ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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怪物祭 1
前書き
申し訳ないッ!
前回の更新では、完っ全にエイモンドの存在を忘れていました!
以後、こういうことがないように気を付けていきたいと思っております。
「も、怪物祭?」
「そうだよ。 そう言えば、スウィードは初めて見るんだよね?」
「は、はい。つい最近までは都市外で狩人やってましたし……」
俺達がもう明日に迫った怪物祭の予定を話していると、何も知らないスウィードが疑問の声をあげた。
なにそれ美味しいの、といった状況。
「毎年この時期にやってるお祭りのことだよ。 【ガネーシャ・ファミリア】とギルドが連携して開催してるんだ」
「東の大通りの先に、闘技場があるんすけど、そこで【ガネーシャ・ファミリア】の調教師が見世物をするんすよ」
「調教師……てことは、モンスターをてなづけるんですか?」
「モンスターつっても、外の弱いのじゃねぇぞ? ダンジョンから引っ張ってきたやつが相手だぜ」
「え、そ、それって危険なんじゃ……」
「まぁ、ガネーシャのところの眷族達は腕がいいからね」
闘技場で行われるモンスターの調教は、都市外からも多くの人がやって来る一大イベントだ。
ダンジョンから連れてきた凶暴なモンスターを、【ガネーシャ・ファミリア】の調教師がてなづけるまでの過程を見て楽しむ。
まぁ、パンと見世物っつったらそうなんだけども。
「それじゃ、明日は皆で見に行こうか」
「ハーチェス様ったら、二人でだなんて……キャッ」
「リリア、皆で、だからね?」
「……はぁ、これだから色ボケエルフは」
「そんなことより、僕を見てくれ! 怪物祭用に新しく服を新調してみたんだ。 美しいだろ? この僕が!」
「金ぴかっすねー」
「……」コクリ
ハーチェスさんの提案で、リビングが一気に騒がしくなる。
ヒルさんも、若干尻尾が揺れているあたり、満更でも無さそうだ。
「それでは、明日のお昼はどうしましょう。僕が作りましょうか?」
「そうだな……せっかくだし、屋台のものでも食べようじゃないか。スウィードにも、祭りの雰囲気というのを感じてもらいたいしね」
「あ、ありがとうございます」
「あら、そうなの? 私もハーチェス様に作ろうと思ってたのだけれど」
「ハハハ、リリア、キモチダケデウレシイヨ」
乾いた笑い声をあげるハーチェスさんは、それじゃ休むよ、といってリビングから出ていった。
それを皮切りに他の団員も自室に戻る。明日は早いため、皆、もう寝るのだ。
「明日は丸一日、外だからな。 スウィードもちゃんと体を休めとけよ」
「分かりました。それじゃ、おやすみなさい」
「おう。 それじゃ、バルドル様。俺も寝ますんで」
「分かった。 おやすみ~」
俺は自室に戻ると早速寝ようとベッドに倒れこむように寝そべった。
ここで一つ、俺の頭にはある心配事が浮かんでいた。
主人公がいたということは、原作がスタートしているはずだ。
五年前の、しかも前世で大まかにしか内容を知らなかった物語であるが、明日の祭りで、なにかが起きるとは考えておいた方がいいだろう。
「……くそ、こんなことなら、もっとちゃんと読んどくんだったぜ……」
だが、そんなことを今さら嘆いても仕方のないことだ。
うちはそれなりに上位派閥としての力があるため、争い事においてはそれほど心配はない。まぁ、スウィードは新人だから仕方ないとは思うが。
それでも一応、気を付けておいた方がいいかもしれない。
「……ま、明日になればなんとかなるか」
ーーーーーーーーーー
「うおー! 今年も賑わってるっすねー!」
「す、すごいです!」
「二人とも、あんまりはしゃいで迷子にならないでよ」
先頭を歩くアルドアさんとスウィードがメインストリートに出ている屋台をいったり来たりして走り回っていると、リリアさんがその様子に呆れながらも注意した。
スウィードは分かる。アルドアさん、あんたもう二七でしょうに
【バルドル・ファミリア】一同、十名が東のメインストリートを練り歩く中、その中の一人、団長のハーチェスさんは先程受け取った日程とプログラムの書かれたチラシを見ながら何やら考え事。
祭りは都市の外からも一般客が集まってくるため、大変混雑する。
効率よくこの祭りを楽しむためのプランでも考えているのだろう。
「うひょ~! スウィード、見るっすよ! このクレープ、めっちゃうまそうっす!」
「お、おいしそうです!」
アルドアさんとスウィードがとある屋台の前で足を止める。
クレープを売っている店のようで、店のおっちゃんは元気よく、らっしゃい!と声を張り上げた。
「パディ! 俺っち、これが食べたいっす!」
「お、俺もです!」
パディさんはチラリとハーチェスさんを見る。
頷いたところを見るに、許可は出たようで、パディさんは微笑ましいものを見る目で二人にクレープを買ってやった。
スウィードとアルドアさんが兄弟に見えたのは俺だけじゃないはずだ。
「あ、パディ。私のもお願い」
「畏まりました」
リリアさんが思い付いたように言うと、パディさんは追加で一つ買ってきた。
クレープを受け取ったリリアさんは、破顔させながら一口食べると、次にはハーチェスさんの口元にクレープを持っていった。
「ハーチェス様、あーん」
「リ、リリア。 恥ずかしいから……」
「いいじゃないか、ハーチェス。折角なんだから」
顔を赤らめているハーチェスさんの隣で、バルドル様が面白いものを見るようにニヤニヤしながらそう言った。
主神の言葉に、うっ、と言葉を漏らすハーチェスさんだったが、やがて目を背けながらもパクッと差し出されていたクレープに口をつけた。
リリアさんのテンションがマックスになった!
「……なんだあれは」
「ヒルさん、言わないで。 俺も甘すぎて苦しいですから」
「……」コクリ
「フッ、そんなことより、僕に釘付けの視線が多い……ああ、分かっているさ。これも全部、この僕が美しすぎるからなんだね!」
「光りすぎて目障りなんだよ」
ヒルさんのいう通りである。てか、視線といっても、あなたを見る人の顔は皆不快な顔をしてましたよ?
まぁ、そんなことをしている間に、舞台となる闘技場に到着した俺達はさっそく観客席へと向かい、腰を下ろした。
ーーーーーーーーーー
夥しい数の観衆に見守られる中、本日のメインイベント、怪物祭は幕を切って落とされた。
中央のフィールドではこの日のために捕獲されたモンスターが狂暴性を解放し、目の前の獲物へと襲いかかる。
が、【ガネーシャ・ファミリア】の調教師は軽やかにこれを回避。周囲の声援を一手に浴びる。
モンスターの雄叫び、魔石製品の拡声器によって響く司会の口上、観衆の叫喚。
会場の盛り上がりは止まるところを知らない。
「やっぱ、すごいっすね~!」
「はい。あの【ガネーシャ・ファミリア】の調教師の動きも、華がありますし、人を楽しませるもの。これだけで、かなりのお金もとれますよ」
「ほへぇ~……」
隣で呆気に取られているスウィードをよそに、パディさんが調教師の様子を見て関心の声を漏らす。
ヒルさんやデルガさんは飲み物片手に観戦を続け、リリアさんはハーチェスさんの腕にくっついてご満悦。
エイモンドさんはいつのまにか姿を消しており、バルドル様はフンフンと楽しそうに鼻唄を歌いながら観戦していた。
……いや、あの人なんでいないんだよ
「おお! 今度は竜が出てきたっすよ!」
と、そこでアルドアさんの声につられて目を向ける。
ちょうど、俺達の向かいとなっている入り口から大型の竜が姿を露にしようとするところだった。
「ち、ちょ、あれ、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですよ。 あれはオラリオの外から連れてきたモンスターのようですから。 ……しかし変ですね」
「お、パディ。てめぇも気づいたか?」
耳をピクピクさせ、辺りに注意を向けていたヒルさんがニヤッと笑った。
「えっと、何がですか?」
「あんな大物、普通はトリのはずよ。こんな途中で出すのはおかしいわ」
「だね。これよりすごいのがいるのか、もしくわ……」
「出さざるをえない、なにかが起きた……ってところかな」
バルドル様の意見に、ええ、と頷くハーチェスさん。
「さっきから、【ガネーシャ・ファミリア】のやつらが忙しねぇ」
「てこは、後者っすね」
目の前で行われている怪物祭そっちのけで話を続ける。
少し考え込むような仕草を見せたバルドル様は、よし、と呟くと指示を出し始める。
「皆、今日は武器は?」
「……いえ、所持してません」
「同じく」
「今日はお祭りでしたので、恐らくは皆、持ってはいないかと」
そりゃそうだ。武器なんてもっていたら、それだけで周りの一般人に警戒心を抱かせてしまう。
祭りで楽しむぞっ!って時にそれはダメだというハーチェスさんの指示によって、皆武器はホームにおいてきた。
ちなみに、ホームは【ウィザル・ファミリア】の団員が快く留守番を名乗り出てくれた。
パディさんの料理はそれほどのものらしい。
閑話休題
「だよね。 なら式。ちょっと外を見てきてくれ。 君の魔法なら、武器がなくても大丈夫だろ?」
「了解!」
「それに、ここでガネーシャに恩を売っておきたいしね」
「バルドル様、エイモンドは?」
「まぁ、多分外に出てるだろうけど、あれでもLv4だ。大丈夫だろう。 それじゃ、式。頼んだよ。 緊急を要するなら、戦車を使っても構わない」
「っ! 任せてください!」
俺は席を立つと、すぐに会場から飛び出す。
階段となっている場所をかけ降りれば、そこではギルドの職員達が慌ただしい様子で動き回っていた。
「ルナファさん!」
その中に知り合いの顔を見つけた俺は名前を読んで駆け寄った。
俺の声に気づいたのか、犬人の女性、ルナファさんは最初、驚くような声をあげた。
「し、式君!? いや、ちょうど良かった! 頼みがあるの!」
慌てながらも、俺へと事情を説明するルナファさん。
彼女の話によると、どうやら捕らえていたモンスターが九匹、脱走したという話だった。
このままでは、一般人に被害が出てしまうという。
「モンスターは、東のメインストリートの方でいいんですね?」
「ええ。 頼まれてくれる?」
「もちろん。 そのために来たんですからね!」
それでは!と言って、俺は闘技場を後にする。
武器はホームだ。だが、聞いた話だと脱走しているのはシルバーバックやトロール、ソードスタッグなどのモンスターだ。なら、その辺の物でなんとかなる
メインストリートを駆けながら俺は辺りを見回した。
すると、ちょうど道の脇に長い木の棒を発見した。どこかの屋台がモンスターに壊されたその残骸の一部なのだろう。ありがたく使わしてもらう。
「【騎士は徒手にて死せず】」
魔力を練り上げ、詠唱を紡ぐ。
超短文詠唱
思い起こすは円卓の騎士の一人。
罠に嵌められ、丸腰であってもなお、勝利した騎士
「【ナイト・オブ・オーナー】」
体から瘴気の如く溢れ出した闇は、俺の腕を伝い、その先、先程拾った木の棒を包み込む。
その闇がやがて溶け込むかのようにして消え失せると、俺の手に残ったのは赤黒く変色したもう木とは思えない棒だった。
「さぁ、いこうか」
ーーーーーーーーーー
「…ぁあ……」
『グゥァ……』
ここは東のメインストリートとはことなる北のメインストリート。
少女は目の前の存在から目を離せないでいた。
いや、目を動かすことさえ出来ない。
『バグベアー』
ダンジョンの十九階層から出現するこのモンスターは、ミノタウロスには力と耐久で劣るものの、その巨体に似合わない敏捷をもって獲物を追い詰め、八つ裂きにしてしまう。
対して、少女は一人。それも、冒険者ではない一般人だ。
敵うはずがない。
自分などすぐに殺され、餌となってしまうだろう。
逃げなきゃ……
そうしなければ死ぬ。
そう頭では分かっていても、体が思うように動かない。
『グゥゥ……』
口から涎を垂らせたモンスターは間違いなくこちらを狙っている。
もう、無理だ
『ガワゥァッ!!』
「誰か……っ!!」
いよいよ、襲いかかってきたモンスターに、少女は目を閉じ、助けをこう。
もう数瞬後には自分の命はない。
涙を流した少女は体を抱き、強張らせた。
と、そこに
光る何かがもを蹴り飛ばした
「フッ、熊くん。僕を無視していくなんて、あまりにも寂しいじゃないか。 こんなにも美しいこの僕がいるというのにね」
「……えっ?」
少女が目を開けると、そこにいたのは一人のエルフ
ただし、ものすごく光っている。
『グルルル……』
「フッ、ようやく僕を見てくれたね。ああ、モンスターの視線まで集めてしまう僕の美しさには本当に困ったものだね」
やれやれ、と肩をすくめたエルフの男はそのあと、フサァッ、と前髪を払った。
「まぁ、それほどまでに僕に見とれてくれているんだ。相手にしてあげるのも吝かではないよ」
モンスターは先程の攻撃で警戒しているのか、男ーーエイモンドが一歩踏み出すと体勢を低くして構えた。
「ということだ。お嬢さん。君も僕の美しさに目を奪われるのは構わないが、今回のお客さんは一人で定員オーバーなんだ。別の機会を待っていてくれたまえ」
あんに、逃げろと言ってくれているのだろうか。それとも、本気でそんなことを思っているのか、少女には判断がつかなかった。
が、もう足は動かせるようで、問題はない。少女は立ち上がると、目の前の男に一礼し、足早に駆けていった。
「さて、熊くん。僕と君の舞曲を始めようじゃないか」
『グラァゥァッ!!!』
役者のように両腕を広げたエイモンドにバグベアーの爪が襲いかかる。
が、エイモンドはこれを容易く回避。空いた懐へと潜り込むと、目の前に迫った腹を軽く蹴りあげた。
『グワッファッ!?』
しかし、それだけで体が浮き上がり、体勢を崩した状態でバグベアーは頭から石畳へと突っ込んだ。
「フッ、乱暴だなぁ。そんなに焦らなくとも、僕のこの美貌は変わらないよ」
まるで、自身を脅威とも感じていないその口ぶりに、バグベアーは怒りを覚えた。
そして、駆け出す。
自身の最高スピードで駆け、武器となる腕を振るう。
が
「まぁ、そう乱暴にならないでおくれよ、熊くん」
パンッとその腕が払われたかと思えば、次にはその腕を掴まれ、投げ飛ばされる。
一瞬で起きた出来事に困惑しながら、バグベアーは宙を舞った。
Lv4の冒険者。エイモンド・エイナルド
二つ名は【極光の陶酔者】
その名の通りの男であるが、実力は本物。
そして、パーティ内で回避盾を務める彼の真髄はその回避能力の高さにある。
魔法で敵を集め、回避と反撃を得意とするエイモンドにはこの程度造作もないことである。
そして、エイモンドは恐れない。
何匹のモンスターに囲まれようとも、いかにる攻撃を振るわれようとも、エイモンドは怯まない。
レアアビリティ【陶酔】。
Lv2で発現したこの発展アビリティは、恐怖への耐性の効果を持つ。
故に、エイモンドは怖くない
『ガルァァアアアアア!!!』
何度も何度もバグベアーの腕が振るわれるが、その攻撃は当たるどころか、掠めもしない。
やがて、バグベアーは息を荒くし、目の前の敵を見る。
うっとおしい光を放つ獲物はまだまだ余裕。それどころか、挑発するかのように前髪を払った。
「フッ、君がその様子なら、そろそろ舞曲は終わりかな?」
『ウオォォオオオオオ!!!』
果敢に攻めかかってくるバグベアーにエイモンドは笑みを崩さず、余裕を崩さず、回避を繰り返す。
そさて、紡がれる言葉
「【敵を穿つは雷光】」
並行詠唱
膨大な集中力と正確な詠唱を要する魔法を何かと同時進行させながら行う高等技術
「【放つは閃光】」
魔法種族である彼はそれを可能とする。
本人いわく、詠唱は短いし、それほど苦ではないと言っているが、リリアでもまだそこまでには至っていないのだ。
「【体現するは我が身の光】」
右からの一撃を手を添えることで往なし、エイモンドはもう一度、懐へと潜り込む。
そして、その胸に手をかざした
「【ゴールド・レイ】」
その一瞬、かざされた手から一条の金光が放たれた。
【ゴールド・レイ】
エイモンドが使えるもう一つの魔法。
放たれた光は容易くバグベアーの胸を貫通し、同時に胸の魔石を破壊した。
核を失ったバグベアーはたちまち灰となり、その姿を消滅させる。
「……フッ、この光、なんと美しいことか」
ワッ!と辺りで事の経過を見守っていた人々の歓声が沸いた。
先程の少女もエイモンドの前に出てきてお礼を述べるが、そんなことを気にした様子を見せないエイモンドはそのままの足で目的地へと向かう。
「フッ、視線を一心に受ける僕は、なんと罪深いのだろうか」
【極光の陶酔者】、エイモンド・エイナルド
彼は自分のことが大好きなのだ
後書き
ちょっと、エイモンドが格好良すぎたかな?
ニシュラも、ちょっとビックリしてます
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