戦国異伝
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第二百十五話 母子の和その十一
信長は政道にだ、こう言った。
「小次郎、御主は伊達家を継ぎたいか」
「お家をですか」
「うむ、どうじゃ」
「器ではありませぬ」
これが政道の返事だった。
「伊達家には兄上がおられます」
「それでか」
「母上は違うお考えかも知れませぬが」
「御主はじゃな」
「伊達家は六十万石ですな」
「そうなる」
政宗は百万石近くにした、しかし信長はそこまで減らそうというのだ。
「国替えもしてな」
「そこまでとなりますと」
「御主ではか」
「とても主としてやっていけませぬ」
こう信長に答えるのだった。
「ですから」
「そう思うからじゃな」
「伊達家は兄上が治められるべきです」
はっきりと言った言葉だった。
「それがしは寺に入ります」
「そう言うか、確かに伊達家は梵天のものじゃ」
信長は今ここで伊達家の家督をはっきりと決めた。
「梵天はその器じゃ、茶の飲み方にも出ておった」
「やはり兄上が、ですか」
「小次郎、御主はそれなりの器じゃ」
「それなりですか」
「しかし寺に入るのは惜しい、御主は分家となるのじゃ」
これが信長の采配だった。
「わしが三万石程用意しておく、四国か何処かにな」
「ではそれがしは」
「寺に入ることはない、大名として励め」
「天下にですか」
「そうじゃ、そうせよ」
「さすれば」
政道は信長に対して深々と頭を下げた。そして。
信長はあらためて政宗にだ、こう告げた。
「仙台の辺りにじゃ」
「はい、それがしは」
「退くのじゃ。既にあの辺りは御主の領地になっておる」
「だからこそ」
「御主はあそこに移り治めよ」
「さすれば」
政宗は信長の言葉に深々と頭を下げた、そしてこうも言ったのだった。
「あの地には忠三郎を入れる」
「蒲生氏郷殿をですな」
利休は信長の二杯目の茶を淹れつつ言った。
「あの地に」
「あの者ならば無事に治められる」
そう思ってのこそだというのだ。
「では奥羽はそうする」
「畏まりました」
「さて、後はじゃ」
信長は政宗と政道のことを収めてからだった、そのうえで。
政道を退出させた、そうして今度はだった。
東の方が来た、それに片倉と成実もだ。二人は政宗の方につき三人で東の方と対峙する形になった。その彼等にだ。
信長はあるものを出した、それは。
「これは」
「うむ、南蛮の菓子じゃ」
信長は政宗に微笑みと共に答えた。
「美味いぞ」
「茶の菓子ですか」
「そうじゃ、そして茶じゃが」
「はい」
「梵天、御主は茶も好きと聞く」
「それで、ですか」
「淹れよ」
まさにその茶をというのだ。
「よいな」
「では」
「母君に飲ませてやれ」
「では上様」
ここで東の方も口を開いた、まだ歳を感じさせない整った、気は強そうだがよい顔だ。その女が言うのだった。
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