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鋏と花

作者:朽散
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鋏と花 第二話 ファンクラブ

 
前書き
お姉さま回です(キリッ 

 
 静桜高校部活棟最上階4階、その奥の奥。人気も少なく、薄暗い廊下は不気味な雰囲気がある。
 しかし、その雰囲気に似合わないものがひとつ。
 目の前の扉である。
 別に華麗な装飾がされているというわけではない。ほかの部室とそう変わりはない。のだが。
 「タチバナ様ファンクラブ本部」と書かれたネームプレートがつけられている。というのも俺の目的地はここなのだが…。
「さすがに分かり易すぎだろ!」
 男で、しかもタチバナが女だと知っている俺がここに来た動機は、ほんの数分前、HRが終わって鞄に教科書を詰めているときだった。

「ねーねー、おんなじクラスのタチバナ君ているじゃん」
「あー、あのすっごいイケメンの?」
「そうそう!実はさ、ファンクラブがあるんだって…!」
「まーあのかっこよさだしね。それに1年の時から有名だし…確かにありそうだよねー」
「し・か・も!会長はあの生徒会長って噂もあるんだって…!!」
「えー嘘くさいなぁ。だってあの文武両道、博識美人な人だよ?それにそのファンクラブ入ってる人、見たことないし」
「まっ、私も信じてないけどー。あの生徒会長がファンクラブ会長なわけないしー」
「だよねー。あ、そうそう―」

 という女子の会話を聞いたからだ。タチバナ本人は知らないだろうから、この目で確かめてみようと思ったのだ。ってのはまぁ、口実なのだが。
 本当は『生徒会長』という言葉が引っかかったのだ。その言葉に嫌な予感がする。
 気持ちを改め、毎日ちゃんと掃除されているのか、きれいなドアをノックする。
「は、はーいっ」
 慌てたようなどこかで聞いたことのある声がドアを開く。
 出てきたのは、特徴的な薄紫の切りそろえられた髪をツインテールに結っている女の子だった。…どこかでみたことがあるような気がする。
「げっ、サクライなんであんたがここに…っ」
「げってなんだよげって、シラウメ」
 思いだした。シラウメ モモカ、同じクラスの女子で、確か初めてのHRの自己紹介で「男が嫌いだ」といっていた。しかし、男が嫌いなはずなのにどうしてここにいるのだろう。
「なれなれしく名前を呼ばないで。そんなにあたしの名前が呼びたいなら1万払ってよね」
「高いな。一回につきってどこのキャバ嬢だよ」
「キャバ嬢だなんて…っあたしにセクハラする気ね!200万払いなさい!」
「なんでそうなんだよ!?しかも金額が法外だな!?」
「あたしに法なんて通じな…じゃなくて!何あんた?ここに何の用よ」
 つっこんでいて当初の目的を忘れていた。
「そうだそうだ。ちょっと噂を聞いてさ。気になったから来たんだよ。つーことで会長だしてくんねーか?」
「へーえそうだったんだー」
 納得してくれたか…と思ったら。
「無理よ」
 一刀両断されました。ズバッと。江戸時代の武士の刀でもここまで切れ味はよくないぞ。
 本当に男が嫌いらしく、本人はこちらを一度も見ようとしない。なんとなく耳が赤いような気もするが、話すのが初めてだから緊張しているのだろう。
「噂を聞いたってことは会長のことも知ってるんでしょ、なおさら会わせられないわn―」
 シラウメが言いかけたその時、部屋の奥から、ダンッという打撃音が鳴った。それを聞き、俺もシラウメも驚いて肩を竦ませる。
「シラウメさん?通してあげて?」
 部屋から聞こえてきたのは、いつも聞きなれた、というか聞き飽きた声だった。やはり嫌な予感というものはよく当たるようだ。
 渋々、というような態度でシラウメが部屋へ招き入れてくれる。言葉遣いには気をつけなさい、という念を押して。
 部屋内はかなり広く綺麗で、隅々にまで掃除の手が行き届いているようだ。何やら資料ファイルや本が詰め込まれた大きな本棚、なんに使うのか着ぐるみの頭、ほかにも電気ポットなど色々おいてある。
 間取り的にドアの向かいに机があり、先ほどの声の張本人はその机に座っているようだ。
「やあ、ようこそ、我が愛しの弟君?」
 自分と同じ色素の薄い茶色の髪。お淑やかそうにみえるたれ目。しかし何も見ていないような空虚のような目。
 まさに。
「やっぱり姉貴かよ…」
「やっぱりとはなんだい、やっぱりとは。血の繋がった姉弟だろう。ひどいな」
 まさに目の前にいるのは我が姉にして我が校の生徒会長、サクライ アキノだった。
 アキノはふっ、と不敵に笑い、じっとこちらを見つめる。
「さて、ハルトよ。私になんの用だい?まさか用もなしに来たわけじゃないだろう?…シラウメさんお茶入れてください」
「いやです。自分で淹れてくださいそれくらい」
 こいつほんとに会長なのか…?シラウメちゃんと従ってないぞ?
 渋々アキノは腰を上げ、自分でお茶を入れ始めた。結局自分で淹れるんかい。こぽこぽと湯呑にお茶をそそぐ音が広い部屋に響く。
「で、改めて聞くが用はなんだい?君がこのファンクラブに入りたいってわけじゃないんだろう?」
「あたりまえだ。…まぁ簡単に言うとここを潰しにきt-」

――バンッ

「ふっざけないで!!あんたは気に入らないかも知れないけどね、あたしたちは本気で活動してんのよ!あんたなんかの事情で勝手に潰されたくないわ!!」
「ああ?じゃあタチバナはこのファンクラブのこと知ってんのか?知らないだろ。無断で作られたんだから潰されても当然だろ。勝手に潰すなって言える立場なのかよお前らは?」
「た、確かにそう、だけど…」
「それにお前自己紹介で男が嫌いだっていってたのになんでファンクラブに入ってんだよ?」
「う…それは…あたしの勝手、でしょ…」
 シラウメの声は段々小さくなり、語尾はほとんど聞こえなくなっていった。
 はぁっ、と一つ大きなため息が聞こえた。
「お前たちいい加減にしないか。確かに勝手に作ったのは私だ。すべて私に負がある。」
「か、会長っ、でも…」
 言いかけたシラウメの言葉をアキノが制止する。
「だから―」
 アキノが溜をつくり、静かな時間が一瞬訪れる。

「勝負をしようか」

 予想外の言葉に場が凍り付く。ちらりと二人を見ると態度…というか表情は違った。アキノはしてやったり、という自信満々な顔。シラウメは何言い出してんだこいつとでも言いたげな顔。ちなみにいうと俺は何が起こったのかイマイチ理解してない顔、だろう。

「勝負をして私が勝てばお前は引け。二度とここに近づかないと誓う、というのはどうだ。もしお前が勝てば私はここを潰そう」

 
 

 
後書き
お姉さまイケメンになってしもうた… 
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