ロード・オブ・白御前
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踏み外した歴史編
第7話 戒斗の描く世界 ②
巴は量産型ドライバーを装着し、アーモンドの錠前を開錠した。
「――なんとなく、あなたとはこうなる気がしてたわ。関口巴さん」
時間の修正力は絶対。耀子がそう言うこともまた、歴史にとっては規定事項。
耀子がゲネシスドライバーを装着し、ピーチのエナジーロックシードを開錠した。
「「変身」」
《 ソイヤッ アーモンドアームズ ロード・オブ・白鹿毛 》
《 ソーダ ピーチエナジーアームズ 》
巴を乳黄色の鎧が、耀子を桃の甲冑が装甲し、白鹿毛とマリカへと変えた。
『アーマードライダー白鹿毛、参ります』
『アーマードライダーマリカ、行くわよ』
二人の女は同時に地を蹴った。
目の前で唐突に始まった女同士の戦いに、ザックは混乱する頭でどうすべきかを必死に考えた。
戒斗は人間態に戻り、ザックが爆弾を仕掛けた場所の近くに戻った。
白鹿毛と戦っているマリカには戒斗を守る余裕がない。
(関口がどんな思惑でここに来たんだとしても、今が絶好のチャンスなのは間違いない!)
ザックはズボンのポケットに手を入れ、起爆スイッチを――持ったその手を、桃色の流れ矢が掠め、鋭利な痛みにザックは起爆スイッチを手から取り落とした。
『あなた……』
マリカ自身、その矢は意図して放ったものではなかったらしく、ザックが落としたそれを見て驚いていた。
『よくもそんな姑息な手段で、戒斗を!』
ザックに向け、今度は明確に放たれるソニックアロー。変身しなければ。否、変身しても恐らくは避けきれない――
その矢をザックが受けることは、なかった。
ザックの前に白鹿毛が飛び出し、その身を盾にソニックアローからザックを守ったからだ。
ダメージを負ったことで巴の変身が強制解除され、倒れる。
(俺の務めだ)
ザックは落とした起爆スイッチをスライディングして拾い、押した。
『戒斗!』
マリカはザックへ放ったソニックアローが中らなかったと認めるや、創世弓を捨てて戒斗へ駆け寄った。
爆発が戒斗とマリカの両者を巻き込み、屋上から宙へ吹き飛ばした。
もし爆発のダメージで足りなかったとしても、この高さから落ちれば助かるまい。
ザックは屋上の手摺に駆け寄り、地上を覗き込んだ。
そこには、ザックにとっては意外で、しかし大局的には当然の光景があった。
蔓だ。ヘルヘイムの植物の蔓がトランポリンのように張って、戒斗と耀子を受け止めていた。
戒斗は落下の最中にヘルヘイムの植物の蔓を操って編み上げ、自身の体を受け止めさせたのだ。
だが、落下の勢いを殺しきれなかったのか、蔓の網は限界までしなり、切れた。二人は地面に激突したものの、ダメージは軽減されただろう。
「しまった……!」
ザックはビルの下を覗き込み、手近なコンクリートを殴った。
人間であれば一溜りもないから一撃でケリがつくだろうと、小型爆弾一つしか用意しなかった。これはザックの手落ちだ。
だが、落ち込んでばかりもいられない。
ザックは急いで取って返し、コンクリートの地面に黒い髪を散らばらせて倒れる巴に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「ええ……何とか」
ほつれた髪を揺らして起き上がる様は、初めて会った日と変わらず妖艶としていた。
「戒斗さんと耀子さんは?」
「……分からねえ。墜落死はまぬがれたみたいだが、爆発のダメージはもろに食らってるはずだ。でもこの程度でやめるようなら戒斗じゃねえ」
「いいえ。もう充分です」
巴は、ザックが差し出した手を取らず、自力で立ち上がった。
「舞さん。聞いていましたね。戒斗さんの目的は人類を滅ぼすことです。今の世界を愛するあなた。戒斗さんに知恵の実を渡しますか?」
まるでそこに舞がいるかのように、巴は両腕を広げて何もない宙へと謳い上げる。
その目は爛々と輝いている。
ザックは得体の知れない悪寒を覚え、巴に声をかけることができなかった。
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