剣闘士
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
8部分:第八章
第八章
「それよりも傷だが」
「ああ、これか」
「早く手当てをしておけ」
このことを言うのだった。
「わかったな」
「ああ、そうだな」
ステンシウスも今は素直であった。静かに彼の言葉に頷いたのである。
「わかった。それじゃあな」
「水でよく洗って布を巻いておけ」
具体的に細かく話すのだった。
「わかったな」
「そうさせてもらう。とにかく俺は生き残ったんだな」
「最初の戦いが一番危ない」
このことを言うのも忘れないバーナムだった。
「しかし御前は生き残った」
「そうだな。何とかってやつだな」
「そして」
そうして、であった。バーナムは呟いていた。
「俺もわかった」
「わかった!?」
「そうだ。わかった」
こう呟くのだった。
「これからのことがな」
「一体何のことなんだ?そりゃ」
「俺のことだ」
そのことは彼には言わないのだった。今は自分の中に留めるだけであった。
「それはだ」
「あんたのことって?」
「決まった」
今度はこうステンシウスに述べたのだった。
「これからのことがな」
「これからのことがかい」
「そうだ、決まった」
また言うのだった。
「これでだ」
「何かわからないけれど決めたんだな」
まだ剣闘士になったばかりのステンシウスは彼のことをまだよく知らなかった。それで彼が今どうしてそんなことを言ったのか理解できなかったのである。
それで軽く彼に言ったのだった。
「あんたは」
「すぐにはじめる」
そしてまた言うバーナムだった。
「すぐにだ」
「まあ何かわからないけれど」
ステンシウスの言葉はここでも深く見ているものではなかった。
「頑張るんだな」
「そうさせてもらう」
こうしてこの場は終わった。しかし次の日には早速だった。コロシアムに近い場所にあるバーナムの邸宅のすぐ隣にだ。いきなり武闘の場を思わせる建物を造りはじめたのだ。
皆それを見て怪訝に思った。何を造っているのかをだ。
「なあバーナム」
「これは何だ?」
「何なんだい?」
仲間の剣闘士達はそれを造っているのを見て怪訝な顔になって彼に問うた。
「闘いの場みたいだけれど」
「これは一体」
「ここで育てる」
それだというのだった。まずは。
「人をだ」
「人を!?」
「人っていうと」
「剣闘士をだ」
それを育てるというのだった。
「それを育てる為だ」
「剣闘士をかい」
「俺達みたいな」
「そうだ。俺は今まで考えていた」
ここでこれまで何故悩んでいたのかも話したのだった。
「何をするべきなのかをな。剣闘士としてだ」
「それを考えていたっていうのか」
「そして答えが出た」
彼はまた言った。
「俺は人を育てる。少しでもいい剣闘士が出て彼等が無駄に傷付かず死なない為にな」
「人が死ぬのが剣闘士なのにかい?」
「それでもかい」
「そうだ。それでもだ」
今造られはじめている建物を見ながらの言葉は確かなものだった。
「少しでも無駄に傷付かず死なない為にだ」
「成程、それでか」
「それでなのか」
「そうだ。それに医者も置く」
それもだというのである。
「傷を癒す為にもな」
「剣闘士の為のだよな、それも」
「その為の医者なんだよな」
「その通りだ。俺はやる」
また言葉を出す彼だった。
「俺の為すべきことをな」
「そうか、何か俺達よりずっと先を見ていたんだな」
「上を」
ここでこのことを知った仲間の剣闘士達だった。
「あんたはそこまでか」
「見ていたんだな」
「俺は見つけた。ならそれに達するだけだ」
バーナムの今の言葉には迷いはなかった。
そうしてその言葉で。彼は言うのだった。
「そこにな」
そう言いながら造られているものを見ているのだった。彼が見つけ目指すと決めたものをだ。
剣闘士 完
2009・11・27
ページ上へ戻る