魔法科高校~黒衣の人間主神~
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九校戦編〈下〉
九校戦六日目(3)×ピラーズ・ブレイク決勝戦前とハンデ無しというオーダー
午前の競技が終わって、第一高校の天幕は完全なお祭りムードとなっていた。新人女子ピラーズ・ブレイク三回戦三試合・三勝。午後の決勝リーグを第一高校の出場選手で独占する事になったからだ。バトル・ボードも決勝が終えたのか、更に快進撃という言葉に相応しい成績となった。
唯一浮かれる事の出来ない者らは、一年男子選手十名はいつも通りに戦えば女子にそれ程見劣りしない成績を収められる程のメンバーを揃えていながら、気合が空回りしてミスを連発しながら敗退。ますます焦りを覚えたのか、完全な悪循環に陥っていた。
そんな中、女子ピラーズ・ブレイクの三選手である深雪・雫・エイミィと男子ピラーズ・ブレイクの決勝リーグに進んだ名無しと担当エンジニアである俺は、本部天幕ではなくホテルのミーティングルームに呼ばれた。なぜ名無しも呼ばれたのかは後々分かるようだ。
「時間に余裕がある訳じゃありませんから、手短に言います」
呼んだのは真由美。待っていたのは彼女一人だったが、俺らが入った後に気配を三つ確認した。恐らく、大会委員兼主催者である蒼い翼本社青木副社長と九島烈と護衛者の大地だろうな。
「決勝リーグを同一校で独占するのは、今回が初めてです。織斑さん、北山さん、明智さん、本当によくやってくれました」
丁寧に、静かに、慌てて、三者三様であったが、三人は同時に一礼をしたのだった。真由美の賛辞に応える為だけど、俺=名無しの用件は何だろうと考えていた。
「この初の快挙に対して、大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関らず学校に与えられるポイント合計は同じになりますから、決勝リーグを行わずに三人を同率優勝としてはどうか、と」
三人が顔を見合わせて、俺は大会委員会が楽をしたいとそのまま本音を言っているようなもんだった。
「大会委員会の提案を受けるかどうかは、皆さんの意見に任せます。ただし、余り考える時間は上げられません。今、この場で決めて下さい」
真由美の言葉に、エイミィは俺を一度見ると頷いたので任せろと言ったような感じだ。まあ三位まで充分なのだが、この場において第一高校同士での戦いというのは中々ない試合になると思った。ま、スピード・シューティング決勝では名無し対森崎があったが、今がとても面白くなりそうな展開だった。深雪は俺を見て、雫は深雪を見ていた。
「一真君、貴方の意見はどうかしら?三人が戦うとなれば、貴方もやりにくいと思うけど」
真由美としては同率優勝で落ち着かせたいが、確かにチームリーダーとしてはそれが一番望ましい決着ではあるだろう。
「まあ俺としては、三人が戦う意志があれば俺は三人の担当者だろうと関係ありません。対等な力で望む選手とそれを補佐するエンジニアとしては、やりがいがありますが明智さんが使うデバイスにはいくつか欠点があります。それは想子を多く吸ってしまう事なので、これ以上試合に出れば倒れる可能性が高いコンディションとなっています。三回戦も楽勝だと見えたようですが、それは俺の回復魔法で一時的に回復させたのでもう試合に出るまでもないでしょう」
まあショットガン形態の汎用型は、見た目はあまり想子を多く使わないが連続で使うと体力的にも消費量にも限界が近いからだ。トリガーフルバーストは、本来ならマキシマムドライブのみ使用される技名で、それを一回ごとの消費量はとてもじゃないが多く使われてしまう。
「そうですか・・・・明智さん、一真君はこう言ってますが?」
「私も同意見ですが、織斑君が私に使わせたデバイスはサイオン消費量が、いつもより多くないと使えないモノです。なので一時間で回復する見込みがないので、棄権でも構わないと思った事です。それに私自身より、コンディションが悪いのは織斑君の方が知っています」
口調はいつもと変わらないが、言っている事は事実だ。
「そうですか」
真由美は労りを込めた微笑みで頷き、視線を深雪と雫に向けた。
「私は戦いたいと思います」
先に口を開いたのは雫で、強い意志が込められた瞳で真由美の目を真っ直ぐ見返して。
「深雪と本気で競う事の出来る機会何て、この先何回あるか・・・・。私は、このチャンスを逃したくないです」
「そうですか・・・・」
真由美は視線を床に落として、一つ息をついた。
「深雪さんはどうしたいですか?」
「北山さんが私との試合を望むのであれば、私の方にそれをお断りする理由はありません」
実は極めて気が強い性格の深雪であれば、こう答える事は俺も真由美にも分かり切っていた事だった。
「分かりました・・・・では、明智さんは棄権、織斑さんと北山さんで決勝戦を行う事にすると大会委員会に伝えておきます。決勝は午後一番となるでしょうから、試合準備を始めた方が良いでしょうね」
「ところでなぜ『私』が呼ばれたのですか?」
真由美の言葉に真っ先に一礼をするはずが、完全に空気化していた名無しから言われたのですっかり忘れた存在となっていた事に、真由美も深雪達も忘れていたような顔をしていた。
「そういえばそうでしたね、名無しさん。貴方を呼んだのはこの御方達がお呼びになりました」
ミーティングルームのドアが開いたと思えば、そこにいたのは蒼い翼本社青木副社長と九島烈とその護衛者達がいたので俺はやはりと思った。先に深雪達と呼んだ真由美を下がらせてから、席に青木と烈が座ってから俺と分身体である俺に話し掛けた。
「やはり外からの気配は、青木と烈に大地か。で?俺に何の用だ」
「主催者である私よりもここは烈様が言った方がよろしいかと」
「そうですな。一真様、女子ピラーズ・ブレイク決勝戦が終わった後に男子ピラーズ・ブレイク決勝戦をするのは知っていますね?」
俺=名無しなので、ここは一旦分身体から本体と合流して一人の人間となった。そこにいたのは名無しの服装をしていた織斑一真の姿があった。
「これで話すが、それについては知っている。俺と対戦相手は、第三高校の一条将輝で二つ名が『クリムゾン・プリンス』だったか」
「その第三高校から注文が入ったのですよ、決勝戦では始まると同時に一分間の防御を撤廃して本気で打ち合いたいと一条将輝が言っていたとね」
「大会委員会は主催者である私と烈様に相談があったのですが、だったら本人に聞いた方が良いと思いましてな」
なるほどな、名無しがハンデ背負っているのを撤廃させて本気を出させるのが目的か。だが俺の本気は一瞬で終わらせてしまう程の力を持っているのは、烈も青木も知っている事だ。あちらが本気の試合を望んでいるのであれば、俺も本気でやりたいが本当にいいのだろうか?
「オーダー内容は分かったが、本当にそれでいいのか?正直言って、滅だけで終わらせてしまうぞ。それを使わなくとも、氷柱十二本全てぶっ壊すくらいの力を持っているのは烈も知っているだろう?」
「私もホントなら断るつもりでいたが、断る理由が思いつかなかったのだ。零家の指示でなら、断られたと今思いたいですな。手を抜いていると知れば、今まで戦ってきた選手に侮辱を与えてしまいます」
「なるほど、そういう事ならしょうがないから本気でやるしかなさそうだ。だがこれだけは言わせろ、大会委員会には後悔する程一瞬で終わらせてやるとでも言っといてくれないか?烈」
「おおー承諾してくれるか、ならば私が責任を持って大会委員会に言いましょうぞ。後悔する気なら、既に遅いとでも言っときましょうか」
という事で、女子ピラーズ・ブレイク決勝戦は第一高校の深雪対雫となった。その後は、男子ピラーズ・ブレイク決勝戦としてハンデ無しである名無し対一条将輝となるから会場は盛り上がるだろうなと思った。そんで俺はまた分身体である名無しを隣にいさせてから、途中で別れた烈と青木に護衛者の大地。俺は二人のデバイスチェックをする為に選手控え室にと向かった。
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