ベアトリーチェ=チェンチ
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1部分:第一章
第一章
ベアトリーチェ=チェンチ
「絵を見に行かない?」
「絵を?」
「そう、絵をね」
彼女は僕にこう言ってきた。
「見に行かない?今展示会が開かれているのよ」
「ああ、そういえばやってるって聞いたけれど」
「大学でね。それに行きましょう」
こう言って誘って来るのだった。
「今からね」
「うん、それじゃあ」
まずはそれに頷く僕だった。
「行こうか。けれどさ」
「けれど?」
「どんな絵なの、それって」
行くことにはしたが具体的にはどんな絵を見に行くのかわからない。それで彼女に問うたのだ。どんな絵を見るのかがそれが問題だからだ。
「どんな絵なのかな」
「レーニっていう人の絵があるらしいわ」
「レーニ?」
「知ってるかしら」
「何処かで聞いたことがあるような気がするけれどね」
確かに何処かで聞いた。しかしそれを何処で聞いたか見たのかはよく覚えてはいない。画家といえばゴッホとかそうした名前を思い出すが今はそうはいかなかった。
「さて、誰だったかな」
「わからないのね」
「悪いけれどね」
申し訳ない顔で答えることしかできなかった。
「どんな人だったかな」
「まあそれは行ってみてからのお楽しみね」
彼女はまた笑って言ってきた。
「それだったらね」
「そうだね。そうなるね」
「他にも色々な画家の絵があるらしいわ。そうそう、何か凄く奇麗な女の人がこちらを振り向いている絵が宣伝のポスターに載ってたわ」
彼女は僕にこのことも話してきた。
「それがね。見たこともないような美人でね」
「そんなに美人なんだ」
「そうなの。私の次位にね」
今度は冗談でこんなことを言ってきた。
「美人だったわよ」
「へえ、そりゃ見てみたいね」
僕も笑ってその冗談に合わせた。
「是非ね。それじゃあその絵を見にね」
「行きましょう」
こうして話は決まった。僕達はそのレーニという画家の絵と美人の絵を見に行くことになった。次のデートでもあった。デートの場所としては申し分ない。
それでその日曜に行くことになった。行くとであった。
待ち合わせ場所の彼女はデートに相応しく所謂お洒落をしていた。画廊に行くということを意識してか品のある服を着て待ち合わせ場所の本屋に来た。
白いスーツと膝までのタイトスカートだ。いつものローライズのジーンズじゃない。それに髪も長い髪を奇麗に束ねて化粧もしっかりとしている。その姿で来たのだ。
「待った?」
「こういう場合は今来たところだよって言うのが礼儀だろ?」
「うふふ、そうね」
「けれど今来たところだよ」
これは本当のことだった。本当に今来たばかりである。僕にしてもいいスーツを出そうとあれこれ悩んだからだ。結果持っている中で一番のお気に入りを着て来た。
「今ね。来たばかりだよ」
「そう。それならいいけれど」
「うん、じゃあ行くか」
「少し本を探していたい気もするけれど」
「それは後でいいじゃない」
それはいいというのであった。
「後でね」
「後で?」
「そうよ。それよりもね」
彼女の方から言う。普段はそれ程でもないのに何故か今回は相手のリードで進んでいる。けれどそのことについて悪い気はしてはいなかった。
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