エターナルトラベラー
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第四十四話
会議室に移動すると、そこにははやて部隊長とヴォルケンリッターの面々。なのはさんやフェイトさんといった隊長達。俺達と一緒に入ってきたユーノさん。シャーリーをはじめとした技術者の面々が揃っていた。
会議室のイスに座ると、はやてさんが俺達に話しかけてくる。
「それで?なのはちゃんの話だと、君たちは今回の事件に有用な情報を持っているって聞いたけれど、教えてくれるかな?このグリード・アイランドって言うゲームの事」
はやてさんの話が始まると俺達以外のメンバーの視線が一斉に此方へと向けられる。
「最初に言っておく事があります」
俺は言葉に覇気を込めて発言する。
「何かな?」
「俺達がしたいのは情報提供ではなく、交渉だと言う事です」
「どういう事なん?」
「詳細は後ほど説明するとして、今は簡潔に。
俺達はそのグリード・アイランドをプレイしたいんです」
その言葉に怪訝そうな視線を向けてくる。
俺の少ない言葉からでも言わん事をしている意味を推察したはやてが応える。
「つまりはその条件を飲まなければ情報提供はしない言う訳か?」
「そうです」
「おめぇ!」
「やめろっ!」
ぐっと乗り出そうとしたヴィータをシグナムが止める。
「だけどよぉ!人一人の命が掛かっているんだぞ!それなのにあいつらはそれを逆手に交渉なんて!」
人命優先。
その考えは立派だし、尊敬もする。
だけど、今の俺達には知らぬ誰かの命よりも自分たちのいた世界に帰る方法が欲しい。
「今は時間が惜しいのは分っているだろう。それにあいつらにも譲れないものがあるのだろう。…昔の私達みたいにな」
「………」
シグナムのその言葉に何か思うことがあったのだろう、ヴィータはそれ以降口をつぐんだ。
「……その条件を飲むしか無いのやろうな」
はやての口から出たのは了承の言葉。
「同意が得られたようなので、持っている情報を開示したい所ですが」
「まだ何かあるんかいな」
「…魔導師の人以外…いや、そうですね…非魔導師及びBランク以下の人は退席してもらえませんか?」
「それは何でや?」
「語る内容で理解してもらえるとは思うのですが、余り聞かせるべきではないと判断しました」
「私らが聞いて、私らの判断で話しても良いと考えた際は話してもかまわへんな?」
「そう判断されたならばご自由に」
その言葉にはやてさんは暫く考えた後、退室させた。
残ったのはヴォルケンリッターと隊長陣、それとユーノさんだけ。
ほぼ地球組みの身内のみの構成だ。
「さて、此方の情報を提供する前に、どの位そちらはあのゲームについて調べてあるのか聞きたいのだけれど。どうやってその人の手に渡ったのか、どうして起動させてしまったのかとかは俺達には関係ないので省いてもらってかまいません」
その質問に答えたのはフェイトさん。
「えと、ゲーム機本体は管理外世界の275番の型落ちの家庭用ゲーム機。搬入経路はいまだ捜索中だけど、管理外の275番はここからだとかなりの距離がある、次元航行艦で約二ヶ月ほど。だから現在私たちは近隣の世界にある情報しか持ち合わせていないし、直接管理局員を向かわせることも出来ていない。」
あの世界。ジンたちの居る世界はここからだと結構遠い所にあるらしい。
しかし、本体に吸い込まれるようにして消えたと言う事は、念の力に対しては次元も空間、世界さえも超越したと言う事か?
「それと、捜査チームが一応このゲームの説明書を発見、翻訳してみたんだけど…書かれていた内容が要領を得ない。
被害者がゲーム内に取り込まれたと仮定して、説明書に書いてあったその発動キーである『発』と言う行為が不明で、一応対策チームの人が書かれている通りに手をかざして見たけれど、変化無し。
魔力を流すと発動するのかと推察し、行使してみたけれど変化は無い。
現状では対策は行き詰っている状況だから、君たちからの情報が頼みの綱なのだけれど…」
ふむ。
なるほどね。一応考えうる手段は行使した後だったか。
フェイトさんの報告を聞いた後、俺は考えを纏めて言葉をつむいだ。
「推察の通り、グリード・アイランドはゲームの中に複数の人を転移させ、閉じ込めるるものと思ってくれていいです」
俺の言葉でどう推測しただろうか。
可能性の一つには、VRMMO系の小説にある電脳空間に取り込まれ系デスゲームのテンプレも考慮していたのではないか?
俺の今の言葉には嘘は無い。
しかし、肯定しているようで、実際はぼやかしている。
実際は電脳空間ではなく、現実で行われているのだが、それを言うべきではないと判断したからだ。
「問題なのは、多人数参加型のゲームである点。つまりMMOに酷似していてプレイヤー同士の軋轢を生みやすいゲームだと言う点。
さらにコレは救助にあたるに付いて難点なんですが、このゲームはある能力の育成を視野に入れたゲームであり、当然プレイヤーもその資質が無くてはなりません」
「資質って?」
すかさずフェイトさんが問いかけてくる。
「『念』が使えること。まあ本当に初歩の初歩でも出来れば条件は満たすみたいですが」
「「「「「念?」」」」」
あ、ハモった。
俺達以外の人たちの口から漏れたそれがこのゲームでは必須のもの。
「念について、普段の俺ならばこんな大組織には絶対に絶対にぜっっっったいに!教える事は無いんですが…」
大事な事なので、『絶対』を三度も強調。
とは言え、元の世界に帰る算段が付いたし、帰ってしまえばこちらに干渉することも出来まい。
そう言った理由で、多少の事は譲歩する。
「それほどのものなん?」
皆の心内を代表してはやてさんが聞き返した。
「そうですね、もし広まれば今の社会が崩壊してしまうほどには」
「そ、そんなに!?」
流石にその言葉は衝撃だったようで、はやてさんの目が見開いた。
「念とは生命エネルギーを操る技術であり、その利便性は多岐にわたります。勿論、戦闘に転用する事も可能であり、フィジカル面では魔法よりも上です」
「魔法でも身体強化の魔法はあるが?」
そう言ったのはシグナム。
「これは俺達が使用してみての感想ですから、データを取ったものではありませんが、魔力素と言う外部エネルギーよりも、自分の体から溢れる生命エネルギーの方がなじみやすいと言うか何と言うか…」
「あ、うん。それはわたしも感じてた。何て言うか、魔法だとゴワゴワしてる感じだけど、念だと自然体でスッって言う感じ」
あ、なのは!今の発言は迂闊だ。
シグナムやフェイトさんやはやてさんの視線が一瞬なのはの方へと向けられて、その言葉からなのはも念が使えるのでは?と悟られてしまったようだ。
シグナムは二言三言なのはさんと話した後に俺に向き直って質問する。
「今の不破なのはの発言から、後天的な発現が可能な技術だと推察するが?」
高町なのはは使えないが、不破なのはは使える技術。
それを鑑みれば自ずと答えが分る。
「…ソレが一番問題でしょう」
一同が納得する中、なのはとフェイトは疑問顔。
「な、なんで?」
なのはが俺に尋ねた。
「この世界(ミッドチルダを始めとする管理世界)では魔導師資質が重要な要素をしめる。誰が提唱したのかは分らないけれど、質量兵器よりもクリーンなエネルギーとして、また、武力として治安維持に貢献している。
…まあ、私的な意見を述べるなら、魔法も質量兵器も人を傷つけるものである事に変わりは無いと思うのだけれど…」
「っで、でも!魔法は肉体を傷つけずに犯人を捕らえる事も出来るよ」
だから魔法と質量兵器を同一視しないでとでも言いたいのかな?なのはさんは。
「…でも、俺は魔導師の方が質量兵器よりも怖いけれどね。個人で行使出来る能力で、その質量兵器を凌駕している所とか、ね?
確かに非殺傷設定は有るけれど、殺せない訳では無いでしょう?」
「っう…」
俺の反論に言葉が詰まるなのはさん。
「つまりは最終的に使う人の問題であって、兵器や魔法に優劣が有る訳じゃないと思うのだけど」
「…わたしもそう思う」
少し考えた後、なのはもフェイトも同意した。
この辺がなのはさんと根本的に違う所か。
小さい頃から持っている力が他の人よりも強かったなのはにはそれを考えさせる事を多くさせて来たつもりだしね。
だからなのははなのはさんの様に魔法は素晴らしい力だとは思っていない。
それよりもずっと恐ろしいと思っている。
自分がその気になれば海鳴の街など物の数分で廃墟に出来てしまうからこそ、その力をきちんと制御しようと努力したし、それゆえの強さなのだ。
話がそれた。
「魔導師が優遇されているこの世界。だけど、非魔導師(魔導師資質が低い人)も大勢居る。
持っている人は、持たざるものの事は分らない。だけど推察くらいはできる。
先天性だけに、彼らは憧れるんじゃないか?強い力に。そして絶望する。逆立ちしても自分ではその舞台に上がれない事に。そんな中、誰でも訓練すれば使用できて、尚且つ魔導師に拮抗できたら?そんな力を手に入れた人たちはどうするだろう?
今までの不満が一気に爆発するんじゃないか?ソレはとても怖いことのように俺は思う」
俺の言葉を聞いて、未だに全てを理解したわけではないだろうが、事の重大さは理解できたのか、なのはが神妙に頷いた。
それを確認して俺は言葉を繋ぐ。
「俺たちはこの技術を貴方たちに伝授する事は絶対に無い」
「たしかにな。
今の話を聞くとおいそれと聞く事もできへんな。つまりそれが非魔導師を退出させた理由やね。
この事実を耳にすればいつかはその技術にたどり着いてまう。その人が魔導師に劣等感を持っていたら今言ったような事も起こり得る。
だけど、高ランク魔導師ならば幾らかその危険性は下がる。わざわざ自分の優位を崩す必要性は無いと言うことか?…それに、私は残ったこのメンバーは他言しないと信じとるけれどな」
まあ、ほぼ身内のみだしね。
「で、でも!ここに居る人くらいには教えてくれても良いんじゃないかな?向こうのわたしは使えている訳だし、わたしはその念?って言う技術も習えば使うことは出来るんだよね?それが無いと被害者の女の子の救出に行けないんじゃないかな」
管理局員としての正義感からか、なのはさんがそう詰め寄った。
「一日二日で物に出来る技術が有ると思う?魔法だって日々の反復練習が基本でしょう?」
「…それは、…そうだけれど」
なのはさんが少し勢いを失ってから食い下がった。
「で、でも!その、本当に初歩さえ出来ればゲームの中には入れるんだよね?だったら後は無理にその念?を使わなくてもわたしたちには魔法があるし」
でもその考えは浅はかだ。
「魔法で何でも解決できると言う考えはやめた方がいいです。その力は特殊な立地条件下のみでそのポテンシャルをフルに使える技術だと言う認識が必要です」
「……どう言う意味かな?」
「現にこの世界でも高濃度のAMF下では魔力結合がうまく行かずに管理局員も苦戦を強いられてますよね?」
「…魔法を無効化する敵なんて今までは余りいなかったからね」
その指摘にすこし眉間にしわを寄せながら答えた。
「それに魔力の回復には周りの魔力素の濃度も関係している。薄すぎるのは言わずもがなだが、濃すぎるのも良くない」
「アオくんはゲームの中には魔力素が存在しないって言いたいんか?」
はやてさんがそう聞き返す。
地球やミッドチルダ、それと魔法技術が発展した世界では魔力素が適性値の濃度で存在している。
しかし、世界は数多く存在する。
その中には魔力素の無い世界だって有るのは、ここに来ての勉強で知りえた事だ。
あの世界には魔力素が有るのか無いのか実際は分らないけれど、ここで無いかも?と、思ってもらった方が好都合。
「可能性の問題です」
確かに、と、はやてさんは頷く。
「だったらどうすれば良いの?被害者を見捨てろって言うの?」
なのはさんが少し怒気を上げて俺に尋ねた。
「そこで取引です」
その言葉に少し場の雰囲気が緊張する。
「俺達が中に入ってその少女を助け出してきます。…まあ、一度プレイした事はあるので、無事に帰ってこれる手段も知っていますし、あなたたちが行くよりは勝算が高いでしょう」
「それなら最初のプレイしたいと言う願いも叶えられるな。せやけど、それだけじゃないんやろ?」
当然です、と前置きをして話を続ける。
「まず、念能力の秘匿を徹底してください。余計な混乱は避けるべきです」
「当然やな。危なすぎて公表できへん」
「それと、長期に渡ってのゲーム機本体の保管。これを六課で行ってもらいたい」
「長期ってどの位や?」
「さて、半年か、一年か…ゲーム内での時間はリアルタイムで経過しますし、頻繁では無いでしょうが戻ってくる事も有るかと。
その時に例えば…そうですね、海中とか火山の火口とかに在ると俺達が死にます」
「…ていうか、そんなとこに有ったらまずゲーム機が壊れへん?」
「言ってませんでしたが、グリード・アイランドはプレイヤーがプレイ中ならばその本体はそれなりの衝撃や環境に耐えるほどに頑丈です。これは流石に本体が壊れたらゲーム機に囚われたままと言う事に対する危惧への対策といった所ですか?
まあ、造ったのは俺達じゃあ有りませんから本当の所は分らないんですけどね」
なるほど、と一応納得したようだ。
「そう言えば、なにやら話が複雑になりすぎて聞いてなかったんやけど。あんたらはどうしてグリード・アイランドをプレイしたいん?」
あ、そう言えばはやてさんにはまだ言ってなかったっけ?
「帰る手段がようやく見つかったのですが、それには必要なものが幾つかありまして。それを得るのにはどうしてもグリード・アイランドをプレイしなければならないんですよ」
「そうなん?しかし、ゲームをプレイして手に入るものなん?」
「恐らくは。…これ以上の詮索はして欲しく無いのですが」
「まあ、動機が分ったからいいけど。
ほんなら、あんたらに被害者の救出をお願いしても良いか?本来ならうちらが行きたい所やねんけど…行けないんやろ?」
「ええ」
「ほんなら…」
「ちょっと待って、はやて。まだその念って言う技術が本当にあるかどうかもわからねぇだろ!こいつらが嘘ついているだけかも知れねぇし」
話がまとまりかけた所でヴィータが待ったを掛ける。
ようやく纏まりかけた所に冷や水を差されて俺は少しイラッとして噴出したオーラを攻撃性の意思を込めて対面に向かって拡散させてみた。
「ひっ」
「あっ」
「何これ!」
「うぅっ」
対面にいるはやてさん、なのはさん、フェイトさん、ユーノさんの小さな悲鳴。
「どうしました?主」
「なのは!何かあったのか?」
「はやてちゃん!」
シグナム、ヴィータ、シャマルがはやてさんを心配する声を上げる。
心配された本人たちは両手で自身の体を抱きながら震えている。
「アオ!」
「お兄ちゃん!」
「なのはさん達が可哀想だよ!やめてあげて」
ソラ、なのは、フェイトはそう言って俺を嗜めた。
三人の言葉で興もそがれたことだし俺はオーラの噴出をやめる。
「何をした!」
キッっといつもより吊り上った目をこちらにむけてにらみつけるヴィータ。
「念がどう言ったものかと問われたので、俺のオーラ…生命エネルギーの事ですが、それに攻撃的な指向性を持たせて拡散させただけです。
どうです?凄く嫌な感じがしたでしょう?」
「凄く怖かったわ」
「うん、体中をドロっとしたものに這い回られるような」
「あまり、いい気分では無いかな…」
三者三様の答え。
「生命エネルギーは動物ならば誰もが微弱に垂れ流しているものだから感じるものが有ったようですね」
「……我々はなにも感じなかったのだが?」
シグナムが片膝を着きはやてさんの様子をうかがっていた体勢のまま此方を向き問いかけた。
「念は生命が発するエネルギーです。そう言えば貴方なら分るんじゃないですか?」
「……なるほどな。どうして貴様にはバレたのか聞きたいものだが」
原作知識を知ってますから。
とはいえ、相手のオーラの流れを視覚化すれば自ずと分る。
「念能力は念能力者しかそのエネルギーを例外(具現化系等)もありますが視覚化できません。逆に言えば念能力者は相手の体から発せられる生命エネルギーが見えるということです。通常、どのような生物でも微弱に発しているものなのですが」
「私たちからは生命エネルギーの発生が感知されないと」
「はい」
おそらくシグナムたちは高魔力が物質化したもので、それらが生物をエミュレートしているのではないか?
まあ、仮説だけれども。
「だから、俺の放った念に対して何のリアクションも返せなかった、それは…」
「いや、いい。分っている」
俺の言葉は途中でシグナムに止められた。
「まあ、今のはただ拡散させていただけですが、コレを密集させて纏わせると…」
そう言って俺は俺たちに提供されていた羊羹についてきた小さいナイフのような竹楊枝を手に取ると、オーラを纏わせて強化する。
「うん?そんな竹楊枝でどないするん?」
俺はゆっくりと刃の先端をテーブルに当てるとゆっくりと手前に引いた。
まるでプリンのようにスッと進入していく竹楊枝を驚愕の目で見つめている六課メンバー。
「っとまあ、こんな事も出来るんですよ」
「………切れてる」
信じられないものを見たという表情のはやてさん。
「身体強化の魔法ではこうはならない…だとすれば強化されたのは楊枝の方。だけど硬度が増したからといってあんなに簡単にテーブルが切れるはずは無い、か」
さすがにユーノさんは学者ゆえに着眼点が良い。
「シグナムなら同じ事できるか?」
はやてさんがシグナムに問いかける。
「……専用のデバイスがあり、相応の魔力に技術と威力、速度があれば机を切り裂く事は可能です…が、私には…と言いますか、魔導師にはありふれた楊枝で机を切り裂く事など不可能です」
「せやね。魔法陣も展開されてなかったから魔法と言うわけでもない。一応その楊枝をこちらに渡してくれるか?」
「はい」
俺は手に持っていた竹楊枝を向かいのはやてさんに手渡す。
それを持ち直して俺がやったのと同様に机に押し付けた。
べキッ
小気味いい音を立てて竹楊枝は折れたようだ。
「……やはりただの竹楊枝やね」
「勿論シューターのようにオーラを撃ち出す事や、オーラを電気などのものに変質させる事も修行をを積めば可能です。
そう言った技術なんですよ。それでいて念能力者で無ければその攻撃を感知できない」
「…それは、恐ろしいな」
シグナムの独り言。
しかし、それは皆が思ったことのようだ。
「念の詳細はこれ以上は秘匿します。
さて、それよりも被害者の救出の方、いつから向かえばいいんですか?時間はリアルタイムに経過します。取り込まれてからすでに二日。食料も水も無い状況ではぎりぎりなのでは?」
「え?バーチャルなのにお腹が減るん?」
「お腹も減れば怪我もします。そして、死は現実での死です」
「……それは急がないとな。直ぐにでも行ってもらえるか?」
「構いませんが、幾つか必要なものが有ります」
この後は詳細を詰めるだけで短時間ですんだ。
用意してもらうものの中には水や食料、さらに重要な物としてマルチタップとメモリーカード。
あの世界の純正品は手に入らないかもしれないが、科学技術の発達が大きいこの世界なら直ぐにでも作り出せるだろう。
幸いにも数時間で全ての準備が整った。
それまでの間に家族会議が行われ、誰が行くのかを話し合わねばならなかった。
出来れば俺とソラの二人だけで行こうと話し合ったけれど、なのはとフェイトが頷かない。
帰る手段を入手しに行くのに待っているのは嫌だそうだ。
残った方が安全は確保されていると言い聞かせようとしたのだが、尚更二人だけでは行かせないとなのはが食い下がる。
フェイトも念の修行が出来るならば行きたいと言っている。
「連れて行こうよ。アオも残したら残したで心配でしょう?最悪、自分たちより強い敵に会ったら封時結界張ってしまえば完全に隔離できるだろうし、魔力素が無くても今の魔力で最低限は行使できるでしょ」
確かに封時結界ならば張った本人が許可しない限り非魔導師を弾く事は出来るだろうから、瞬時に安全を確保できるだろうけれど…
その隙も無く殺される危険性もあるのだが…
話し合った挙句、押し切られる形で皆で行く事になりました。
どんな事があろうとも彼女らは守らないとな。
そう決意した俺だった。
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