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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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九校戦編〈下〉
  九校戦六日目(4)×女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦深雪対雫

観客席は、とても超満員だった。新人女子ピラーズ・ブレイク決勝リーグは、決勝戦に看板を架け替えて午後一番となった。バトル・ボードの決勝リーグは終わったので、時間をずらす事もなく行われる事となった。一般客席だけでなく、関係観客用もギッシリ満員電車のようだった。そこには真由美と摩利に挟まれていたのは、本来なら一真がそこに座っているが、これが終わったら男子ピラーズ・ブレイク決勝リーグが始まるので代わりに蒼太と沙紀が間にいた。

二人のデバイス調整を済ませた一真は、深雪か雫につかないで選手控え室にいたのだった。ちなみにエリカ達もいるが、真由美らがいる所から離れた場所で応援していた。一真は名無しとなり、今回使う拳銃形態デバイスを確認してから、ステージに立つ深雪と雫を見ていた。ちなみに使うデバイスは試合用ではなく、いつも使うシルバー・ホーンを使用するが、出力は低スペックデバイスに変更してある。

「それにしても、まさか深雪さんと一真君の護衛さんがここにいるのは、一体どういう心境なの?」

「ホントは深夜様や真夜様が来ようとしていたのですが、四葉家当主と織斑家当主の妻がここにいると何かと問題になるので護衛者である俺と沙紀が来たのです」

「私はもちろん深雪様の応援ではありますが、深雪様対雫は前菜だと思っています。メインはこの後にあります名無し様ですから」

「なるほどな、真由美の母親がこちらに来ると何かと問題があるからか」

そう言った摩利だったけど、真由美本人はここに母親が来たらギクシャクするから配慮したのだろう。いくら関係観客用でも、十師族の四葉家がここに来たら少々問題が発生する。エリカ達はエリカ達で、これから開始されるであろう深雪対雫の対戦を見に来たがほのかも一緒にいた。本来ならバトル・ボード決勝リーグをする為、待機しているはずがもう終わって優勝したので、一緒に観覧できるようになった。

「いよいよ始まるね、深雪対雫の直接対決」

「私はどっちを応援した方がいいか分かりません」

「私は雫を応援しますよ」

「ほのかは幼馴染だからね、僕とレオはこの後行われる名無しを応援するよ」

「そうだな。この対決も楽しみだが、この後ある名無し対一条のが楽しみにしてたぜ」

上からエリカ、美月、ほのか、幹比古、レオだったが応援する方は、雫を応援する方もいれば中立で応援する方もいるみたいだ。名無しである俺は選手控え室で見ていたが、蒼太と沙紀は真由美と摩利がいる所で話を聞いていた。それとここにいるのは、名無しである俺は一人でいるが真夜達はVIPルームで見ていた。

『ただいまより、新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦を開始します。選手入場』

「「「「「ワアァァァァァァァアアアア!」」」」」

『第一高校織斑深雪さん。同じく第一高校北山雫さん』

二人の選手名を言うと、湧き上がった声で一杯となるが、各選手が上がると同時に静まり返っていた。フィールドを挟んで対峙する二人の少女。片や、目に清冽な白の単衣に緋の袴。片や、目に涼しい水色の振袖。深雪は黒髪を縛っておらず、雫は襷をかけていないので、これから対決するのは本気を出しますよと言っていい程だった。

長い黒髪と振袖の袂が夏の微風になびいていたが、それを締め付けるような静けさが、二人の少女から放たれていた。純粋に魔法のみで競うこの競技に相応しいが、熱狂を鎮めている冷徹な戦う意志を持っていた。始まりを予告するライトが鳴り、赤から青になった瞬間に互いの魔法が発動した。

「Aランク魔法である『氷炎地獄(インフェルノ)』だから、北山さんの氷柱は熱波でやられていそうだけど。そうでもなさそうね」

「『情報強化』で氷柱自体の温度改変を阻止しているようだが、今回はいつも使うデバイスなのか?蒼太さん」

「ええそうですよ。今回は『共振破壊』のバリエーションで破壊したいと言ってきたので、一真様はオリジナルデバイスではなく競技用のデバイスにしたと」

熱波が雫の陣地を襲うが、エリア全域を加熱する『氷炎地獄(インフェルノ)』の熱波を『情報強化』で阻止中である。深雪の陣地を地鳴りが襲うが、その震動は共振呼ぶ前に鎮圧される。自陣全域の振動と運動を抑えるエリア魔法が、地表・地下にも魔力を及ぼしている。二人は互いの魔法をブロックしながら、事象改変の手を敵の氷柱(ピラー)に伸ばしていた。玄人受けする専門家を唸らせていたけど、今の所互角の攻防に見えた。

「雫は本来の戦い方でやるからと、リフレクター無しでの『共振破壊』しているが果たして深雪に届くのかな?」

『恐らく本来の戦い方だと、深雪様の勝利になるかと』

ゼロがそう言っていたが、まさにそうなっている。

「(届かない!流石は深雪、一真さんの忠告はホントのようだった!)」

雫の『共振破壊』は敵陣から完全にブロックされているが、対して深雪の熱波は雫の陣地を覆っている。対抗魔法『情報強化』は、魔法による対象物の情報書き換えを阻止するもので、物理的エネルギーに変換された魔法影響は排除できない。魔法による氷柱自体の加熱は阻止しても、加熱された空気により氷柱が融け出すのは時間の問題となる。

「(だったら、とっておきのを使ってやる!)」

雫は汎用型デバイスをはめた左腕を、右の袖口に突っ込んだ。引き抜いた手に握ったのは、拳銃形態の特化型デバイス。それは一真が雫に持たせた切り札であり、万が一破壊出来なかった場合はこれを使えとわざわざシルバー・モデルシリーズを雫専用に、調整しといたブツだった。銃口を敵陣最前列の氷柱(ピラー)へ向けて、雫は左手でデバイスの引き金を引いた。

「CADの同時操作!?サイオンを完全に制御出来なければ、干渉し合って両方使えなくなるぞ!」

「実際一真様が使った例があるのですが、深雪様はまだ同時操作を会得してません」

「そうね。それに深雪様は、それを会得しなくとも大丈夫かと思われます」

摩利と蒼太に沙紀が言っていたが、一回だけ同時操作をしたのを思い出したかのように言っていた。

「(二つのCADの同時操作というのは、お兄様の差し金かしらね。雫はそれを会得したようだけど、威力はどうなのかしら?)」

複数のデバイスを同時操作出来る技術は、一真が出来る技でもあるが難度の高いテクニックである。まあ、一真が出来るなら深雪も出来るはずだが深雪は深雪で同時操作しなくとも、一つのデバイスで複数操作できるようにしてある。魔法暴走させないが、複数デバイスを使う事はあまりない。雫は深雪の目の前で、二つ目のデバイスを手に取って想子(サイオン)信号波の混信を起こす事なく、二つ目のデバイス起動処理を完了。深雪の魔法が止まった事で、雫の新たな魔法が氷柱(ピラー)に襲い掛かる。

「『フォノンメーザー』っ!?」

「しかも一本だけでは無さそうだぞ!一気に三本も貫通した威力だぞ!?」

真由美が悲鳴を上げたら、摩利は一本ではなく一気に三本を貫通破壊させたので驚いていた。深雪の陣地には、最前列一本から後ろにある二本の氷柱(ピラー)ごと貫通させてから、白い蒸気が上がっている。今までの三試合は、相手選手に触れさせもしなかったという魔法的な意味合いで、深雪の氷柱(ピラー)が初めてまともに攻撃を受けダメージを負った。

「お、深雪の氷柱(ピラー)が初めて倒れたぞ!」

「雫が使える『フォノンメーザー』ですね。でも貫通威力があるというのは、いつも使うのよりも違う気がする」

「貫通があるという事は、拳銃形態のデバイスは一真特注で調整したのかもしれないね」

「全くだぜ、相変わらず一真のビックリ箱はまだまだありそうな気がするな」

振動系魔法『フォノンメーザー』は、超音波の振動数を上げて量子化した熱線とする高等魔法。一真が深雪ぐらいの強敵を倒す為に、雫に授けた作戦ではある。控え室で見ていた俺は、深雪がやられそうだとは思っていない。結局高校生の大会だと、この程度であれば深雪を凌駕する事は出来ないと予測していた。動揺は一瞬だったが、雫が新たな魔法を繰り出したのに合せて、深雪も魔法を切り換えていた。

氷柱から上がる蒸気が止まり、熱線化した超音波射撃を遮断した訳ではない『フォノンメーザー』による加熱を上回る冷却が作用し始めていた。深雪の陣地が白い霧に覆われたが、その霧が雫の陣地まで押し寄せていく。雫は『情報強化』の干渉力を上げたが、深雪にはお見通しだった。

「(残念だけど、甘いわね。雫)」

押し寄せる霧は冷気であり、それによって融解を妨げる魔法はこの攻撃には意味がない。

「・・・・『ニブルヘイム』だと?どこの魔界だ、ここは・・・・」

「まあ率直な感想だとそうなりますが、深雪様にとってはよく使う魔法でもありますからね」

広域冷却魔法『ニブルヘイム』は、本来領域内を比熱、(フェーズ)に関わらず均質に冷却する魔法である。応用的な使い方として、ダイヤモンドダスト(細氷)にドライアイス粒子、時に液体窒素の霧すらも含む大規模冷気塊を作り出し攻撃対象にぶつける使用法もある。その威力は、今最大レベルに引き上がっていた。

「『氷炎地獄(インフェルノ)』には驚いたけど『ニブルヘイム』まで使えるとは、深雪さんの本気はどこまでなのでしょうか?」

「僕らは分からないけど、恐らく一真本人なら分かると思うな~」

「液体窒素の霧が雫の陣地を通り過ぎていますが、深雪さんの目的は何でしょうかね?」

「雫の氷柱(ピラー)には、液体窒素の滴がびっしりと付着してますから、氷柱(ピラー)の根元には水溜りが出来ていますからそれが狙いだと思いますね」

「お、再び『氷炎地獄(インフェルノ)』を発動させたからか、『情報強化』をしようとしても新たな付着物により作用してないから。これは深雪の勝ちだねえ~」

気化熱に冷却効果を上回る急激な加熱により、液体窒素は一気に気化する事で、膨張率は七百倍となった。轟音を立てて、雫の氷柱(ピラー)が一斉に倒れたというより滅によって無くなった。倒れた轟音ではなく、蒸気爆発の音そのものだった。氷柱(ピラー)はその表面が粉々に砕けて、爆発の激しさを物語っていた。

『試合終了!勝者、第一高校織斑深雪さん』

そう告げると、深雪と雫は一礼をしてからステージから降りて行く。そこから俺のターンとなるが、選手控え室にいた名無し=一真は、黒の戦闘服から今年夏に発表された男性用のファッション服を着ていた。待っているようにしていると、深雪と雫がこちらに来たのだった。 
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