ソードアート・オンライン ーEverlasting oathー
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ーAnother worldー
Another episode 1 Anotherworld
前書き
この世界にはパラレルワールドと言うものが存在すると言われている。
パラレルワールドとは今までの世界とは全く違う世界。
もしも、こうだったら、存在しなかったら、ある物が無かったり、そんな可能性の世界。
これは、今までの世界とは違う、違う可能性があった世界の物語。
………小鳥の鳴き声が聞こえる。
これはきっと雀だろう。
俺は布団の中で目を閉じ、朝から元気良く仲間を呼んでいる雀の声を聞いていた。
今日から学校だ。
俺はとある学校にギリギリで高校を合格することが出来た。
それが結構頭が良くてさ。
今、住んでいるとこが千葉県なんだけどさ。
県内でも五本指には入っちまうんだぜ。
「ふぁ………ん〜〜!うわ、寝癖めっちゃついてるじゃねぇか」
俺は欠伸をし、自分の頭を掻きむしる様に触り、自分の寝癖を直そうとした。
「お〜〜い優也〜。起きろ〜〜」
「もう起きてるよー」
「お母さん仕事行ってくるからねー」
「はいよー」
二階にいる俺は扉越しに一階にいる親に返事を返した。
一階では足音がし、扉をガチャリと開け、いってきまーすとの声が聞こえた。
俺も遅刻しない様に学校へ行く準備を始めた。
おっと、言い忘れたけど今日は入学式なんだよ。
「太陽が眩しいねぇ!」
ベッドから起き上がり、部屋を暗くしているカーテンを勢い良く開けると世界を照らし続けている太陽と御対面した。
窓を開けると心地良い風が俺のパジャマをひらひらと仰いだ。
「さーて、準備しますか」
俺は寝癖を抑えつつ一階へと向かった。
扉を開け、一階へと向かう階段を下り、リビングへの扉を開けると父さんが椅子に座りながらテレビを見ていた。
父さんの片手には苺ジャムが塗られた食パン。
テーブルを見て見るといつも通り俺の分も置いてあった。
「おはよう、父さん」
「ん。おはよう。今日は入学式だっけか?」
「うん。へへ、すげぇだろ?父さんが絶対無理だって言ってた学校受かったんだよ」
「確かにビックリしたな……お前、顔とピアノ以外はてんで駄目って言うのにな」
「喜んでいいの?キレていいんすか?」
父さんは腹を抱えて俺を馬鹿にする様に笑っていた。
俺は頭が悪い訳では無い。
中学の時は授業を少しサボっていただけだ。
決して頭が悪い訳では無い。
現に俺は中三になった瞬間勉強を始め、多少高レベルな学校に受かる事が出来てるしな。
「おっと、父さんもそろそろ仕事に行ってくるよ。戸締まり宜しくな」
父さんは椅子から立ち上がり、俺の頭をくしゃくしゃっと撫で、玄関へと向かって行った。
そして一言、いってきます。と言い、玄関の扉を開け、仕事へと向かった。
俺は扉を開ける音がすると同時に苺ジャムが塗られている食パンにかぶりつこうとした。
ピンポーン。ピンポーンピンポーン。
インターホンを連続で鳴らす音。
きっとあいつだろうと思いながら俺はパジャマ姿で玄関へと向かった。
玄関のドアノブに手をかけ、回す。
そこには見慣れた顔がドアから半分覗かせていた。
「和人早いな………俺まだ準備終わってないぞ………」
「うぇ、マジか」
「どーせ、学校に早く行きたくてウズウズしてたんだろ」
「う…………と、取り敢えず上がらせて貰うよ!」
「へいへい」
俺は和人と呼んでいる女の子の顔つきの様なイケメン、桐ヶ谷和人を家へと招き入れた。
因みにこいつ、俺と同じ高校でトップで受かりやがったからな。
そして、和人は中学の時に仲良くなった親友だ。
あれは………そう、アイス。
アイスの当たり棒で親友になった。
自分でも思うがこれ如きで親友になったなんて色紙並みに薄っぺらい友情だと思う。
「早く行こうぜー優也ー」
「待ってろって………」
それでもちゃんと親友やってる。
「お前はリビングで座って待ってろ。俺は一回部屋行って制服着てくる」
「あいよー」
和人はそういいながらリビングに向かい、俺は二階にある自分の部屋へと向かった。
自分の部屋に入り、ハンガーで掛けてある制服を手に取った。
「いいねぇ……新品の匂い」
俺は手に取った新品の制服の匂いを嗅いだ。
新品独特の素材の匂い。
制服を買った店の匂い。
最初に制服店に入った時は凄い嬉しい顔をしてただなんて絶対にいえない。
俺は自分のにやけ顏を思い出しながら制服を着た。
「良し!準備オッケーだな!」
リビングに着くと和人が俺の苺ジャムパンをむしゃむしゃと食べていた。
しかも牛乳をコップに注いで。
「苺ジャム美味しいな」
俺に向かってキメ顔。
「お前なぁ………食べるのはいいけど歯磨きどうすんだよ」
「あ」
口に加えていたパンが和人の口から離れ、皿の上へと戻って行った。
「んじゃ、俺は歯磨きしよっと」
「俺もしよっと」
「歯ブラシないだろうが」
「ああ、洗面台行ってみな」
まさかこいつ………
俺は洗面台へと向かった。
………見知らぬ歯ブラシが一本。
ありますね。
しかもケースに入ったままの新品。
ケースの裏には油性のペンで"桐ヶ谷君"と書かれていた。
「何ですかこれ」
「優也のママさんが俺が泊まりに来た用で置いとくって言ってた」
「やるなお前」
「だろ」
俺は自分の歯ブラシを取り、歯磨き粉をつけてガッシュガッシュと磨き始めた。
和人は俺の母さんが用意した歯ブラシに手をかけ、ケースを外し、俺と同じ動作をした。
「……………」
「……………………」
「………………………………」
「ひゅうはははのひょつくんおひゃ?(優也は彼女つくんのか?)」
「ひゃあ?ひょうひゃひょうは?(さぁ?どうだろうな?)」
俺とキリトはそれぞれのコップに手を取り、水で口の中をすすいだ。
「優也はかっこいいからすぐに出来るんじゃないか?」
「まさかー、中学でも全然だぞ俺」
「こいつ気付いてらっしゃらない!?」
「何がだよ」
和人は気付いていた。
同級生の女生徒半分は優也に好意があった。
だが、気付いて無いのは和人もだ。
和人はあとの半分に好かれていた。
「はいはい、馬鹿な話はやめてそろそろ行くぞ」
「……………あっ」
「えっ」
突然、気付いたという顔をした和人に不信感を覚えた。
和人は自分の腕についてる黒色の腕時計を見て目を点にしていた。
そして、苦笑しながら顔を引きつらせた笑顔で俺に腕時計を見せて来た。
「あと5分で遅刻っす………」
「……………」
「……………」
俺と和人はお互いの学校鞄を持ち、無言で玄関に向かい靴を履いた。
玄関を出ると涼しい風、眩しい太陽。
俺達の入学式を祝ってくれてるに決まっている。
外に出るとお互いの靴紐を締めた。
何故か準備運動をする。
「優也さん。残りタイムリミットは3分です」
「俺達なら行けるだろ?」
俺達はクラウチングスタートのポーズをとった。
和人は腕時計に仕込まれているタイムを測る設定を操作していた。
「3………2……1…」
何故かカウントダウンをし、0になると和人がタイムを測り始めた。
ピッという音と同時に俺達は走り出した。
「「うぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」」
先ずは走り出してすぐ右に曲がる。
次にそのまま走り続け、タイミング良く青になった信号を渡った。
渡った先にある電気屋の駐車場を通ってショートカットを通る。
伊達に16年間この街に住んでただけはあるんだよ。
「和人!あのコンクリートの壁登るぞ!!」
「任せろ!」
走っている先にはコンクリートの壁、コンクリートの壁を登るとフェンスがある。
俺は和人より先にコンクリートの壁を登り、右手でフェンスを掴んだ。
「来い!」
次に和人がコンクリートの壁を登った。
此処で俺達の友情コンボの炸裂だ。
和人は俺の左手を掴もうとした。
その瞬間、フェンスを掴んでいる右手に力を入れ、離さないようにした。
和人はコンクリートの壁を上に上がる為に蹴り、俺の左手を掴んだ。
そして、俺は思い切り左腕を上に振り回し、和人を上げた。
すると、和人の片手はフェンスの一番上へと届いた。
和人はフェイスに辿り着くとフェンスの反対側に付き、俺はフェンスをよじ登った。
お互いにフェンスを越えると目の前には学校。
つまり、俺達は俺の家から3分で学校門に着いたって訳なんですよ。
学校門に着いたんですよ。3分で学校門に着いたんですよ?
此処、大事っす。
俺と和人は清々しい顔で自分達の学校を見ていた。
和人はタイムウォッチを切った。
キーンコーンカーンコーン。
「遅刻だなぁ」
「遅刻っすねー」
「3分で"学校門"に着いたからなぁ…………」
「…………優也………早く行かないと公開処刑だな」
「お前もな………」
俺達はガックリと肩を落とし、教室へと走って向かった。
「はいそれではホームルーム始めます」
ガラガラ………
「「ハァ………ハァ……すびばせん……ハァ……遅刻しまひた………ハァ……」」
俺と和人は同時に教室へと入った。
すると先生だけでは無く、クラスメイト全員が俺と和人を見ていた。
先生は溜息をつき俺達に座りなさいと言った。
「えーーと………桐崎君と桐ヶ谷君だね?」
「俺が桐崎で、こっちが桐ヶ谷です」
「もう一人は一緒じゃ無いのかい?」
「もう一人?」
俺が先生の質問に疑問符を浮かべていると背後から足音がした。
「おはよーっす」
「おぉ、来た来た。全く………君達三人とも初日から度胸があるね………」
「うす………」
「君が………藤……「あーーーーーーーーー!!!!照っ!!!探したんだからね!!!!」……君」
先生が今入ってきた俺の後ろにいる奴の名前を聞こうとしたらクラスメイトの女子が一人立ち上がり、ビシっと後ろの奴に指差した。
そして、指を指しながら近づいて来た。
「ゲッ………鈴菜………クラス一緒かよ」
「ゲッて何よ!ゲッって!今日、ずっと探してたんだからね!家に"迎い"に行っても照のお母さんがもう行ったって言ってたから驚いたわよ!」
ワイワイ……ガヤガヤ………
教室中がどよめきだした。
そらそうだ。
初めて見る顔だが鈴菜と呼ばれる女の子は普通に可愛い方だ。
そんな女の子が朝からわざわざ男を迎いに行くなんて。
非リア充の天敵じゃないか。
男達が後ろの男にガンを飛ばしている。
「あ?テメェら何、喧嘩してぇのか?いつでもぶっ殺してやるよ」
男がガンを飛ばし返すと男達は目を逸らし、静かになった。
和人は冷や汗を流しながら全力で後ろを向かないようにしている。
まるで生まれたての子鹿みたいにプルプルしてるんですけど。
だが、俺は後ろを向き、男を見た。
身長は同じ位、前髪を上げて凄いヤンキー面。
ワイシャツの第一、第二ボタンを開け、ネクタイはだらしなく付けられ。
うん。初見では辛いね。
ただ、俺は止まらなかった。
男に向かって手を出した。
「俺の名前は桐崎優也。お前は?」
「………藤林照」
「藤林………照でいいか?」
「………ああ、別に構わねぇよ」
藤林照、もとい照はおどおどしていた。
おどおどしている照を見ていた鈴菜はクスッと笑っていた。
「ね?言ったでしょ?此処には今までと違う世界があるって」
「うっせーよバーカ。とっとと自分の席行きやがれ」
「友達が出来て嬉しいでしょ♪」
「だーーーーーっ!!うっせーーーーーー!!!」
照は叫びながら空いてる席に適当に座った。
丁度、適当に座った席があっていたのか先生が微笑みながら頷いていた。
鈴菜も笑顔で照の横の席に移動し、座った。
照は苦虫を潰した様な顔をしていたが、諦めたかの様に溜息を吐いてグッタリしていた。
「俺達も座ろうぜ?」
「そうだな………先生、俺達の席は?」
「んーとなぁ………あそこだな」
先生が指差したのは窓側の後ろの席二つだ。
後ろが俺でその前が和人だ。
俺と和人は移動した。
「ふぃ〜風が気持ちいいわぁ………」
「結構いい席に着いたな」
「そうだな」
俺は頬杖を付き、ホームルームを始めた先生を見ていた。
和人は片腕を俺の机に置き、体を俺に向け、喋っていた。
「…………貴方達」
突然、隣に座っている女生徒が話しかけて来た。
声のトーン的に少し怒っている?様な気がした。
声の主の方を見ると茶髪ロングの女の子がジト目で俺達を見ていた。
「初見から遅刻なんて……本当にいい度胸ね………」
「いやー………ショートカットはしたんだけどな」
「3分の壁があったな」
「何のことよ」
「「こっちの話」」
「む………一つだけ言っとくけど遅刻はあまりしない様に!」
「何でお前に言われなきゃいけないんだよ」
「あ、貴方達の心配をしてあげてるのよ」
「んなもんいらねぇよ。余計なお世話だ」
俺は言葉のトーンを下げ、うぜぇという感じに言葉を女の子に放って先生の方を向き直した。
俺の言葉が効いたのか、女の子は下唇を噛み、泣きそうになっていた。
それを和人は見ていてどうしようとおどおどしていた。
「ちょ、えっと、だ………大丈夫?」
「……………うぅ………」
「ま、待ってくれ。泣かないでくれよ」
和人は両手を振って困惑していた。
女の子は自分の膝に手を当て、学校指定のスカートを握り締め、今にも泣きそうだった。
「泣くなって………あ、そうだ。こ、これやるよ」
「………御守り………?」
和人が出したのは御守りだった。
その御守りは結構貧相に見えるものだった。
「うん。ずっと前に俺の叔母さんに作り方を教えてもらったんだ。実は余分に作っちゃってさ。二つ持ってりゃ運も二倍になるんじゃないかと思ってずっと持ってたんだ。」
「いいの……?」
「叔母さんが言ってたんだけど、この御守りは持ち主の心を強くしてくれるんだってさ。君は勇気はあるけど心はそんなに強くないみたいだからさ」
女の子は渡された貧相な御守りをジッと見ていた。
すると、御守りを両手で握り締め、顔を上げた。
「ありがとう」
究極の笑顔でそう言った。
「い、いや、べ、べ、別に御礼を言われることじゃぁ………」
「頼むから俺の近場で甘いエピソードを繰り広げないでくださいますか?」
「「///」」
「イラッ」
やれやれ…………
全く甘いな、この学校。
俺がそう思っていると女の子が和人に話しかけた。
「貴方の名前は……?」
横目で俺をチラチラと警戒しつつ、女の子は和人の名前を尋ねた。
「俺?俺は桐ヶ谷和人。君は?」
「結城明日奈………です」
結城明日奈と呼ばれる女の子はもじもじしながら自己紹介をした。
「結城明日奈ね。結城………じゃなんか、あれだなぁ………」
「?」
和人はイケメンだったわ。
「明日奈って呼んでいいかな?」
「………!!!////」
フラフラ………バターン
明日奈は机の上でぶっ倒れた。
「ちょっと!?大丈夫か!?」
驚いている和人を横目に、俺は冷静に対処しようと右手を上げた。
「先生ー、馬鹿が一人、永久退場しました。」
学校 ーーー廊下ーーー
「さっきは本気で焦った」
「俺も内心、凄い焦ってた」
「凄い冷静だったぞ」
ホームルーム中、ぶっ倒れた明日奈は責任持って和人が保健室まで連れて行った。
俺はその付き添い。
んで、保健室まで連れて行った後、保健室にいる先生に引き渡した。
なんでも高熱を出してたらしい。
そして、今は送り終わった後。
「和人ー、一時間目の授業は何か分かるか?」
「はい、これ」
「うわ、お前強いわ」
和人は右ポケットに手を突っ込み、取り出したのは高校を受かった時に貰った書類の中に同封されている時間割の紙をそのまま持って来ていた。
和人は四つ折りにしていた時間割の紙を広げ、読み上げた。
「一時間目は…………英語だな。三、四時間目が入学式だって。珍しいな」
「………音楽室行こっと」
「初日から単位減らしてどうすんだよ!」
「えー………」
自慢では無いが、俺は英語が大っ嫌い。
そのせいでこの高校受かるのが危うかったんだぞ。
英語マジファッキン。
「でもさ、ほら、英語は外人の先生が教えてくれるんだってよ。確か……エギル先生だっけか」
「誰だよ」
「皆はあんどりゅー・ぎるばーと・みるす?じゃ長いからエギルって呼んでるらしいぜ。因みにさっき横を通った生徒がそんなこと言ってた」
「何故エギルになったし、ちょっくら俺は音楽室行ってくるわ」
キーンコーンカーンコーン
丁度良く和人を撒くための予鈴がなった。
「ほら、教室戻らないとえぎる先生に怒られるぞー」
「あ、待てって優也〜〜!!」
俺は和人を置いて教室とは逆方向へと走った。
言っとくけど俺は学校の中を把握してない。
音楽室?どこだよそこ。
保健室はどうやって探したって?
明日奈って奴を和人におんぶさせて全力疾走で探し出したに決まってるでしょ。
「あ、そうだ。確か………保健室通る時に校内地図みたいなのあったよな」
俺は今まで和人と一緒に帰ろうとしていた道の逆方向を走り抜け、保健室前に着いた。
「あれ?此処に無かったっけ………あ、あった」
保健室を出てすぐ上の階へと続く階段の横の壁に分かりやすくどーんと大きく記されていた。
「音楽室は………この階段を一番上まで登って………登ってすぐか」
俺は階段をゆっくりと登り始めた。
歩いているうちに気付いた事があった。
「そーいや、音楽室って鍵かかってるんじゃないのかな?この学校はかけんのか?」
分からない為、取り敢えず向かってみた。
二階………三階………四階まであるだと…………?
とても長い階段を登り続けた。
向かっている途中に色々な教室から授業をしている声が聞こえた。
「はぁぁぁぁぁぁぁああああああついだあああああああ」
一番下の階から一番上までって話し相手居ないと寂しいし、足に来るわ。
俺は登り終わってすぐに右を見た。
すると音楽室と書かれた表札プレートが目に入った。
鍵は………掛かってないだと………?
普段はかけられているのか、南京錠が可哀想に床に落ちていた。
「今時南京錠か………中々いいセンスだな」
俺は南京錠を放置し、扉に手を掛けた。
その時、俺の頭の中に思考回路がフル回転する電撃が走った。
待て………普通に考えろよ。
こんな可哀想に南京錠が外され床に一人ボッチにさせられている。
つまりは、だ。
中に誰かいる………!
俺は扉を開けた。
中に入ると有名な音楽家の絵や楽譜。
クラシックギターからシンバル、それとタンバリンとか。
音楽室らしい教室が広がっていた。
勿論、お目当てのピアノもあった。
ただーーー
「何やってんだ?」
俺は話しかけた。
空想の友達、とかではない。
ちゃんとした、存在している"女の子"だ
そいつはピアノに向かって座っている。
ピアノには触れないで、ずっとピアノを見ている。
俺が声をかけると驚いた顔で俺を見た。
「何やってんだって聞いてんだけど…………今、授業中なんじゃないのか?」
「………うん。でもボクだけじゃ無くて君もだよね?」
「俺はサボった」
「えぇ〜〜!?サボったら怒られちゃうよ!」
「お前もだろうが」
「いや、ボクは音楽室にあるピアノに惹かれちゃって」
「サボった訳ね」
「シュン………」
自分の意思でサボった癖に目の前の女の子はガックリしていた。
「気づいたら予鈴がなっちゃってたんだってばぁ〜〜!」
「サボりには変わりないな」
「む……!君は何で此処にいるの?」
「ピアノ弾きに来ただけだけど」
「弾けるの!?なんか弾いてみて!ねぇ、早く!」
「お、おい」
女の子は目を輝かせながら俺の側に来て、片腕を掴んでピアノの方へ連れて行った。
俺は半強制的に椅子に座らせられた。
目の前には見慣れたYAMAHAの文字と白と黒の鍵盤。
「お前はとっとと教室に帰れよ」
「今から教室戻っても皆の前で怒られちゃうよ〜!」
女の子はそういいながら俺のすぐ隣に座り、今か今かと弾くのを楽しみにしていた。
「近い、暑ぐるしい。もっと離れろ」
「まぁまぁ、弾いてみてよ!」
「………てか、お前の名前は?」
「え?ボク?言ってなかったっけ?ボクの名前は紺野木棉季って言うんだよ。それに、人の名前を聞くときは自分からだよ!」
「言っても仕方ないだろ。もうあわねぇし」
「じゃぁ、当てちゃうよー?」
「当てれたら褒めてやるよ」
「ズバリ………君の名前はーーーー」
目の前の女の子は考える素振りを見せ、数秒間黙っていると最初から"分かってたよ"という顔をし、笑顔で言った。
「ーーー桐崎優也君です!」
おいおい………
俺は有名人かよ。
今日入学式があって………ていうか入学式自体はまだだけど
一発で身元判明されたぞ。
「何でって顔してるね!」
「ストーカーか」
「違うよ!!一応、君とは同じ中学だったんだよ?クラスは違ったけど君は結構女の子の話の中では有名人?なのかなぁ?」
「え、怖い。女子に話のネタにされてんの?」
「何でそんなにネガティブな方面に持って行くのかなぁ…………」
「ま、どうでもいいや」
俺はそう言ってピアノの鍵盤に触れた。
「ーーー君は初対面のボクに無愛想に振舞ってるけど、本当は違う。君は優しいもん。女の子の中で話題になってるって言うのは少し嘘。皆の話題になってたんだよ。ボクは君の話を色んな人に聞かされてさ、ボクはそんな君と話してみたかった。だから少し、嬉しいな。聞いてた通りだよ」
ピアノの音が教室中に広がる。
紺野木棉季という女の子の言葉を消し去りながら。
「聞いてた通り、かっこいい人………」
俺はピアノを弾き続けていた。
集中していたせいでピアノの綺麗な音以外、何も聞こえなかった。
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