真田十勇士
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巻ノ四 海野六郎その六
「本当に煩悩が強い奴じゃな」
「否定はせぬ、しかしな」
「女等はか」
「ついでに言うがものを盗んだり腕づくで、はせぬ」
三好清海はこのことは断った。
「何があろうともな」
「そうしたことはせぬか」
「無論じゃ、確かにわしは破戒僧じゃが」
それでもというのだ。
「やってよいことと悪いことはわかっておるつもりじゃ」
「だからか」
「そうじゃ、そうしたことはせぬ」
決して、というのだ。
「あくまで酒と肉食だけじゃ」
「まあそれは感心じゃがな」
「弱きを助け強きをくじくじゃ」
三好清海は両腕を誇らしげに掲げて海野に語った。
「女子供には手を出さぬぞ」
「それは殊勝なことよ。それでじゃが」
「それで?何じゃ?」
「まあよい、相撲の後で聞こう」
海野はここで三好清海に言うことは止めた、そのうえでこう言った。
「では大会はわしが御主を投げてやるわ」
「ははは、それはわしの言葉じゃ」
笑って言い合う二人だった、そして。
大会がはじまるとだ、そこで。
幸村主従はかなりの強さで勝ち進んだ、どの者も相手にはならない。穴山達三人も強いが幸村もであった。
「いや、殿もな」
「お身体は決して大きくないが」
「それでもな」
三人は幸村の相撲を見て言った。
「お強い」
「うむ、相手が向かって来ればかわす」
「そして油断していると見れば攻める」
「相手の隙は見逃さぬ」
「蝶の様に舞いな」
「蜂の様に刺す」
それが幸村の相撲だというのだ。
「速さは風の如く」
「静かさは林の如く」
「攻めは火の如く」
「動かれぬ時は山の如く」
「まさに風林火山」
「武田家の戦じゃな」
かつて真田家が仕えていたこの家の戦の様だというのだ。
「それを相撲でも為されるか」
「無理はされず自然に攻められる」
「素晴らしき戦ぶりじゃな」
こう言って感嘆するのだった、しかし。
穴山達もだった、かなりの強さで。
相手を投げ倒しこかせて進んでいた、だが。
清海の相撲を見てだ、幸村は三人に言った。
「あの入道殿は剛力じゃな」
「はい、それがし先程あの坊主と話をしましたが」
「どうした方じゃ」
「名を三好清海入道といいまして」
そしてというのだ、海野は幸村に話していく。
「何でも比叡山におったとか」
「左様か」
「はい、そこで僧兵をしていたとか」
「ふむ、左様か」
「今は悪さのせいで寺を追い出され托鉢をしておるとか」
「そうした御仁か。見たところ」
幸村も見抜いていた、このところは見事だった。
「あの御仁も忍術をしておられるな」
「やはりおわかりですか」
「それも相当な使い手じゃな」
「はい、ただ力が強いだけではありませぬ」
「そうじゃな。あの御仁も強くしかも」
それにと言う幸村だった。
「心も見事じゃな」
「おわかりですか」
「悪さをして寺を追い出されたとのことじゃが」
それでもというのだ。
「あの御仁も悪い者ではない」
「目を御覧になられていますか」
「目は全てを語る」
その者の心や生き様、そして志をというのだ。
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