皇帝の花
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2部分:第二章
第二章
「そして」
「この薔薇の花びら達も」
「そうだ」
今度はブルズの言葉に頷く。彼もまたネロやセネカと同じく宴の場に寝ていたのであった。
彼等は今同じものを見ていた。壁を。
見れば壁は動いていた。機械仕掛けで動かしているのであった。芸術を愛するネロが作らせたものでありそこでは四季が常に動いている。そこにもまた薔薇の花びらが飾られている。彼等はその薔薇の花達を目でも楽しんでいたのである。
「愛している。何時までも」
「私もです」
ブルズはネロをじっと見て答えた。
「愛する陛下が愛されているこの花達を」
「愛してくれるのだな」
「そして陛下も」
「そうか。ではブルズ」
ネロはブルズに顔を向けた。そうして言うのだった。
「御前には白薔薇を与えよう」
「私に白薔薇をですか」
「そうだ」
穏やかな顔でブルズに告げた。
「御前の純粋な心はまさに白薔薇だ。だからこそ」
「有り難き幸せ」
「そしてセネカ」
今度は師であるセネカに顔を向けた。
「貴方には紅薔薇を」
「私は紅ですか」
「いつも私を気遣ってくれるその温かい心だ」
それを紅薔薇に例えたのである。彼の詩情が出ていた。
「それを讃えたい。いいか」
「喜んで」
セネカもまた笑顔で彼の贈り物を受けたのであった。
「そして市民達には幸福を願いたい」
「それでは何を」
「男には黄色の薔薇を」
黄色は即ち黄金である。市民達に黄金を贈るというのだ。
「女にはピンクの薔薇を」
ネロはこれは女の優しさを表わすと考えていた。それもまた贈るというのだ。
「それぞれ贈りたい」
「では陛下は」
「私はこれだ」
穏やかな笑みを浮かべたその前にデザートが置かれた。それはプティングであった。
「それは」
「薔薇を入れてある」
見ればそのプティングにもまた薔薇を入れてあった。その色に染まっている。そしてその色は。
「紫ですか」
「そうだ。皇帝の色だ」
そうセネカとブルズに告げる。
「私は皆と共にいたいのだ。薔薇と共に」
「薔薇と共に」
「願わくば死しても薔薇に囲まれていたい」
彼はこうも言った。
「私が愛し、皆が私を愛してくれている証であるこの薔薇をな」
「左様ですか」
「贅沢な願いだろうか」
ネロはここでふとそう思った。
「これは」
「いえ」
だがセネカは愛弟子のその言葉に対して首をゆっくりと横に振った。それからまた述べるのであった。
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