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真田十勇士

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巻ノ三 由利鎌之助その八

「しかも豪傑達が下におる、わし一人で向かっても」
「幻翁殿でも」
「勝てぬと」
「とてもな、だから退いた。しかし幸村殿が完全に我等の敵となった時は」 
 老人のその温厚な顔の目が光った、まるで狼のそれの様に。
 そしてその光る目でだ、こう言ったのだった。
「わしも命を賭けて戦うがな」
「ではその時は」
「我等も」
「頼むぞ。我等伊賀者は今は徳川家にお仕えし」
 そしてというのだ。
「半蔵様の下にある」
「はい、我等は服部家にお仕えしています」
「そのうえでの伊賀者です」
「ですから半蔵様の下」
「伊賀者として戦います」
 こう話してだった、そのうえで。
 楽老は美濃に向かった、そしてそのうえで消えたのだった。
 幸村はその山に入った、無論穴山と由利も一緒だ、そのうえで。
 二人にだ、幸村は言った。
「この山にいる者もな」
「強ければですな」
「そして心が確かなら」
「家臣にしたい」 
 この考えを言うのだった。
「是非な」
「やはりそうですか」
「我等と同じくですか」
「殿の家臣にされ」
「そのうえで」
「上田まで連れて行ってな」
 そのうえでというのだ。
「働いてもらいたい」
「ですな、では」
「どういった者か見ましょう」
「さて、どれだけの者か」
「見ものですな」
「水練に長けているとのことじゃが」
 楽老から聞いたことをだ、幸村は心の中で反芻しつつ述べた。
「どういった者かのう」
「そういえばこの山に入り水の匂いが強くなりましたな」
「うむ、水の気もな」 
 穴山と由利はここでこのことに気付いた。
「それだけ水が多い」
「そういうことですな」
「そうじゃな、少し行けば川がありそうじゃ」
 幸村も匂いと気を察して言った。
「そこに行くか」
「はい、では」
「そうしましょうぞ」
 二人も幸村の言葉に頷いてだ、そのうえで。
 山を進んでいった、すると。
 実際に川のせせらぎの音がしてだった、そこに行くと川があった。森の木々の中に岩場がありその間に川が流れている。
 川は幅は結構ありだ、そのうえで。
 底が見えない、幸村はその川を見て言った。
「あそこにいるな」
「確かに。人の気配がしますな」
「それもかなり強い気配が」
「獣とはまた違う」
「はっきりした人の気配が」
「気配を隠しておらぬか」
「何者じゃ」
 そしてだ、ここでだった。
 新たな声がした、すると。
 幸村達の前にだ、引き締まった痩せた身体で手の長い男が立っていた。年齢は穴山や由利と同じ位だろうか。
 背は由利より少し低い位でだ、髪の毛は短く刈っていて上の部分は立っていて目は丸く大きくだ。口元はしっかりしている。 
 上半身は裸で下半身は忍の袴で素足だ、その袴も全身も濡れている。
 その彼がだ、幸村達に言った。 
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