ですよ、完勝!」

「おめでとう、深雪」

「流石一真さんだ、やったね深雪」

「ありがとう、まあお兄様にとっては準備運動にしかならないと思うわ」

黄色い声ではしゃいでいる一年女子選手達ではあったが、この試合が準備運動だと知っていたとしても優勝したような騒ぎとなっていた。一般観客席では、もう少し落ち着いた祝賀風景が繰り広げられていた。

「やっぱり昨日のレオとミキの実力だと、これじゃ準備運動にしかならないわね」

「そうですね。レオ君も吉田君も周辺には精霊が活発していたように見えたから」

「ま、それが一真君の策によるけど、三人とも危なっかしくなさそうだから安心して応援出来る」

美月とエリカも昨日の夜に試合相手をしていたので、本当の実力はまだまだ隠している様子を見ていたのだった。 
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