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学校の小さな防人

作者:ナンブー
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ACT.3 「自然体験学習 DAY.1」

南高校2年生の中で一番のイベント、「自然体験学習」の日が今日、9月18日に始まった。

場所は学校から遥か遠くにある富士山の麓。そこに高校生5クラス約150人がキャンプを設置して3日間自然の下で暮らすという恒例の企画だ。勿論の事、SDFのメンバーは活動と共に警備もこなさなければいけない。

「ふぅっ、こんなもんか」

長門と真田の前には、2つの黒いトランクケースに入れられた各種の銃器が入っていた。

内訳は、長門のHK416D、真田のDSR-1と予備のM4A1、芽衣のMP7A2短機関銃で一つ。チーム4の木下が使用しているMP5A4、同じくチーム4の新城が使用しているP90、チーム2の大城が使用しているACR6.8「MASADA」が2つ目のトランクケースに収められている。



長門、真田、芽衣、木下、新城、大城の計6人が二年生のSDF隊員、つまり150名+先生をこの6人で守らないといけないという過酷な任務だ。

「んじゃ、運ぶか」

職員室に隣接している倉庫から出ると、真っ直ぐ靴箱まで歩く。

履くのはいつも履いている学生靴ではなく、陸上自衛隊で採用されている半長靴2型を履く。

紐を結び終わり、外に出ると二年生が全員クラスごとに整列をしていた。

グラウンドに整列している146人は皆学校指定のジャージを着ているのに対し、SDFの6人はいつも通りのA-TACS市街地戦迷彩を着用している。また、移動中も危険なので、拳銃とボディアーマーを着用している完全装備だ。

自分の組…長門と真田の場合は2-1組の最後尾に並ぶと、朝礼台に乗っている学年主任が咳払いをして話をし始めた。

内容はこれからどうやって富士まで移動するかという事と、今日からの3日間を頑張りましょう、というものだった。

移動方法は1.2km離れている浜松駅まで徒歩で移動し、東海道新幹線で新富士まで移動。そこからは2km離れたキャンプ場まで徒歩といった感じだ。

出発はこの後7時30分、キャンプ場への到着予定時刻は11時となっている。

「では、一組から出発を」

一組担任の新見先生の誘導で、総勢161名の大隊は学校を出発した。

先頭、中央、後方に2人づつ護衛を置き、長門は芽衣と一緒に一番前の担当となっている。

芽衣もA-TACS迷彩を着こなし、識別帽とG17を収めたホルスターを着用している。

その姿を見ると、つい最近起きた出来事など嘘だ、と言えてしまう程に凛としている。

そんな長門の視線を感じたのか、芽衣がこちらを見てニコッと笑った。

「何かおかしい?」

「いや、なんでもない」

長門は他の隊員とは違い、識別帽にCQ/AD3暗視装置が取り付けられ、腰にはいつも装備しているUSP以外にも、予備としてFN社のハンドガン、Five-Sevenが収められたホルスターが左側の腰に吊り下げられている。

「なんでもないって…何かあるよね?長門君?」

「いつもの芽衣と違って凛々しいな、と思って」

「いつもはどうなの?」

「可愛い」

速攻で答えたその答えに芽衣は頬を赤くし、それを隠すかの様に俯いた。

「うぅっ…反則だよ…」

俯きながらボソッと呟く芽衣はまるで小動物を思い出させる。

「ほらっ、気を抜くな。前向け」

肩を叩くと、「俯かせた原因をつくったのは長門君だよ…」とまた小さな声で呟いた。

『こちら真田、前方及び後方、問題はないか?」

耳に取り付けた無線イヤホンから突如聞こえてきたのは真田の声だった。

芽衣はそれに驚いたようで、「ひゃっ‼」と隣で悲鳴をあげた。

真田は大城と一緒に中央の警備を行っている。また、通信機器を扱う責任者でもある。

「こちら前方、異常なし」

後方も異常なし、と木下の声がイヤホンから聞こえてきた。木下は新城と一緒に後方警備についている。

「OK、浜松駅まであと500mだ。気を抜くな」

浜松の市街地の歩道を歩き、バスターミナルの地下道を通って駅の構内へ向かう。

改札を貸し切り状態で通過し、上りの2番ホームに停車しているひかり号に乗る。勿論、警備は継続する。

2号車、3号車、4号車に162名を詰め込み、警備状態は先程と同じ2人組でとなった。

「新富士まで何も無いといいけど…」

芽衣の願いを神様は受け取ってくれたのか、新富士までではなく、キャンプ場に着くまで何も危険な出来事は起こらなかった。

………………………………………

「それっ、長門」

現在時刻は午後2時。一般の生徒と警備担当の真田と大城は富士山の途中まで登る登山に向かい、広場には長門、芽衣、新城、木下のSDF組の他には足を悪くした生徒や、体調不良の生徒など計7人しか残っていない。

その中で長門と木下は簡易な詰所…キャンプセットの屋根と折りたたみ机を展開させただけのそれを作っていた。

芽衣と大城は登山に行っていない3人と談笑している。

木下から渡されたキャンプセットの骨組みを組み立て、幌を貼る作業をやり続ける。

約一時間後、幌を貼り終わり、展開させた机に大型無線機を置く。

「よしっ、終わり‼」

木下が元気な声で詰所の完成を伝えた。

木下は中肉中背の活発な男子。SDF二年生の中で唯一のガンマニアで、その証拠に腰のホルスターに収められたベレッタ社のP×4ストーム拳銃はサプレッサーやドットサイト、フラッシュライトなどでかなりカスタマイズされている。また、工作が好きなのか良く待機室に設置する棚などを作っている。

早速できた詰所のチェアに座り、置いてある大型無線機に手を伸ばす。

「こちらS-31。S-32、S-24、警備状況知らせ」

S-31とは長門のコールサイン(味方間での識別名)で、Southを省略したSに、チーム3の隊長という意味で31を付けたのがコールサインとなっている。芽衣ならば、チーム3の3番隊員なので、S-33となる。

チーム3の副隊長、真田とチーム2の4番隊員、大城は通信が繋がった数秒後に応答した。

「こちらS-32及びS-24、警備状況は良好。いまから下山する。夜はカレーだ。ご飯炊いとけ。オーバー」

通信終了の符号、「オーバー」を残し、真田の声は電子音によって途切れた。

通信用のヘッドセットを通信機のホルダーに戻し、通信機の電源を切る。

腕時計を見て見ると、現在時刻は午後5時8分。皆での夕食は午後7時からと考えると、米は早めに炊いといた方がいい。

「おーい、芽衣」

大声で呼ぶと、テントに潜って遊んでいた芽衣はひょっこりと顔を出した。

「どうしたの?」

「木下、新城と一緒に白米を炊いてくれ」

「長門君は?」

「登山コースの入り口まで行ってくる。二人だけじゃ心配だからな」

芽衣はりょーかいだよー、と伸びた声を手を振りながら上げた。新城と木下も手を振り、やっとくよー、と声を上げた。

振り返り、入り口がある方向を向いた。広大な草原の一角にある登山入り口は木の影で暗く、その先は密林が広がっている。逆の方向…今まで向いていた方向の先には陸上自衛隊の東富士演習場が広がっている。その証拠に、時々草原全体に響き渡る大きな砲声が聞こえてくる。

入り口までゆっくり歩いていると、木と木の間に懐中電灯の明かりが登山コースの方から見えた。

入り口に置いてあるベンチに座り数分。待ち人達は入り口まで戻ってきていた。

「おぉ、長門ぉ」

先頭でゴールラインを切ったのはM4A1を両手に保持した真田だった。帽子に付けたCQB/65暗視装置を目の位置に下ろしている。

そのうちに、155名の生徒全員は全員広場に整列し、点呼をしていた。それが終了すると、登山の荷物を自分のテントに置いた生徒達が夕食の仕度をし始めていた。

……………………………………………………

カレーを係が配り終わり、皆机に着く。

学年主任の掛け声で「いただきます」と号令した瞬間、生徒全員がスプーンを取り、カレーをかき込み始めた。登山で疲れているのか、皆良く食べ、余分に作ったカレーのお代わりもたった10分で無くなった。

SDFの面々も、詰所にてカレーを食べていた。食事中の会話の内容はほぼこれからの警備計画についてだった。特に夜は、テントから抜け出し他のテントに遊びにいこうとする輩が居るため、要注意だ。

「安全な夜がいいなぁ…」

芽衣が呟いた言葉は、新幹線の時とは異なり、期待にはならなかった。
 
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