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ジェヴォダン

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第二章

「日本では農耕をしているけれどね」
「欧州は農耕をしていて」
「放牧もしているね」
「その家畜のですね」
「そう、その家畜を放牧しているから」
「狼が家畜を襲うからですね」
 それで、とだ。豊も言った。
「狼は恐れられたんですね」
「そうだったんだ、けれど人はね」
「殆どですね」
「このことは僕はいつも言っているね」
「はい」
 そうだとだ、豊も答えた。
「そうですね」
「うん、狼は相当に餓えていないと人を襲わない」
「だから犬にもなれた」
「そうだよ、けれどあの野獣は」
「人を優先的に襲っていましたね」
「その傍に家畜がいてもね」
「そんな狼いますか」 
 豊は目を顰めさせて河原崎にまた問うた。
「僕の知っている限りは」
「私もね、そもそもだ」
 河原崎はここで狼のこの習性も指摘した。
「狼は群れを為すね」
「それが狼の最大の特徴ですね」
「クルートーも狼を率いていた」
 その群れをだ。
「だから狼王だったんだ」
「シートン動物記のロボもでしたね」
 豊はこの狼の話もした。
「あの狼にしても」
「そう、しかもロボは敵であるシートンも他の人間も襲っていないね」
「家畜ばかり襲っていましたね」
「ロボですらそうだったんだ」
 シートン、そして現地の人達を悩ました偉大な狼王でもだ。
「しかしあの野獣は違っていたね」
「人を優先的に襲って群れも為していない」
「こんな狼はいないよ」
 絶対に、というのだ。
「しかも襲い方がおかしい」
「そのこともですよね」
 豊も事前に野獣を学んでいて知っている、河原崎にもこのことから言う。
「気になりますね」
「狼、いや野生動物ならね」
「狼だけでなく」
「まず獲物は脚を狙ってね」
「動けなくしてですね」
「喰らうね」
 狩りのことからの指摘だ。
「そうしているね」
「はい、狼もハイエナも」
「ライオンや虎もね」
「脚を攻めて動けなくする」
「それが野生動物ですね」
「そして動物はね」
 また言う河原崎だった。
「まず内蔵を食べる」
「獲物のそこを」
「そう、内蔵が一番最初に腐るからね」
「熊もそうですね」
「北海道でもあったね」
「羆嵐ですね」
 冬眠しそこねた巨大な羆が開拓村を襲い多くの者が犠牲になった。北海道で今も尚語り継がれる恐ろしい話だ。
「あの時も」
「あれが野生動物だけれど」
 狼でなくともだ。
「あの野獣は違っていた」
「そうでしたね」
「そう、頭を狙っていたね」
「噛み砕いたり切ったりですか」
「犠牲者の中のかなりの割合がそうなっていた」
「そのことも気になっています」
 豊は怪訝そのものの顔で言った。
「僕も」
「女性や子供を好んで狙った」
「これは相手が一人でいることが多かったからですね」
「そう、当時の欧州の農業はね」 
 女性や子供はそうして作業をすることが多かったのだ、男は鎌なり鍬なりを持って集まって作業をすることが多かった。
 それでだ、一人でいる女性や子供をだったのだ。
「狙っていたから」
「このことは他の野生動物でも同じですね」
「まだね」
「そうですよね」
「しかしだよ」
 河原崎も真剣なな顔で言った、二人共話に身が入って来ている。それでそうなっているのだ。豊にしてもだ。 
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