| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

悪来

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2部分:第二章


第二章

「曹操は何処だ!」
「曹操を探せ!」
 城内での激しい戦いの中で彼を探す声がする。彼はその中で必死に逃げていた。
「殺すか捕まえろ!」
「どちらにしろ報償が出るぞ!」
 呂布軍の者達の声なのは明らかだった。誰もが探す。曹操はその中で何とか城門に至った。だがその門が焼け落ち彼はその中に消えたのだった。
 彼が目を覚ましたのは床の上だった。まずは命は無事だった。傷は深かったが。しかし命があったのを確かめてから周りを見回した、するとそこにいたのは。
「殿、お目覚めですか」
「悪来か」
「はい」
 彼であった。他の腹心の者達も周りにいたがまず彼の姿が目に入った。彼が曹操の枕元にいたのである。
「危ないところでした」
「そなたがわしの命を救ってくれたのだな」
「あの時門が焼け落ちまして」
 その時のことはよく覚えている曹操だった。何しろ彼はそこで意識を失ったのだから。覚えているのは丁度上から落ちてくるその焼けた柱であった。
「その時に飛び込みました」
「それで助けてくれたのだな」
「そうです。そして今」
「済まぬな」
 あらためて典偉に対して礼を述べた。
「またそなたに助けられた」
「いえ」
「やはりそなたはわしにとって必要な男だ」
 このこともあらためて確信したのだった。
「これからもわしの為にな。頼むぞ」
「はっ」
 典偉は左手を開き右手の拳をそこに入れて礼をした。これが彼が曹操を助けた二度目のことであった。彼に助けられた曹操はこの後呂布を破り皇帝を擁しその勢力を急激に増大させていった。そして今度は呂布と同じくかつては董卓の配下であった張繍を攻めた。だが彼は曹操が自身の勢力圏に入るとすぐに降伏してしまった。曹操は彼の城に入り歓待を受けたのだった。だがこれが大きな間違いのもとであった。
 その城に入った夜のことだった。不意に曹操の胸にある音が入った。
「これは」
「琴の音ですな」
 彼の息子である曹昂が彼に応えて述べた。
「この音は」
「そうだな。しかし」
 曹操は自分の為に用意されたその部屋で琴の音を聞きながら共に酒を楽しんでいた我が子に述べた。
「見事な音だな」
「確かに」 
 彼も父の言葉に頷いた。
「これだけの音はそうは聴けませぬ」
「誰のものだ?」
 次に曹操が思ったのはこれだった。
「一体誰のものなのだ?」
「御気になられるのですね」
「うむ」
 今度は彼が我が子の言葉に頷いた。己によく似た顔の我が子に対して。
「実にな。少し確かめてみるか」
「では外に」
 こうして曹操は曹昂を連れて外に出ようとする。しかしその前に典偉が姿を現わしたのだった。相変わらずの巨大な身体に武骨な顔である。
「殿、どちらへ」
「あの琴の音が気になってな」
 こう典偉に告げた。
「それでだ。何処から聴こえてくるのか確かめたくなった」
「それで外にですか」
「すぐに戻る」
 こう彼に告げた。
「それまでここで待っていてくれ」
「いえ」
 しかし典偉は彼の言葉に対して首を横に振るのだった。
「その御言葉、受けるわけにはいきませぬ」
「何故だ?」
「曹昂様が御側におられるのでまず大丈夫でしょうが」
 その曹操の息子を見ながら話す。
「ですが用心に越したことはありません」
「というとだ」
「はい、私も御一緒させて下さい」
 こう彼に申し出てきた。
「是非共。それならば」
「しかしだ。そなたも疲れておるだろう」
 曹操はこう言って彼を休ませようとした。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧