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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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適能者-シュウ-

 
前書き
ついにウルトラマンXが放送開始しますね。今までになかったサイバーなウルトラマン。果たしてどうなるだろうかきになります。
さて、ゼロの使い魔も続刊が決定しましたが、いつ発売になるんだろ…情報が欲しくて毎日検索してしまっています(笑)

今回は回想も含めた、シュウがメインのお話です。
シュウとテファの関係をもっと深めた話が欲しいところですが、まだなんか弱い感じがするなぁ…。けどそれ以上浮かばない自分の想像力(もとい妄想力)の無さを呪いたくなってしまいます…。 

 
先日のあの…ウェールズとメンヌヴィルのアンリエッタ誘拐事件のことは、一切公表されなかった。ただ、メンヌヴィルという要注意人物については銃士隊や、ヒポグリフ隊の全滅で戦力と威信がさらに落ちてしまった魔法衛士隊が捜索に出回っているが、手がかりは無かった。
数日後、遂にアンリエッタ女王即位式がトリスタニアの街で執り行われた。彼女の即位には数多くの民たちが期待を、ある者は本当に役に立てるのか?期待に応えられるのかと疑惑のまなざしを向けたりもした。
しかし、意外にもルイズは街に繰り出さなかった。キュルケはモンモランシーから誘いもあったのだが断ったのだ。サイトも同様だった。実はあの事件の後、二人に与えられた任務は一次休みということで、再びルイズは学業に励むことになったので学院に戻ってきたのだ。当然、彼らが保護しているハルナも同行した。
とはいえ、実際は夏季休業中のはず。サイトたちには暇ながらも安らぎのひと時が流れることだろう。

だが、少なくともある男についてはまだ…。




『ネクサスワールド』の地球。黒部ダムの湖の下、TLT極東支部基地フォートレスフリーダム。シュウが行方不明になってから一か月以上が経過していた。
一年前のウルトラマンと黒い巨人の最後の戦いから大きな役目を持たなくなり、ビースト絡みの事件で行方不明者となった人の捜索を任されていたMPは、行方不目になったナイトレイダー隊員であるシュウの捜索を決行していた。
「黒崎隊員の居所は未だにつかめないの?」
「はい…」
MPの女性リーダー『首藤沙耶』から捜索の現状を聞いて、女性MP『野々宮瑞生』が申し訳なさそうに頭を下げた。彼女は、かつてウルトラマンの光を手にし、『三番目の適能者』としてビーストと戦った頃の憐を任務で監視についているうちに、互いに惹かれあった仲だ。そのため、共に遊園地でアルバイトしていたシュウのこともよく知っている。今回の、彼の謎の失踪についても驚かされていた。
「私たちMPは一年前の黒い巨人とウルトラマンの戦い以降、記憶消去の必要性がほとんどなくなったけど、だからといって私たちの仕事が消えたわけじゃないわ。一刻も早く見つけ出しましょう」
ビーストへの恐怖が、更なるビーストの脅威を招く。そんなビーストの厄介な特性に対してTLTはMPを発足させた。仕事は主にウルトラマンやビースト、そしてTLTにまつわる情報を人々の記憶から消去、隠蔽すること。だが、ビーストの存在を隠しきれなくなった今、現在のMPは存在理由を無くしたかに思われたが、これまでやこれからのビースト事件被害者の身元確認、遺族への救済措置が主な仕事となっていた。
ただ、一つ瑞生には疑問があった。
「首藤チーフ、教えてください。どうして、ここまでシュウ…黒崎隊員を…」
確かに、シュウを見つけ出さなければならないとは思っている。だが、彼女は一人の友人としてはシュウを見つけたいとは思う反面、一人のMPとしてはどうして足取りさえもつかめない人物をこうして頑なになって探し続ける方針が理解できなくもなかった。作戦行動中行方不明として扱われてもおかしくないのに。
「瑞生…今は彼を見つけることに集中しなさい」
首藤は詳しいことは何も言わず、ただ見つけることに専念しろとだけ命令した。



それは、コマンドルームで待機していたナイトレイダーAユニットにも通達された。
「そうですか…まだ黒崎の行方は…」
「はい。申し訳ありません」
これに真っ先に納得できないと申し出たのは孤門だった。瑞生と別れて、すぐにコマンドルームへ来訪しこのことを通達してきた首藤に状況を訪ねようとしたが、凪が首藤の前に立って敬礼し、孤門にとって耳を疑う一言を言った。
「わかりました。もう、戻ってもらって構いません」
凪があまりに淡々と言ってきたことに、孤門と詩織は目を見開いた。まるで彼のことを何とも思っていないようなその態度に怒りに近いものを覚えさせられた。
首藤リーダーが最後に頭を下げ、コマンドルームを去ったと同時に、孤門は大声を上げて凪に怒鳴った。
「副隊長は、彼のことが心配じゃないんですか!?」
「……私が心配しないとでも思った?」
後ろを向いたまま、そう告げた凪の一言に、孤門はハッとなって、一年前の戦いの記憶の一端を思い出す。
かつて孤門には『斉田リコ』という恋人がいた。だが、彼女はある男にその命を奪われ、弄ばれるという残酷な死を迎えた。自分の腕の中で光となって消滅した彼女の死に孤門は自棄になりかけた。そんな時、凪が厳しい態度はそのままに孤門へ手を差し伸べてきた。ビーストへの憎しみを怒りに変えるのだ、と。憎しみは何も生まないものだが、当時の凪はそれを原動力にしなければビーストと戦えなかった。しかしこの一言が、挫折した孤門をもう一度戦いの場へと戻るきっかけにもなった。
「私だって、黒崎隊員のことは残念だと思っているわ。でも私たちの仕事は、常にこういったことが隣り合わせなの。たとえこの先、仲間が何人犠牲になることがあったとしても、私たちはビーストと戦い続けて、勝たないといけないのよ。
あなたも、それはわかっているはずよ」
「…あ…」
「凪…」
和倉も、あの時の孤門が悲しみにくれた時、凪が自分に「私も彼を助けたいんです」と告げたときのことを思い出す。
凪は静かに、コマンドルームから去って行った。

しかしこうは言ってのけた凪だったが、彼女はそれから暇な時間が空くと、フォートレスフリーダムから外出することが多くなった。それも、主にシュウが訪れたことのある場所を次々としらみつぶしに。
それには、彼女のみが知る、ある決意が込められていた。


『本日付でナイトレイダーAユニットに配属された黒崎修平です。よろしくお願いします』
初めて彼が配属された日のことを思い出した。静かに敬礼した彼の目を見たとき、凪はある違和感を覚えた。
シュウの目付きが、どこかで見たことがあるような形をしていた。一寸の光さえも届かないような、暗い闇だ。自分と同じかと一瞬思ったが、違う。自分のはビーストに対する憎しみが心の多くを占めていた。だが彼の場合は…
『隊長』
『?どうした、凪』
『私に、彼を鍛えさせてください』
凪は、その違和感を確かめるべく自ら彼の教官を勤めた。主に彼には格闘技を叩き込み、よく訓練スペースで二人、組み手をしたことも多かった。
組み手を通したり、詩織に担当させた射撃訓練を行っている彼を見ていると、自分とその周囲で起きたあの熾烈な戦いの中で出会った者たちの中で、特に彼女の中で今もなお忘れることができずに存在し続ける男の姿が浮かぶ。

自分がかつて尊敬した、副隊長である自分の前任者でもあった男。

強いと信じていたのに、力に溺れ闇に堕ちてしまった罪深き男。

自分の行いを悔い改め、生きて罪を償おうとしたその矢先に静かな眠りに着いた、あの男を…。

その度に凪は強く思った。

(彼のような存在を放っておくわけにはいかない…『溝呂木』の二の舞にはさせない…!!)



「まだ、見つからない?」
シュウの捜索難航の報は、相変わらず遊園地でアルバイトしている憐の元にも届いた。憐は携帯電話を持っていないので、遊園地のレストランの電話を借りて瑞生からの連絡を聞いていた。
『うん…全然足取りがつかめないから、見つかるのはもう絶望的だって』
「そっか…」
『ごめん…こんなことしか言えなくて』
憐がきっとがっかりしていると思い、瑞生も申し訳なく思って憐に謝った。対する憐は、あまり彼女に憂い顔を浮かべて惜しくないと思い、優しく言葉をかけた。
「いいよ、瑞生たちは頑張ったんだろ。だったら仕方ないさ」
『でも…!』
「わかってる。でも、瑞生たちには他にもやっておかないといけない仕事があるだろ?」
そう言われて、瑞生は少し電話の向こうで沈黙していたが、間を置いてから再び口を開いた。
『私、もっと頑張って探してみる。今度は見つかるかもしれないから』
「ああ、サンキュ、瑞生」
もう一度探してみると言ってくれた瑞生に感謝し、憐と瑞生の電話は底で切れた。
「見つかったって?」
バイト仲間の尾白が憐に尋ねたが、憐は見るからに残念そうな表情を浮かべて首を横に振った。
「…そっか…」
憐のこの顔を見て、尾白も臨んだ答えが帰ってこないことを悟った。ふと、彼は突き立てた箒に両手と顎を乗せて、シュウのことを思い出してみた。
「結局、あいつのことよくわかんないままだったよな。客には笑顔でって何べん言っても、いっつもいっつも無愛想でさ〜。それにクマさんカステラの作り方を教えたときは苦労させられたんだぜ。ハリスがどうしてもって言うから仕方なく教えたのによ…しょっぱなで鉄板にあるカステラ全部真っ黒にするか普通!?まっくろくろすけ製造機かと思ったぜ!」
ものすごい剣幕の尾白にたじろぎながらもここにはいないシュウをフォローしたが、最初は落ち着いた口調だったのだが、次第に尾白は離していくうちに興奮し始めて怒声に近いものになっていた。
「ま、まあまあ…でも気づいたらちゃんとうまくできるようになったからいいじゃん?仕事は黙ってなんでもこなしてくれてたしさ」
尾白の興奮は冷めないままだった。何か言いたことでもあるのかと憐が横目で尾白を見た。
「俺が言いたいのはそこじゃないんだよ…憐君…」
なぜか君付けで蓮を呼びながら顔を俯かせた尾白の身は、震え始めていた。そして、グワ!!!っと勢いよく顔を上げて叫んだ。
「俺が言いたいのは!!」
「い、言いたいのは?」
「なんで…」
「うん、『なんで』…その後は?」



「なんであの無愛想野郎が女性客からのウケがよかったんだよおおおおおおおお!!!!」



…………………。

あまりにも声がデカすぎて、今彼らの周りにいるレストランの来客たちが静まり返って尾白を何とも言えない視線で睨んでいた。特に女性客からの視線がものすごく痛い。
「お、尾白!声デカいって!とりあえずこっちで話聞くから…な?」
あまりにも痛覚に感じた憐は無理やり尾白の背中を押しながら、尾白と共にレストランの外に出た。
観覧車がちょうど池の向こうに見えるベンチに座り、尾白はとにかく隣に座る親友に文句をありったけ言いまくった。
「俺の方がトークがうまいし?それに子供たちへの面倒見だってあいつより圧倒的にいい!そしてさらに女性への笑顔+サービス精神だって忘れちゃいない!なのに…なのになんで!!どうして俺はモテないままであいつがモテまくってたんだよおおおおお!!!」
傍から聞くと、違う意味で哀れ過ぎる尾白の言い分。地球にいた頃、当の本人は無自覚で興味も抱いていなかったのだが、シュウはその容姿とクールな雰囲気から、実のところ女性客からモテていた。
「つまり、尾白は自分よりモテそうな奴が嫌いってことだろ?」
「な、何言ってんだよ!そんなわけ!!」
「そんなわけ?」
「……うん、そんなわけ、あるかもね…」
ない…そう言いたかったのだが、憐からどれだけ言いつくろっても無駄だと言いたげな視線を向けられ、尾白は自ら折れた。
「まあ、確かに女性客から噂されてはいたよな。その反面シュウって、恋愛とかあまり興味なさそうだったのにさ」
「馬鹿言うんじゃねえよ!?あいつ彼女がいただろ!ほら、あいつといつも一緒にいたあの………」
あの…と言ったところで、尾白は言葉を切らした。一気に、二人の間の空気が悪い意味で重くなってしまった。
「ああ……あの子、か」
「そういや、あの子今どうしてんだ?バイト辞めたって…言ってたよな」
「あ、ああうん!残念だったな〜。俺にとってもいい友達だったんだけどな」
思い出したように憐がそう呟いて、自分の足元を見下ろす。あまり語られていないシュウの過去について尾白は何も知らないようだが、憐は妙にあせった様子を見せた。彼は何か知っているらしい素振りだが、尾白はそれに気付かない。
「そういや…あいつ妙なこと言ってたな。行方不明になる前とか、夢に遺跡がどうこう…って」
夢に遺跡、と聞いた途端、憐がいつになく驚いた表情で尾白を見た。
「…尾白、それマジ?」
「え?マジって…?」
「その夢の遺跡のことだよ」
「どうしたんだよ憐。たかが他人の夢だぜ?」
事情を知らない者からすれば、他人の見た夢なんて特に大した価値などないだろう。どうして憐がここまで驚いているのか理解できなかった。
「あ、いや…別にいいんだ」
自分があまりに普通じゃない態度をとっていたことに気が付き、憐はやっぱりなんでもないと尾白に言った。
憐は知っていた。夢の中の遺跡というものを。なぜなら、彼は一年前にそこに来たことがあったからだ。夕暮れの空の下のジャングルと山に囲まれた、数々の怪物を模した彫刻が立ち並び、見覚えのある巨人と怪物たちの戦いを描いた壁画のある、不思議な遺跡を。
ただの遺跡ではなかった。その遺跡は、どんな交通手段を使っても、選ばれた人間以外は決して立ち寄ることのできない神秘の場所だ。
そして…彼は選ばれた。『三番目』に。そして、最強と謳われたビーストと戦い、勝つまで戦った。
(遺跡の夢…もしかして、光はあいつに?)




その光は、彼の予想通りシュウの手の中にあった。その証であるエボルトラスターが、彼の手にしっかりと握られている。アルビオンのウエストウッド村に向かっていくストーンフリューゲルの中で、シュウは海の上に浮かびながら漂うように、眠っていた。
ガルベロスにかまれた左腕が特に深いダメージを受けていた。まだ癒えていない血だらけの左腕が痛々しい。
シュウはふと、サイトのことを思い出した。最初は、ずいぶんと頼りない印象だった。サイトが地球に対する恋しさから来るものもあったが、やたら最初から同じ地球人でもあるシュウに対して親しげに話しかけてきていた。
反面、シュウもサイトの存在を気にしていた。それは地球人というだけではない。自分の知らないウルトラマンでもあったから、そして…色で現すなら、まだサイトは『白』の中にいたからだ。一度、悪い色に染まろうとしていた時こそあったが、あの後驚くほどに以前までの自分を取り戻していた。この世界に来て真のウルトラマンとなったことで、同化しているもう一人の自分自身と共に気持ちを新たに、この世界を守るために戦うことを決意した。ルイズも、虚無の力という思い重圧を覚えながらも、今まで『ゼロ』と罵倒され続けた自分を親友と認め信頼してくれた姫の期待に応えるために前に進むことを決意した。
彼らが『白』や『青』なら、シュウは、自分を色で表すなら『黒』か『赤』を選ぶ。どちらも悪い方向に考えれば、いやなものを連想させる色だ。
厨二臭いだのなんだと言われるとしても、シュウには自分がそうとしか思えなかった。
何せ、自分を黒と表すしかない『トラウマ』が、彼の中で拭い去れることなく刻まれていたのだから…。

あの時からずっと夢に見続けている。何度もうなされている。
この世界に来てからも、地球にいた頃からも。

戦場、たくさんの人たちが銃撃、爆風を受けて死んでいく中、誰かを探し求めながら駆け抜けて行きながらも、最期に自分もその凶弾を受けてしまった少女。

雨の中の、壊滅した建物の中央。そこにはずぶ濡れの姿で泣き叫び続ける自分と、その腕の中で眠りについた少女の安らかな顔を。

その果てに見たものは…。

夕暮れに照らされた緑の生い茂るジャングル。その中央の丘の上に立つ、ロケットのように高くそびえた、その様式さえ見たこともない古い遺跡。その近くでは、夜の闇が迫ろうとしているのを、静かに見つめている自分…。

「シュウ!」
「…!…憐か」
シュウは、名前を呼ばれて起き上がる。そこは、地球で暮らしていた頃、憐と共同で自宅同然に利用していた、遊園地の楽屋だった。
俺は、いつの間に?さっきまでハルケギニアにいたんじゃなかったのか?混乱しているシュウをよそに憐が慌てた様子で声を荒げていた。
「『憐か…』じゃなくて!もうすぐ開園時間だぞ!また尾白たちにねちねち言われるぜ!」
開園時間と聞いて、シュウは寝床の傍らに置いていた置時計を見る。時間はすでに8:00。
「…わかった。すぐに行こう」
開園時間は1時間後の9:00。1時間の間に遊園地内で、フリースペースに設置するテーブルや椅子の用意、観覧車やジェットコースターなど、あらゆる遊具の準備をしておかなければならない。
「また…あの夢、か」
シュウはすぐに着替え、憐と共に遊園地の開園準備にかかった。


2010年、1月。
この時点で、シュウのいた地球にて、ある『最後の戦い』が終わってから数ヶ月が経過していた。元々は世間に決してその詳細を明かすことの無かったTLTの存在が自ら自分たちの存在を公表し、今まで姿を隠し通してきたことへの侘びもかねてこれからも市民のためにビーストと戦うことを公表してからしばらく経っていた。
「そっち焼けた!?」
「あ、ああ…!」
地球のとある遊園地。クマの耳の生えたキャップとエプロンを被らされたシュウは、隣の憐と共にクマさんカステラを作らされていた毎週日曜はよく客足が混んで多忙になる。
「8個入り一つください!」
「はいはい毎度!330円になります!」
シュウはコミュニケーションが得意な方ではないし、笑顔も苦手。だからクマさんカステラを作る時は、彼とは対照的な憐が必ずレジ担当になる。笑顔を作れと言われても、シュウは作ることができなかった。かろうじて見せることのある表情と言えば、かすかな戸惑いの顔だけ。よく尾白たちに指摘を受け、それでも練習しようとしても、笑顔らしい顔が全く浮かべられなかった。
そんな彼の得意だったのは、掃除と裏方作業、あとは表情を浮かべる必要のない着ぐるみの風船配りとヒーローショー。それらについては、特にミスはなかった。悪ガキに足を踏まれてちょっとイラッときたことがあったり、なぜかヒーローショーを行う際、よく憐がバッタをイメージした悪サイドの仮面のヒーロー、逆にシュウが正義側のカブトムシをモチーフにしたヒーロー役を務めていた。寧ろ逆のパターンの方がしっくり来るのでは?と尾白が言うが、憐いわく、なぜか別世界の自分を演じてるみたいで一番しっくり来るとのこと。尾白が誰の役だって?彼は必ず真っ先にやられる怪人役だ。
「みんな、仮面○○ダーを応援して!せーの!」
「「「頑張れええええええ!!!」」」
そして、憐の恋人でもある少女、瑞生が司会のお姉さん役を引き受ける。もちろん正義側が勝ち、子供たちの賞賛を浴びて…それでヒーローショーは幕を下ろす。
「あ゛〜!!熱かった〜!!」
「…騒ぐな。耳元で」
「はい、ドリンク」
「お。サンキュー瑞生!」
ショーが終わった後はマスクの下に隠れた、汗びっしょりの顔をさらし、瑞生からの差し入れであるスポーツドリンクを飲んで体を冷ます。
「にしても、今日のショーでの動き、すごかったよなシュウ。なんか筋が通ってるって言うか…どっかで鍛えた?」
隣に座り、少しずつドリンクを飲むシュウを見て、尾白がたずねる。少なくとも彼の記憶する限りでは、以前よりも体が鍛えられているような気がする。彼の問いに対し、シュウは静かに頷くと、瑞生が補足も付け加えた。
「実はね、彼…TLTで西条副隊長から直接鍛えてもらってるの。射撃についても、平木隊員から」
「マジ?あの人から?」
憐はナイトレイダーのメンバーの中では、孤門以外で特に尊敬を抱いているのは副隊長の凪であった。
「結構才能があるって、褒めてたよ」
「すごいじゃんシュウ!頭もいいし、運動もできる!お前って万能だな!」
「……」
万能、それはまさしくあらゆることについて適度な対応ができる、人間ならつかめるものなら掴みたい能力だ。ただ、シュウは万能といわれても少しも喜んでいなかった。
「どうしたの?」
「…いや、別に」
シュウはなんでもない振りをして呟いた。このとき彼はあることを問いかけていた。
(見たこともない、奇妙な遺跡を見るようになった…いや、まだ言うまい…あれはただの夢だ)
この時期、シュウは頻繁に見る悪夢のほかに、ある夢を見るようになった。
ジャングルの中をさまよい、その果てに遺跡を見る夢を。でも、所詮夢は夢だと考え、誰かに相談しようとするほどのことではなかった。ただ、後にぽろっと尾白に話したが、特に大した受けを頂かなかった。
シュウも特に気にしないように心がけた。正夢なんて言葉があるが、そんなことが現実となるなんてありえない、と。


だが、その夢が後に現実となるとは思いもしなかった。
「シュウ、逃げろ!」
シュウが地球にいた最後の日、丸い鏡のような白い発光体が彼を襲い、シュウはバイクを走らせて逃げ切ろうとする。彼を守ろうとナイトレイダーたちがディバイドランチャーを連射するが、数え切れないほどのビーストを葬ってきた弾丸は発光体には通じることは無かった。
「効いてない!」
「追いましょう!」
仲間たちはそれでも、シュウを助けようと必死で追いかけ、発光体を撃とうとするが、シュウがスピードを上げれば上げるほど、発光体もまた速くなってしつこく彼を追いかける。
(こいつ、さっきからなぜ俺だけを狙う!?)
何か手は無いのか?そう考えるまもなく、彼は白い発光体によって、バイクごと飲み込まれてしまった。
「うああああああああああああ!!!」
スカイダイビング中に雲の中に突っ込まれたかのごとく、周囲が真っさらな白に包まれ、彼は落ちていく。顧問たちの声も姿も見ないし聞こえない。手を伸ばそうとしても、もうどこからこの白だけの空間に入ったのかもわからなくなっていた。

どこまで落ちていくのだろう。このまま自分は、消えていくのか?消えたら、会えるだろうか。

……『彼女』に。

しかし、その景色は一瞬にして消え去る。バシュン!と自分の手さえも見えなくなるほどの光が自分を包み込む。
少しずつ目を開けると、シュウは高原の上に立っていた。何十も何百メートルも落ち続けた感覚に晒され続けたというのに、体はなんとも無かった。
だがそれ以上に驚いたのは、自分がたった今立っている場所。
「ここは…!!」

自分が立っている丘の麓から遥か彼方まで生い茂るジャングル。

そして森の中心の丘の上には、聳え立つ古い遺跡。

間違いなかった。ここは夢で何度も見続けてきた、


あの遺跡だ。


しかし、なぜこんなところに自分が?それに、ここは地球上の一体どこなのか?
いや、ここはどこなのか確認するかは、常に右腕につけているこれで確かめられる。今頃隊長たちもシュウの位置を知りたがっているはず。彼は冷静さを保ちながら、パルスブレイガーを機動、連絡にかかる。
「こちら黒崎。隊長、応答願います。………隊長?」
しかし、連絡は帰ってこなかった。画面にも音信不通のサインが出され、和倉たちとの連絡は完全に途絶えた。
「通信できないのか…」
参ったな…とシュウは呟く。ここがどこなのかまるでわからないのでは…。

――――シュウ

「!」
誰かの声が聞こえてきた。後にまた聞くことになる、少女の声。聞こえてきた方角は、ちょうど遺跡の方角だった。
誰かが俺を呼んで?いや…この声って…。
いや、そんなはずがない。何かの聞き間違いだ。けど、不思議だった。得体が知れない存在には近づかないのが常識なのだが、シュウはあの遺跡から、今の声から強く引かれる何かを感じていた。
足が、動く。何かに引っ張られていくかのごとく。気がつけば、シュウは遺跡の方へと歩き出していた。
遺跡の周囲には、見覚えのある怪物…スペースビーストと思われる獣たちの彫刻が彫られていた。それらを見渡しながら、彼は遺跡の入り口へ足を踏み入れた。
最初、中は暗かった。何も見えない。真っ暗な闇しかなかった。だが、彼が足を踏み入れ闇の奥を覗き込んだ途端、彼の訪れを待っていたかのように、遺跡の中に松明の炎が点る。それによって遺跡の奥深くまで道が見えた。
一歩ずつ、見えない何かに導かれながら、シュウは奥の方へゆっくりと歩き続けた。
やがて、彼は遺跡の最深部へとたどり着いた。そこにあったのは、2メートル近くの、何かを象ったような石像が安置されていた。
ただの石の筈…最初はそう思っていた。けど、どうしてかその石像から不思議な何かの気配を感じた。引っ張られるようにそれに触れようとしたシュウ。
しかし、済んでのところで彼はおぼろげな恐怖を覚えた。触れたら最後、何か恐ろしいものに飲み込まれてしまうのではないかと言う恐怖。怖くても触れることが叶わない。
と、そのとき…シュウは背後に気配を感じた。
彼には見えなかったが、顔がちょうど影で隠れて見えない、誰かが立っていた。

――――大丈夫

「!」
また声が聞こえる。周囲を見渡すシュウだが、姿が見えない。だが、さっきの気配は確かだったし、この声には…聞き覚えが間違いなくあった。でも、シュウには信じられなかった。
(お前…なのか…?いや!そんなはずはッ…!)
動揺を露にしていくシュウに、声の主は優しく語り掛ける。

――――光は、あなたを導くわ

なぜだろう。危機覚えがある分だけ、余計に得体が知れないはずなのに、どうしてこう、心が安らぐのだろう。声を聞くうちに、シュウは不思議なほどに落ち着きを取り戻した。
再び、勇気を持って石像と再度向かい合うと、彼は石像に向けて手を伸ばし、触れた。

バチィッ!!

「っぐぁ…!!?」
一瞬、指先が触れた途端、どうしてか突然電撃のような痺れが走り、シュウは咄嗟に手を離した。だが、指先には何の怪我も無かった。再び石像に視線を向けると、さらに驚くことが起きる。石像が白く輝き出した。あまりにも眩しくてよく見えない。だんだんと輝きが増していく。
シュウは光を浴び続けた果てに、石像が発する白い光の中に呑み込まれていった。
目を開けると、そこは水のような波紋模様の広がるくらい空間だった。次から次へと、一体何が起きている?一体これは何だ?シュウは辺りを見渡しながら、現状を見切ろうと躍起になったが、その間さえも与えられなかった。
シュウの前にY字型の巨大な赤い光が灯り、線を描くように巨大で雄雄しく、神々しい体を形成する。

彼もよく知る、銀色の巨人だった。

後に『ネクサス』の名を与えられる銀色の巨人、『ウルトラマン』。

「お前なのか?俺を呼んでいたのは」
ウルトラマンを見上げながら、シュウは問う。対するネクサスは、静かにシュウを見下ろしていた。
ギュオオオオ!
「!?」
すると、シュウの耳に何か、猛獣の鳴き声が響いた。途端に、シュウはその身が引っ張られていくのを感じた。ウルトラマンの胸のエナジーコアの方に、引き寄せられていく。有無を言う間も与えられなかった。けど、抵抗はしなかった。シュウとネクサスは、このとき一つとなった。



遺跡の外では、ある一体の怪物が、突如夕暮れの空を覆い尽くした暗雲の中から地上に落ちて姿を現した。
『インセクティボラタイプビース アラクネア』。後に戦うことになる、ヤマワラワと首から下が非情に告示した、スペースビーストの一体。しかし、通常のアラクネラは13m程度しかないにもかかわらず、このアラクネラは50m近くも巨大化していた。
遺跡に向かっていくアラクネラ。

すると、遺跡の先端部分が白く発光し、赤い光が射出され、遺跡とアラクネラの前に落下した。

シュウと一体化を果たした銀色の巨人、ウルトラマンネクサス・アンファンス。

ネクサスは自分の両手をぐっぱぐっぱと開く。本当に、自分がなれるとは思いもしなかった。皆が憧れをこめてウルトラマンと呼んだ、世界を『冥王』から救った、銀色のヒーローに。
「グオオオオオオオ!!」
アラクネラの荒れ狂うような雄叫びを聞いて、ネクサスはすぐに身構えた。
突き出された両腕に対し、ネクサスは両腕を用いてアラクネラの腕を二つとも受け止め、力で相手を押し合う。脇腹が隙だらけだ。凪との訓練の際、シュウは両腕を掴まれ、がら空きになったわき腹を凪の蹴りで突かれてしまった事がある。そのときを脳内でイメージしつつ、彼はアラクネラの脇腹に左の蹴りを一発叩き込んでアラクネラを怯ませた。腕が解け、続けて彼は前進、顔面にダッシュパンチ、次に回し蹴り、三発目に背負い投げでアラクネラをダウンさせる。
一度バックし、ネクサスは構え直す。怒ったのか、アラクネラは立ち上がった途端に雄叫びを上げ、ネクサスに再び襲い掛かる。
(…見える)
敵の動きが手に取るようにわかる。ネクサスは突き出されたアラクネラのパンチを、その下をかいくぐる形で避け、アラクネラの背後に回った。後ろからアラクネラの左腕をガシッと掴み、へし折る勢いで後ろに反り返らせるように引っ張る。
「ギギギギ…!!」
もだえ苦しむアラクネラ。が、すぐ反転したアラクネラがネクサスの顔に右のパンチを放ち、顔を殴られたネクサスは顔を抑えながら数歩後退した。すぐに反撃に転じようとするも、すかさずアラクネラのアッパーカットが彼の顎を殴り上げた。
「グゥ…!!」
「グルゥオオオオ!!」
相手に今にも食いちぎりに掛かろうとするかのような叫びを上げ、アラクネラはネクサスを仰向けに押し倒し、彼が決して身動きが取れないようにとその上にのしかかると、口の牙をむき出して、彼に食いかかろうとした。その牙から逃れようと、ネクサスは最初にみぎ、続けて左に首を動かしてアラクネラの牙を避けた。そして、逆に自ら頭を突き出してアラクネラに強烈な頭突きをお見舞いした。顔を抑えながら怯んだところでもう一撃、肩が開放され、今度は自分の鍛えられたパンチを叩き込んでアラクネラを殴り飛ばした。
思った以上の距離までアラクネラは吹っ飛ばされていた。敵がビーストの中でも弱く元は小型だった関係もあっただろう。だがそれ以上にネクサスは、力が圧倒的に相手を上回っていた自分に戸惑いに似た驚きを覚えていた。
アラクネラがふらつきながらも立ち上がってきたのに対し、ネクサスは左の腰付近に、抜刀の構えをイメージしながら両腕を沿えると、彼の両腕が稲妻をほとばしらせる。直後に両腕を十字型にクロスすると、彼の必殺の光線がアラクネラに向けて炸裂した。
〈クロスレイ・シュトローム〉
「シュワ!」
「ガギィッ…!!」
赤く染まった光線をモロに受け、光線が放ち終わったと同時に倒れたアラクネラは、木っ端微塵にその身を砕け散らせた。
遺体さえ残さず砕け散ったアラクネラの残骸が風に消えていく。いつの間にか、周囲の景色は元の夕暮れのジャングルに戻っていた。
自分の今の姿を再度確認するネクサス。やはりこの手は、人間のものじゃなくなっていた。
直後、再び自分の周囲の景色が白に染まった。驚き、警戒するネクサスをよそに、再び世界はネクサスをも完全に白い景色の中に覆い隠した。



これが、シュウのウルトラマンとしての初陣だった。
突然得た強大な力と、異世界への漂流に戸惑いはあったが、帰りたがっていた当初のサイトとは異なり、彼はそれを早い段階で受け入れた。
その直後、シュウはテファの目覚めと誓いの口付けで、アルビオン大陸のウエストウッド村にて目を覚まし、そのまま村の新しい住人として暮らすことになる。
ここに憐や孤門がいた方が良かったような気がした。シュウ一人だと、どうしても他人との間に壁を作りがちになってしまう。本人もそれを自覚していた。村で暮らし始めてから、子供たちの警戒心と言う名の視線が突き刺さり続けていたが。彼はその視線を黙って浴び続けていた。自分もあの子たちと同じ立場に立たされたのなら同じ反応を示していたと重々承知していた。それに子供たちには、結果として他所者を無理やり連れてきてしまったテファとマチルダのように、人の人生を担ぐ相応の責任を背負えるほど大人ではないから、シュウの存在を疎ましく思ったりするのもやむを得ない。それでもシュウはこれといって文句を言わず、洗濯や掃除、巻き割りなどをこなしていった。
ナイトレイダーの仕事がないという点については、比較的穏やかな日々だった。
時に買い物に行くことも任された。今までは村の近くを行商人が近くを通りかかったところを村に戻っている期間中のマチルダが、またはテファが帽子で耳を隠しながら直接買い物をしていたり、どうしてもと言う場合は、本来村の外に出るべきじゃないテファ、または子供たちの中でも年長者であるサムが近くの町に出かけるような、危険な状態にあった。
そんな中、盗賊家業による稼ぎに出かけているマチルダ以外で戦闘経験を持つシュウの存在は大きかった。とはいえ、まだこの時点でハルケギニアの文字が読めない彼に異世界での買い物は難しく、最初はエマを同伴させた。
「ひゃ!」
ぶかぶかではあったが、顎紐をきつめに締めたヘルメットを被って彼の後ろに座らされたエマは悲鳴をシュウの背中にしがみついた。慣れない速度の移動に驚いてしまったようだ。
「手は離すなよ」
なるべく速度を落としつつ、シュウはエマに言う。速度を落としたとはいえ、それでも馬よりも速い速度で街に直行、到着した。とはいえ、このバイクは目立つ。街の近くの茂みの中に隠し、鍵をかけた。その頃には、エマはすっかり縮こまっていた。流石にきつかったかと思いながら、シュウはエマにかぶせていたヘルメットを外す。もしかして乗り物酔いか?シュウはとにかく背中をさすりながらエマを落ち着かせる。
「大丈夫か?」
「うぅ…うん」
「まずは、町で水も買うか?」
「うん」
「乗れ」
どの道文字が読めない自分が一人買い物に向かっても、この状態のエマを放置することはできない。ひとまず買い物は後に回し、エマの体調の回復が先としたシュウは身をかがめ、背中を向ける。少し緊張気味に彼の背に乗ったエマは、シュウの背中の温かさを肌で感じた。背中もなんだか大きく感じる。エマはまだ幼い孤児だから父や兄に負ぶってもらってるような感覚を覚えた。
「…重くない?」
「問題ない。軽すぎるくらいだ。さ、行くぞ」
シュウはそう言うと、エマを背負ったまま街のほうへと向かう。
(…狭い)
町の通りを見てシュウは、トリスタニアを初めて訪れた際のサイトと同じコメントを心の中で呟いた。通りは人がちゃんと歩けるくらいの余裕こそあるが、車社会出身のシュウからすればその程度の広さは広いうちに入らなかった。とにかく水をもらいに向かう。使っている文字が違うのに言語が通じるのは幸いだった。街の人に聞き込みながら、シュウはその果てに樽のコップ一杯の水をもらった。
「ほら、水だ」
水をもらったエマは水を飲み、ある程度の気力を取り戻した。
「…あの、ありがとう」
「いい。それよりここは人ごみが多い」
さも同然のように言うシュウは再びエマと共に、街に出かけていった。
「何を頼まれたか読んでくれ」
さっきも言ったがこの時期のシュウはまだ文字が完璧に読めていない。買ってきてほしい注文の品はメモに書いてもらったがシュウにはなんと読むのかわからない。
「えっと…まずはパン、です」
「パンか。わかった」
エマがメモを見てそれを読み上げると、シュウは周囲を見渡してパン屋に該当する店をまずは目視で探してみる。店は文字の読めない平民を気遣ってか、看板の形ですぐにわかった。その後、二人は買い物を淡々と続けた。買い物自体は順調に進んでいた。…というか、シュウのほうが淡々としていた。特に幼い子供を放すようなことがなかったこともあるが、それでも話を持ち出したほうが互いの中も深まりやすいことだが、あいにく彼はそれが大の苦手だった。
(うぅ…やっぱりこの人、なんか苦手…)
やむを得ず彼の服のすそを掴む形でついていっているが、エマは黙ったままのシュウを見ていると、どうしても苦手意識が表に出てしまった。
ともあれ、メモに記された食料品などの買い物はあと少し。後は残りの物を買って村に戻るだけである。
ふと、シュウは立ち止まった。エマは行き成り立ち止まったシュウに戸惑いを見せる。
「?」
「……」
立ち止まっている。何かを見ているのだろうか。エマは彼の視線の先を目で追っていくと、それは意外なものだった。
そこは街の花屋だった。あまりに意外でエマは思わずびっくりして目を見開いていた。もしかしてこの人、花が好きなのかな?と。シュウは、店の外の花瓶に置かれていた、中心が黄色く細長い紫色の花弁の花を見ていた。
「えっと…その…欲しいの?」
「…いや、なんでもない」
シュウは首を横に振って誤魔化した。

――――私ね、この花が好きなんだ

彼の脳裏に、ある少女の声が聞こえた。今の彼にとっては遠い昔のようで、けど鮮明に残っている、忘れることのできない声だった。
「時間をとらせてすまない。買い物を済ませて早く帰ろう」
この日はマチルダもいないため、村に護衛らしい護衛もいない。シュウは視線を街のほうに戻し、残ったリクエストの食料を買おうと別の店に向かおうとしたそのときだった。
「…!?」
シュウは思わず立ち止まった。なんだ…胸が熱い!?服の首元から、どうしてか熱を感じた自分の胸を見ると、彼の使い魔のルーンが赤く光り出している。これは一体?
「あれ?お目目…真っ赤だよ」
「目?」
すると、エマがシュウの顔の方を指差す。ちょうど店の窓ガラスに移る自分の顔を見ると、左目が赤く染まっている。だが異常が起きたのはそれだけじゃない。
目を通して、何かが見えてきたのだ。ぼやっと少しずつ。その光景はすぐに鮮明なものとなる。
これは…!?シュウは戸惑いを覚えた。ぼやけたと思った視線の先に、こことは全く異なる景色が見えた。それもここ最近に見たもの。
ウエストウッド村の景色だ。子供たちの姿が見える。そしてそれを、複数人の下卑た顔を浮かべているならず者たちが取り囲んでいた。
(まさか…!)
使い魔は主の目となり耳となる。マチルダの言葉を思い出し、シュウは嫌な予感が…いや、確信を抱いた。
「エマ、買い物は中止だ。村へ戻るぞ!」
「え、え?でもまだ…」
「いいから早く!村で、嫌な事が起きている!」
エマはここに来て思い切った強引さを見せてきたシュウの勢いに圧倒され、買い物袋ごと彼に引っ張られていく。
バイクに乗せられて、そのまま直行し帰宅を果たすと、真っ先に二人の司会に飛び込んできたのは、矢が突き刺さった地面と、周りで泣くじゃくっていたり、悔しがっている子供たちの姿だった。
「な、なに…何があったの…?」
エマはショックを受けて現実をどう受け止めたらいいのかわからずにいた。そんな中、シュウだけは冷静に、今何が起きたのかを一番近くにいたジャックに尋ねた。
「何が起きた?」
「うぐ…えっぐ…姉ちゃんが…お姉ちゃんが浚われた」
「僕たちを…庇って…悪い人たちに…うわあああああああん!!!」
「て…テファおねえちゃんが!?嘘…」
ジムからも話を聞いてエマは村の周囲を見渡す。恨めしげに遠くを睨みつけていた、傷を負っているサムが遠くを睨みつけている。サマンサは座り込んで顔をくしゃくしゃにしながら泣き叫び続けていた。しかし、テファの姿だけは見当たらない。村に現れた盗賊たちに浚われてしまったのだ。
「お前なんだろ…!」
すると、サムはシュウの前に歩き出し、彼の服を引っつかんで怒鳴り散らした。
「お前なんだろ!!姉ちゃんをあいつらに売ったの!あいつらに姉ちゃんの居場所をばらしたんだ!」
「さ、サム兄…!」
今までために溜め込んだシュウへの疑惑と不信感のあまり、サムがシュウを敵視しているのはわかっていたが、そんなの言いがかりだとしか思えなかった。エマはサムを止めようとしたが、サムの剣幕に押されてうまく口に出せない。一方でシュウは一言も発してこない。
「なんとか言えよ!」
サムに再び怒鳴られると、シュウは彼の手を振りほどき、バイクの方に歩き出す。
「待てよ!どこへ行くんだ!逃げんのかよ!!」
あの鉄の塊が馬と同じようなものであることは知っている。もしや逃げるつもりかと疑い、シュウの服の後ろのすそを掴んで引き止める。すると、シュウはサムの方に視線を落とし、ただ一言彼に言った。
「放せ」
「ッ…」
たった一言なのに、その言葉と鉄仮面のような表情からのプレッシャーを感じ、サムは思わずたじろいで手を放した。
…いや、エマにはすぐわかった気がした。そうとしか思えなかった。
村で暮らし始めてからいつも表情を一つ変えてこなかったシュウが、その目に怒りの炎を宿していたことを。
「勘違いするな。俺が彼女を連れ戻してくる」
「え?」
呆けるバイクのキーを回し、バイクのエンジンを起動させ、進行方向に視線を向ける。
「ここから11時の方角…か」
まだ胸のルーンが光り続けている。さっきから奇妙な景色はまだ見えている。テファの姿だけは見えず、どこかへ向かっている馬車の中の光景が見える。周りには盗賊たちが下劣な笑みを浮かべながらこちらを見ている。おそらくこのヴィジョンは、テファのものだと確信した。
「サム。みんなを家の中に集めろ。決して外に出るな」
まだ呆けていたままのサムたちを残し、シュウは直ちにバイクを走らせた。
バイクを走らせている間も見えていた。身売りの商品としてテファを浚ってあざ笑う盗賊たちの姿が。時折、ヴィジョンが涙で濡れたかのように歪むことがある。視界を共有している彼女が泣いているせいだろうか。
そのとき、脳裏に別の光景を思い出した。
テファともまた違う、少女の顔を。それが自分の頭の中でモノクロに染まり、闇の中へと消えていく。
(…屑め)
生理的に、盗賊たちへの怒りを募らせながら、シュウはバイクを走らせ続けた。
夕刻から夜へ変わろうとしていた。闇が辺りを包み込み始めていた。闇の中を覗き込むと、わずかな明かりが、松明の炎が見えてきた。
いた!シュウはバイクの速度を維持しながら、パルスブレイガーをガンモードに切り替えた。そして銃口を、テファに向けていやらしく手を伸ばす盗賊の一人に向け、引き金を引いた。あらかじめ仕込ませておいた、麻酔弾は男の首筋に直撃し、テファの服を破りつけようとした男の意識を奪い取った。
「なんだてめえは!!」
(さて…)
思い知らせるか。俺を怒らせたらどうなるかを。そう決意し、シュウはバイクを乗り捨てて、テファを取り戻すべく目の前のケダモノたちと対峙した。それからまもなくして、盗賊たちはたった一人の若者によって鎮圧されてしまったのだった。
(副隊長と平木隊員にしごかれた甲斐があったな)
地球で自分を鍛えてくれた二人の先輩たちに、シュウは心から感謝を述べたくなった。それにしても、魔法使いがいる世界だし、何か面白い魔法でも見れるのかと思ったが、はっきり行って拍子抜けだった。おそらくこの盗賊たちはただの弱卒レベルでしかなかったのだろう。
ともあれ、これでテファを取り戻すことができた。
「無事か?」
「シュウ、どうして…」
テファはシュウになぜと問いかけてくる。
「村の子供たちが、お前が盗賊にさらわれたと聞いてな、村にエマを置いて行ってすぐにここに来た」
「ここはもう村から遠く離れているのに…」
「よくわからないが見えたんだ。お前がここのケダモノたちに襲われている様が」
「なんで、私を…助けに来たの?」
なぜ、と問われてシュウは内心、逆に疑問に思った。助けちゃ悪いのか?まだシュウを呼び出してしまったことに対する申し訳ない気持ちを抱いていたようだ。
が、その直後…盗賊の悲鳴がとどろく。驚いた二人はシュウの後ろの方角を振り返る。グロテスクなナメクジの化け物、スペースビーストであるペドレオンが集まっていたのだ。
「ひ…」
テファはそのおぞましい姿に悲鳴を漏らした。
今の悲鳴は盗賊の一人が触手で捕らえられてしまったことによるものだった。盗賊が食われた時、シュウは咄嗟にテファの目を覆った。こんな光景をテファに見せるわけには行かなかった。
さらに今の捕食で漂った血肉の匂いをかぎつけてか、ペドレオンがさらに集まってくる。ターゲットの反応は…全部で5体。ちゃんと視界の中にいる。しかし、テファを一緒にすると、少し動きづらい。先にテファを逃がした方がいいと判断したシュウはテファに逃げるように言い自ら囮役を担う。ブラストショットをペドレオンに向けて放ちながらテファを逃がし、自らはテファとは反対方向へ森の中へ。ペドレオンたちは全部シュウの方に向かっていく。
よし、ここなら。シュウはエボルトラスターを取り出す。最初は夢かと思った。でも、あの遺跡で起きたことは、確かな事実だった。このアイテムと銃がその証拠だ。
シュウは鞘からエボルトラスターを引き抜き二度目の、この世界で始めての変身を遂げた。



この戦いにも勝利し、無事テファと共に彼はウエストウッド村への帰還を果たした。テファと共に戻ってくると、エマたちがいっせいにテファの元に駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!!」
「う、うああああん!!」
「みんな…ごめんね。心配かけて…ごめんね」
皆がテファの無事を喜んだ。そしてテファも、みんなの元に帰ってくることができて嬉しかった。自分に抱きついてきた子供たちを、涙ぐみながらテファはぎゅっと抱きしめた。
「シュウ兄…ありがとう!お姉ちゃんを助けてくれて!」
「本当に助けるなんて…かっこいい!」
エマやサマンサがシュウのほうを振り返って、満面の笑みを浮かべてお礼を言った。あんな怖くて悪い人たちから、本当にシュウが、自分たちが慕う大切な人を取り戻してきた。テファもまた、シュウの元に歩み寄ってくる。
「シュウ、その…ごめんなさい。また…迷惑をかけちゃって」
盗賊に浚われただけでも周囲を心配させてしまうし、ましてや今回、未知の怪物が現れ危うく自分たちもあの盗賊と同じように食われてしまうかもしれなかった。今度は命の危機にも追いやるやもしれない事態が、自分の誘拐をきっかけに起きたことを詫びた。
「お前を助けるのは当然だ」
「どうして?」
「俺はお前と使い魔と主としての契約を交わした。それに言ったはずだ。俺はナイトレイダー。あらゆる脅威から人を守るのが仕事だ」
「…ありがとう。この子達にまた会えたの、あなたのおかげよ」
「…」
シュウはどうしたしましてのどの字も言わず、黙って背を向けて家のほうに向かい出す。
「あ…」
彼に礼さえも届かなかったのか、テファは少し寂しげに彼に向けて小さく手を伸ばす。しかし直後に、彼は背を向けたまま静かに告げた。
「無事でよかった」
「え…」
ただ一言の、しかし強い優しさを感じさせる言葉だった。



それ以降、テファを初めとしたウエストウッド村の住人たちの、シュウへの対応はガラッと変わった。いつもどおり無表情でクールな態度のままの彼だったが、子供たちの多くが彼をヒーローのように讃え、信頼を寄せるようになった。
「後はここをネジって……できたぞ。ウサギ」
「おおおお!!」
「すっげー、シュウ兄にこんな特技があったなんて!」
時には、軽い遊び相手にもなった。シュウはバイクの中に収めっぱなしだった、ペンシルバルーンを使って、エマたちに風船で作った動物をプレゼントしたりして、さらに株を上げていった。
「すごい、風船が割れていないし、ちゃんと動物の形になってる!」
テファもこれを見学していた。シュウが風船を使って動物を作る様は、まるで神業を見ているかのようにも思えたほどだった。
「兄ちゃん、どこでこんな特技覚えたの?」
「…友達にちょっと得意な奴がいて、それでな」
興味を示したジムに対し、シュウはそう答える。
友達、という単語を聞いてテファは憂い顔になる。彼は以前、家族はいないと告げていた。しかし、友人はいたことを知り、彼を召喚したことへの後悔を募らせた。
「その顔、また後悔か?」
「え?」
シュウから指摘を受けたテファは顔を上げる。
「今更俺を召喚したことに、要らない後悔の念を抱くな。もし俺がいなかったら、お前は今頃あの男たちの慰み者にされていたんだぞ。もし盗賊を出しぬけても、今度はビーストの餌だ」
「……」
その通りだった。あの時もしシュウがいなかったら、間違いなくテファは売り飛ばされていた。
「でも、だからってあなたが危険を犯すことは…!」
「俺は地球にいた頃から、いつでもあいつらと別れる覚悟はできていたつもりだ」
「え…」
別れる覚悟を、していた?テファは信じられない、といった様子だった。
「俺の仕事は常に、生と死の境界線の上に立つものだし、自分の意思でそれを選んだ。その選択そのものに後悔はしていない。だから、俺の知り合いたちのことなど気にしなくていい」
そのときのシュウは、内心で自分のことを過小評価するような言葉を呟いていた。テファの気を遣ったつもりで言ったようにも聞こえるが、自分自身や、同時に故郷で待っている彼らに対して淡白ではないのか、とテファは思っていたが…すぐにそんなことはないだろうと考えた。そんな冷たい人だったのなら、危険を冒してまで盗賊に浚われた自分を助けたりしない。無愛想で冷たいように見えるけど、実はとても優しい人なのだ、と。
だが同時に、なぜか自分をわざと危険に追いやっているようにも思えてきた。
「…」
シュウは、言葉を撤回することは無かったが、一方で決して故郷の仲間たちを蔑ろにしたつもりで言ったわけではなかった。
(そう、ここは地球じゃない。帰ることはできない。だから、もうあいつらが俺のような男のことを心配する必要はないんだ…)
すると、テファはシュウの手を優しく包みながら言った。
「無理はしないで?私…自分でも勝手なのはわかるの。それでも、あなたとお友達でありたいって思ってる。だから、自分を追い込むようなことはしないで」

――――無茶はしないでね?

「…ッ…」
その言葉に、一瞬だけある思い出がシュウの頭の中を過ぎった。
「シュウ?」
「いや、なんでもない。それより……いつまで手を握ってるんだ?」
一瞬、シュウの顔に変化が見えた。よくわからなかったが、そんな気がしたテファはどうかしたのかと尋ねるが、彼はなんでもないと答えた。
「え?あ、ご!ごめんなさい!!」
腕をいつまでもぎゅっと握ったままだったことに気づき、テファは思わず慌てて手を放した。それに伴った顔も朱色に染まっている。
「お姉ちゃん、顔が赤くなってるよ?」
「お風邪?」
「な、なんでもないわ。なんでも…」
子供たちならまだしも、同年代の男の人と言葉を交わしたことがほとんど無かったテファにとって、男性の手を握るのは気恥ずかしかった。
「はは、姉ちゃんリンゴみてぇー!」
ジャックが指を差して笑うと、他の子供たちもまたおかしくなって腹を抱えて笑い出した。
「笑わないでよ!!んもう!」
思わずテファは、子供たち並に子供みたいな台詞を言ってそっぽを向いてしまった。
シュウは、そんな他愛のないやり取りを交わすテファや子供を見て、心が安らぐのを覚えた。



こんなひと時が、いつまでも続くことになれば、どれほど幸せだったことだろう。
だが自分はウルトラマンに選ばれた者、適能者(デュナミスト)だ。
選ばれし者には、変身アイテムのエボルトラスター、護身アイテムの銃ブラストショット、最後には彼らしか持ち得ない千里眼に近い遠視能力が与えられる。遠視はテファから授かった使い魔のルーンの力による視界の共有と異なり、こちらは危機に陥ったテファの視界ではなく、ビーストや奴らに襲われる人の姿を映す。
あの日からも、その能力でこの世界でもまたビーストが、他にもシュウの知らない別次元の怪獣たちがその異世界さえも蹂躙しようとしていることを知った。自分が光に選ばれた責任を全うすべく、彼はその世界でも戦う道を選んだ。
ロンディニウムの宮殿に突如出現し、ウェールズを食らおうとしたペドレオンに続き、モット伯爵の屋敷に現れたノスフェル、学院から離れた場所の森にてグドンやツインテール、ラグドリアン湖では故郷ですでに倒されたはずのファウストなど…
ボロボロに傷つき、何度も死に掛けることがあっても、彼は逃げることなく戦い続けた。
その最中に彼は出会う。そして共に戦う。自分とは別の、異次元のウルトラマンと、それに変身する別次元の地球の少年と。


(ん……)
気がついたらもう村の近く。シュウはストーンフリューゲルの中で目が覚める。
いつの間にか、眠っていたようだ。もしかしたら、1日以上ここで寝ていたのかもしれない。なにせ先日までは激戦の連戦続き。疲れないほうがおかしい。
しかも、召喚される前から、テファを盗賊から救った時の記憶を夢に見ていたとは。よほど疲れていたのかもしれない。
ともあれ、シュウはすぐにストーンフリューゲルを村に向かわせた。
朝方に帰ってきた頃には、シュウの傷は治癒されていた。子供たちはまだ眠っていて、テファはもう起きていることだろう。すでに太陽の光が上りつつあった。
シュウは村に戻ると、思った通り、ちょうどテファが朝の仕度にかかろうとしていた。
「あ、シュウ!やっと戻ってきた!」
彼女はシュウの姿を見てすぐに彼の元に駆け寄ってきた。
「朝帰り?お仕事、そんなに忙しかったの?」
「あぁ…」
忙しい…程度では表しきれない事態だったが、シュウは肯定した。だがテファには決して明かさないようにしなければならない。どうせ二度も会うことはない(とシュウは考えている)ギーシュたちの前では緊急事態だったこともあり堂々と変身してしまったが、彼女にだけは、自分の事情に首を突っ込ませたくはない。以前は自分を心配して一人突っ走って森の中にはぐれてしまったなんてことがあった。その果てにテファは幼い頃の友人と語る奇妙な妖怪と再会できたのだが、そんなことが二度も起こるはずがない。
子供の頃は王家がらみの都合で苦しい思いを抱いた彼女に、これ以上自分の事情に踏み込ませたくはない。
(…ぁ…)
そう思った矢先、シュウは自分の視界がぐらりと揺らいだことに気づく。傷はストーンフリューゲルに入って治したはずだ。だが、体が重くてだるい。視界の揺らぎが止まらない。
「大丈夫?なんだかすごく疲れてるみた…い…!?」
気遣いの言葉をかけた途端、シュウは前のめりながら、意識を手放して倒れてしまった。
確かにシュウの傷そのものは、ストーンフリューゲルの中で回復されていた。しかし一方であれは、傷は治癒しても、適能者の疲労までは回復してくれないのだ。今回のガルベロス、メフィスト、ミラーナイトの連戦。ギリギリの戦いを強いられ、シュウの体にはあまりに大きすぎて、ついに村に帰ると同時に限界に達してしまったのであった。
「シュウ、大丈夫!?シュウ!!」
テファが揺すって彼を起こそうとしたが、彼は起き上がれなかった。まさかここまで疲労が溜まっていたとは。
「すまん…働きすぎたようだ。今日は休む」
「…わかった。何か体にいいもの、作るね」
声にも元気が見受けられない。シュウはテファの肩を借りながら部屋に戻った。




ティファニアは、たとえるなら太陽のような少女だった。
純粋さにおいては憐と同じかそれ以上かもしれない。
黄金の光のような頭髪と、美しく可憐な容姿を持つ少女。俺がこれまで会ってきた女性の中では群を抜いていることは違いなかった。最初にあいつの顔を見たときはそうとしか思えないほどだった。
幼い頃、彼女は王家内の揉め事で両親たちを失い、追われた身であるため、世間の目に映らないように暮らしている。そんな苦難の状況下でも、彼女は孤児を引き取って育てている。
まだ『白』の中にいるティファニアと子供たち。家族を失ってなお白であり続ける、まだ幼さを残す子たちと穏やかな日々。
俺にとってその日々は気持ちが軽くなるものだった。肩に背負った何十キロもの重い荷物を放り捨てたときのように。
しかし、ティファニアの太陽のような姿は、ウルトラマンの光と重なって、俺の心の中に拭われることのないまま存在し続ける、俺の『影』を浮き彫りにした。
怖くなった。
自分の『影』を思い出すと、俺の過去が何度も脳裏に呼び起こされる。
失ってばかりの、忘れたくても忘れられない、忌まわしい過去を。
そして自分自身をその度に呪い、疎ましく思う。
俺の存在が、今度は…彼女たちを…。
だから俺は迷う。
俺は確かに彼女たちの使い魔としての契約を受け入れ、この村にいる。その責任を捨てずに全うしないといけないのもわかっているつもりだ。

けど…彼女たちの安全と未来を考えると…


本当に、この村に留まっていいのだろうか?


このときの俺は、そのことを何度も悩むようになっていた。





シュウがテファの肩を借りる姿を、密かに見ていた奴がいた。二人と比べると小さな影だった。木の陰から二人を覗き込んでいる影の、木の幹を握っている右手に力が入る。ミシミシと恨めしげに。
神々しい少女の優しい眼差しと温もりを一身に受けている、闇のような深い黒い髪を持つ青年。
彼を見るその影…サム少年は素手のみで木の幹を引っぺがすほどの力をこめていた。
サムは、呪っていた。あの時、自分の力でテファを自らの手で守ることができなかった己の無力さを。そして同時に、余所者のクセに図々しく村に留まっているあの青年に。気に入らないのに、新参者のくせにテファを悪党から救い出して見せ、他の子供たちからなお信頼を見事勝ち取ったあの男に…嫉妬の感情を抱いていた。
だが、それももうすぐ終わる。
あいつの持っている、白い短剣がある。あいつは気づいていないだろうが、あれさえあれば…巨人の力を手にできることを知った。
「見てろ…お前なんかじゃないんだ。僕だけが、テファ姉ちゃんを守ってやるんだ」
おそらく今のサムには、シュウは傲慢で目の上のたんこぶ以上に邪魔な存在でしかないのかもしれない。だが、自分自身が傲慢になりつつあったことに、彼は気がついていなかった。
そしてそれを、一匹の魔物が…額に紫に光るルーン文字を刻んだ、一匹のガーゴイルが見下ろしていた。
(発破はかけておいたわ。さて、どう出るかしらね…?)
ガーゴイルの視線の先には、サムと同様シュウの姿が映されていた。 
 

 
後書き
同じウルトラ系の二次作家さんを見かけますが、なかなか届きもしていないですなぁ…とまたぼやいてしまう自分でした。
 
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