エターナルトラベラー
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第五十六話
side 高町なのは
「うっ…くっ」
ヴィヴィオのコブシを何とかバリアを張って耐える。
なぜこんな事になってしまったのか…
恐らく、あのここには居ない戦闘機人の所為だ。
彼女がヴィヴィオに何かしたのだろう。
アオ君が煙のように消えてから助けようとしたヴィヴィオが誰かに操られるように変身して敵になってしまった。
「お前が!ママをっ!」
「っちがうよ!ママはわたしだよっ!ヴィヴィオ」
「うぁああああああっ」
わたしの言葉を否定するかのようにヴィヴィオの力が強まった。
『バリアバースト』
目くらましを兼ねてバリアを爆発させてヴィヴィオから距離を取る。
【あーら、管理局のエースと言っても所詮こんなものなのねぇ】
耳障りな声が響く。
これはヴィヴィオをこんな風に変えた戦闘機人の声だ。
【古代ベルカ末期、列強の王達が数多く存在した時代。そんな中で一番強い王様が誰だったか貴方は分かるかしらぁ?】
それが今関係あるのだろうか?
【冥王イクスヴェリア、覇王イングヴァルド、そして最後のゆりかごの聖王オリヴィエ】
聖王…オリヴィエ。多分ヴィヴィオのクローン元の人物。
【残念だけどぉ、全部外れぇ。正解はぁ、竜王アイオリア】
アイオ…リア?それって…
【古代ベルカ末期に現れて、彼の王が統治してから彼の国は不敗。他国を侵略せず侵略させず。混沌とした時代で唯一の楽園とまで言われた国も、どういう訳か一夜の内にその国民ごと消えたと言う。歴史学者は皆竜王アイオリアなんて居なかったとかぁ、ただの御伽噺だとか言うけれどぉ実際に居たとしたら?】
そう言えばユーノ君がこの前発見した本が歴史的発見で今世間に発表するための論文を纏めているって言ってたっけ。
【竜王アイオリア。彼はとても強かったんですってぇ。それこそ誰も彼に傷を付ける事を出来なかったくらいに。
それに何度も聖王とも戦ったことが有るんですって。オリヴィエ自身はどうやら乗り気では無かったらしいようだけど、周りがそういう状況じゃなかったみたいねぇ。
しかし結局一度もオリヴィエは勝てなかった。だけどぉ、そんな彼も一度だけ血を流したことが有るそうよぉ。
攻め込むことに反対するオリヴィエを邪魔に思った人たちが居たんじゃないかしら。仲間から狙撃されたオリヴィエを庇った時出血したソレがオリヴィエのマントに付着していた】
まさかっ!?
【そう、その子は聖王と竜王のハイブリット。現代に蘇った古代ベルカの王。まさに最強】
そんなっ!それでもわたしは負けられないっ!
「レイジングハート」
『クリスタルケージ』
ヴィヴィオに狙いを定めてバインドを行使する。
「はぁっ!」
しかし、捉えることが出来ずにヴィヴィオが空中へと踏み出してきて反撃。
「あああああっ」
「くっ!」
寸前でどうにかバリアを張って受け止め、そのまま距離を取る。
おかしいっ!何か今のは違和感がある。
わたしは確かにヴィヴィオを狙ったはずなのに、行使した位置が人一人分隣にずれていた。
「レイジングハート!今のはっ」
わたしの問いかけに少しの逡巡の後答える。
『……ターゲットロック、魔法の術式とも行使寸前までは問題ありませんでした』
「ならなんで!?」
『マスターが寸前で術式に割り込んでターゲットをずらしたんです』
「え?」
そんな馬鹿な!…だけどレイジングハートが嘘を言うわけはない。
だけど、わたしにはそんな事をしたつもりはまったく無かった。
「はあああああああっ」
また迫るヴィヴィオのコブシ。
「くっ!」
突進してくるヴィヴィオにカウンター気味にバインドで捕獲しようとして、今度も行使位置がズレる。
『プロテクション』
レイジングハートがとっさにバリアを張ってくれたお陰で何とか防ぎきることに成功したわたしは直ぐに距離を取った。
まただ…
【そう言えばぁ、聖王協会に秘蔵されている聖王オリヴィエの日記には竜王アイオリアは人の意思を操ったって書いてあるそうよ】
人の意思を?
それは貴方がやっていることじゃないっ!
しかし、今の言葉で符号する所がある。
わたしはちゃんと狙ったはずなのに、どうしてか寸前で狙いを外してしまっている。
つまりわたしの意志が捻じ曲げられている?
しかしそれが分かったとしても対処方法が分からなければ結局無意味だ。
人の意思を捻じ曲げる。
催眠や暗示の類の魔法は少ない。しかし行使されたであろう瞬間に魔法陣が展開された様子も無かった。
予兆が無ければかわすことは難しくなる。
『アクセルシューター』
「シュート」
「これはもう覚えた!」
ヴィヴィオがシューターを前に出ることで避けようとするが、当然わたしはヴィヴィオへ誘導したはずだった。
『プロテクション』
「ぐっ…」
しかし、やはり誘導は見当違いのところへと飛んで行った。
それからのわたしは防戦一方に追いやられる。
プロテクションはレイジングハートが張ってくれているから直撃こそ受けてないが、どうしてもわたしの体が回避行動を取ってくれない。
自分の意思が曲げられている事に恐怖を覚えると同時に、どうしても攻略の糸口が見つけられないまま時間だけが過ぎていく。
そう言えばあの戦闘機人の声も、何やら慌てたような声を最後に聞いていないような…もしかしたらアオ君が到着したのかもしれない。
「はぁあああぁぁぁぁぁっっ」
ヴィヴィオのコブシが迫る。
「しまったっ!」
ヴィヴィオの攻撃にガードが間に合わずにわたしは後ろに有った扉を破壊しながら吹き飛ばされてしまった。
side out
「なのはさん!大丈夫ですか?」
「アオ…君?」
「はい」
一瞬意識が朦朧としていたが、直ぐに取り戻して俺を呼んだ。
「一体何が有ったんですか?」
「っ…ヴィヴィオが」
それからなのはさんは掻い摘んで説明してくれた。
ヴィヴィオが敵に操られたこと。
変身魔法で急成長した事。
どうやら凄まじい防御能力と相手の意思を捻じ曲げる能力を持っていると言う事など。
どうやら玉座の間を出てくることは無かったためにその間にヴィヴィオが攻めてくることは無かったのは幸いだ。
メガネの戦闘機人は再度強固なバインドを行使した後廊下に放置し、なのはさんと連れ立って玉座の間へと侵入する。
「あれが…ヴィヴィオ」
成長した体に漆黒の騎士甲冑、そして…
「写輪…眼?」
「え?何?」
なのはさんの呟きなんて今の俺には耳に入ってこない。
なぜ?と言う疑問でいっぱいだ。
事前情報ではヴィヴィオは聖王のゆりかごを起動させるキーとして拉致されたと言う。
そして聖王の御物であるこの船を動かせるのは聖王自身。つまりヴィヴィオは聖王のクローンだと言う事だ。
だがしかしヴィヴィオの左目に浮かぶ三つ巴の勾玉模様。あれは間違いなく写輪眼だ。
「なのはさん!」
「はっはい!」
「他に何か言って無いことは有りませんか!?」
なのはさんは俺の剣幕に押されながらも答えた。
「えっと…あ、そう言えば、聖王と竜王のハイブリットだって」
竜王の…それはつまり。
「助ける理由が増えたな…」
「え?何か言った?」
「ううん。それより、来るっ!」
一人増えたことでこちらを観察していたであろうヴィヴィオが床を蹴って一足飛びに俺の方へと駆け寄ってくる。
「はああああああっ!」
あまり手荒な事は避けたいけれど…
写輪眼を発動させて迎え撃つ。
迫り来るヴィヴィオ、ヴィヴィオの写輪眼がぐにゃりと歪んだかと思うと瞳孔の中心へと集まってその模様を変えた。
万華鏡写輪眼!?
そんな!?
しかもその模様は俺のものにそっくりだった。
まずい!
なのはさんの言葉から察するに『思兼』か!?
ヴィヴィオの攻撃をかわそうと思っていた俺は気が付いたらソルが張ったシールドに守られている。
くそっ!操られたっ!
『バリアバースト』
シールドを爆破して直ぐにヴィヴィオから距離を取る。
その刹那に一瞬ヴィヴィオの右目を盗み見るとどうやら普通の写輪眼に戻っているようだ。
まだ制御が完璧ではないか…あるいは反動が大きいか。
しかし、行使時間が短いのは助かる。
「アオ君!大丈夫?」
心配そうな声を掛けたなのはさんだが、ヴィヴィオは距離を取った俺よりも近くに居たなのはさんへとターゲットを変更したようで、着地した足で床を蹴るとなのはさんに迫る。
俺は大声で叫ぶ。
「なのはさんっ!ヴィヴィオの目を見たら駄目だ!」
「っ!」
俺の言葉に疑問を持ちつつも直ぐに視線をズラしたなのはさんは流石だ。
ヴィヴィオの攻撃を避けることに成功したなのはさんは直ぐにバインド行使を試みるが…
「それはもう覚えたって言ってるでしょう!」
捕まえた瞬間にブレイクするなのはさんのバインド。
あの目が写輪眼ならばなのはさんのバインドの術式を看破し、なおかつアンチ術式を構築することも可能だ。
とは言え、アンチ術式を作るだけの才能は別のものなのだが、それをやってのけるヴィヴィオの戦闘能力は凄まじい。
追撃に出ようとするヴィヴィオを俺が割り込んで受け止め、返す力で強引にヴィヴィオを弾き飛ばす。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
飛ばされたヴィヴィオは後ろの壁に激突してようやく止まった。
「アオ君っ!」
「大丈夫、見た目ほどダメージは無いよ」
と言うか、ノーダメージでは無かろうか。
俺の繰り出した攻撃が直撃する前に何重にもなった魔力の壁みたいなもので受け止められたような感触だったからね。
それよりも重要なことはあの万華鏡写輪眼だ。
どうして万華鏡写輪眼が使えるのかには意味が無い。だけど、その能力は脅威だ。
確認できた能力は『思兼』の劣化能力。いや、初期と言うべきか。
視線を合わせた相手の行動を束縛し、操る。
俺やソラが使うと視界に収めたら最後、距離の制限は有るが眼を合わせずとも思考を誘導することが出来る。
それに比べたら幾ばくも劣るが、実際食らってみてその能力は途轍もなく脅威だ。
ソルと言う相棒が居なければ直撃は免れなかっただろう。
ピシっパリンっ
俺のバイザーにひびが入り、一部が砕けた。
あの一瞬にどうやらバイザーに一撃入れられていたようだ。
「アオ君、その眼って…」
バイザーの隙間から覗いた俺の瞳を見たなのはさんが驚きの声を上げる。
「……これを隠すためのバイザーだったんだけどね」
ばれたなら仕方が無い。俺はバイザーを再構成せずに破棄する。
「その眼って何?ヴィヴィオのと同じだよね!?」
ヴィヴィオの左目がおかしくなっている事には気が付いていたのか。
「写輪眼って言う。能力はあらゆる術の看破と模倣。それと…」
「それと?」
これは教えたくは無かったんだけど…
「視線を交わした相手の思考を誘導する能力」
思兼のみで有ってほしい。思兼ですら面倒なのに、その他3つのうちタケミカヅチとシツナヒコを持っていたら洒落にならない。
「と言うことは視線を合わせなければいいの?」
流石に幾度と無く修羅場を越えてきただけはある。理解が早い。
だけど…
「なのはさんは相手を見ずに攻撃できる?相手を見ずに攻撃を避けれる?」
「……無理、かな…」
普通無理だよね。
「アオ君は?」
「出来る」
円を広げれば相手の動きは眼を閉じていても手に取るように分かる。
「……アオ君って何でもアリだね…」
呆れている時間は無いよ!
「はっ!」
体勢を立て直したヴィヴィオがこちらに向かってシューターを飛ばしてくる。
避けても追尾される可能性があるために右手に持ったソルでたたき切る様にして打ち落とす。
なのはさんに迫ったシューターも自身のシューターで相殺したようだ。
「それで!どうするんですか?何かヴィヴィオを止める方法は!?」
とめる方法が無ければ最悪…
「大威力の魔力砲で融合しているレリックを押し流せればもしかしたら…」
つまり、やることはいつものアレと変わらない訳だ。
「準備にどれくらいかかる?」
「え?…そうだね30秒は欲しいかな」
「OK。ヴィヴィオの拘束は任せろ!」
「で、でもっ」
「大丈夫だ、信じろ!」
「う、うん!」
さて、役割分担は決まった。
俺が前衛で足止め、なのはさんが後衛でヴィヴィオにでかいのをかます。
思兼を食らわないように眼を瞑り、『円』を広げる。
実際食らってみてあの技はすごく脅威だ。
「はぁっ!」
上昇したなのはさんを狙い地面をけったヴィヴィオの攻撃に割り込むように横からコブシを突き出す。
「なっ!っきゃあっ!」
俺のコブシに突き飛ばされて壁まで吹っ飛んでいき、ぶち当たりそのまま落下するヴィヴィオ。
しかし、やはりダメージを負わせた感覚は無い。
この室内には光源がいくつも有って影自体が薄いが…やってみるか。
『忍法・影真似の術』
俺の足元の影が形を変えて伸び、まさに今起き上がろうとしていたヴィヴィオの影を捉える。
「なっ…体が…動かないっ」
何とか動きを止められたけれど…
「こんなものっ…」
ぐぐっと力を込めることは無意味だが、巻き散らかされるヴィヴィオの魔力光が発光しているのが問題だ。
その光がヴィヴィオの影を消してしまいそうになる。
「ソル!」
『ライトボール』
俺の背後に直系30cmの周りの証明よりもひときわ明るい光球が現れる。
この魔法はその名の通り、ただの明かり魔法。
暗闇を照らすだけの魔法だが、今回のように影を作り出すと言う効果も期待できる。
「ぐっ…くぅ…」
よしっ!完全に抑えた!
「なのはさん!」
見上げたなのはさんはすでに準備を終えていた。
「うん!」
『スターライトブレイカー』
なのはさんは一度レイジングハートを振り上げ、叩き付けるように振り下ろした。
「スターーーライトーーー、ブレイカーーーーー」
あ、やばいっ!これって俺も余波をモロに食らわない?
なんて思っていたら目の前がピンクの光で包まれた。
さすがに管理局のエース。その威力は凄まじく。その余波で俺は吹き飛ばされて玉座の間から放り出されてしまった。
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