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パンデミック

作者:マチェテ
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第六十九話「選んだ禁忌」

―――【レッドゾーン“エリア27”旧市街】


「これは……どういう状況だ?」


アクエリアスを追いかけて旧市街に来たタガート達は、目の前の光景に圧倒された。

周囲に立ち込める土煙。
粉々に砕けた瓦礫の山。

身体中血で染まった白いトレンチコートの女とアクエリアス。
ボロボロの身体で呆然と立ち尽くすクレア。



千切れたアクエリアスの右足と、トレンチコートの女の左腕を掴んだブランク。
赤黒く変色した眼を見開き、ぶつぶつと何かを呟いている。
正気ではないのは、誰の目から見ても明らかだった。

「まさか…暴走したのか?」

タガートの呟きに誰も答えない。
答えは分かりきっているのだから。



だが、「暴走」の方がまだマシだったかもしれない。
















―――15分前





ブランクはレオとの戦闘を終え、本来の目的であるクレアの救出に向かおうとするが…

「グブッ…ゴフッ…!」

赤黒い血反吐を吐いた。
無理やりコープスを活性化させ、限界を超えて戦ったのがまずかった。

「クソッ……まだだ…ここで、倒れるわけには………ッ!」

あの適合者の余計な介入がなければ。
ブランクは殺した適合者を一瞥し、心の中で毒づく。

「ハァ…ハァ…くそ……どうした…俺の脚を治せるくらいの、力があるんだろ……もっと力を寄越せ…」

自分の体内にあるコープスにも毒を吐く。
自身の一番の長所であるコープスが機能しないのが悔しい。

「(体の修復と運動機能のサポートでエネルギーを消費したか……自然にコープスが力を取り戻す
までどのくらいの時間を要するんだ?)」

朦朧とした意識の中で、ブランクは必死に状況を改善させる方法を模索した。
考えることを止めたら、自分も仲間も死ぬ。
しかし、いくら考えようと状況が好転する方法は浮かばない。

エネルギーを消費したコープスが自然回復するまで待つ暇はない。
かと言って、今の体たらくでは適合者はおろか、突然変異種にすら負けるかもしれない。


「(何か……何かないのか…瞬時に回復する方法は…今すぐ戦う力を取り戻す方法は……)」





その時、ブランクの頭に、一つの可能性が浮かんだ。

ブランクが注目したのは、先ほど殺した化け物の残骸。





…………こいつはコープスを硬化させる能力を持っていた。

ということは、高濃度のコープスを保持していたということだ。



……こいつの残骸を喰えば、コープスを摂取できるかもしれない。




そんな考えが浮かんだが、さすがにブランクも実行するのに戸惑いがあった。

「ははっ……狂った発想だな……残骸とは言え、人だったものを喰う? 感染者じゃあるまいし……」

そのまま立ち去ろうとしたが、どうしても今の考えが頭から離れない。
適合者の硬化片や血肉を喰えば、一番手っ取り早くコープスを補給できる。
しかし、人間としての理性がそれを邪魔する。





………何を迷う必要がある。
仲間を助けるためだ。
こいつの死骸を喰えば済むことだ。



気づけば、ブランクの手にはコープスの硬化片とレオの死肉が握られていた。
自分で引き千切ったものだと、少し時間を置いて気づく。

「ははっ……感染者と変わらないな…」

自嘲気味な乾いた笑い。
握る手の隙間から流れ落ちる赤黒い血。


躊躇いは、既に消えた。





















化け物でも構わない。
仲間を守れるなら。



…………………力を寄越せ。







赤黒い死肉と、硬い硬化片を噛み千切り、咀嚼することなく飲み込んだ。




飲み込んだ瞬間、ブランクは後悔した。


開けてはならない、パンドラの箱を開けてしまった。

強力無比で、制御不能。




人間の理性が、化け物の本能にすり潰される。







































…………………………………………




………………俺は、何をしている?



……………何をしようとしていた?




………………………俺とは、なんだ?



俺は、化け物……

違う。


違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。



俺は人間だ。


俺は人間だ。





俺はニンゲンだ。


オれはニンゲンだ。







………にんげんってなんだっけ?






人間? ニンゲン? にんげん?




化け物?





どうでもいい。



どっちでもいい。







あイツを殺せレば、どうデもいイ。




そうだ、殺せ。




喰い殺せ。











喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ喰い殺せ






























今のブランクを見て、誰が信じるだろうか。
人類のために危険に身を投じ、正義のために戦い続ける兵士だと誰が信じるだろうか。



誇り高い兵士の姿はどこにも無かった。


そこにいたのは、適合者の死骸を貪り喰うブランクという化け物だった。 
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