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機動戦士ガンダムSEED編
番外編 第2話 クルーゼ隊の三人のその後Ⅱ
前書き
時系列的には原作12話辺りの話。
「……うっ、ここは………?」
「!意識を取り戻したのだね。ここは医務室だよ。イザーク・ジュール君」
ザフトの宇宙艦艇ローラシア級ガモフ。その中の医務室のベッドにて少年は目を覚ました。彼の名はイザーク・ジュール。クルーゼ隊所属のザフトの軍人であり赤服の一人である。
「な、何故俺は医務室に……」
「どうやらまだ意識の混濁があるようだね…。そうだな、まず怪我の具合はどうだい?」
「怪我…? ………ッ!」
イザークは医師に言われやっと自覚したがその姿は酷いものだった。全身に包帯が巻かれ、身体中に刃物で刺されたかのような激しい痛みが襲って思わず顔が歪む。特に酷いのは顔の右半分だ。この部分にも包帯が巻かれているが痛みが他の箇所と比べてもかなりのものだった。
「おっ、俺は…何故こんなことになっている………」
「やはりまだ回復していないようだね。…君がこうなった理由は知っている。しかし、あまり聞いていて気分のいいものではないだろうが…聞くかね?」
「当然だ!いいから理由を話せ!」
「わかったよ。……君は任務で連合の新型MSとその運用艦の追撃の為出撃したが、そこで出くわした敵MSと戦闘を行い機体諸共負傷。その後撤退命令が出されこのガモフに帰還。君はそれによりこの二週間近くずっと眠っていたという訳だ」
「なっ、何ッ!………うっう」
医師の言葉を聞いて驚くイザークだが、突然頭を抑えだし何やら苦しみだす。
「(そうだ。俺は足付きの追撃に出て、そして……奴と戦った)」
イザークは思いだした。自分のこんな状態に追いやった元凶を。テブリ帯にて戦ったアークエンジェルに味方していたジン。そして…
「(……ディアッカ)」
この怪我の直接的原因はディアッカの駆るバスターが放った砲撃がデュエルに直撃したことにあった。その時の状況からして恐らくジンに盾代わりにされたのだろうと何となくイザークはわかった。
それを思い出した途端、イザークの心は怒りに燃えていた。自分を盾代わりなどに使った挙げ句トドメもささず自分を生かしたジンに………そして、ディアッカにも言いたいことができた。
「…ディアッカ達はどこにいる」
「彼らならこの艦に乗っているよ。君達の追撃対象だった艦があの第8艦隊と合流したようでね。ヴェザリウスも合流して現在襲撃作戦の準備に取りかかっている」
「…ディアッカ達を呼び出して欲しい。それと、その作戦に俺も参加することはできるか?」
イザークの発言に医師は驚愕の余り目を見開いてしまった。何せイザークの怪我は完治どころかまだ安静にしていなければまた傷が開きかねない程なのだ。医師は医療を志す者としてその行為を認める訳にはいかなかった。
「ディアッカ君達を呼び出す事は可能だ。君が目覚めたと聞いたならすぐにでも駆けつけてくるだろう。しかし、君の出撃は容認することはできない」
「何故だ!!?」
「君の傷はとてもじゃないが戦闘に耐えられるものではない。そんなことをしたらまた傷が開いて今度は本気で死ぬ可能性だってある。医者としてそのような重体の患者を危険に晒す事はできない」
「なら、俺にただ指をくわえて待っていろとでもいうのか!」
「そうだ…それ「ふざけるな!!」……!」
イザークは血が滲む程拳を握り締め、鬼のような形相で医師を睨みつける。その迫力に医師は思わず後退りしてしまった。
「奴は……あのジンのパイロットは俺を盾代わりにした挙げ句、トドメもささずにそのまま放置したんだ!俺に殺す価値がないとでも言いたいのか、あのパイロットは!!」
尚も拳を握り締め、額に青筋を立てながらイザークは己の激情を吐露していく。
「このままにしておけるか……あんな裏切り者のコーディネイターなんぞに負けたままで終われるかッ!!」
イザークはジンのパイロットの事を自分達と同じコーディネイターと思っていた。
彼はナチュラルを幼い頃から見下して生きてきた。ナチュラルなど自分達コーディネイターの足元にも及ばない存在で、その中でも優れた能力を持つ自分はエリートなのだと本気で信じて生きてきた。
だからこそ寄りにもよってナチュラルの味方につき、尚且つ自分を打ち負かしたというのにトドメをささなかったジンのパイロットにここまでの憎悪を抱いているのだ。
「裏切り者のコーディネイター?だが、そのジンのパイロットがコーディネイターだと判断できる証拠はないと聞いているが?」
「何を言っている!貴様は俺がナチュラル如きに負けたとでもいうのか!!そんなことがある筈がない。いや、あって堪るものか!!」
実は医師の言ったことが正解だとは夢にも思っていないイザークであった。しかし、イザークはジンへの憎悪で正常な判断ができなくなっている上、元々ナチュラルを見下している為その答えに辿り着くのは無理な話だろう。
その後も必死に説得を繰り返したが、効果は得られずこの様子では自分の話など聞く耳を持たないだろう。医師はそう判断しニコルに説得を頼む事にした。
ディアッカは説得どころではない為無理だろう。となるとニコルしか頼めるものはいない。自分には出来なくても彼と付き合いの長い彼なら可能性があるかもしれないと、そう考えて………
「………」
「ディアッカ……」
ディアッカとニコル。二人は今、医務室の前にいた。
十数分前、医務室の医師よりイザークの意識が回復したと伝えられた。それを聞いた二人は急いで医務室にやってきたのだが、いざ入る直前になってディアッカはその場に立ち尽くしてしまったのだ。
「…イザークならディアッカの事を責めたりしませんよ。彼のことだから何だかんだ言っても許してくれる筈です」
「………」
「ですから…」
「…今更どんな顔して会いにいけってんだよ」
「……」
「あいつを撃ったのは俺だ。例えあいつが許してくれたとしても、その事実は変わんねぇんだ。それなのに……」
ディアッカの心には未だに自分の手でイザークを撃ってしまったことが深く根を下ろしていた。自分にはイザークに会う資格などないのだと。だからだろうか、扉の前まで来ておいてその先へ行くことができない。
「(ディアッカはまだ自分を許す事ができないでいる。でも、先生に頼まれたイザークの説得は僕一人では無理だ。…できればこんなやり方はしたくはないけど仕方ない………)」
ニコルはここに来る前、イザークの担当医からある頼み事をされていた。
「イザーク君が例のジンにリベンジすると言ってきかない。イザーク君の傷はまだ安静にしていなければならない程酷いものなので二人には説得を頼みたい」
と、そう通信で言われたのだ。しかし、ニコルはディアッカがいなければ説得は無理だと考えている。イザークは一度やると決めた事は誰に何を言われようとも実行しようとする所がある。それも自分のプライドに関わる事には特にだ。そんな状態のイザークは自分が何を言っても聞く耳をもたないだろう。
だが、そんな彼でもディアッカのいうことならば聞く可能性がある。ディアッカとイザークは士官学校から仲がいい。親友同士といってもいい位に。それなのにそのディアッカが説得に参加してくれなければとてもではないがイザークを止められる自信がない。
ニコルは説得に参加してもらう為その迷いを払拭させようとディアッカに語り掛けた。
「そうやって逃げるんですか」
「!」
「怖いんでしょう、イザークに拒絶されるのが。だからここまで来ておきながら理由をつけて逃げようとしている」
「ち、違う!俺はそんな…」
「同じ事ですよ。あの時の事に罪悪感を感じているのなら、尚更イザークに会うべきです!今のあなたはやるべきことから逃げているだけですよ!!」
「やるべき…こと……」
ディアッカはニコルの今の自分の状態を述べた言葉を聞いて確かにそうだと思った。自分はこいつが言っているように逃げていたのだと。イザークに対しての負い目もあるが何より、ただただ本人に直接拒絶される。それに、とてつもない恐怖を覚えていたんだとこの時ディアッカは感じた。
「それに、先生に聞いた話によるとイザークは次の作戦で出撃しようとしているみたいです」
「なっ…!それ本当かよ!?」
「はい。それもまだ安静にしておかなければいけないようですが、今出撃すれば命の危険もあると」
「そんな…! ……イザークの奴!」
「(こんなやり方はしたくない。だけど、このまま作戦に望んであのジンと戦う事になったら今のディアッカでは無事では済まない。だから…!)」
そんな時、医務室の扉が開かれ中からイザークの主治医が出てきた。
「ニコル君、それにディアッカ君も……」
「先生!イザークが出撃しようとしてるって本当かよ!!?」
「あっ、ああ…。私も止めようとしたが全く聞く耳持たずでね」
「…!」
「ディアッカ!!」
「ちょ、ディアッカ君!!」
ディアッカは主治医の言葉を聞くなり主治医を押しのけ、強引に医務室へと入っていった。
「イザーク、何考えてんだお前!?」
「ディアッカ……!?」
イザークは突然医務室に入ってきたディアッカに驚いた。だか、何の用で自分の前に現れたかイザークはすぐに見当がついた。
「…お前も俺の出撃に反対しに来たのか」
「ああ。…その怪我で出撃なんて無理だろ。何だってそんな……」
「決まっている、奴に俺をコケにした事を後悔させる為だ!このような傷如きで諦める訳が…」
「そのジンが、クルーゼ隊長を退けたとしてもですか?」
「ニコル…!」
イザークはディアッカと同様に突然のニコルの登場に驚くが、それ以上に聞き捨てならない内容をニコルが話したことに食いついた。
「クルーゼ隊長をあのジンが退けた?どういう事だそれは!!」
「そのままの意味だよ。その場にいたアスランの証言なんだ。間違いねぇよ」
「アスランの…?だが、ますます訳が分からんぞ!何故そうなったか話せ!!」
「ええ。ちゃんと話します………」
その後、イザークはニコルとディアッカから話された内容に驚愕の表情を浮かべた。ラクス・クラインが足付きに人質にとられ、数時間後にストライクに返還されたが、クルーゼがその隙を突きストライクを撃破しようとしたところ例のジンがその場に乱入。クルーゼのシグーと戦闘に突入し手傷を負わせてほぼ五体満足の状態でクルーゼを退けたという事実に。
「そんな相手に、重傷を負った状態で挑むなんて自殺行為に等しいですよ」
「だが……俺は!!」
しかし、それを聞いてもイザークは尚も出撃の姿勢を止めない。自分の思っていたよりも恐ろしい強敵だというのは頭では理解した。だが、このまま負けたままで終わるのはイザークにはとてもではないが耐えられるものではない事だった。
だが、尚も出撃の意志は取り消さないとニコルに言おうとしたその時、ディアッカが唐突にこう言い放った。
「俺は…お前に死んでほしくない」
イザークにとってそれは侮辱に等しい言葉だった。こいつは俺が今度こそジンに敗れ、死ぬ事になるとでもいうのかと。
「ディアッカ!貴様、俺が死ぬとでも言いたいのか!!!」
「俺は………お前を撃っちまった」
「……!」
「俺がお前をそんな風にしちまったんだ。……そんな奴が何を言ってるんだって思うかもしれないけど、お前が目を覚ましてくれて、ホントに嬉しかったんだ。だからよ、せめて怪我が治るまでの間は無茶はしないでほしいんだ」
「………」
…医務室の中をしばらくの間静寂が支配した。その間、誰も口を開こうとはしなかった。
だか、その時間も終わりを迎える。イザークは舌打ちをしながらこう呟いたのだ。
「……わかった。今回の出撃はやめておく。ただし!俺が戦場に戻るまでにお前達が無様な戦いぶりをしているようなら、ただじゃおかんぞ!!!」
「イザーク……!」
「わかったならさっさとここから出ろ!…俺は寝る!」
「行きましょう、ディアッカ」
「…ああ」
イザークは出撃を取りやめてくれた。ディアッカとニコルは肩の荷が下りる気分だった。少なくともこれでイザークがこの作戦で死ぬ可能性は無くなったと言ってもいいだろう。
そして二人は去り際、イザークのこんな声を聞いた。
「…ああ、これは独り言だがな。ディアッカ、俺はあの時の事は全く気にしておらん……」
「!」
「(……良かったですね。ディアッカ)」
こうして、二人は医務室を後にした。これより24時間後、この二人は第八艦隊との戦闘に臨む事になる。
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