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真田十勇士

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巻ノ三 由利鎌之助その三

「これは我等が悪い」
「我等がとは」
「どういうことでしょうか」
「どうやら我等は山犬達の縄張りで寝てしまったらしい」
「だからですか」
「縄張りから追い出す為にですか」
「こうして囲んできたのじゃ」
 幸村はこのことをすぐに見抜いたのである。」
「だから今囲んで襲おうとしてきているのじゃ」
「餓えて襲っているのではなく」
「そうなのですか」
「餓えているのなら声が違う」
 山犬達のそれがというのだ。
「これが脅す声じゃな」
「ではここは」
「どうすべきでしょうか」
「相手が獣でも無闇な殺生はせぬことじゃ」
 これが幸村の考えだった。
「だからここはこの場を去り別の場所で寝よう」
「では」
「ここは寝床を移しますか」
「そうしようぞ、しかし囲まれておる」 
 幸村は夜の森の中を見回した、暗い木々の中に見えるのは闇の中に爛々と光る山犬達の目だ。その目を見ればだった。
 一行を完全に囲んでいた、それで幸村も言うのだ。
「これは抜け出るのは用意ではないな」
「それならば」
 由利がここで幸村に申し出た。
「それがしにお任せを」
「我等三人を戦わず逃がすことが出来るか」
「はい」 
 確かな声での返事だった。
「お任せ下さい」
「では見せてもらうぞ」
「それでは」
 由利は幸村に対して頷くとだ、すぐにだった。 
 両手で印を結んだ、すると。
 周りに風が吹き荒れた、風は幸村達から山犬達に向けて木の葉を撒き散らして吹き荒れた。その風の勢いとかなりの量の舞い散る木の葉でだった。
 山犬達を戸惑わせ怯ませた、由利はその風が吹き荒れる中で幸村と穴山に言った。
「では今の間に」
「うむ、わかった」
「さすればな」
 二人も応えだ、跳んでだった。
 その場を抜け出た、こうして山犬達の囲みを出て別の寝床に向かうのだった。そしてその寝床を見付けて横になったところでだ、幸村は由利に言った。
「よくやった、風の術で風を起こしてじゃな」
「その勢いと吹き飛ぶ木の葉達によってです」
「山犬達を怯ませてその間に去る」
「如何だったでしょうか」
「よくやった、見事じゃ」
 幸村は微笑み由利の力と機転を褒めた。
「風を鎌ィ足にして攻めることも出来たな」
「はい、それがし風の術を得意としていますので」
 その通りだとだ、由利も答えた。
「そうしたことも」
「そうじゃな、しかし拙者の言葉に従ってじゃな」
「それがしは幸村様の家臣、さすれば」 
 主の言葉に従うのが道理だというのだ。
「ですから」
「ああしてくれたのじゃな」
「あれでよかったのですな」
「見事じゃった、また言うが獣でもな」
「無闇な殺生をせずに限りますな」
「そうじゃ、戦の時も捕まえた者を殺すこともな」
 出来れば、というのだ。
「せぬに限る」
「殿は殺生はお嫌いなのですな」
「武士は戦で人を殺すもの、しかし無闇に殺すことはよくはない」
「そうお考えなのですか」
「そうじゃ、人を殺さずに済めばそれでよし」
「ううむ、殿は実に」
「お優しいですな」
 由利も穴山も幸村のその心を感じて述べた。 
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