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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第102話 二人は最後の日常を過ごすようです


Side ―――

魔法世界、ヘラス帝国"帝都アストルラックス"の中心部の隠し地下空洞。

地下とは思えない、柔らかな光が充満し一切の暗闇を感じさせないその空間に、ただ一つ

大きな闇を落としている最古の君臨者"龍王"。その住処にして封印場所。

王族の、更にほんの数人しか入れない場所に――


「いただ、き。」
ヒョイパク!
「あぁあーーエビ団子最後の一個!?私の大好物なのに!お前皿に取っているだろうが!

寄越せ!返せ!献上しろ!!」
シュババババババババババ!
「・・・わふぁふぃてふぁうおおか(わたしてなるものか)。」

「こらこら行儀悪いにも程があるだろ。ほらエヴァ、俺のやるから。あーん。」


でかでかとレジャーシートを敷いた真ん中に五十もの弁当箱を広げ、それを囲む十二人。

後ろの全長2kmにも及ぶ超巨大龍を除けばピクニックだが、そもそも何故、帝国に祀られた

神獣の目の前で風呂敷を広げているのか。


「あ、あ~~ん…………うぇへへへへ、幸せな味がするぞ。」

【貴殿ら、我が問いに応えよ。何時まで飯を食うておるか。】

「いーから貴方も食べなさいってば。急いで飯食べたって美味くないのよ。」

【人間の食事なぞいらぬ、我の質問に答え要件を述べよ。】

「やれやれ、刺々しいなぁ。」


一切態度を変えず素気無くフラれた愁磨は炊き込みご飯片手に立ち上がり、魔法世界最古の

創造物の前に立つ。持ち前のゆるっとした態度を崩さないが、自分を前に首を擡げただけの

相手に、久々の重圧と不気味さを感じながら目的を告げる。


「先に質問から答えるけど、まー簡単な話、お前のインパクトで祭りを盛り上げつつ

俺等の登場を若干抑えて貰って阻害魔法への衝撃を和らげていたかったと。

んでまぁー本日の御用件は……正式な勧誘?」

【クカカ、事後承諾此処に極まれりと言おうか。確かに世の民は我が貴殿らに頭を垂れたと

思っているであろうな。しかし―――】
ズズゥン――!

ただ岩の様にあったそれが寝せていた前足を立てただけで地が罅割れ、揺れ響く。

同時に幾百と発動された封印の魔法陣が、閉じられた四つ眼の一つが開き全てを砕かれるのを

見て、感心したように口笛を吹く。


「わぁお、さっすがツェラメルに『四法』を貰っただけあるな。俺やアイツだってもうちょい

手間取るレベルだぞ今の。」

【その我の似姿を創り、我が子の一人樹龍をも騙してのけた貴殿も大概である。

実力は買おう。聞いた策も悪くは無い。しかし、我を従わせるには足らぬ!!】
ゴッ!
「はいはい結局実力行使か、だっるいなぁ…………。」


龍王の何の変哲もない前足での打ち下ろし。しかし一撃で城を壊滅させられるそれを、

愁磨はいつもの調子で、受け止めるべく右腕を振り上げ――


「っ!」
ズガァァァンッ!!

寸での所で回避に行動を切り替え避け切った、かに見えた。否、確かに回避したのだが

その左肩から先を消し飛ばされた事に驚きと納得、それに加え狂気の様な驚喜を上げる。


「危ない危ない……只の物理攻撃に見せといて二つ乗せとは気前の良い事で。」

【よくぞ躱して見せた。今ので決めるつもりであったと言うのに。】


言い合う数秒で愁磨は腕と服を再生させ構えを取り、龍王も僅かに前屈し突進するように構える。

ボルテージが上がって行く二人に対し、状況が分からない女性陣は、


「成程、これが所謂"ヤムチャ状態"と言うものかな。私には何が起こっているのかサッパリだ。」
ズドォォオオオオン!
「ノワールはん以外は分かってないから安心してええよ。それで、どんな術式なんあれは?
ボゴォオン!
愁磨はんの障壁をものともせんって。」

「ツェラちゃんがあれ創った時に持たせた力の内の一つ……いえ、二つかしらぁ~。
ズズゥン! ドゴァアア!
初めの魔法陣破壊と今の障壁貫通は"破壊の法"、つまりは攻撃魔法よ。」

「えー?いくらツェラメルちゃんの技でもむえーしょーで愁磨の障壁貫通出来るの?」


もみじの質問に、頬に指を当て考える仕草。解説役になっているノワールではあるが、完全に

仕組みを理解している訳ではない。理解している旦那は戦闘に夢中で、聞いても無駄だと悟り

食後のお茶を飲みつつ講師をする。


「勿論、ただの攻撃魔法とは仕組みがそもそも違うわ。普通は思考・魔力の練成・詠唱・発動だけ

れど、あの子の場合は思考と同時に発動する。そして相手の魔法と精霊の繋がりを破壊する。」

「む?それでは"王家の魔力"とあまり変わらないのではないか?」

「違うよ!つまり『やると決めたなら既に行動は終わっているッ!』ってやつだよ!!」


ドヤア、とアリカに指を差すもみじ。完全に話の内容を理解出来ていないのだが、その実は

的を得ている。"破壊の法"の概要は、『龍王が思考したと同時にツェラメルの設定した

魔法対魔法の演算を無視し破壊する』と言うものだ。『破壊したなら使ってもいい』、もあながち

間違っていない事に、頭を悩ませながら説明している自分の不甲斐無さに頭を抱えるノワール。


「……まぁ、大体合ってるわ。で、二つ目が"力の法"、強化魔法ね。」

「成程、不可視の範囲強化。それで愁磨さんでもあの距離まで気付けなかったのか。

それで残りの二つは「のわぁぁーあーーー!?」おっと。」
っどーーーん!
「あんどらごらすっ!?」


追加授業を進言したと同時に吹っ飛ばされて来た愁磨を、真名は素気無くヒョイ避け。

そして激しくぶつかった壁に出来た象形文字の様な穴から、未練がましい目で受け止めてくれな

かった少女を睨みつつ無傷で生還してくる。


「いったたた……ちょっと酷くない真名ったらば。その胸で受け止めてくれていいのに。」

「そう言う事を人前でする気はないよ。さっさと終わらせてくれ、こんなジメジメした所で

ご飯を食べても美味しさ半減なんだ。」

「あらあら、楽しみにしててくれたのかしらん?相変わらず素直じゃないな。」

「別にそう言う訳ではない、とは言わないんだけれど…あ、ん………ちょっと。」

「んーじゃ、終わらせて来るから待ってな。」


最近では自分より高くなってしまった真名の頭を撫で、いつもの漆黒の騎士服を呼び出し

眼前の巨大すぎる生物の目の前まで歩いて行く。そこに、先程までの遊ぶ気配はない。

目的を果たすだけの、伝説の『皆殺し』が顕現した。


「さて、待って貰った所悪いんだが……ウチのお姫様が俺の料理を楽しみにしてるんだ。

"相手を屈服させた方が相手を好きにする"って事でいいかな?"龍王"。」

【―――侮辱。これ程の恥辱、生れ落ちてこの方受けた事は無い。

良かろう、ならばその思い上がり……死を持って償うが良い!!!】
キィィィンンン―――

咆哮と共に四つの眼が開かれ、瞳の色が真紅から黄金へ変化する。

同時に1m大の漆黒の球体が咢の前に一つ浮かび徐々に膨れ上がり数を増やしていき、

目の前が闇に包まれたと錯覚するほど膨れ上がり―――一気に放たれる。

キュドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
「ふむ……一つ一つが最上級呪文の威力、更に障壁無効・範囲拡張の上"異端の法"で

ドレイン能力、"癒しの法"で打ち消されても復活、と。――素晴らしい。が、"払え"。」
ゴゥッ!
【―――ッ、な、に!?】


神通力を宿した右手を一閃。それだけで龍王の攻撃が全て掻き消える。

以前ならばツェラメルの力の前では通じなかった能力が、こと戦闘においては彼女を上回る

龍王の攻撃を掻き消せた。その事に愁磨は一つ、ホッと息を吐く。


「≪崇神魔縁≫は有効になったか。なら次は【ぬぅあああぁあああああああああああああ!!】
ゴバッ!!

直角まで開かれた咢から吐き出された眩いばかりの白い炎が、植物じみた不可思議な剣を

取り出した愁磨に向かう。先程の黒雨が機関銃だとしたら、ミサイルに相当する威力のそれに、


「『龍王の剣――消去(デリート)』!」
ボッ!

今度は剣を一閃。魔力を注ぎ続ければ放出され続ける筈の炎は、存在を因果律ごと消し去られ

鎮火された。二連続で起こった有り得ない事象と自分の持っていた情報と違い過ぎる現実に、

龍王は巨大な体躯を、自身より遥かに小さい白い影から後退させる。


【馬鹿な、何なのだ貴様、その力…!?我の知る貴様ではない!

造物主と同等の格を与えられている我に、我が力に、そんなもので抗える訳が……!】

「地が出てんぞ、地が。あの時と違う、本気を出しただけだよ。……で、これが最終試験。」


愁磨が剣を握っていない方の手を差し出したと同時、龍王は翼を広げ、自身の瞳ほどの小さな

黄金の球を4つ、口腔の前に僅かに大きい物を一つ生成する。今までの攻撃と比べ矮小にすぎる

それは、愁磨の記憶にある技の一つに匹敵する。否、その数の分だけ造物主の『理』を超えた

攻撃だ。それを前に、ひとひら―――桜の花びらが舞った。


【クゥウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!】
ヒュルォォッ キュドッ!!!
「―――『()()()()』。」
フオッ―――

造物主Ⅱを倒した≪虹描く魔の刻≫に酷似した攻撃と同等の威力の黄金の螺旋槍。

自分を創った者を一方的に屠った因果剣を放つ龍王の"戦闘力"は造物主以上、真に最強であるが、

それを花びらが優しく覆い、その先の黒い闇をも包んだ。


【ぐ、くぉ………!!】
ズズゥン!!
「一切抵抗なし、っと。成功成功大成功!」

「案外脆いわねぇ、たかがツェラちゃんの原初魔法の改良版でしょう?」

「ある意味じゃ改悪とも言えるけどな。おーい、大丈夫かー?話しできるか―?」
ベシベシ!

左半身を"戻され"、気を失い地に伏した龍王の頭を無遠慮に叩いて起こす。

普通ならばそのまま消え去るレベルの負傷だが、"癒しの法"で理を無視し徐々に回復しつつ

あり、そこから十秒程で目を覚ました。開かれた目は真紅に戻っており、戦闘の意思はない。


【……よもや、造物主以外に負けるとは思わなんだ。何者だ、貴様。】

「つーか貴殿から貴様に格下げかよ……別にいけどさ。何者かって聞かれても、肩書きだけなら

大量にあるが、そうだな。今は『創造者』と名乗っておくのが妥当かな。」

【フン、貴様など逸脱者であろうが。まぁ良い、約束通り我を好きにしろ。】

「ん?今好きにしていいって言ったわよね?って、ケモノっ娘なら即いただきますなのだけれ

どぉ~、残念ながらじゅうk(ズパァンッッ!!)

「アリア、コレ退場。」

「らじゃー。」
ズルズルズル――

大怪物相手にまでも欲情し始めたノワールは引っ叩かれ退場。溜息を吐きつつ、円滑に話し合いを

する為に龍王の回復し切っていない部分を直し、頭を撫でる。


「これでいいだろ。移動するぞ、ここだと帝国に筒抜けだしな。」
ぺしっ  ぺしっ
【ええい、やめぬか。しかし見事……我が法より強力とは。それより、なんなのだ、こやつは。】
ぺしべしぺしべし!
「きゅるるる!」


何故か急に現れ、ミニモードのまま龍王に攻撃を加えるリル。自分以外の龍(と言ってもリルは

蛇と蟲の混合なのだが)が愁磨に撫でられたのが余程気に食わなかったのだろう。

雷の速度で尻尾ビンタを加えているものの、相手が相手。可愛らしい嫉妬の域を出ない。


「全く……ほーらリル、おいでー。」

「くるるぅ………。」

「よーしょしょし!よぉーしょしょしよしよし!」

【………こういうのを人間の間では何というのか。――ああ、やれやれだぜ、か。】

「間違っちゃいないけどなぁ……。」


腕に抱いたリルを余すところなく撫でつつ、今度こそ愁磨はパーティセットを片付け終えた

彼の円卓の下へ向かう。無論龍王と安心して話をする為ではあるが――


「まず飯食おうぜ。腹減った。」

「「さーんせぇーー!」」

「温め直さないといけませんね、これ。どうしましょう。」

「あ、それなら私が。皆さんだと消し炭になってしまうでしょうから。」

【……やれやれ、姦しい事だ。】


家に帰りピクニックの続きをする為だ。そして愁磨側の布陣が磐石になりつつある頃、ネギ達は。

Side out


Side ネギ

ドスッ!
「へぶぅっ!」

「はーい、次小太郎君よ。大人しくしなさい!」

「い、いやぁワイはええわ。ホラ、もう治りかけてるs「せぇりゃあああああああああ!!」

だああああああああああああああああああ!!?」


隠れ家に戻った途端、明日菜さんに"神剣 桜神楽"で後ろからブッスリ刺されて回復させられ、

反動で動けなくなる。同じく狙われた小太郎君も逃げていたようだけれど、数分も経たず

倒れる音とハイタッチする音が聞こえて来た。


「諸行無常……強すぎる力の代償とは、いつの世も変わらないものだね。」

「うぐぐ、なに適当な事言うとんねんあんたは。しっかし見事やな、毎回毎回。

こんだけ全快やと、なんや副作用あれへんか心配なるわ。………ないんやろうなぁ。」

「愁磨さん製だからね……。それで、この後どう動こうか?」

「あー、それなんだけどねネギ君。あの総督からこーんな物が届いてるんだよね。」

「へっ!?」


復活した僕が改めて皆に今後の行動の方針を聞こうとしたら、朝倉さんが封筒を渡して来た。

総督から届いてる・・・って、この隠れ家に?もう隠れ家の意味無いな・・・と思いつつ、

罠が無いかチェックしてから封筒を開けて再生する。


『やぁ、こんにちはネギ・スプリングフィールド君。先程は失礼しました。残念ながら交渉は

決裂してしまいましたが……君は私に会いたい筈です。違いますか?少なくとも君個人は。』

「…………この人、本当にナルシストホモなんじゃないかと思えて来たんだけど。」


色々意味深な発言が多いクルト提督。そんな事は無い・・・と言いたかったのだけれど、

続く言葉でそれも言えなくなった。


『……いえ、本心を言いましょう。私は君ともう一度話がしたい。我々の未来の為に。』

「あのー、これってつまりクルト提督×ネギk「ちょっとあの人殺してきますー。」のどかぁ!?

待って!冗談だから!」

「皆さんちょっと静かにしててください!」


腐った思考を開始したハルナさんとそれに反応したのどかさんを皮切りに騒ぎ始めた皆を諌め、

一時停止していた手紙を再生する。・・・まったく、そう言うのはノワールさんだけでいいよ。


『そこで今宵総督府で開かれる舞踏会に君を招待しましょう。これは名誉な事ですよ。

勿論、君のお仲間のお嬢さん方もご招待します。アジャスト機能付きドレスも送っていますので、

どうぞお好きな物をお召しになってお越し下さい。』

「おいおい、マジで言ってるのかこいつは。どう考えたって罠じゃねぇか。」


千雨さんの言う通り、罠だと思う・・・のが普通だ。皆を人質にして僕を操るには容易い状況。

でも、態々そんな事をしなくてもここに攻めて来ればいい。

それに・・・僕と話したいと言う言葉に偽りは無いように思う。


『これでは来る気にならないでしょうね。では特典を付けましょう。

貴方にもお仲間にもこちらからは手を出さないと誓いましょう。難癖の様な事も無論致しません。

更に祭り中の総督権限として恩赦を出し、あなた方の指名手配を正式に取り消しましょう、

これで晴れて自由の身です。我が名と魂に誓いましょう。』

「ふぅーむ、随分美味しい話しではないかね?罠でもこの戦力なら勝てそうなものだが。」

「それ、は……『ふむ、まだご不満かな?ではそうですね。君達が旧都に降り、番兵を倒し元居た

世界へと帰るまで。この一連を現状オスティアに存在する全兵力でサポートいたします。

ご安心を、招待を受けないからと言ってこの戦力を追手になど使いません。』

「「「「うそつけぇ!!」」」」


若干語るに落ちた気がするけれど・・・いや、元々信用出来る人じゃなかったし変わらないか。


『ネギ君……私はほぼ全てを知る人物です。私がどんな問いにでもお答えしましょう。

君の父と母、世界の謎、君の根源の一つとなっている村の事、彼らの事――全ての答えが

知りたければ私の下に来てください。ああ、来るのでしたらナギの方の姿でいらしてください。

面倒事もありませんし、その方がご婦人方も喜ばれます。それでは。』


最後に僕が行かざるを得なくなる様な事を最後に告げ、手紙はそこで終わってしまった。

ほぼ全てを知る・・・僕に、答えを教えてくれる?それを知れば、僕は――


「決めました、僕が一人d
チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「っちょ、まっつぁん何してんの!?」

「いや今のはナイスよ。どうせまた一人で行くから私達は逃げてろとか言うつもりだったのよ。」


――少しでも、前に、行けるんじゃないかなぁと考えて言おうとしたら、松永が爆破して来た。

明日菜さんには何を言おうとしたかバレているし・・・って言うか!


「そ、それのどこが悪いんですか!?僕が行ってる間に先に下に降りて貰って、ラカンさん達と

合流してゴーレムを倒しておいてくれれば、パッと帰れるじゃないですか!」

「ほんに戯けじゃのうこの小童は。一番の戦力が抜けてしもうては安全も効率もあったものでは

無い。松永の言う通り、この場の全員で行けば罠であろうとも、寧ろ敵戦力を削げるわ。」

「で、でも、「せんせー!」っ!?」


僕の考えを真っ向から否定して来たゼルクに反論を・・・いや、向うが正しいと分かりつつ

尚も食い下がろうとしたら、今まで黙っていたのどかさんが声を荒げた。


「せ、せんせーは、私達が信じられないんですか!?今まで危ない事は何度もあって、

殆どせんせー一人でなんとかしちゃった時もありましたけど、それでも、私達だって強くなり

ました!もう……もう、せんせーを一人で行かせません、行かせたくないんです!

一人で全部何とかしようとするのなんて、愁磨先生くらいあっぱっぱーじゃないと出来ません!

それだってよくノワール先生とかアリアちゃんとかアリカ先生から折檻受けてるんですよ!?

無理です!せんせー一人じゃ絶対無理なんです!だから……!」


初めて聞く。こんなにも長く、大声で、必死に話すのどかさんを。

誰もが一言も口を挟めないまま――


「私達を……私を、頼ってくれても、いいじゃ、ない、ですかぁ………!」

「あ………!」


遂に泣きだして、崩れ落ちる様に膝をついたのどかさんを何とか抱き留める。

ああ、もう・・・僕はまた自分の事ばっかりしか考えていなかった。

好きな女の人の事さえ全然分からないで、分かろうともしないで、勝手に突っ走って・・・

とうとう泣かせてしまった。だから僕は、腕の中の、今はまだ僕より少しだけ大きい、けれど

か弱くて細い体を、強く抱きしめ直す。


「ごめん、ごめんなさい、のどかさん……。」

「ばかぁ……せんせーのばがぁ!せんせーなんてぱっぱらぱーですぅー……!

どぉしてわたしのこと分かってくれないんですかぁ……嫌いになっちゃうんですからね……。」

「はい、でもすいません。のどかさんが僕の事嫌いになっても、僕は――」

「せん、せー………?」


自然と、顔を上げたのどかさんと目が合う。涙で濡れた綺麗な瞳に吸い込まれるように――


『うぉぉっほぉん!!』

「「にゅぅぉおあああああーーー!?」」


盛大な咳払いの合唱に、近づいていた距離は一気に離れる。

あ、あ、危なかった・・・!僕はこんな公衆の面前で・・・!


「いやはやゼルク殿。若いとはかくもこのようなものであったろうか。」

「ワシらからすれば遠いとおーい昔の話じゃよ松永殿。なんともはやうらやま嘆かわしい。」

「っだっぁああああああ!もう!いいから会議です!はじめーー!」


・・・こうして、望まない過程もあったものの、僕らは明日の作戦を変更する会議を始めた。

間違ってばかりの僕だけれど・・・皆と一緒なら何とかなるかも知れない。

だから―――


「で、愁磨さん達への報告と挙式はいつに?」

「ちっがぁぁあああああああああああああああああああああうう!!」


―――だから、本当に皆を守れるくらい、強くなるんだ。

この日常を守って、あの頃の日常に戻る為に。

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