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またかの関

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4部分:第四章


第四章

 しかしそれで終わらずだ。今もだった。
 勧進帳を見てだ。ある学者が言った。
「ううん、やっぱりな」
「やっぱり?」
「何かあるんですか?」
「勧進帳は難しいね」
 舞台の後でだ。学者は銀座の寿司屋に入ってそこで友人達と話していた。その木の香りがしそうな奇麗な店の中でだ。まずは卵を食べながら話すのだった。
「本当にね」
「そうですか?」
「あれってそんなに難しいんですか」
「言う程」
 周囲はその学者の言葉に怪訝な顔になった。それで言うのだった。
「しょっちゅうやってるし」
「しかもやってることは一緒だし」
「もうわかってるしね」
「それでなんですか」
「じゃあ言うけれど」
 学者はその彼等の言葉にこう返した。
「このお寿司だけれどね」
「ええ、寿司ですか」
「それに何が」
「卵を焼くのもジャリも凄く難しいじゃないか」
 寿司の難しさはもう言うまでもなかった。伊達にお茶三年、ジャリ三年、そしてネタ三年と言われているわけではない。そこまで難しいのだ。
「そうだろ?」
「ええ、まあそうですけれど」
「それは」
「寿司は」
「それと同じなんだよ」
 そうだというのであった。
「勧進帳はね」
「そんなにですか」
「難しいって」
「そうさ、しょっちゅうやってるけれどそれでも難しいものなんだ」
 そしてだ。今度は細かい話をするのであった。
「弁慶が文を読む場面も富樫からそこの白紙を隠す場面も」
「あそこもですか」
「そして義経を打つ場面、あそこだね」
 勧進帳でも特に有名な場面である。義経主従と疑われないようにする為にだ。あえて主である義経を打って疑いを晴らそうとする場面だ。
「弁慶の忠義はわかってるね」
「絶対ですよね」
「もうそれは」
「そうだよ。絶対なんだよ」
 このことが強調された。
「その絶対の忠義を持っている彼が主を打つんだ」
「普通はできない、それでも」
「その主の為にあえて打つ」
「その心を、ですね」
「そう、心を出さないといけないんだ」
 まさにそれだというのだった。
「その弁慶の心をね。お客さん達に見せないといけないんだよ」
「そこがなんですか」
「難しいんですね」
「その通り、これは弁慶だけじゃない」
 彼だけではないというのであった。
 
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