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エターナルトラベラー

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第五十一話

さて、人数が足りないとの事で誰か心当たりはと問われたので仲間が3人いると答えると是非とも連れてきてくれと言われたので、一旦アントキバへと戻り、ソラ達を連れて合流場所へと戻る。

連れてきたメンバーを見た面々は口々に驚きの声を上げた。

まあ九歳児が3人だからねぇ。

そんな中キルアだけ余計なことを口走ったようで…

「まさかこいつらもビスケと同じでババっぶふぉふぉおおおおおお」

キラーン

言葉の途中でビスケのアッパーでぶっ飛ばされ、見事に宙を舞っていった。

ソラ、なのは、フェイトの3人と、新たに連れてきた数合わせの雑魚を入れてソウフラビへと戻ったのは翌日だ。

さて、レイザーさんはメンバーがさほど代わってないと見ると、最初からドッジボールを申し込んだ。

明らかにこちらはドッジボールを警戒してるし、そこにベストメンバーを持っていけるように調整するつもりではいる。

とは言え、今回はワンサイドゲームだった。

俺が影真似の術で念獣を含めた全ての敵の動きを止める。

いくら初見ではなく対処方法も検討が付いていたとは言え、ドッジボールのルール上、コート外に出る事は不可能。

後はヒソカの念能力、バンジーガム(伸縮自在の愛)が有れば相手にボールを渡す事も無く終了。

ゴンは何やら不完全燃焼なのか、プスプス燻っていたけれど、それでも今現在レイザーさんからジンの思い出話を聞いている。

ゴンを説得したツェズゲラはかなり疲れた表情をしていたが…

どうにも脳筋な感じのするゴンの説得は一筋縄ではいかなかったようだ。

正直ゴンの最高威力の攻撃はキルアのアシスト有ってのものだが、そのキルアの両手も潰れている現状戦力としては不足だったのだから、何だかんだで勝率を上げたいツェズゲラ組にしては仕方の無い事だと思う。

しばらくゴンとレイザーさんが話していたが、話しが終わると頃合を見計らってか、レイザーさんが俺とソラを呼びつける。

「挨拶が遅れてすみません、レイザーさん。お久しぶりですね」

「ソラフィア…随分小さくなったな」

「…まあ、色々有りましたから」

色々有ったとて、普通縮まないけどね。

と言うか、小さくなったんじゃなくて既に見目は別人なんだけどね。

それから少しの間、世間話程度に俺達の現状を話し、別れる。

そして無事に『一坪の海岸線』をゲットした。

ヒソカはカードをゲットした後には直ぐに消えていた。

手に入れた一坪の海岸線を、殆ど指定カードの入っていない俺のバインダーに入れ、その他の指定カードは一時的になのは達に預け、複製(クローン)のスペルカードを使う。

複製(クローン)』は指定したプレイヤーの指定カードをランダムでコピーするカードだ。

つまり、一枚しか入っていなければ必然的にそのカードになる。少し頭が回れば気が付ける裏技だ。

さて、カードの分配も終わり、少々解散ムードだ。

とは言っても、カード化限度枚数がMAXの指定カードを複数持っているかどうか、トレードに応じてもらえるのかと、話し合いたい事が少しあるので俺達も直ぐに戻らずにいるのだが、そんな中ツェズゲラさんに『交信(コンタクト)』のカードが使用され、バインダーが強制的に開かれる。

会話からゲンスルーと言うPKプレイヤーが交渉の為に使用したようだ。

ゲットしたタイミングでコンタクトしてきた所をみると、どうやらどこかで見張られているな。

チクリとほんのわずかな視線を感じる。

写輪眼を発動させて、感じた先を見る。

遠見は白眼には遠く及ばないが、遮蔽物の無い所ならそれなりに視野が利く。

あそこか。

少々高い崖の上から此方を望遠鏡で観察している一団がいる。

こちらが相手を捕捉していないと思って堂々と覗き見してやがる。

どうやら3人組のようだ。

視線を直ぐにツェズゲラに戻し、会話を盗み聞く。

命の保障はするから一坪の海岸線を寄越せ。そんな感じの内容だ。

そんな会話の中、少々聞き捨てられない単語が出た。

「話は変わるが、ソラフィアって言うプレイヤーと会った事はあるか?」

「それが今何の意味が有る?」

「どうやらNO99『モンスターハンター』をゲットしたようだからな」

トレードショップで個人の指定カードの蒐集状況のランキングが聞ける。さらに別途料金を払えば指定カードのナンバーも聞く事ができる。

高ランクのプレイヤーのカードを上から見ていけば、それなりに高い確率で発見できるだろうし、俺達は堅牢(プリズン)を使用していたのでダブり以外の指定カードはソラが保管していて、その数は50枚を超えている。

おそらくそれで知ったのだろう。

なぜツェズゲラにその情報を渡したのか、それはおそらくその情報を渡しても不利益は無いから。

ツェズゲラが知っていればカードを得ようと動くだろうし、複製(クローン)で増やしてもらうように交渉するかもしれない。

それならそれで構わないのだろう。

ゲットしてから再度交渉か、あるいは力ずくで奪うかする算段なのだろう。

どうやら、雰囲気的に今、相互でカードのコンプリートを阻止しあっているように思える。

俺としては別に先着ではないのだし、足を引っ張り合う必要性を感じないが、聞いた話だと莫大な懸賞金がゲームクリア、そしてその景品に掛かっているようだ。

そして、それが先着なのだろう。

この状況がプレイヤーを凶行に走らせている一助になっているのは確かだろう。

「残念だが知らないな」

一応ソラを紹介する時に「ソラフィア」とは紹介していない。

その後ゲンスルーは何人かの名前を読み上げた。

どうやらゴン達がこのメンバーで一坪の海岸線を攻略に当たる前にこのクエストを一緒に攻略しようとしたメンバーらしいが、ゲンスルー達のPK行為によって既にリタイアしたようだ。

バインダーを開いて確かめてみろと挑発してくる。

さらに挑発した所でゴンが切れて相手になるなどと言ってしまい、さらには俺も一坪の海岸線を持っている宣言。

まあ、ぎりぎりコンタクトは切れていたらしいが、まあ、見てれば持っているのはバレバレだろう。

コンタクトが切れた後、ツェズゲラがゴン達に交渉。

自分たちでは敵わないが、ゴン達もゲンスルー組に襲われる可能性は極めて高い。

なので、自分たちが時間を稼いでいる間に何とかゲンスルー組を倒す算段を立てて欲しいらしい。

冷静に戦闘能力を比較して、自分ではゲンスルーに敵わないと思ったそうだ。

その後、俺達の方へときたツェズゲラ。

「NO99を持っているのか?」

ああ、バインダーでソラの名前がバレたのね。

「持ってますよ」

「そうか…複製(クローン)は此方で用意する。トレードしてもらう事は可能か?」

「そうですね…『一坪の密林』『大天使の息吹』『闇の翡翠』『浮遊石』『身代わりの鎧』『ブループラネット』この中で持っているカード有りますか?」

「…『大天使の息吹』と『ブループラネット』以外は持っている…が『闇の翡翠』はオレ達も一枚しかもっていないから交換は出来ない」

うーむ。

「『大天使の息吹』と『闇の翡翠』はゲンスルー組はほぼ独占状態だ。彼らを倒さなければこの状況は打破できないだろう」

なるほど、いい事を聞いた。

どうしようか。

「『大天使の息吹引換券ナンバー001』も付けるので『闇の翡翠』以外のカード全てでどうです?」

俺としてはトップランカーの人にはさっさとクリアしてもらってカード化限度枚数に空きを作って欲しいのだが…

「…いいだろう」

ツェズゲラさんは少し黙考した後に了承してくれた為、交渉成立だ。

後で聞いた話だと、『一坪の密林』は限度化マックスだったのだが、最近頻繁に起こっているPKでカード化が解けたらしく、一度以前にゲンスルーと交換した為一枚しか持っていなかったのを又増やしていたのだとか。

「それと、Sランク以下で、既にカード化限度枚数がMAXでオレ達がダブって持っているカードを君達に渡そう。…だから、君達が持っている『モンスターハンター』を餌にゲンスルー組と交渉するのは止めてもらいたいのだが」

むむ?

少々リスクがあるがゲンスルーとの取引する可能性も俺たちにはある。それを止めに来たか。

「せめて3週間待って欲しい。それで状況は大きく変わるはずだ」

3週間、ね。

交渉するにもゲンスルーって人、会った事あったっけ?

一応俺達全員のバインダーを確認する。

ゲンスルーとその仲間と思しき名前、サブとバラの名前を探す。

どうやら俺達は会ったことは無い様だ。

間接的(他のソラに会った事があるプレイヤーにアカンパニーを使わせる等)にしかスペルカードでは飛んでこれない。

ゴン達はバインダーを確かめるまでも無く、ゲーム初日に会っているとの事。

この時点で、まず危険なのは俺達よりもゴン達と言う事になる。

「最後に確認したい事がある」

「何ですか?」

「ゲンスルー組の残りのカードは『一坪の海岸線』『モンスターハンター』『奇運アレキサンドライト』の三枚だ。その中で二枚は既に持っているだろう。それで、残りの『奇運アレキサンドライト』は持っているか?」

うわぁ…

「持ってますね」

「……彼らはオリジナルカードを狙ってくるはずだ。だからまず、一坪の海岸線の取得の為にオレ達を狙ってくるだろう…が」

一石三鳥な俺達を狙ってくる可能性も大いにありえるか。

『モンスターハンター』の取得者のカードリストを見たのならば、『奇運アレキサンドライト』の確認もしているはずだからね。

「『一坪の海岸線』と『モンスターハンター』のバインダーは変えたほうがいいだろうな」

それに、モンスターハンターのカードもツェズゲラに渡ったのは直ぐにバレるだろうから、さらに優先で狙ってくれると俺達に被害が無くていい。

一応後で両カードを『擬態(トランスフォーム)』で別のカードに変えておくかな、聖騎士の首飾りでいつでも元に戻せるし。

それでどれくらい関心が下がるか分らないけどね。

その事をツェズゲラに伝え、『モンスターハンター』の複製からの複製を遠慮してもらった。

「もし君達がゲンスルー組に襲われたとして、君達に撃退は可能だろうか?」

相手が人間であるのならば、不意打ちでなければ負けない自信はある。

「君の実力を疑っているわけではないが、君の連れの少女達が心配だ」

「何なら試してみますか?」

「……いや、君の受け答えで分ったよ。このゲームのなかでSSランクのカードを取れたチームなのだから、相当な実力者なんだろうな」

SSランクのカードは今回の事でも分るように相当に実力を要求するものだ。

とりあえず、懸賞がどうにかなればもう少しゲームがやりやすくなるのだし、どちらかにさっさとクリアして欲しいのだが、心情と、ゲンスルー組の非道さを考えるとツェズゲラさんに頑張ってもらいたい所だ。

そんな訳で、その申し出を受け入れた。

実際、Aランクでも限度枚数に泣かされていた状況だったから正直助かった。

まあ、結局ツェズゲラからの奪取が成功しなければオリジナルを持っている俺達を草の根分けて探し出すんだろうけどね。

それこそアントキバ辺りでうろうろしている奴らを片っ端からバインダーを開かせてリストで確認するとかすれば俺達にたどり着くことは可能だろうし。

しかし、これで俺達の指定カードは81種類。残り19種類だ。


とりあえず約束の3週間で、取れる指定カードを取っておこうと俺達は島内をあちこち飛び回っている。

とは言え、今取れるカードは殆どAランク以下。程なくして行き詰る事になる。

二週間ほどで指定カードは97種類に達したが、残りのカードはすべて誰かのゲイン待ちの状況だ。

『闇の翡翠』『ブループラネット』共に持ち運ぶのは難しくないことから一応ゲイン待ちで確保しているのだが…つまり持ち運びがしやすいと言う事は独占もしやすいと言う事。

独占した上で自分でゲイン待ちのアイテムを持っていればそれを崩すのはほぼ不可能だ。

堅牢(プリズン)聖水(ホリーウォーター)を使えば、ほぼ確実にスペルによる奪取は不可能となるしね。

聖水の効果を解く為には10回攻撃スペルを使用しなければならないが、相手が実力者だと10回も使わせてくれる隙は中々無いだろう。

まあ、10人以上で取り囲み、一斉にスペルカードを使うなどをすれば可能だが…窃盗(シーフ)掏摸(ピックポケット)は奪えるものがランダムなので労力に見合わないので却下だ。

口約束だったが、誠意を見せてくれたツェズゲラを裏切る様な事はしたくない。

つまり現状は手詰まりだ。

手詰まりでやる事が無いので『勇者の道具袋』や『神々の箱庭』と言った、アイテムを取得して時間を潰している。

1週間が過ぎた頃、ゴン達からコンタクトで通信が入る。

通信してきたのはビスケットさん。

話を聞くに、修行を手伝って欲しいらしい。

まあ、俺たちも大体の指定カードを取得して時間が余っていたのでその願いを聞き入れる事にしてゴン達と合流する。

アカンパニーのスペルカードを使用して駆けつけると、真剣に修行に取り組んでいるゴンの姿が見える。

片手で逆立ちしてオーラを地面に着いた掌から放出させようとしているようだ。

放出系の修行だね。

俺達が到着した事で修行中のゴンを放っておいて近づいてくるキルアとビスケットさん。

「待ってたわさ」

わさ?

「ビスケットさん。それで?手伝って欲しいと言われて来たんだけれど、何をすれば良いの?」

「ビスケで良いわさ。手伝ってもらいたいのは他でもない、ゴンの組み手相手になって欲しいわさ」

組み手、ねぇ。

ゲンスルーの体格差を考えると出来れば高身長者との訓練もしたかった様だ。

遠目に見たゲンスルーは結構身長が高そうだったしね。

とは言っても、俺もそれほど高い訳じゃないんだけど。

160cmほどで大体同年代の平均身長だ。

それでもこの中では一番高い訳だが。

うーむ。

「まあ良いですよ」

「助かるわさ」

「だけど、その代わり、うちの子の修行を見てくれませんか?」

「後ろの彼女達の事?」

「金髪と茶髪の子をお願いします」

フェイトとなのはの修行を見てもらおう。俺達では気づけない事も有るだろうし、ゴンとキルアの師匠なのだから彼女は見た目と違い優秀なトレーナーのようだ。

「もう一人の子はいいんだわさ?」

「彼女も望むならお願いします」


さて、フェイトとなのはをビスケに預け、俺はゴンと対峙する。

二人はこちらからは大岩で見えない反対側で今頃ビスケに修行をつけてもらっている。

「ビスケが用意するっていっていた練習相手ってアイオリアさんだったんだね」

ソラは付いていかず、キルアと一緒に見学中だ。

「アオでいい。アオが今の俺の名前だ」

「分った。アオさんに今の俺がどれだけ通用するか、わくわくするよ」

ドッジボールの一件で俺のことを高ランクの念能力者だと認識しているのだろう。

両手を挙げて身構える。

ゴンの構えにはようやく洗礼されてきたような無骨さが残っている。

俺もそれに倣って拳を構えた。

「やっ!」

気合と共に臆する事無くこちらへと突っ込んでくるゴン。

踏み込み、速度共に中々の物だ。

突き出される右拳。

パシッ

それを左の手のひらで受け止める。

「はっ!」

するとそのまま地面を蹴って左足で蹴りつけられた。

それを右手で受け止めるとゴンは完全に死に体だ。

そのままゴンを上空へと真っ直ぐ放り投げると15メートルほどの高さまで達した。

「わっわわ!」

上空で体勢を整えて何とか体を捻ってこちらを向いた。

さて、どう来る?

しかし、どうやらまだオーラを飛ばしたり、変化させたり出来ないようで、重力に引かれて落下するだけしか出来ないゴン。

牽制に放つ攻撃は無く、空中で確固とした足場も無いあやふやな体勢のまま右手にオーラを集めているのが見える。

「やっ!」

自身でも苦し紛れだと分っているその右拳。

突き出された拳をかわし、右ひじを絡め取ってそのまま地面に一本背負いの要領で叩きつける。

「ぐぅ…」

瞬時に背中にオーラを集めた結果ダメージは殆ど軽減できたようだ。

ゴンは直ぐに転がり起き上がる動作と一緒に俺が掴んでいた右腕を強化して少々強引に俺の拘束から脱出して距離を取った。

「遠距離攻撃が無いのなら、今のように打ち上げられると一方的に攻められることになる。気をつけたほうが良い」

「う、うん。それは分っているんだけど…」

そうは言っても難しいか。

今度は俺の方からゴンへと攻め入る。

「木の葉旋風っ!」

地面を蹴っての回し蹴り、更にそこからの拳を織り交ぜた連撃。

「くっ!っ…」

ふむ、まだまだ俺のオーラをガードする流に対してロスが大きい。

バシッバシッと俺が繰り出す攻撃をガードするゴン。

ゴンの防御する時の癖や呼吸、間合いなんかをその攻防で読み取る。

「御神流『貫』!」

「え?…っが!」

ゴンの防御を抜けるように俺の繰り出した拳がゴンの腹部を襲う。

吹き飛ばされたゴンは空中で何とか身を捻り、両手足を地面に擦るように着地すると数メートル砂煙を舞い上げてスライドした後にようやく止まった。

「今の…一体何が!?」

「その問いに答えるのは簡単だけど、自分で気づかなきゃだめだ。だから、どんどんいくよ!」

俺のその宣言に戦意が萎えるどころか武者震いに体を振るわせるゴン。

「来いっ!」

それからゴンの攻撃を受け流し、反撃して、『貫』を使用して吹き飛ばすこと数回。

「……何となくだけど、わかった」

「ほう…」

「アオさんのそれって、俺の防御の癖を理解した上でその隙間を縫うように繰り出しているんだ」

この短時間でそこまで理解できるとは、流石にジンの息子か。

「…正解だ。では、それを踏まえてどうするか」

大地を蹴ってゴンに近づき拳を振るう。

『貫』を使用しての一撃。しかしそれはゴンの防御により不発に終わった。

さらに此方へ反撃してくるゴン。

その拳は俺のガードの隙を縫うように懐に入ってくる。それはまさしく『貫』だ。

俺はその右腕を急いで戻して右ひじで捌くとそのまま掴み投げ飛ばした。

飛ばされた先で着地をすると此方を見据えて今度はゴンが攻めに転じた。

拙いながらも俺のガードを突破しようと隙を伺うゴンの攻撃がだんだん鋭くなっていく。

この短時間で、一時はあわやと言った攻撃もあったのは十分すぎる成長だろう。…まあ、食らわなかったけど。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「そろそろ休憩にしよう。オーラ消費がそろそろ限界だろう」

「え?まだ行けるよ!」

戦闘しながら堅を維持する限界時間は今の時点でおよそ30分と言った所。ギリギリ及第点か。

「本番の殺し合いならばこんな所で根を上げる事は出来ないけれど、今は模擬戦だ。無茶をする所じゃない」

「分った」

しかし、末恐ろしいかな。この短時間で自分の防御の癖を改善し、さらに完璧では無いにしろ『貫』を会得し始めている。

まあ、まだまだではあるが、十分驚愕に値する。

「それじゃ次はキルアの番だね」

休息で疲れが取れた頃ゴンがそんな事を言った。

「ああ?俺は良いよ」

即、拒否された。

「何で?せっかくだからキルアもアオさんと対戦してみるといいよ。凄く勉強になることが有るから!」

「つか!俺の手はまだ完治してねーの!だから今は無理!」

「えー?」

なるほど、ドッジボールの時の怪我がまだ完治していないのか。

と言うか、あれは中々完治できるものではないだろう。

うーむ…

俺は音も無くキルアに近づくと素早く一瞬のうちに強引にキルアの両手を掴み上げた。

「いててててててっ…あれ?」

突然痛みが緩和…いや、感じなくなった事でキルアの表情が険しくなる。

「何をした…」

そう殺気を込めて見なくても良いじゃないか。

気づかれないように『クロックマスター』で両手の時間を少し強引に戻しただけですよ。

「両手、治ってると思うけど?」

俺のその言葉で直ぐにぐるぐる巻きにしていた包帯を外すと、信じられないのか二、三度拳を握っては開く。

「本当だっ!ありがとうアオさん」

キルアの手が治ったのを一番喜んだのはゴンで、キルアよりも先にお礼を言ってきた。

「治癒能力?…いや、そんな感じじゃなかった…」

キルアは今起こった現象に対して考察しているようだが、答えは出ていない。

「そんな事どうでもいいじゃん。そんな事より、両手も治ったんだからアオさんに組み手をしてもらおうよ」

どうでもよくなんてねー、と少々ゴンと言い合ってからも結局最後はゴンにより強引に話が進められしぶしぶながら俺と模擬戦をすることになった。

俺から距離を取って構えるキルア。

「最初に聞いておくけど。発、使ってもいい?」

『発』ね。つまり能力ありきの戦いを望んでいるのか。

「別に構わないよ」

「ちっ…その余裕そうな態度が気にいらねー」

うわぁ…ちょ、心にぐさっと来たよ?人に対してそんな事を言う物じゃない。

俺も肘を上げて構えるとそれが試合開始の合図だ。

相手の出方を待っていると突然その体が幾つも分身したかのように現れる。

分身の術と言うよりも、高速で移動しながら緩急をつける事によって相手に残像を見せる技術のようだ。

それが俺を囲むように狭まってきている。

しかし残念ながら俺には見えている(・・・・・)!

地面を蹴ると一瞬で移動しているキルアに併走。その背後から両腕を拘束して足を払いそのまま自身の体重をかけて転んだ勢いで地面にホールドする。

「なっ!」

そのまま間接技に持ち込もうとしてキルアのオーラが電気のような物に変わるのを感じすぐさま拘束を解除して距離を取る。

キルアを見ると髪の毛が逆立ち時折チリッと言った電気音が聞こえる。

「オーラを電気変換したか。やるねっ」

「今度はさっきみたいには行かねーよ」

先ほどとは比べ物にならないほどの、常人ではその姿を感知する事は出来ないであろう速度で俺へと迫るキルア。

凄いね。忍者でも中々その速度で高速戦闘できる人は居ないのだけど、彼は自分の速度に振り回される事無く攻めて来る。

更にガードした拳から電気変換されたオーラが此方へと電気ショックを与えてくる。

それ故に受け止めるよりも弾く方へと防御が偏ってしまい、結果その猛攻は留まる事を知らない。

まあ、まだダメージらしいダメージは負ってないけど。

ほんの少しの隙を突いてキルアを弾き飛ばすと、今度はいつの間にか取り出したのかヨーヨーをこちら目掛けて投擲する。

ヨーヨーとその糸も特別製なのか、その糸を伝い電気変換されたオーラでヨーヨーを包んでの攻撃、当たる訳には行かないな。

それを避けるとその隙を逃さず、手に持っていたヨーヨーは切り離し一瞬で此方へと向かってくるキルア。

その攻撃をいなし、今度は俺の方が距離を取る。

「凄いね。その戦闘センスには脱帽だよ…だけど、電気変換したオーラの扱いはまだまだ研鑚中かな?まだまだそれを活かしきれていない感じがするね」

「うるせーよ」

あぁっ!かわいくないっ!

…落ち着け、俺。相手はまだ子供だ。

「まあ、先人を馬鹿にするべきではないよ?電気変換にはまだ俺に一日の長があるっ!」

「はぁ?」

ババッと印を組んでオーラ(チャクラ)を雷に性質変化させた上で放電するように形態変化させ右腕に纏う。

「雷遁・千鳥」

チッチッチッチッチ

俺の右手から時折雷が弾ける音が木霊する。

つぅーっとキルアの頬に汗が伝う。

「…そんな事も出来るんだ。だけど、それを出す直前に一定のアクションを入れないと発動しないみたいだね」

ほぼ初見でそこまで見切るか。

「それじゃ、行くよ」

俺は振り上げた右手を地面に叩きつけるように重ねると、同時に大量の電気を打ち込むと、手のひらを中心に扇状にキルアの方へ地面が一瞬で隆起して砕け散る。

「なっ!?」

たまらず飛び上がったキルアに向かって隆起した地面を蹴って走り寄って廻し蹴り。

吹き飛んでいくキルアに向かって右手を突き出すと、そのまま竜を象った雷撃弾を飛ばし追撃。

その攻撃を何とか自身のオーラを増大させて防御するキルア。しかし、威力を殺しきる事は出来ず、そのまま後ろにあった大岩に激突してようやく止まった。

俺は直ぐに追撃する。

「射撃や防御、幅広く転用できる雷だけど、単純にその威力を行使する時に相性がいいのはやはり突き技だ」

ドゴーーーンッ

右手に宿る雷が一際大きく唸りをあげると、そのまま俺はキルアの右横の岩目掛けて突き入れた俺の右手は大岩を砕き、跡形も無く吹き飛ばした。

「なっ…」

それを横目で眺めていたキルアに驚愕の表情が浮かぶ。

それはそうだ。外したからよかった物の、今の攻撃を自身が受けたと考えれば致命傷を免れない。

驚愕のキルアをよそにキルアから距離を取る。

キルアを見ると表情は更に真剣な物に変わった。

何て言うか、マジモード?見たいな感じ。

キルアの身に纏うオーラがより洗練されていく。

電気変換されたオーラをその両手に集めているのが見える。

「見よう見まねだけど、こんなもんか?」

チッチッチッチッチ

キルアの両手に集められたオーラが唸りをあげる。

「うわぁ…」

今キルアの両手を覆っているのは千鳥の模倣技。

「っし!」

目にも留まらぬ速さで俺へと駆けると、その手を突き出した。

突き出された右手を千鳥を纏っている右手で受け止めるが、今度は左手を突き入れてくるキルア。

うわっ!ちょっとまずいか。俺の左手は千鳥を纏っていないし、右手を封鎖されているので印も組めない。

俺はすぐさま右腕をまげると背負い投げをする要領でキルアの懐にもぐりこむと、キルアの左手をかわし、左肘でキルアを吹き飛ばす。

ザザーーーッ

両手両足で着地してその勢いを殺いだキルア。その時抉った地面が焼け焦げている。

って言うか!

「ちょ!今の俺じゃなかったら大怪我じゃ済まないからね!?」

「悔しいけど、あんたなら軽くいなすんじゃないかと思ってた」

やっぱ悔しいけど、とぼやいているキルア。

「それにしてもあんた何なの?変化、強化、放出と3系統を使い分ける。六性図では遠いほど覚えにくいって習ったんだけど?」

うーん、忍術であると言う相違点も有るけれど、まあ単純に。

「修行したからかなぁ?」

「へぇ…じゃあ他の系統技も見せてくれよ」

この千鳥の応用って事か?それとも雷遁?

まあ、どちらでも変わらないか。

「オーラの消費もバカにならないから、見せてやるのは次の技が最後だ」

そう言って再び印を組む。

「雷遁影分身」

千鳥から放たれた雷が一瞬で俺とそっくりの人型になる。

「ダブル、いや念獣か?具現化系能力だけじゃ無理だな。操作系も無ければただの人形だろう」

なかなか鋭い考察だね。

しかし、言うなれば変化、具現化、放出、操作の複合能力かな?

これ、結構疲れるんだよね。オーラの半分を持っていかれるし、作り出すのにも相当に消費する。

ただまあ、消費が激しいが、それなりに強力な術である事は確かだ。

「いくよっ!」

そう言うと俺の分身がキルア目掛けて距離を詰めてその拳を突き出す。

「食らうかよ!」

そう言ったキルアは俺の分身の攻撃をその両手で反らし反撃しようとして思いとどまって分身から距離を取った。

そして、

「やめ、降参」

そう言ったキルアは戦闘態勢を解き、堅も解除した。

「えー?止めちゃうの?」

ゴンがキルアに抗議の声を掛ける。

「だってあの分身、雷で出来ているんだぜ?防御した時ですら接触した俺に微弱ながら電気ショックを与えていたし、あれを破壊しようとした瞬間その内包されたエネルギーが俺を襲うのが落ちだよ」

「そうなの?」

今度は俺に確かめてくるゴン。

「まあね」

雷遁影分身の制御を解除するとその場で発光して四散した。

さて、組み手も終了。ゴンには自分の弱点を自身で明確にさせることはできたし、後はどう自分で昇華させるかだろう。

しかし、拳を交えてみて解る。二人は本当に天才だと。

この短時間で二人がどれほどの成長をした事か。

「今日はありがとう、アオさん」

「まあ、アンタの技は参考にはなったかな」

ゴンと、一応キルアからも感謝の言葉を貰い訓練は終了、その後数日修行に付き合った後ゴン達とは別れた。 
 

 
後書き
VS原作主人公組のお話しでした。とは言え、稽古をつけている感じですが…
ゴン達との話しはこれで終了です。もう会う事もあるまい。
しかし、カードの独占って意味あるのかな?離脱(リーブ)のカードで終了だよね?
しかもリスクがあんまり無い!
確かに軋轢は生むだろうけれど、使われたらフリーポケットが消えるから、スペルカードで直ぐに使った奴を追う事も出来ないし…
離脱のカードの詳細が分からないのでこの作品としては使われたら強制的にゲーム機の前に転送する効果と言う事になります。
一度リオに使ってますしね。  
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